第133話 栗毛聖女、【厄災】大火精霊と戦う①
温泉の奥にあるボス部屋、そこには鎖でつながれた巨大な大火精霊とでも呼べる存在が繋げれていました。
「あー、予想通り【厄災】だね。知ってた」
「あははは……。けど、これまでよりも強そうかも」
「これは……黒炎という表現がピッタリでしょうか」
「はっはっは! 【厄災】燃える黒い炎でござるな!」
それは色は赤黒く、2mほどの巨大な火精霊が【厄災】を取り込んだようで炎の揺らめきというよりは【厄災】の蠢きと表現したほうがいいような若干の気持ち悪さを感じる大火精霊でした。
「ねぇアユちゃん、覚えてる? ピタヤ様言っていたこと」
「ピタヤって……あー、あのドラゴンフルーツ? 何か言ってたっけ?」
私は忘れていそうなアユちゃんと、あの場にいなかったリョウさんやヤスナガさんにグランサバス王国が主体となって行った封印計画についてと厄災許容量(狂暴化に必要な厄災量)は素体の強さに比例していることを話しました。
「なるほどでござる。あそこまで【厄災】を取り込んでいるということはかなりの強敵ということでござるか」
「そんな設定があったんですね。そういうのRPGっぽくて僕は凄く好きですよ」
この大陸にきてからモンスターの強さもかなり上がりました。しかし、ここまで私たち4人で潜れたので適正な強さまでとはいかなくとも、慎重に攻撃すれば倒せると判断して挑むことを決めました。
「さ、戦闘開始だよっ!」
「リョウ殿、いくでござるよ!」
「ええっ! あ、僕らに前衛は任せてラピスさんは支援に専念してください」
「そのつもりだから大丈夫だよっ! ―――移動速度増加ッ! 詠唱省略ッ!」」
私は水着から流星シリーズへと装備を変更し、私の使える数少ない支援魔法を順番にかけていきます。
「泡よ、泡よ、淡い夢よ。天に浮かぶは人々の夢、泡沫の空より煌めいて―――」
「さて、お手並み拝見ですぞっ! ふんっ!!!」
アユちゃんがいつもとは違う詠唱を始め、突撃したヤスナガさんは大火精霊の目の前で停止し、大剣を薙ぎ払うように遠心力を付けて叩きつけます。
「む? ―――ですぞ!!」
『ファイィィィーーーヤッ!!!』
振りぬかれた大剣は大火精霊の体である炎を切り裂いて、ヤスナガさんは勢いのまま一回転し、剣の重さを利用して後ろへと大きく飛び退きます。そのすぐ後にヤスナガさんがいた場所へ向けて火炎放射が放たれました。
「―――ヤスナガさん! 何かあった?!」
「こやつを斬りはしましたが暖簾に腕押し、感触がありませぬ。恐らく物理耐性はかなり高いようですぞ」
ヤスナガさんの攻撃は確かにダメージを与えたようで〝【厄災】大火精霊・フレイフリヤー〟と表示された名前と遠目でミリ削れたように見えるHPがその事実を示しており、物理攻撃完全無効ではないことに少しだけ安堵しました。
「―――占術! 〝|アルカナ・浄化〟ッ! 物理攻撃があなり効かないのでしたら僕は大規模占術を発動しますのでしばらく当て逃げに徹します!」
「おっけーリョウ! それじゃ私が! 大技な新技、いっくよー! ―――バブルプラネットッ!」
リョウさんが軽いジャブと共に占術を始めたようで、ダメージは入っていないようですが大火精霊に触れた場所から波紋のような青白い光が広がります。そして、ようやく発動したアユちゃんの杖から放たれたのは小さな泡の惑星でした。
「……綺麗」
「えへへ、でしょー! けどね、ラピスちゃん。本番はここからだよーっ!」
次々と現れる小さな上へと昇るにつれて次第に膨れ上がり、金星、木星、火星に地球と様々な星を私たちが学校で勉強した形とわかるサイズまで大きくなっていきます。
「水属性・複合魔法〝|バブルプラネット・シューティングスター《泡惑星流星群》〟ッ!!! さらに、 いつものホーリーアドオンッ!」
ドドドドドッ!!!
「ちょ! アユさーん!!! 泡で僕が何も見えないんですけどー!?」
「あははっ! リョウさなら大丈夫だよー! 最悪ラピスちゃんがなんとかしてくれるからそのままごーごー!」
『イヤァアァァァイッ!!!』
「ちょ、見えないけど何か飛んで―――! 火の粉!? ちょっとー!!!」
アユちゃんがVRMMORPGで初めて使った魔法である〝バブル〟は使い込んだことで上位スキルが出現したようで、巨大な惑星として攻撃できるようになったようです。見るからに威力のある魔法を受けて、大火精霊は悲鳴と共に辺りに火の粉を撒き散らします。
「―――って、複合魔法? 付与じゃなくて?」
「うん! 大型アップデート後さ、習得可能魔法一覧に増えてたんだけど誰も使ってなくてさー、フィールドで使うのは躊躇いがあったけどここならいいよねっ! ってことでお披露目しました! ちなみに合体させた魔法はウォーターブロック《水塊》だよー」
アユちゃんだけが使える複合魔法……? アユちゃんの説明を聞いて一つの理由が思い当たりました。
「それってもしかしたら新規プレイヤー専用スキルかも……。今回のアップデートってコンバートプレイヤーには持ち込み装備の性能解放があるから」
「ふむ。―――納得できる理由でござるな!」
後ろに下がって様子を見ながら私たちの話を聞いていたヤスナガさんも少し考えた後、私の推測に賛同してくれました。
「あの~。……そろそろヤスナガさんは前線に戻ってくれませんかー? ……僕だけじゃちょっと辛いので」
泡が消えた後はアユちゃんの攻撃によって目に見えて削れた大火精霊のHPが目に映り、勝機があることが私たちを奮い立たせます。リョウさんの泣き言も物理攻撃がほぼ効かない絶望からではなく、前衛としてしっかりと立ち回ってアユちゃんが攻撃できるように戦えば勝てるという希望からの不満にしか聞こえず、私たちは安心して戦闘を再開したのでした。




