第120話 赤毛聖職者、ムラクモを追い詰める。
「みんなー、いよいよ麦ダンジョン隠しボス攻略に向けて戦闘を開始したよ~! あ、―――攻撃力瞬間増加ッ! ……ふぅ、ちゃんと私も戦闘に参加してるから見守っててね。瞬き厳禁っ! 歴史的瞬間と、これから超有名になるギルド〝リトル・ア・ポコ〟の戦いっぷりをご堪能あれ♪」
今回はしっかりと補助魔法を前衛の攻撃タイミングにギリギリ合わせて仕事をしているハナさんが、少し前から開始していたライブ配信を盛り上げます。
「Flowerさん……素敵ですよね……」
「どこをどう見たらそう見えるっすか???」
「あの緩い感じとか素敵じゃないですか~。配信しながらギリギリでもちゃんと魔法も間に合わせてますし、視聴者を楽しませる天才なんですよ~。私はギリギリを狙うと失敗してしまいますしね」
「……プリアちゃん。あーしにはポンコツ聖職者が二名いるように見えるっす。パーティーを、みんなのライフを頼むっす……」
「あはは! 任せてだよ! なんたって私は薬草娘だからねっ! ―――ヒールッ!」
ヒーラーとしてのハナさんとマヤさんに対して不安を感じているマヤさんが心配そうに私の方を見てきたので私は安心させるために薬草娘を強調して、STR極振りで防御も回避も捨てたヤスナガさんがムラクモの攻撃を受けて大きくHPを減らしたので即座にヒールを飛ばしました。
「かたじけないでござる! プリア殿、よろしければワシに移動速度増加を常時かけていただけぬか」
「いいよ! ―――移動速度増加ッ!」
「助かるでござる。背水忍法・速攻転換―――とうっ!」
「……ヤスナガ、ロマンを追うのはいいけどプリア嬢に移動速度増加もらったんだからちゃんと避けなよ?」
「大丈夫! 私、薬草娘だからっ! INT極振りMPいっぱいだよっ!」
ヤスナガさんはキャラクターの移動速度を下げる代わりに攻撃力が大幅にアップする忍者スキルを発動し、私に命を預けます。リョウさんは苦言を呈していますが、きっとヤスナガさんはハナさんとマリアさんがあんなでもプリアがいれば大丈夫だぞと皆に伝えたかったのかなと思いました。
「それにしてもこのクモ、―――っ! 素早いですわね! あっ!」
『グギャァアアアッ!』
「きゃー!!! ちょっと近すぎっ!」
「ヒールッ! ハナさん! ちゃんと自分も守って!」
このムラクモは宝物庫の時とは違って取り巻きモンスターはいないようですが、部屋に張り巡らせた蜘蛛の糸を利用して素早く移動を行いながら私たちを攻撃してきます。その特性上、後衛も油断していると攻撃してくるやっかいなモンスターです。
「ミコさん! 付与呪術お願いっ! ―――ていっ!」
「心得たのじゃ! ───付与呪術・反転金縛ッ!」
「コータ走って! 移動速度増加ッ!」
戦闘を開始して動きにも慣れてきたタイミングでハナさんに攻撃を仕掛けたため、私たちに囲まれるようなそんな絶好のポジションにやってきたムラクモを、ラピスちゃんが器用さ強化状態で破魔矢を放ちました。そして、ミコさんが麻痺呪術を付与して拘束します。私は一番離れていたコータが間に合うように移動速度増加を使いました。
「アユちゃーん! ―――詠唱省略だよ!」
「ハナさんありがとう! ―――ウォーターブロックッ! からの、ハナさん! 次ちょうだい!」
「マヤっち、|スペル・ギブ・チャージ《呪文加詠唱》ッ!」
「ありっす。 ―――爆炎よ、業火となりて豪華な演出となるっす。詠唱終わるタイミングでハナさん魔力瞬間増加を頼むっす」
「もしかして私すごく頼られてる!?」
誰に何の魔法を唱えてどんな状態になっているか、支援職同士で把握するために声に出しながら連携と取っていきます。中級支援魔法であるステータス瞬間強化を使えるのがハナさんだけなので声がいっぱいかかります。ただ、本人があの調子なので急かされてヒィヒィ言いながら魔法をギリギリのタイミングで的確に間に合わせていきます。
「あははっ! ハナさん本当にすごい配信者だね!」
「プリアちゃんは見る目がありますね~♪ ハナさんはあれで丁度いいといいますか、フォロワーたちの期待を裏切らないんですよ~。あくまで一般人で頑張る姿がみんな大好きなんです~」
「ハナさんギリギリだったよ!? 間に合ったからいいんだけど、────水縛陣ッ!」
後衛は魔法を唱えている間、割りと余裕があるのでこういうお話をしながらっていうのが楽しいんですよね。戦況は常に把握しながらって前置きが付きますけど、昔はラピスちゃんともモンスターやみんなの戦う様子を見て笑いながらおしゃべりしてました。
「ラピスちゃんも凄い聖職者だったんだよ! 言葉にしなくてもすぐに支援魔法が飛んできたの!」
「―――花草剣技・桜吹雪ッ! ラピスの話ならあとでボクも混ぜてよ!」
「―――正拳突きッ! ちょっと! プリアちゃん、コータ! 恥ずかしいからそういうのなしっ! ハナさんを肴に話しててよ~!」
呪術麻痺からのアユちゃんの水縛陣、ムラクモは連続拘束により攻撃を受け続けHPをゴリゴリ減らしていきます。素早さ重視のボスなので最大HPの量は多くなかったようですね。
「―――|フレイム・シャンデリア・ロマンス《炎灯物語》ッ! ……終幕っす」
「ちょっとマヤさん倒しちゃダメー! プリアちゃん!」
「おっけーだよ! ヒール!」
「あ、落ちちゃったっす!」
『ギャァァァッ!!!』
「プリア殿のおかげで耐えられたようですぞ。では、最後はワシが―――、《《一閃・峰打ち》》」
ムラクモのHPのヘリが早すぎてマヤさんの大魔法の発動で倒してしまうと思ったのと同時にラピスちゃんからもヒールの指示が飛んできました。ムラクモにヒールをしてHPをなんとか赤色ゲージで残すことに成功した私たちは、ヤスナガさんの峰打ちでHP1残しに成功します。
「それでは〝麦酒の樽〟を置いてわっちらは部屋からでるかのぅ」
「戦闘の途中だけどいいの!?」
「ミコさんがいいっていうんだからいいんだろ。それよりハナ、マヤさんに魔力瞬間増加を使わなかったのはグッジョブだな」
拘束が解けたムラクモの攻撃を私のヒールでやりすごしながら私たちは部屋を出ました。ハナさんはアレスさんに褒められて嬉しそうに見えました。が、……申し訳なさそうに忘れてたと言っていたので居た堪れなくて恥ずかしかっただけのようで、そんなところもハナさんの魅力なのかなとマリアさんの話を聞いてから思えるようになり、前よりもっとハナさんが好きになったのでした。




