第130話 栗毛聖女、温泉に入る。
「ふぅ、到着だね。ここが溶岩浴場の温泉水採取場所かな?」
私たちは3Fでアユちゃんのマーライオン戦術により本来よりも苦労せずに大量の火精霊の経験値とドロップアイテムを獲得し、4Fの溶岩浴場へと辿り着きました。
「それにしてもアユちゃん凄かったね」
「あははっ! いじけてるふりしてラピスちゃんたちの戦いみてるのたのしかったー! けどさ、マグマの中で待機しているモンスターにダメージが入るって最悪バグ利用だよね。ちょっと私も調子に乗ったけど封印するよ」
「それが良いでござろう。今回は検証も兼ねてということで良いでござるが、マグマのテクステャーがダメージ遮断効果を反映していない可能性としてワシが運営に報告しておくでござる」
マグマの中にいて見えないモンスターに対して攻撃魔法をずっと使い続けるプレイヤーは少ないですがいないこともないので、ヤスナガさんの言うようにすぐに報告すべきでしょう。幸い元運営の応羽さんとも連絡が取れますし、すぐに対応してくれると思います。
「けど、最初はなんであんなことしたの?」
「それはねー、ここに湯口があるよね? これをさっきのドラゴンの口だと思って説明すると、あの口に私たちが近づいた時、ちらっとその時に火精霊が見えたんだよね」
「そうでしたっけ? 僕も注意深くギミックは観察していましたけど気が付きませんでしたが……」
するとアユちゃんが自慢げにマーライオンの杖を振り上げて水を振り撒き始めました。リョウさんとヤスナガさんもまたかといった表情をしながらも続きを促します。
「このゲームってさ、ターゲティングはプレイヤーの視覚情報じゃん? 戦闘中でもなければモンスターがいるとは思わなくて気付かないんじゃない? その点、私はときどき放水しながら歩いてたから戦闘中扱いでターゲティング機能が発動してたのかも」
「あー、それ納得できるかも。アユちゃんの場合はただのラッキーだったかもしれないけど」
「むー。そうだけどさっきみたいに褒めてよ~!」
どうやらリョウさんや私はギミックがあるかという意識で、アユちゃんはモンスターがいるかという意識で見ていたことによる差のようです。栗毛聖女の眼は凝視しないことでターゲティングを保留にしますけど、モンスターと認識していなければターゲティングされないということなので。
「で、モンスターがフィールドに流れているならこうしてその周辺で放水すれば先手でダメージを与えられるかなって。けど全然モンスター襲ってこないしダメかなーって少し思ってたけど大成功! どうよぉーって感じ!」
「なんか凄いね! ちょっと馬鹿なことしているなーとか思ってごめんね」
「ラーピースーちゃーん! そういうのは口に出さない!」
「はーい。ごめんね、アユちゃん。ふざけただけだからね? けどさ、そんな発想が出てくるなんてほんと凄いよ!」
私もゲームをプレイする中で視点というか先入観を捨てて見る癖もつけないといけないかなと思う出来事となりました。
「それじゃ、頼まれた温泉水回収しよっか」
「そうでござるな」
アユちゃんに促されて湯口で納品アイテムを手に入れると私は違和感を感じました。この広い温泉マップで湯口しか用がないわけがない……。
「……ねぇ、ちょっとアユちゃん。私たちって今、水着だよね?」
「そうだねー。ついでに言えばリョウもヤスナガさんも海パンとかビジュアル凄い状態でダンジョンに潜ってるねー」
「ラピス殿の回復スキルの負担を減らすための防御力重視ですぞ。アユ殿もそうでござろう」
「ちょっと温泉入っていかない? 何かあるかもしれないし。温泉でHP回復することはあってもダメージは受けないと思うし、ちょっとだけでいいから」
私はもしかしたら温泉に入ることで何かしらのイベントが発生する予感がしたのでみんなに説明すると快くアユちゃんがダイブした。
「ちょっとアユさん、温泉は静かに入るものですよ」
「リョウ、いいから早くー! みんなもおいでよー。温かくて気持ちいいよー」
水着のまま湯船に浸かるとアユちゃんの言うように温かさを感じます。恐らく、VR体感システムが作動して本題から手足に装着したVRパッドが体を温めるために少しだけ温度が上がっていたり、ヘッドディスプレイから温風が少し出ていたりするのでしょう。
「んー。気持ちいいね~!」
「ですねー」「そうだね」「ですな」
私たちはとりあえずダンジョンで温泉を満喫することにしました。




