第109話 栗毛聖女、毒柄飛蝗を駆除する。
毒柄飛蝗の群れが私たちに近づいてきたことでサイズ感が分かってきました。
「ちっさ! とりあえず足止めするね。―――沈め。泥沼ッ!
あっ、飛び越えるなんてズルくない!?」
「バッタは長距離を飛ぶというのをご存じないのですか! ラピスちゃん、コータさん。何とか耐えて下さい、処理は馬鹿鮎がなんとかします。私は―――、あの柄ですし毒がありそうですので、ここも踊っていた方がよさそうですね。―――神秘の輪舞!」
バッタ特有の大ジャンプによって足止め魔法〝泥沼〟を躱されたアユちゃんのことを馬鹿鮎と呼んで、ミナツさんは〝神秘の舞〟を踊り始めました。私たちは攻撃してきたマーブルバッタへの反撃に留めて後ろへ抜かせないように一匹づつ対応をしていきます。
「ていっ! やぁ! ―――コータ! 移動速度増加ッ!」
「ありがとう! はぁああっ! ―――〝花草剣技・芭蕉〟! ていっ!」
近くにいた一体に牽制を入れてからコータは剣士のスキルを使うと林檎の木の葉がコータの周りを漂い始めて大きな芭蕉の葉へと変化していき、剣を振るうとその葉は剣先が伸びたように連結していき、長剣となって前に出てきていた群れの左翼を押し返します。
「それって、使い勝手悪いスキルじゃなかった?」
「それはMSOでの話。日の光が満ちてるこの世界での花草剣技は使い勝手は悪くないスキルだよ」
「そうなんだ。そう言われるとこの世界は草木で満ちてるもんね」
花草剣技は、読んで字のごとく花や草を利用してスキルを発動するという重いデメリットの代わりに広範囲や高威力といった尖った性能を誇る剣士スキルです。ただし、MSOの夜天世界ではその環境的に武器にできるほどの草花や木が点在するレベルのため、実質〝蜜の坩堝〟専用のスキルと化していました。まぁ、そこも移動速度増加によるギミックでの蜜竜狩りのせいで出番がない不遇スキルだったわけですが……。
「準備できたよ! 二人ともありがとう!」
「私にお礼は―――、馬鹿鮎について謝ってからですわね。ごめんなさい、アユちゃん」
「いいよ、ミナツちゃん。二人を毒から守ってくれてありがとう。では、―――舞え、水飛沫っ! 散弾水ッ!」
アユちゃんの合図で私たちは前線から後退します。すると、栗毛聖女の眼でターゲット保留状態からアユちゃんが水属性魔法を盛大に群れへと撃ち込みます。
『『『バッ!? たぁ~あ~~~』』』
私たちが牽制していた十数匹はアユちゃんの攻撃で毒沼を残して消滅しました。
「ミナツがいなかったらと思うとゾッとするな……」
「チートな踊り子! チーサーや!」
「プリアちゃん、ちょっとアニメに影響されすぎだよ……」
もう勝利が目前ということで復活したプリアちゃんが少し前に再放送していたVRMMORPGのアニメで気に入っているセリフをそれっぽく変えてミナツちゃんをチーサーと言い出しました。
「……チーサーってなんですの? あまりよろしくない言葉というのだけは私でもわかりますけど」
「ほら、いいから残党処理するよー! 泡ッ!」
腑に落ちないミナツちゃんを余所にアユちゃんが最下級魔法の速射でマーブルバッタをバッタバッタと倒してきます。……ちょっとうまいと思った私はそれを言おうとしてやめます。子どもっぽいと言われたくないですから。
「バッタの群れも終わり―! で、このギミックって結局なんだったの?」
そして全ての毒柄飛蝗を倒して奥に扉が現れましたが結局のところ、この林檎の木がどんな役割だったのかわかりませんでした。と、本来は終わるはずのイベントだったのでしょうが私たちは隠しギミックを解いてしまいます。
「って、アユちゃん。何してるの?」
「何って、水やりだよー。木に水をあげたら何か起こるかなって」
そういって放水 を林檎の木に対して放ちますが、何も起きません。
『あっぽ~~~~、あぽ~』
「あ、地面の毒沼が残ってるしどうにかしろってことかな?」
いえ、トロピバードが木から飛び立ってマーブルバッタが残した毒沼の上空で旋回を始めました。浄化しろってことでしょうか……。
「害虫の置き土産! 私の出番だね! ラピスちゃん!」
「うん。―――詠唱省略ッ!」
差し出された手を握って私はプリアちゃんの呪文が発動するのを待ちます。
「―――信仰の力にて陽光を集め玉と為す。───下級極大消滅魔法・陽光消滅玉ッ!」
「「消え去れぇえええ!!!」」
私たちは魔法の発動と同時に一緒に叫びます。それは二人で遊んでいる時によくやっていた行為で懐かしくなり笑い合います。こういうところで息が合うプリアちゃんが私は大好きです。
『あっ、―――ぽぉおおおおおおお~~~!!!』
歓喜が激しく伝わる鳴き声を残してトロピバードは飛び立っていきます。トロピバードは天井の隙間を通って地上へ、空へ。
「なあ、何かアユの足元に落ちてるけど拾わないのか?」
「これのこと? んー、指輪装備っぽい。あ、これあれなやつだ」
アユちゃんはその装備に書かれている説明を読み上げます。
【―――の指輪】 [契約モンスターの召喚を行える指輪。上昇するステータス、数値は契約したモンスターによって異なる。契約後、モンスターを召喚する固有スキルを習得できる―――]
「って、これペットってこと? え? うそっ!?」
「そういう認識でいいんじゃないかな。厳密には契約モンスターだけど、セピアさんみたいに特定の職業だった人じゃないと使えないわけじゃないし」
アユちゃんが浮かれるのもわかります。私もこのゲームにも契約モンスターが実装されていたということを知れて内心ですっごい喜んでいます。運営からの実装告知はなかったですよね? こっそり試した時はダメでしたから最近実装されたのか―――いえ、もしかしたらこのダンジョンはバレンタインイベントと同時実装の新しいものですし、このシステムが実装されたと教えるために存在している可能性もありますね。
「じゃあ、さっそく! 来て、私のフワマル!」
「……アユちゃん、やらかしちゃったね」
「だね! あっちのペットシステムと同じなら! アユちゃんどんまい!」
私がそんなことを考えているとアユちゃんが装備の説明欄を最後まで読むことなく契約モンスターの召喚を行ってしまいました。これ、私たちのしっている指輪と同じなら[契約できるモンスターはこのアイテムをドロップしたモンスター、もしくはイベントでの入手の場合はランダムとなる。1アバターに付き一体のみ契約可能、装備の受け渡し不可。〝契約破棄〟を行うまで新たな契約不可]と続きます。
「私たちの知っている指輪と同じようだし、フワマルをペットにしたいならフワマリから指輪をドロップさせないとダメなんだよ……」
「え、ちょ―――」
名前の入ってない指輪はイベントでの入手のもので、召喚される契約モンスターはランダムとなっています。フワマルが来てくれる可能性もあるにはあるのですが……。
『ににゃ~~~~!!!』
「あら、かわいい猫さんですね」
「ねこだけはいやぁあああああ!!!!」
現れたのは猫又と呼ばれる茶トラ模様の二尾の猫、授業で習った遭遇率の低い田舎の農村に現れるレアモンスター〝ネコキャット〟でした。
「アユちゃん。猫、可愛いよ?」
「そうなんだけど、私はアユなの。鮎なの! フィッシュ・ミー!」
「ああ、そういうことですか。ロールプレイ的にペットの餌がご主人様なのが嫌だと……」
ミナツちゃんの推測にアユちゃんが頷いて答えます。けれど、契約はここに成されました。契約破棄はどこで行えるかの情報も恐らくはまだないでしょうし、下手したら実装されていない可能性もあります。
「ラピスちゃん。―――あげる」
「その装備、受け渡し無理だから諦めて可愛がってあげてね」
私はアユちゃんに仕様を伝えます。無慈悲でも、こればかりはしょうがないのです。
『ににゃ~?』
「にゃーーー!」
猫の鳴き声が二つ、部屋に響いて私たちの仲間が増えました。




