第122話 赤毛聖職者、八岐大蛇と戦う
ガコンッ! ガラガラガラガラガラ……ガラッ!
「みんな、一応出口付近まで後退して!」
最強・ムラクモを倒してすぐにイベントが進みました。部屋の壁が崩れて大きな部屋と化したことで巨大ボスが現れる前兆を感じたラピスちゃんがみんなに出来る限り部屋の出口まで後退するように指示をだします。
「プリアよ、これを貸しておくのじゃ」
「ミコさん! ……ありがとうっ!」
青春玉しか使えなくなった私はその時が来るまで役に立たない置物になってしまいます。それでも万一、イベントクエストがここで一度仕切り直しになっている可能性に賭けて挑んだわけですけど、結果は戦闘継続扱いでデメリット解除はされませんでした。
「あ、プリアちゃんも借りたんだ! それ、すっごく使いやすかったよ」
「ラピスと同じで使った分だけ後で請求させてもらうがのぅ。置物になっているよりマシじゃろ?」
「もちろんだよ! ―――回復は任せて! ポーション娘だよっ!」
借りたのは〝次元の巾着袋〟という腕防具で、私と出会った時にラピスちゃんが装備していたミコさんの消費アイテムがいっぱい入る特別な防具でした。
「きますよ! ―――上ですっ!」
ズドーンッ!
「でかっ! てか八岐大蛇って西洋のドラゴンなの!? というか首が一本なんだけど!」
「ヤマタノオロチではなくてオロチ・ヤマタだしそういうことじゃないかな……」
龍ではなくドラゴン、そういう表現が似合う立派な青い巨体のオロチ・ヤマタが天井から降ってきました。そして、それを見たアユちゃんのツッコミに答えたラピスちゃんの説明でみんなが納得しました。……なぜ供物がビールだったのかも含めて。
『グアァァアアアアッ』
「あ、首が伸び……て増えたね」
「だな。オロチ・ヤマタの首は本体1本、複製7本といったところか」
「……複製の首でお酒飲む意味ある?」
首が長くなったドラゴンがムラクモが持ってきた〝麦酒の樽〟をそのまま三つの首が丸呑みしました。酒を飲んだ首は目を回してダランと地面に向かって垂れ下がります。
「あの3本は簡単に倒せそうだし、アルコールが抜ける前に早めに倒した方がいいかな」
「じゃのぅ。復活もあるやもしれぬがそれも隙になるじゃろうて」
「そうですね。私も賛成です」
作戦が決まり、ラピスちゃんの指示で各々が動き出します。あのオチロ・ヤマタのHPはどれくらいか。そして、どんな行動を取るのかわからないので青春玉は控えてモンスターの動きに慣れるまでポーション係に専念します。
「っ! プリアちゃん回復頼める?!」
「うん! あ! 少し後退して! ―――はいっ!」
パリンッ!
回復魔法と同じ感覚でラピスちゃんをターゲットにしてHPポーションを使おうとしたら射程外のようで投げれませんでした。あの時は簡単そうにラピスちゃんやってたけど、これってモンスターの攻撃範囲に自分も入らないように気を付けながら距離を詰める必要があるので、要求されるプレイヤースキルはかなり高いと思いました。
「これ! 攻撃もしながらやってたラピスちゃんって凄いっ!」
聖職者をやってヒールだけでもタイミングの難しさを知った私ですけど、ますますラピスちゃんの凄さを同じことするようになって実感としてわかってきました。
「それミコさんの装備っすよね。小倉ミコっていえばあーしらの世界で知らぬものはいないくらいっすから、それくらい扱いの難しい装備ということっす」
マヤさんに言われてみると、私たちと居る時は使っていないので忘れがちですけどこれはミコさんが使いこなしていた防具で、そのミコさんは対人戦で頂点に立ったプレイヤーでした。うん、ミコさんも凄い!
オロチ・ヤマタはMSOで戦ってきたドラゴンたちと似た行動パターンのようで、坩堝蜜竜との戦いで天海の噴火竜の動きにも慣れていたのが功を奏しました。マリアさんはハナさんを、マヤさんはアユちゃんを、リョウさんとヤスナガさんはコータとアレスさんを見て動きを真似ていきます。
「これでどうじゃ! ―――刺突・乱れ霰ッ!」
「よしっ! あとは首一本だな!」
「HPは依然としてまだ半分ほど残っていますがラピスちゃんはどう思います?」
「普通に考えたら首が復活するかな。けど、この感じだと2回目の首撃破で倒せると思う。みんな、行動パターン変化にだけ注意してね」
ドラゴンという特性上、水と炎は効きづらくアユちゃんが自分で、マヤさんはマリアさんが聖属性追加を行いながら攻撃をしています。前衛組は長首での薙ぎ払いや爪、尻尾での攻撃を上手く躱して着実にダメージを与えてオロチ・ヤマタのHPがついに半分を切りました。
『おろろぉ~~~~』
「八岐大蛇って8首じゃないの!? なんか復活したついでに9首になってるんですけど!?」
「ハナさん五月蠅い! 早く詠唱省略ください!」
「はい! ―――詠唱省略ッ! ……アユちゃんからの私の扱いが雑になってる?」
「タゲ集めるよっ! ―――舞え、水飛沫っ! 散弾水ッ!」
オロチ・ヤマタがブレスの構えに入りました。ブレス攻撃の属性がわからないので初回は相殺という手段は取れず、別々のプレイヤーをターゲットにしているので割とピンチです。しかし、アユちゃんがその攻撃を一身に受け止めようと首一つ一つがターゲット判定があるのを利用して全体攻撃で同時にタゲを集めます。
「ラピスちゃん!」
「うん! ―――断絶の盾ッ!」
ゴォオオオオオオッ!!!
パリンッ!
断絶の盾はオロチ・ヤマタの9つ頭からのブレスを一度の回数消費で防ぎきりました。
「あくまで一体のモンスターからの攻撃だからかな。あはは、なんか助かった!」
「も~! アユちゃん! 自己犠牲は―――っめ!」
ラピスちゃんがアユちゃんを叱っていますけど、可愛いだけですね。それに自分がそれをできる立場だったらあの子は絶対に同じことをやっていると思います。だってそれがラピスちゃんって子だから。―――必殺技のようなブレスの攻略法もわかり、私たちは再び攻勢に出て首を切り落としていきます。
「あ、元に戻っていくっす!」
「もう一押しじゃな……。全員、最大火力で押し切るのじゃ!」
人と同じサイズになった一つ首のオロチ・ヤマタは腹から血を流しながら右手に剣を、左手に盾を装備したリザードマンといった様相の戦士と化しました。
「……ふむ。すまぬがさっきのはなしじゃ。わっちの血が疼いておる」
「相手はモンスターといえどミコ殿の強者との一対一の試合、ワシも直にみてみたいですぞ」
「ミコさんってたまにこういう時あるからねー」
「そうなんですか~。それがミコさんのプレイスタイルなら私たちは尊重してあげた方がいいですよね~」
そこからは一方的なミコさん無双、オロチ・ヤマタの素早さも上がってますがこちらもハナさんとマリアさんが支援スキルを惜しまずミコさん一人に掛け続けます。致命傷はないもののブレスなど回避不可の攻撃は掠り傷程度の被弾でダメージを押さえます。私は即座にHPポーションを投げてHPを回復させ……そして戦いはミコさんの勝利で決着しました。
「ぶいじゃの」
「ぶい!」
「お強いですね……。ぶいです」
「さすがミコさんっす。ぶい」
「これが妖仙世界で最強だったプレイヤーの戦い方でござるか……」
それはもうVRで出来る限界の反応速度での回避、攻撃の選択を連続して行っているといっても過言ではないほど見事なキャラクター捌きで、ヒットアンドウェイではなくオロチ・ヤマタに張り付いてひたすら攻撃を加えて倒したミコさんの全力の戦いに皆が感銘を受けました。
「ほれ、ぼさっとするでない。ここは宝物庫じゃ、―――あとはわかるな?」
「あ、お宝回収だね! さ、みんな! この部屋にある宝箱あけるよー!」
ラピスちゃんがそう言いながら一番大きな宝箱に直進していきます。この開封式でも色々とあったわけですけど、全部が私の大切な思い出です。向こうにいってから落ち着くまではしばらくログインできないと思いますけど、こんな楽しい冒険はやめられません。絶対に戻ってくると皆と約束して最高の1日を私は締めくくりました。
――――――
「荻原郁恵です! 今日からよろしくおねがいします!」
4月、私は楽しい思い出を胸に新しい環境でお仕事を頑張り出した。実家の葡萄ジュースを全国に広め、もっとたくさんの人に美味しいといって飲んでもらうという夢のために。




