第121話 赤毛聖職者、二人の赤髪は宝物庫を一掃する。
ムラクモを倒さずにボス部屋から出た私たちは宝物庫への道の反対側に少し進み、物陰に隠れてイベントが進むのを待ちます。
「そういえばプリアちゃんとマヤさんって同じ赤色の髪なのに全然違うよね」
ラピスちゃんが言うように、マヤさんと私は同じ赤髪なのに私たちは明暗が極端です。同じ赤色のはずなのに二人で並ぶと全く違った色に見えます。
「プリアちゃんの赤髪って凄く彩度と明度高くて綺麗っすね」
「ありがとう! マヤさんの赤髪も深みがあって素敵だよ!」
私もMSOでは魔女っ娘として火力を求めて火属性魔法を使っていたので髪色以外にもマヤさんに対して親近感がありました。けれど、マヤさんの髪の色がなんだか大人っぽくて憧れもありました。
「見てください。ムラクモが糸で酒樽を牽いて宝物庫へ入っていきます」
「みんな~、見てる~? これが一定以下のHPでボス部屋に〝麦酒の樽〟を置いた場合のムラクモの動きだよー! もしムラクモが出てこなかったり、酒樽を持ってこなかったらHPの減らしが足りなかったということだね」
話に夢中の私たちの代わりにちゃんと見張ってくれていたリョウさんがイベントが進んだことを教えてくれます。一方、ハナさんは生配信で行動パターンについて視聴者に向けて解説をしていました。
「宝物庫へとわっちらも向かうとするかのぅ」
「ワシらは最初、守りに徹いていればよろしいのですな?」
「正確に言えばボクらはプリアとマヤさんを守るのが仕事ってとこだね」
宝物庫攻略のための作戦は私とマヤさん、二人の範囲魔法攻撃で一掃する。それだけのシンプルなものです。円盤反射丸が火属性魔法を反射してくることへの対抗策はアユちゃんの水属性魔法で相殺する。案山子と蜘蛛のいなくなった宝物庫であとは物理ゴリ押しといったものです。
この宝物庫、モンスターの強さが入ったパーティーの平均レベルで変動しますが、ハナさんが集めた情報によると実はレベル制限が設けられていて30レベル以下は侵入不可で初心者を加えて平均レベルを下げるというのはできないそうです。
「それじゃ部屋に入るね。準備は、―――いいよね」
「俺とラピスが入ってすぐに戻ってこなければ順次続いてくれ」
―――ギィィィイ
『『『『かかってこいやぁー!』』』』
ムラクモが先に宝物庫に入ったことで背後からボスに襲われる心配がなくなり、ラピスちゃんとアレスさんが宝物庫へと突入したあとに続いて入った私たち後衛は背後に警戒することなく各々の配置に着きます。そでは前と同じように案山子が歓迎してくれていました。
「―――|スペル・ギブ・チャージ《呪文加詠唱》ッ! ご~ご~♪」
「それじゃいっくすよ! ―――爆炎よ、業火となりて豪華な演出となるっす。燃えて萌えて茂枝咲かれ、灯はあーしらの花道なれど、其らの空は朱に染まる―――」
ボス部屋よりも狭い宝物庫、奥に行くほど細くなっている三角錐の部屋を余裕で魔法陣に収めたマヤさんの大規模範囲魔法は、奥にいるであろう姿が見えないムラクモも含めて全てのモンスターを攻撃するために呪文詠唱時間を経過させていきます。
「さ! 私たちもやるよ~!」
「恋よ!」「友よ!」「冒険よ!」「そして、青春よ!」
「「「「プリアちゃんへ届け!!!」」」」
コータが、アユちゃんが、ミナツちゃんが、そしてラピスちゃんが私へと各々が手にした武器を掲げます。掛け声はアユちゃん考案、そしてアユちゃん以外は恥ずかしそうに、それはもう投げやりに叫びました。
「青春の思い出、聖魔力転換ッ!!!」
私も叫びます。この作戦を思い付いたときにラピスちゃんの〝流星〟シリーズの防具、リンネとの契約があるので指輪は譲渡不可となっていますが、指輪以外の防具全てを借りて最大MPが一番増えるようにマリアさんとハナさんから借りた装備と手持ちの装備を組み合わせて今この時に着替えます。そして[黒歴史の魔導書]を武器として装備し皆との青春学園での思い出が詰まったスキルを私は使います。
「「「「「青春玉ッ!」」」」」
本来は一人でも下級極滅魔法〝陽光消滅玉〟と同じくらいの詠唱時間がかかるこの青春玉ですが、青春玉対象者の数で倍々に詠唱が長くなっていくのです。その分、スキル威力も倍々計算で倍率が掛かるわけですけど……、そこは[黒歴史の魔導書]の無詠唱化効果で無視してメリットだけを享受します。
『『『『ぐわぁあああああああっ!』』』』
ピシィ、―――パリンッ!!!
私たちの青春玉は視界を埋めていた前よりも大きな〝最強・動く案山子〟と、隙間から少しだけ見えるように天井にぶら下がっていたこちらもレコードサイズにまで大きくなった〝最強・円盤反射丸〟を一掃しました。
「……ねぇラピスちゃん、プリアちゃんのあれって何? あれについての動画のコメントも凄い勢いで増えてるんだけど」
「あれはね、〝青春玉〟ってスキルを持ってるバレンタインイベントで入学して卒業まで青春学園で青春したプレイヤーが使えるスキルだよ」
「―――いや、コメントでこんな威力はないって……」
ハナさんや動画を見ている視聴者さんの疑問は当然だと思います。なんたって私たちは《《あのスキル一回の発動に見える青春玉で10回連続発動》》、つまり無詠唱の魔法を連続で魔法を撃ち続けたからです。
「詠唱時間が長いせいか青春玉の再使用可能時間は0なんだよ。だから、プリアちゃんはずっと最大MP10%消費で魔法を連続して撃てたってわけ」
「理屈はわかったけど、デメリットあるよね?」
「うん! この戦闘中は青春玉しかもう使えないから! 残ったムラクモはなんとか私抜きで倒して!」
「あ、ボクらもMP0なんでMP回復するまであんまり戦えないから―――」
私たち5人のMPが0なっているのが一つ目のデメリット、そして《《最大消費MPが一番大きなスキル》》しか使えなくなるのが[黒歴史の魔導書]最大のデメリットです。私なら中級極滅魔法しか使えなくなるデメリットでしたが〝流星のローブ〟を始めとした最大MP上昇装備によって最大MPを底上げして青春玉で消費される最大MPの10%が中級極滅魔法を上回ったので青春玉を連打することができました。
パリンッ! パリンッ!
「ほれ、これで最低限は働けるじゃろ」
MP切れで自然回復を早めるために座り込んだコータに[次元の巾着袋]からMPポーションを取り出して大盤振る舞いに何本か投げたミコさんは意地の悪そうに微笑みます。
「……あざーっす。あと一息、頑張るかな」
「あとは最強・ムラクモと」
「八岐大蛇!」
「やりますわよ! まずはこのクモにリベンジですわ!」
「それじゃ、みんないくよ!」
ラピスちゃんの一声で全員が気合を入れなおして最強・ムラクモに立ち向かいます。
「―――|フレイム・シャンデリア・ロマンス《炎灯物語》ッ! ……終幕っす」
「ふふんっ。ようやく私の見せ場ね! ―――魔力瞬間増加ッ!」
「―――落ちろっす! 砕け散れぇえええ―――っす!」
そこをタイミングを見計らったようにマヤさんの魔法がハナさんによってブーストされて落ちてきます。
ズシャーーーーーンッ!
シャンデリアの形をした炎は最強・ムラクモを押し潰し、HPを今度は0にしてボス部屋から続いたムラクモとの戦いは終わりました。
「……ぶいっす」
「あはは! ぶいっ!」
「はっはっは! しまらぬでござるな、だがそれもまたヨシッ! ぶいでござる!」
「マヤっち、とっても可愛いです♪ ぶいっ」
突然の戦闘終了ではありましたが、ぶいっと皆が各々にしながら勝利を喜んだのでした。




