第126話 ラピス、過去と向き合う。
GFOでの大型アップデートを楽しみながらも現実での環境の変化にも私は悩んでいました。
「ちょっとラピスちゃん! あんなのもう聖女じゃない!?」
「ちょっと茉実ちゃん、聖女って言葉を調べてからそういう発言しようね」
高校二年生に進級した私たちは奈津美ちゃんも含めて三人とも同じクラスになりました。そして担任も森永先生のままで親しい人たちにあまり変化はないのですが、新しく同じクラスになった子たちもいるわけで……。
「ラズベリーさんって聖女さまとか大声で言われて恥ずかしくないわけ?」
「―――ちょっと浅村、ラピスちゃんにもう絡まないでくれる?」
「私に対して〝さん〟を付けてくれないのはどういったご了見でしょうか……狐島さん?」
私は最近、現実で二人のやりとりを見てきて分かったことがあります。歩み寄る気がない人同士の会話はお互いに牽制、罵倒で構成されていて受け答えになっていないということに。私を昔、幽霊女だと言い始めた浅村涼子さんと茉実ちゃんはそれはもう水と油のように会話になっていない会話を今日も始めました。
「あのね、茉実ちゃ―――」
「ラピスちゃんは何も言わなくてもいいからね」
……そうだったね。アユちゃんはいつも私のことを想って矢面に立ってくれた。そのおかげであの頃とは違う〝ラピス〟を1年生の時はみんなが受け入れてくれた。だけど、だからこそ私は変わらないといけない。―――私、頑張るから。ありがとう、それとごめんね。
「……茉実ちゃん、あのね」
私が茉実ちゃんの制服をくいっと数度引っ張って話を聞いてもらおうとしても、ヒートアップした茉実ちゃんは気付いてくれません……。けど、ここで言わないといけない気がして私は意を決します。
「―――あのっ! 茉実ちゃん!」
「ラピスちゃん、どうしたの? そんな声出さなくても聞こえるのに……」
「えっ!? 今のラズベリーさん?」
普段は大きな声を出さない私が声を張り上げたことで涼子さんもびっくりしたようですが、他の人たちも驚いたようでクラス中の視線が私に集中しているのが分かります。それでも私は臆する事なく、絶好の機会だと自分に暗示をかけて二人に向けて話を始めます。
「―――あのね、聞いて。高校に入学した時からいつも茉実ちゃんは私を守ってくれた。それで私も明るくなれたし、そんな私に変われた。本当に感謝してますっ! いつもありがとう。えっと、そのおかげでクラスメイトの多くの子たちと普通に話せるようになったんだよ?」
「ううん。それはラピスちゃんも頑張りだよ。そう言ってもらえるのは嬉しいけどね」
私の拙い話し方にもしっかりと相槌を打ちながら茉実ちゃんは話を聞いてくれます。涼子さんもクラスメイトの人たちも何も発せず私の次の言葉を待ってくれているように感じました。
「でね、―――涼子さんとのこんな関係をこの先一年、ううん。下手したら卒業するまでの二年という月日を一緒にクラスメイトとして過ごしたくない。森永先生も、エルオヴィー先生も精一杯青春しろって言ってたし」
「……そうだね。エルオヴィー先生ならきっと殴ってくる気がする」
「―――はぁ。お二人とも、皆さんエルオヴィー先生って誰って顔になっていますよ」
私と茉実ちゃんの会話を見兼ねた奈津美ちゃんが周りの空気を教えてくれました。冷静に周りを見渡すと『エルオヴィー先生って誰だよ……』そんな会話がいたることろでされている混沌とした状況に陥っていました。
「奈津美、見てたなら加勢してくれてもいいじゃん」
「どの口が……はぁ。まったく、あなたって人はラピスちゃんの事で熱くなると私にも口を出すなオーラで立ち向かっていくじゃない」
「ぐぐぐっ……」
奈津美ちゃんも私の近くにいたのですけど、茉実ちゃんがアレだったので不安にならないように私の肩をずっと支えててくれました。そんな奈津美ちゃんが会話に加わってくれたということは涼子さんと茉実ちゃん、二人の空気も少しは和らいだのかなと思えました。
「エルオヴィー先生というのは私たちが遊んでいるゲームに出てきた先生のキャラクターです」
「……たかがゲームじゃん。そんなの時間の無駄。もっと華の女子高生らしいことしたらどう?」
「……しているよ。ちゃんと。茉実ちゃんと奈津美ちゃん、それに他の子たちとも買い物とかカフェ巡りとか遊びに出掛けてるから―――安心して」
涼子さん、ううん、涼子ちゃんはあの頃と変わっていない。私以上に不器用で、けどあの頃は信じられなかった言葉がこんなにも私に関わろうとして来てくれる姿をみたら本心だったように感じて、目を見て私は《《友達》》に言い放ちました。
「……ラピスちゃんはそれでいいの?」
「うん。―――だって、涼子ちゃんは同じクラスになってずっと私のことを心配して声をかけにきてくれてたんでしょ? ごめんなさい、私が臆病で」
「―――浅村さん、あなたとラピスちゃんの関係も私たちは知っています。けれど、心に傷を負った彼女があなたに歩み寄ろうとしているんです。あなたの次にかける言葉はわかっていらっしゃいますね?」
奈津美ちゃんは落ち着いた態度で涼子ちゃんに促します。私は、ようやく言えた言葉がちゃんと伝わったか不安でノートを角を千切って文字を書き始めますがすぐに泣きそうな声が上から降ってきました。
「……あの時は元気づけようと思って、……あんな言葉を選んで、ラピスちゃんがそんなに傷つくなんて思ってなくて。……私の方こそごめんなさい。今度、またラピスちゃんとお話したいんだけど、……ダメかな?」
「もちろん! じゃあ、今度おすすめのカフェに連れていってね」
キン コン カン コーン
私たちの会話も、拗れた関係も、休み時間が終わるチャイムと共に解消された気がしました。みんなが着席するためにバタバタし始めました。私は急いで走切れに文字を書ききって、涼子ちゃんに手渡します。
「後で読んでね?」
幽霊女、暗かった私に対して付けられたあだ名は涼子ちゃんの本当の意思じゃなかったのは昔に貰った手紙に書いてありました。けれど、それが定着してしまい私は学校にいけなくなってしまったのです。だから、私はこう紙切れに書いて渡しました。
『もう幽霊女なんかじゃないでしょ? 涼子ちゃんが昔、言ってくれたように聖女様になれたよ』
涼子ちゃんはもうゲームとか漫画とかは興味ないかもだけど、あの時に涼子ちゃんが幽霊女って言ってたのは『幽霊女みたいなラピスちゃんなんか見たくない! 聖女様みたいなラピスちゃんじゃないとイヤ!』ってことだったはずなんです。けれど、面白がった男子たちが幽霊女の部分だけ広めたせいだから。
「あはは。聖女〝さま〟なんて涼子ちゃんも変わってないよね」
この和解はゲームとリアル、両方の先生や友達のおかげかなっと感謝して、私たちはぎこちなくもまた友人関係に戻っていこうと努力していく青春を歩み出したのでした。




