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第127話 栗毛聖女、VR異空間で遊ぶ。

 穏やかな海、白い砂浜、照りつける太陽の光。そこにはナミノにあった海岸を思い起こさせる光景が広がっていた。ただし現実のように熱くないのは最高だし、プレイヤーも私たちしかいない。


「プリアちゃ~ん! ちょっとまって~」

「大型アップデート! プライベートVR空間生成機能まで作れるようになってる! 凄いー!」


 私たちはタンレンの町でクエストをどんどんクリアしていきました。その中で発明家エジンソンの依頼をこなして〝異空間への扉〟というアイテムを手に入れたのです。これは使用したプレイヤーのパーティー・ギルドメンバーの中で選択したプレイヤーと共に複製された別のVR空間へと転送するアイテムでした。


『かにっ!かにぃー!』

『かにかに? かにっかに~ぃ!』

『かにかにかにかにっ!!!』


 カニッパーたちが仲良く砂浜を並んで鳴き声を上げながら横切っていきます。ここは複製された異空間。モンスターとの戦闘も、他のプレイヤーとの絡みもなく、純粋にVR空間の景色を楽しんでほしいという開発の願いによって作られたような場所でした。


「そういえばプリアちゃん、最近はどうかな? 何か変わった?」

「もう全然違うよ! 社会人って大変だよ! なんていうのかな!? んー! 大事なのは信頼!!」


 プリアちゃんから聞く話は修羅の世界とも思えるような内容で、仲良しこよしとはいかないのが社会に出るという事のように感じました。仕事のミスは自分のミスだけでは済まず、下手したら会社全体の問題になるので緊張感が違うのだそうです。だからこそ、仕事に対する信頼を勝ち取るのに今は必至なのだとか。


「けどけど! ハナさんみたいに誰とでも仲良くなれるような人もいてね! そういう人は頼るっていう技術が凄いんだよ!!」


 知識、技術、技能、それらも大切ですけど、何より大切なのは人間関係で、そういう人がいないと報・連・相が上手くいかず、認識の擦り合わせが行われず、度々衝突が起こるのだそうです。


「そんな感じで大変だけど! 私は自分のやりたい夢のために楽しく仕事をしていますっ!!!」


 水着になり浮き輪を装備して、波に揺られながら私たちはそんな世間話に興じます。私もすれ違っていた昔の友達と仲直りできて最近、遊びに出かけたことを報告しました。


「ラピスちゃん凄いね! 社会に出ると苦手な人がいても一緒に仕事しないといけないからね! 仲直りできたラピスちゃんは本当に凄いよ!」

「―――ありがとう。これもMSOやGFOで知り合ったみんなのおかげだよ」

「ふふっ。ラピスちゃんは謙虚ですね」

「うん。私たちもラピスちゃんの知り合いと関わってきて、ラピスちゃんがVRの世界で必死に頑張ってきたのが伝わったよ。だから高校で私たちと知り合えたんだし、あいつと仲直りできたのもラピスちゃんの努力の賜物だよ!」


 離れてじゃれ合っていたアユちゃんとミナツちゃんがいつの間にか私をぎゅっとしてそんな言葉をかけてくれました。


「―――うん。そうかもだね! アユちゃん、ミナツちゃん、それにプリアちゃんもありがとうね!」

「それじゃ、今年の夏に向けてもうちょっと泳ごう!」

「リアルは本当に暑いですわね。まだ4月ですよ?」

「あっ! そういえば私! 初任給をいただきましたー!」


 プリアちゃんは初任給を使って両親を東京へと招き、明日から観光に連れていくそうです。私も働きだしたら絶対にお父さんにしてあげたいと思いました。


「あはは! 出来てる出来てる! 浮き輪がなくてもそろそろ大丈夫かな~?」

「VRのここでは命の危険はありませんしね。もう一人で頑張ってもらった方が泳げるようになるでしょう」


 去年は通常マップのためモンスターに襲われる危険があったので少しづつの泳ぎの練習でしたけど、今は集中して海を楽しめています。本当にこの〝異空間への扉〟を作ってくれた開発の方に感謝です。


「よーし! まずは25m泳ぎきってみせるからみんな見ててね!」


 私はリアルで右腕を動かし、アバターの右手が同じように大きく水を掻くのを確認しVRゲーム機と現実の差を調整します。足も小刻みにパタパタしながら操作をし、右、左、右、左と腕を動かすと栗毛のアバターはぎこちなくも泳いでいきます。


「タイミングというかコツも分かってきたけど、もうちょっと体力つけたいかも」

「いつもあれだけ武道家で攻撃してるのに?」

「正拳突き以外はボタン入力なんだよ。私の体力が持たないから」


 VRゲーム機、それはコントローラーによるボタン操作でも遊べますけど腕や指、足などに付けたバンドによって動作を検知しヘットディスプレイに反映してリアルを反映させる機能もあるのです。


「……って、ちょっとまって。アユちゃん魔法使いなのに同期型操作してるの!?」

「え? だってVRだしその方が楽しいじゃん!」

「剣士の私がボタン操作なのにあなたって人は……」

「あははっ! やっぱりみんなといると楽しい! 今日はちょっとまとまった時間がとれなくてごめんね! 次は一緒に狩りに行こうね!」


 それじゃあ。と言うことで久しぶり、と言っても一ヶ月も経っていませんが、再会したプリアちゃんとも遊べたGW連休の一日が終わりました。

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