第117話 修二、進路相談に乗る。
俺は小洒落たカフェでゲーム内のセピアへと届いたメールの内容についつ生徒の成績表を思い出しながら頭を抱えていた。
「はぁ……。公私混同したらいけねーんだけどなぁ。友達っちゃフレだしギリギリおっけーなのか……? わっかんねー!」
その内容はプリアから友達の進路相談の相談……。つまり、ラピスの高校卒業後の進路についてだ。この問題には俺もどうしたものかという思いがあった。
「高卒で働く? いや、あのラピスだぞ……、狐島や宮木と一緒ならともかく職場の同僚次第じゃ一人で仕事やストレスを抱え込んで潰れる未来しかみえねーよな……」
一年間、高校生として生活する中で目に見えてリアルのラピスは成長した。だが、それはあくまで学生としてだ。人との社交性、その辺りが受け身ならなんとか取れるようにはなってきたが、社会に出てたらフォローしてくれる人間が傍に必ずいるとは限らないのだ。
「大学は……、ラピスの学力なら選択肢は色々あるだろうが将来の目標がないやつが行ってもなぁ……」
「何を学ぶかって大事よね。それこそ自由を履き違えてる子たちもいたし、あの子は真面目だからそこは問題ないと思うけど……、まずはラピスちゃんとちゃんとお話ししてみたら? もちろん、友達としてね」
少し席を外していた俺の可愛い彼女、恵美が俺の独り言に対してそんなことを言いながらメニュー表を見て、何を頼もうかと楽しそうにページを捲っている。ちなみに、今日の彼女は綺麗な長い黒髪を肩に掛けて手前に流していた。
「けどよ、エミにも宮木からメールが来たんだろ? なんて返したんだ?」
「ミナツちゃんになんて返したと思う?」
「……質問を質問で返すなよ。どーせ〝応援してるから、困ったら先生を頼ってね〟とかだろ。じゃなけりゃ俺のとこに直接あいつがくるかよ」
さすがに一年も生徒を見ていれば宮木の性格も分かってきた。宮木は優等生タイプで規律を重んじる。そのためかどうかはわからないが、教師に尋ねるという行為は善悪・可能か不可能かといった判断を委ねる際にしか行わない。
「まぁ、あいつが変わったってのもあるんだろうな。それこそラピスたちと遊ぶようになって」
「わかってるなら相談に乗ってあげたら? あ、私は決めたけどシュウ君は何にする? このトロピタヤパフェとかドラゴンフルーツをベースに色々な果物をごろごろ入ってて美味しいからオススメだよ!」
エミが開いたページにはカップの底に他の色が混ざっていない白っぽい果実のシャーベット、チョコレートやクッキーなどお菓子を挟みながらそれを積み上げ、最後にはもりもりに盛られたパパイヤなどのフルーツの山がこれでもかと乗っていた。
「……で、その心は?」
「ひとくちちょーだい♪」
「だよな~……。わかった! じゃあ俺はそのトロピタヤパフェで」
メニュー表を俺はテーブルの横に戻すと少しだけむくれている彼女の表情に気が付いた。
「う~ん。嬉しいけどキミはメニュー表を見てから決めた方がいいかな? もしかしたら凄く美味しい紅芋を使ったチーズケーキとかバームクーヘンもあるという可能性を考えないと」
「確かに紅芋は俺の好物だが、それを提示せずにパフェをオススメしてこないだろ。もしもあったら嬉しそうにエミがページを開いて教えてくると思うしな」
どうやらメニューも見ずにパフェに決めたのがお気に召さなかったようだが、そう返すと納得したようで機嫌も治った。だが、俺はさらに可愛い彼女へと追撃をすることにした。
「それに俺の好物と彼女の幸せそうな顔、どっちを取るかってなったとしてもパフェを取るさ。大きすぎて食べたいけど注文できなかった恵美さん?」
「~~~っ! うん。そうだね、その通り! 私が注文できるならしたかったけど……ちょっと量がね」
俺が置いたメニュー表をわざわざもう一度手元に持ってきてそれで顔を隠しながらパフェの注文を誘導したことを白状した恵美は凄く可愛かった。
「で、どうするの? あ、そういえばプリアちゃんも4月から上京するって連絡きたよ」
「は? あいつは実家の葡萄農家兼喫茶店で働くんじゃなったのかよ」
「それがね、高品質の葡萄が不足しちゃったみたいなの。で、ミコさんが業務提携の一環で広い土地を共同開拓して、プリアちゃんが大規模農園のノウハウを学びながら実家の葡萄の苗木を育てて品種改良と葡萄の増産できるように手配してくれるんだって」
「話には聞いていたが、ミコさんってなかなかに凄い人だったんだな……」
いくら大企業とはいっても事業に関する決定には時間がかかるものだ。それも言い方は悪いが小娘一人のために事業計画を通してしまうのは相当な会社での権力があるということだろう。品不足に陥るほど売れている葡萄ジュースの成果も大きいとは思うが、それでも凄いことだと思った。
「まあ、そんなだからラピスちゃんのことを心配してシュウ君に相談してきたんじゃないかな」
「なるほどな。……俺個人としては大学へと進学する手助けをしてやりたい。だが、引き篭もりだった時から男手一つで育ててくれた父親に対して、プリア同様に早く働いて恩返ししたいという気持ちを持っているのも知っているんだ」
「それは私も知ってるけど……、そうなるとお父さんを交えて進路相談してみるのが一番かもね」
恐らくラピスには卒業後の具体的な進路、夢はまだないのだろう。あったら俺に誰かから相談がくると思うしな。高校生活の中で見つけてくれると嬉しいんだがあいにくと時間がない。こればっかりは卒業後に進学するか働くかだけは早めに親と相談してもらった方がいいだろうということになった。
「宮木のことは任せていいか? 俺が教師の大変さを伝えるよりは真剣に聞いてくれるだろ」
「シュウ君からの頼みならしょーがいないなー。コンビニで一番高いアイスで請け負ってあげる」
「さんきゅ。一応は部活動やら何やらと過酷な仕事だとは教えたし、学校という世界しかしらないと世間とのズレってやつで苦労するぞとは伝えておいたが……」
言葉で教えられても理解できないだろうなとは思う。それでもそういう学校外の世界、働いている人たちが色々なところで頑張ってくれているのを俺が知れたのはMSOで様々な人と交流してきたという側面が大きいだろう。
「そうね。みんな働いて頑張ってる。教師を目指すのは悪くないけど、そういう色々な職業の選択肢を考えさせるのは大事だと私も思うな」
「じゃあこの件はこれで……」
「あ、アユちゃんは進路どうするの?」
「あいつは――――――」
春になる。卒業と入学、別れと出会いの季節だ。教師という職業柄、その場面はこれから先も幾度となく経験するだろう。―――けれど、その門出を笑顔で見送れるように高校生活を後悔させないのが俺の仕事だ。期待と不安を抱いた新入生を迎え入れて青春を心置きなく楽しめる場にするのが俺の仕事だ。
「まぁ、どっちにしろ来年だな。悩むのも青春だが、悩み過ぎて大切な時間がなくなったら本末転倒だしな。後悔しないように手助けするのが俺たち教師だろ?」
俺の教師論に同じ教師であるエミは微笑んでくれた。生徒への向き合い方はこの可愛い彼女と同じ方向をずっと見ていよう。そう改めて心に誓った。




