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第108話 栗毛聖女、薬草娘の苦手を思い出す。

 地下二階に降りてすぐに狭い通路は終点となり、木で出来た扉が私たちの道を塞いでいました。


「わざわざ扉があるってことは大量のモンスターか、トラップか……何かあるよな」

「そうだね。プリアちゃん、コータが扉を開けたら移動速度増加(スピードインクリーズ)をかけてあげて」

「わかった! 私たちはゆっくり部屋に入るね!」


 コータが扉を開くと広い部屋になっていました。私たちのいる場所以外に出入りするための通路や扉はなく、中央には一本の林檎の木があるだけ。そして止まっている果実鳥(トロピバード)が一匹いました。


『あっぽぉ~、あっぽぉ~』


 コータは周りを見渡し、何もないことを確認して林檎の木へと一直線に駆けていきます。


 バタンッ!


「あ、閉じ込められた」

「何か起こる前に、コータ急いで戻って!」


 私たち全員が部屋へと足を踏み入れたと同時に背後の扉が閉まり、部屋に閉じ込められました。間違いなく何かのギミックが発動する。そう感じた私は大声でコータに戻って合流するように呼びかけると、林檎の木へと辿り着く直前のコータは反転して大急ぎで戻ってきました。


「何が起こるかな! 何がおこるかな!?」

「コータさんに戻ってきていただきましたが、あれだけ接近してトロピバードには動きがありませんでした。モンスターではなくギミックの一つと考えますがいかがでしょう」


 わくわくしているプリアちゃんと、冷静に分析しているミナツちゃん。二人の反応の違いが少しだけ可笑しくてちょっと笑えました。


「移動速度増加ッ! みんなチョコ渡した人にかけて林檎の木にダッシュ!」

「え? ―――移動速度増加っ! アユちゃん後で説明してね」


 アユちゃんから急に移動速度増加をかけられ、指示通りに私は走り出します。そして、モーション補助に入ったのを確認しプリアちゃんに移動速度増加をかけます。その頃には皆が〝ターゲティングに向けて走る〟というモーション(動作)により、走る動作が半自動化され、その状態で魔法を使いながら加速し全員が目的地へと辿り着きます。


「えっと、ラピスちゃん。……説明いるかな?」

「いりません。アユちゃん、とりあえず戦闘準備しよっか」


 入ってきた扉以外の出入り口が無い部屋ですが、正面の奥に小さな隙間が空いていたようで大量の飛蝗(バッタ)がなだれ込んできていました。それも毒々しいマーブル模様の感じで……見た目が最悪なモンスターです。


「アユちゃんならあれ平気じゃないかしら?」

「虫のモンスターって集まると⋯⋯、ちょっと私も無理かな……って、私なら平気って何? ミナツの方が平然としてるし平気なんじゃない―――のっ?!」

「────虫はイヤ、ムシはイヤ、ムシハイヤ、取り除かなきゃ、取り除かナキャ、トリノゾカナキャ⋯⋯、害虫は消し去らなきゃ! ──────中級極大消滅魔法・極陽光滅線(ザ・サンシャイン)ッ!」


 あのアユちゃんも少し引くような光景が眼前に広がり、ミナツちゃんと二人はいつもの言い合いを始めようとして中断します。詠唱とも呼べないような詠唱が聞こえ始め振り返るとプリアちゃんが最大火力で魔法を放っていました。


「あの⋯⋯、プリアちゃんって葡萄農家の方ですわよね?」

「うん。私はそう聞いてるよー」

「それにしては私たち以上に虫に耐性がないように思えるのですが⋯⋯」


 いつもの元気なプリアちゃんから一変、まるで親の仇のような負の感情がVR越しに感じられるプリアちゃんに困惑しながらミナツちゃんがアユちゃんに「変ですわね」との疑問を投げかけます。その疑問はもっともなのですが、プリアちゃんって葉や果実を食べる虫はダメなんです。私も忘れていましたけど、コータと二人でそのことを思い出し、顔を見合わせて二人にそのことを説明しました。


「あー、確かに坩堝蜜竜の蜂は大丈夫だったね」

「プリアちゃんは農作物に対する害虫がダメってことですね。それなら納得できます」

「あはは! ごめんね! 害虫だけは私だめなんだー!」


 説明が終わるころには元に戻ったプリアちゃんが二人と話をしていると、コータがコッソリと虫型モンスターの出るダンジョンをエミルさんが避けていたと教えてくれました。


「そういえばギルドでパーティーを組んで惨事になったのってアノ事件以来だけだったね」

「ラピスもギルドマスターになったんだからそういうのを覚えておけよ」


 リトル・ア・ポコ、私がギルドマスターの私たちのギルド……。そうですね、コータの言うようにみんなの好き嫌い、苦手なモノなど把握していかないといけませんね。特に別行動しているマリアさん、マヤさん、リョウさん、ヤスナガさんはまだほとんど一緒に遊んだことがないので学園生活が終わったら私からパーティーに誘ってみようと思いました。


「―――私はしばらくダメだから! 《《アレ》》はラピスちゃんたち! 頑張って消し去ってね!」


 極大消滅魔法を使った反動で動けないプリアちゃんの戦力外宣告、そして〝毒柄飛蝗(マーブルバッタ)〟の第二波が私たちへと迫ってきたので私たちはヒーラー(回復役)なしで戦うことになったのでした。

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