第104話 栗毛聖女、バレンタインを始める。
ガラッ!
『恋愛は青春だー!!!』
ついに現れたエルオヴィー先生はロングデアーの派手なピンクの巻き髪でパンク系の服を着ている教師に思えないような見た目をしていました。
「え? 青春ってロックンロールだっけ?」
『っちがーーーう! 青春は恋愛だー!! 恋愛は青春だー!!!」
私の口からこぼれた言葉も拾って叫んでいる姿はお父さんが好きなロックンローラーにしか見えませんでした……。
「だけどほら、ようやくバレンタインイベント始まったみたいだよ」
アユちゃんに促されて先生の右手を見るとチョコと書かれた箱が握られていました。―――私たちがギルドを結成し、すぐに別行動となった理由は移動手段としてのフワマリンネの他に〝学園で発生するイベント〟としてバレンタインイベントが企画されていて、ミコさんたちが「若い子たちで楽しんでくるのじゃ。わっちらには眩しすぎるからのぅ」と言って送り出してくれたからでした。
――――――
[バレンタインイベント開催のお知らせ]
本イベントは2月1日より一定の条件が満たされた場合に各地にある〝学園〟にて発生します。報酬含めて内容に関しては伏せさせていただきます。ぜひ学園に入学し、チョコレートをあげたり貰ったりしてイベントを楽しんでください。 〝恋愛は青春だー!!!〟
――――――
確かにこんなお知らせを見たら参加を見送るプレイヤーがいてもおかしくないと私も思います。リョウさんもヤスナガさんも学園の強制カップリングとか知らずに入学してたわけですし、また入るのは勇気がいるでしょうからね……。
「で! 何が始まるのかな!?」
「また恋人を作れって言うんじゃない?」
「バレンタインでそれはないと思うけど……コータはどう思う?」
「──スがチョコくれるならどんなのでもいいけど」
コータはチョコがもらえたら何でもいいとか男の子らしいなと思いました。最初の方の言葉は教室の騒音で聞こえませんでしたけど、いっぱいほしいとかかなと思います。
『恋! それは甘酸っぱく、そして時に苦い青春!!!』
教壇に立って黒板に〝恋〟の文字をデカデカと書いたエルオヴィー先生の演説が始まりました。
『恋愛は愛情も抱いた青春だ! だが恋はどうだ? 恋心なんて一方的なモノじゃないか! ―――だがっ! 通じ合えればこれほど嬉しいモノはない! そうは思わないか!』
そこまで言って周りを見渡したので、私も周りを見てみると共感している人がコータを含めてちらほらといました。
「コータ、好きな人がいるんだね。私、応援するよ!」
「……ありがと」
返事はあまり嬉しくなさそうでした。私だけじゃ力不足かもしれないけど、アユちゃんたちの力も借りてコータの恋を応援していこうと思います。
『しかしっ! なかなかと日常で想いは告げられないだろう! バレンタインはそんな君たちに勇気をくれるイベントだ! 男も女も関係なく、チョコレートを好きな人に渡そうじゃないか!』
「「「うぉおおおおおおお!!!」」」
野太い声が教室中に木霊しました。……これって女の子が好きな人に思いを伝えるイベントじゃなかったかなと思いましたけど、時代は男の子からも積極的に告白できるイベントに変わったのかもしれません。
「あー、もしかしてラピスちゃん知らなかった? 女の子があまりにも奥手になりすぎてチョコレートが売れなくなってね、数年前にバレンタインは男女関係なく告白する日に変わったんだよ」
「……そうなんだね。ちょっとびっくりしちゃった」
アユちゃんは私が少し戸惑っているのを見て、世間に取り残されているのを察知して詳しく教えてくれました。バレンタイン文化も時代と共にやはり変化していたようで、この盛り上がり方に私は納得しました。
『ではイベントの内容について説明しましょう! 学園と言えば〝七不思議〟ですね。在校生たちと交流してそれらの謎を解いてください。謎が解けたらチョコレートがドロップしますので、あとは……わかりますね?』
エルオヴィー先生が去った後の教室は騒々しいの一言で表せるほどガヤガヤとしていました。私たちもさっきの内容を吟味し、話し合いを行います。
「学園七不思議を解けばチョコレートがもらえて、それを持って告白をするとカップルになれて報酬がもらえるってことかな?」
「かな~? 在校生と交流してって、七不思議の情報をNPCから聞き出せってことだと思うけど」
「そうですわね。私もそう思いますわ」
普通に考えたらそうなのかなっという結論に至った私たちはさっそく近くのNPCの羽竹くんに聞いてみることにしました。
「羽竹くんは何か七不思議の噂話しらない?」
『う~~~ん……。最近、実技練習場の案山子の一体に目が奪われる怪異があると聞いたことがありますね』
「ラピスちゃん! それって!」
「うん、アイテムドロップって考えたらあのモンスターだよね」
「「動く案山子!!!」」
実技練習場へと移動した私たちは案山子の立ち並ぶグラウンドを進むと、途中で一体の案山子に目を奪われました。
「ねえ、ラピスちゃん。たぶんアレが動く案山子なんだけど」
「アユちゃんの言いたいことはわかるよ。いつもの言わなかったよね」
「じゃあ、こっちから叫んでみたら何か起きんじゃね?」
「コータ! その発想力いいね!」
そして私たちは頷き合い、プリアちゃんの「せーのっ!」という合図と共に叫びます。
「「「「「かかってこいやぁー!!!」」」」」
ボンッ
『かかってこいやぁー!!!』
案山子は《《羽竹くんの姿をした動く案山子》》に変化し、戦闘が始まりました。
「移動速度増加ッ! コータ、お願い!」
「移動速度増加ッ! 二重までならコータいけるよね!」
「おう、任せな! 〝精神刀一〟ッ! 〝一閃〟ッ!」
私の移動速度増加にプリアちゃんがスキルの重ね掛けをしてさらにコータは加速し、移動中に自己強化スキルを発動しながら接近して一撃を与えます。
『……見事ですね』
ボンッ
羽竹くんの案山子は消え、チョコレートがドロップ品として残っていました。
「じゃあ、とりあえずやってみるか」
「がんばれー!」
「人の告白を見るのって緊張しますわね……」
チョコレートを拾ったコータはなぜか私の方へと進んできます。
「ラピス、好きだ! るきあってください!」
「あ、噛んだ」
「しっ! アユちゃん静かに見守ろうよ!」
コータはさきほど拾ったチョコレートを差し出しながら真剣な眼差しで私に想いを伝えてくれました。―――バレンタインイベントが始まって、初めて私は男の子に告白されたのでした。




