第135話 栗毛聖女、【厄災】大火精霊と戦う③
「―――占術! 未来は『戦車』の逆位置! ⋯⋯今のままでアユさんの攻撃だけではやっぱ辛いか」
黒く燃えさかる【厄災】の大火精霊に触れたことで出現した三枚目のタロットを見ながらリョウさんは少しだけ悔しそうな顔をしました。
「HPが半分切って名前の色が変わったから行動変化に注意だよ!」
「このまま攻めます! 様子を見ながらアユさんに攻撃してもらっているだけじゃHPを削りきれそうにないので」
「リョウ殿がその意気ならワシが様子見に走ることはできぬでござるな!」
間近でモンスターの動きに注意を払っているせいで、残りHPをあまり見ることができない二人は少しだけ変わった動きがあったらすぐに逃げられるように深追いしないことを意識しながら、それでも果敢に攻め続けます。
「───放水ッ! ───放水ッ! ラピスちゃん、MPポーションお願いー!」
「わかったー! ―――はいっ!」
私は〝次元の巾着袋〟を装備してMPポーションを投げます。放物線を描きながらパリンッという音と共にアユちゃんの頭上で飛散し、青色をしたMP回復薬を振り撒きました。
「ありがとう! ラピスちゃんから見て何か行動の変化に気付いた?」
「ううん、まったくだよ。もしかしたら時間経過で大技をしかけてくるのかも」
「おっけー! ラピスちゃんのその予想にかけてそろそろMP節約しておくね」
私たちは離れた位置からHPが橙色へと変化してから変わったことがないかを注意深く観察を続け、何も変わらないので何か大きな行動が追加されている可能性に切り替えて備えます。
「リョウ殿、気付いておられるでござるか?」
「ええ、だんだんと【厄災】が表面に出てきて体積が大きくなっていますね」
「アユ殿! 移動速度増加の重ね掛けをお願いするでござる!」
「任されましたっ! ―――移動速度増加ッ!」
その変化は徐々に、それでも少しづつ確実に起こっていました。私とアユちゃんは離れているので気付くのに遅れましたが、どうやら【厄災】大火精霊は膨張しているようで恐らくは逃げられるギリギリまで粘っていたであろうヤスナガさんがアユちゃんに移動速度増加の重ね掛けを求めてきました。
「―――ッ! リョウ殿!? 早く退避をするでござる! 次の動きは見るからに大技ですぞ!」
「―――っ! もう少しなのに!!」
リョウさんが後ろ髪を引かれながらも悔しそうに後退しようとする姿を見て私は……。
「ねえ! リョウさん! 占いの結果ってどう出てるのかな?」
「えっと過去は『月』の正位置で不安、実態が掴めない。現在、『隠者』の逆位置は手がかりもなく、真理から遠ざかる。未来は『戦車』の逆位置、―――このままでは倒せないと出ています」
真理から遠ざかる……。〝倒し方がわからない=敗北〟を意味しているのかなとリョウさんの話を聞いて考えます。リョウさんの占いはゲームのスキルですからそれが外れることはまずないと考えて、下手をするとこの大技で全滅が頭をよぎります。
「リョーーーウ!!! じゃあーーー! 未来はーーー!?」
「―――っ!!! そうだね! ―――断絶の盾ッ! 未来を諦めないリョウさんを私は、私たちは信じるよ!!!」
アユちゃんの叫びを聞いて私は考えるのを止めました。だってこの【厄災】大火精霊の攻略法はもうすぐわかるし、その結果をカードを見た時点で知っているリョウさんが諦めていないから。―――私は『変化の指輪』と『チョコレート帽子』を装備して〝断絶の盾〟を発動しました。
「クールタイムは3分、もう大技の緊急回避はできないけど、この90秒は無茶していいから、―――リョウさん、よろしくね!」
「はっはっは! そうとなればワシも突撃でござるぅ~~~!!!」
「あははっ♪ ラピスちゃん最高だよー! もう大好きっ!!!」
未来は『戦車』の逆位置でした。これは負けるという暗示と共に、しっかりと自分を見つめる必要性を意味していました。―――全ての時系列において状況が開示されたことで〝大三角の秘宝〟により、次に出たタロットで解決策を提示されます。
『ヒィヤァアアアアアッ!!!』
ピシッ
「見かけや大技だけでなく、そういう変化もあるんですか。けれど今の僕は止まりません!」
私でもわかるほど肥大化した大精霊を覆う【厄災】が伸びてきてリョウさんを襲い、ダメージ判定と共に〝断絶の盾〟にヒビが入ります。
「その攻撃ならまだあと2回耐えられるよ!」
「―――占術! 〝大三角の秘宝〟ッ! キーカード、オープンッ!!!」
再び大火精霊に触れてスキルを発動し、最期のタロットカードが頭上で捲れます。
「よしっ! 『悪魔』の逆位置っ!! 目覚めの時!!!」
「あの【厄災】が《《核》》でござるか?!」
リョウさんのスキルが発動すると同時に【厄災】を纏った大火精霊の中にさらに真っ黒な三角錐の【厄災】の塊が姿を現しました。
『ギャリャーーーッ!』
ピシッ
「―――ヒールッ! 大技でなければ聖女の私が死なせないよ!!!」
目覚めた核が黒板を引っ掻くような声を上げてリョウさんとヤスナガさんへと襲い掛かります。リョウさんの〝断絶の盾〟が2回目の効果を発揮して守り、HPを削られたヤスナガさんは私が魔法で回復させます。
ドクドク……、……ドクドクッ!
「―――ウォーターブロック《水塊》ッ! ちょっと頭冷やして待っててね」
……ドクッ、……ドクッ
大火精霊が脈動を始めましたが、アユちゃんが頭に巨大な水の塊をぶつけて少しだけクールダウンさせます。
「頼もしいですぞ! 背水忍法・速攻転換―――とうっ! ―――リョウ殿! 一閃・白夜ッ!」
「うぉおおおおおっ! 共鳴剣術・交叉梅花ッ!!!」
「「―――移動速度増加ッ!」」
ガッチーーーーーーンッ!!!!!!
『イ、ギャリャアアアアアアッ! アァギュォオオオ!!!』
二人の剣が【厄災】の核を挟み込む形でぶつかり合う。私とアユちゃんもお互いに二人の振られた剣速をあげるために移動速度増加をかけた。―――まさに四人で力を合わせた最高の一撃が弱点部位に直撃し、凄まじい悲鳴をあげながらHPを大きく減らして大火精霊は脈動を停止したのだった。




