第118話 木之下、大規模アップデートに備える。
俺は木之下木蓮と呼ばれているプレイヤーだ。……すまん、『木蓮』がプレイヤーネームなのだがパーティーメンバーや青春学園での元クラスメイトたちのせいで『木之下』という称号を含めたフルネームのような呼び方が定着してしまっただけだ。俺はただの木蓮だ……。
「おーい木之下! バリィの右にカニッパーいるぜ」
「木之下君、私の前方にもアレお願い!」
「……オレ、武道家なんだけど。この魔法を使えるのもオレだけだしな、っと―――泥、っ!」
『『カカッ、カニッカニーッ!』』
俺が魔法を発動するより先に飛び出してきたカニッパー二匹ががバリィとルリリンへと襲い掛かる。しかし、直線的な鋏の突撃は隠れていた場所がわかっていたので簡単に二人は避けることができた。
「―――刺突・推飛ッ!」
「追撃だぜ! くらえ、―――火炎斬ッ!」
「気功法・集中豪技ッ! フォアチャーィ! テイッ! ツヤァ!」
オレは魔法を発動直前でキャンセルし、槍術スキルで聖職者のルリリンからカニッパーを突き飛ばし、それを追うようにバスルが弱点の火属性を乗せた剣士スキルで攻撃する。もう一匹の方もバリィが武道家スキルでSTRを上げて高い攻撃力による通常攻撃の連撃で打撃属性が弱点のカニッパーのHPを一気に削った。
『『か、かにぃ~~~……』』
自慢の鋏がカニッパーの腕から取れてドロップアイテムとして残し、目を回したモンスター部分は数秒後には姿が消えた。
「木之下もまだまだ魔法の発動が遅いな」
「だからオレは武道家で槍使いだっての……」
「まぁ、私たちで倒せないモンスターじゃないし大丈夫だよ!」
「……ラピスたちはこのナミノでのカニッパーとレベル12の時に戦ったと言っていたな」
オレたちは次のアップデートで今いる大陸のさらに北のマップが実装されるという告知と、その移動方法が〝スイカニッパー〟というフワマリンネのような移動型モンスターでのみ行くことができると、公式HPにあるヒントから掲示板で予測された情報を元にナミノのクエストを攻略し始めた。
「ここでもラピスか……。しかもこの町で超有名人じゃねーか」
「水着が流行った時の大手供給元で、初のナミノでのクエスト全制覇、それと〝海龍神の加護〟取得クエストの発見、あとは【厄災】トロピドラゴンの初討伐だっけ」
改めてこの町で聞いたオレたちの元学友であるラピスたちの功績はとてつもないものだった。そして【厄災】トロピドラゴン討伐が次のアップデートで実装される最前線の地への前提条件だとするのなら、間違いなく彼女たちは攻略最前線へと躍り出ることになる。
「俺たちは先生やラピスたち、それに他のクラスメイトから色々なテクニックを学んだんだ。このまま最前線にいくためにドロップアイテム集めるぞー!」
「……カニッパーの鋏、あと何個いるんだよ」
「んー、いっぱい?」
ルリリンは数えるのを放棄していた。オレたちはそれからカニッパーとトロピバードをいっぱい狩った。オレも数えるのを放棄した。
「そうそう! 次のアップデートでコンバート組には嬉しい引き継ぎ装備のステータス解放があるって! バスルとバリィは装備強化だね!」
「そのためのクエストの難易度しだいだ」
「バリィの言う通り。持ってきた装備ってかなりの性能だから初期の1割開放状態でも十分に強かったし、追加効果も考えれば2割開放でも正直やばい。絶対に鬼畜クエストだと思う」
オレには縁のない話だが、やはり長くVRMMOというゲームを遊んできた人の装備はめちゃくちゃ強いのだそうだ。代わりにオレやルリリンのような新規勢には特殊スキルが与えられてるわけだが……。
「そういえばルリリンさんはなんで泥沼を持ってないんだ?」
「え、なんか見習いジョブとかめんどうだったし聖職者しか興味なかったからかな。あと、聖女って上位職は転職しないのが条件みたいだから今から見習いでも転職できないし」
じゃ、そういうことで頑張ってね木之下くん。と彼女はオレにそういう補助的な役割を丸投げしてきた。諦めて木之下として縁の下らしくこの学園卒業生パーティーを支えてやるかと思いながら学友たちとナミノのクエストを攻略していった。
『ぱ、ぱぱいやぁあー⋯⋯』
「おっ! 〝トロピバード(パパイヤ)の指輪〟ゲットだぜ!」
「これってアユちゃんのニーニャが呼べる指輪と同じ感じだよね?」
「だな。呼べるのはトロピバードっぽいが、誰かいるのか?」
モンスターからドロップした契約の指輪はそのドロップしたモンスターが呼べるようになる。《《これも大型アップデートで発表された内容だ》》。つまり、アユのニーニャは誤って先行実装してしまったアイテムだったようだ。
「いないのなら〝売り〟でいいな。ドロップ率は不明だけど今なら高く売れそうだし」
「おっけー!」「問題ない」「あいよー」
しかし、あいつらは意図せずにこういう新しいシステムとかに触れていくな~と思ったが、主にアユがなんでも試すせいかなとも思った。そして、あのラピスパーティーは全員がゲームを楽しんでいる。だから隠し要素などを見つけられるのだと一人で納得した。
「じゃ、また次の大陸でラピスたちと再会できるように」
「がんばろー!」「うむ」
「だな。―――って、なんで目的がラピスたちになってるんだよ!」
一人オレはノリツッコミをする。なんか、こう自分の役割がしっくりしてRPGってこういうものかと思えた。
「……変な称号を押し付けられたけど、悪くないな」
〝木之下〟としてオレはこの|GOD・F・オンライン《GFO》を楽しく遊んでいる。そう思えるようになったのは青春アカデミーで過ごした時間があるからだと思う。―――今日も明日も明後日も、このゲームそのものがオレの確かに過ぎていく青春の大切な時間だ。
「あっ! ラピスちゃんで思い出したけど、ボス級モンスター倒したらあれやろうね!」
「「ぶ───」」「まだだめ!」
みんな好きだな、あの勝った時のセリフ。───童心に帰るのも悪くないなとゲームから学んだのは、ゲームだからなのかオレにはわからない。それでもこのゲームをプレイし始めて良かったと思った。




