第106話 栗毛聖女、チョコレート交換をする。
バレンタインイベントも終わり、私たちは期間中に学園七不思議を全て解き明かしました。
「あっぽー! あっぽー!」
ボンッ
『アッポー! アッポー!』
「やっぱり林檎ちゃんだ!」
「ごめんね。―――正拳突きっ!」
食堂の天井を飛んでいる明らかに怪しいトロピバード(りんご)に対して合言葉を言うと変身が解けて、青りんごの体をしたトロピバードもどきのトロピ人間と化した青葉林檎ちゃんが降り立ちました。クラスメイトに申し訳ないですが私はお腹に一撃を入れて倒します。
『あ、あっぽぉ~……。どう? 似ていたかしら?』
学園七不思議、それは生徒NPCによる仮装モンスターを倒してチョコレートをもらうイベントで、モンスターの声真似をすると擬態が解けて一撃で倒せる仕様だったようです。
「これで〝食堂の空飛ぶリンゴ〟もクリアだね!」
「おつかれさま! けっこう楽しかったね!」
「私はクラスメイトを攻撃するのに最後まで慣れませんでしたわ」
私はドロップしたチョコレートを拾うと大事なことを思い出しました。
「あ。プリアちゃん! これ、遅くなったけど友チョコだよっ! いつもありがとう!」
「うん! やっと私のこと思い出してくれたんだね!」
「あはは……、そういわれると痛いかな。コータのせいだからコータが謝るよ」
「ボクのせいかよっ!? まあ、間違ってないから謝っとく」
「いいよ! ラピスちゃんがいつも通りで安心したし! ありがとね!」
バレンタイン当日は終わってしまったけど週末まではバレンタインイベントは継続しています。プリアちゃんにチョコを渡していない事を思い出して私は遅くなりましたけどチョコレートを渡しました。
「けどいいの?! アユちゃんとミナツちゃんには!」
「二人とはリアルでバレンタイン会をやったから。プリアちゃんにだけまだ渡してなかったの忘れてたの」
ドロップしたチョコレートは7つ。私に渡そうとしてそのままなコータが1個、私が3個、アユちゃんとミナツちゃん、プリアちゃんが1個づつを持っていて私たちはまだ誰もチョコレート交換をしていませんでした。
「じゃあ! 私はコータにあげる! はいっ!」
「はぁ!? ラピス以外からもらってどうす―――」
「あははっ! 友チョコだよ! 勘違いしないでよねっ!!!」
「ぁぁ、友チョコね……。ありがとう。ボクもプリアとまた遊べて嬉しいよ」
プリアちゃんからもらったチョコレートが友チョコで少しだけ残念そうに見えるのは気のせいですよね? だってコータは私に好きって言ってくれたんですから。
「じゃあ、ボクは……。はい、友チョコ。一応、キミの元彼ピだったし。受け取ってくれると嬉しいかな」
「それってラピスちゃんに渡そうとしたチョコですよね? 私が受け取ってもよろしいのでしょうか?」
「このアイテム、賞味期限があるからね。友チョコっていまさら言い直して渡そうとしてもラピスを困らせそうだし。なら、ミナツに受け取ってほしい」
そういえばこの二人って前回の学園生活でカレカノな関係でしたっけ。コータが私のことを考えてくれてるのがわかって、プリアちゃんの時に感じたものはやっぱり気のせいだと安心しました。
「ありがとうございます。私たちはまだ過ごした時間は短いですが、これからも友人としてお付き合いを私からもお願いしますね」
そう言ってにこやかにミナツちゃんはコータからチョコを受け取りました。コータもプリアちゃんから始まった友チョコ回しでチョコを受け取ってもらえてほっとしているようです。
「では、私はアユちゃんにですね。リアルでもお渡ししましたけど友人として、これからもよろしくお願いしますね」
「ずいぶん自然な感じの話し方になったじゃん。私は今のミナツの方が好きだし、友達として喜んで受け取るね」
軽い感じで受け渡しを行った二人は、分かり合った友達って感じがしました。
「じゃあ、最後は私かー。ラピスちゃん、覚悟はいいかなぁ~?」
「アユちゃん、オヤジっぽい笑い方はどうかと思うよ?」
「はっきり言うねぇー。ネット弁慶なラピスちゃんも大好きっ!」
ネット弁慶……ネット弁慶……、言われてみたら今の私ってネット弁慶なのですね……。確かにリアルを知ってる人たちからはそう見えるかもと少し落ち込みましたが、すぐにそれも吹っ飛んでしまいました。
「え? これって……?」
「うん。チョコレートと一緒に受け取ってほしいな」
渡されたのはチョコレート、それと変化の指輪が一つ。
「ラピスちゃん似合ってる! 可愛い!」
「うん。やっぱりラピスちゃんには淡い空色の髪が似合うね!」
「……綺麗だ」
「当たり前ですよ。だってラピスちゃん本来の美しさですから」
装備してみると髪の色がリアルの私と同じ色である紅碧色に変化していきました。
「これならあのチョコレート帽子もかぶれるでしょ」
「ぇ、うん。アユちゃんありがとう。―――どうかな?」
「私に聞いてもいつもと同じ言葉しか返せないよ。だってラピスちゃんはすっごく綺麗で可愛い子なんだもん。何を装備しても似合うに決まってるじゃん」
あ、ダメだ……。ネットはリアルとか普段から言ってる私だけど……。
「私を見られているみたいで恥ずかしい……」
リアルの私はまだ自分に自信が持てないのに、ネット上の友達に私を見られているみたいでアユちゃんには悪いですけど変化の指輪を急いで外しました。
「木蓮くんから譲ってもらったんだ。〝鹿木氷の棒〟と交換しちゃったけど、あれって氷属性付与素材だし魔法使いの私にはもういらないかなって思ってたし、ラピスちゃんを驚かせれて十分すぎる満足感かな!」
アユちゃんに対して思うところがないわけではありません。私はやっぱりネットとリアルの線引きはこれまでしてきたので……。それは私が不登校になってリアルから現実逃避をしていたからというのもあって、その原因になった髪の色にコンプレックスを抱いていたのも事実で。
「―――ありがとう。この髪に自信をくれて」
私がみんなに返せるものは今はないけど、それでも感謝を伝えることはできます。嬉しいと伝えることはできるんです。勇気を出してもう一度、指輪を付けて帽子をかぶります。
「称号聖女の聖女スキル見ててね! 断絶の盾ッ!!!」
一周回ったチョコレートリレーは私たちの忘れられない青春の思い出になりました。このイベントに参加して本当によかったとバレンタインが終わってから実感するのでした。
「―――このスキルが使えても他に移動速度増加と詠唱短縮くらいしか使えないから普段は外しておくね」
「あはは、うまいこと逃げられちゃったかー」
それでも恥ずかしいことには変わらないので、私は栗毛を続けます。こっちでのリアルはやっぱりこのアバターなのです。
「ごめんね。〝栗毛聖女の眼〟なんて付くくらいこっちの私は栗毛が本体なんだ」
「ラピスちゃん! 上手い!」
「さっきのラピスも綺麗だったけど、ボクにとってもラピスは栗毛って感じだからこっちの方が落ち着くかな」
プリアちゃんとコータは私のアバターを年単位で見てきたわけで、やっぱり私はネット上の関係はこのアバターで築いてきましたし大切にしたいと改めて思いました。
「それじゃそろそろ合流日時とかミコさんと決めて、残りの学園生活も楽しもうね!」
卒業までまだ時間があるので私たちはもう少しだけ今の環境を楽しむことにしました。




