第103話 栗毛聖女、無双する。
「ラピスちゃん! オレと付き合ってください!」
立派な木の下で緑の髪が印象的な爽やかな男の子が私に向かって手を差し出して、青春アカデミーに入学して何度目かもわからない告白の台詞と共に頭を下げてきました。
「ごめんなさい。私、青春は友達と過ごしたいの――――」
『『『あの伝説の木之下が振られたーーーー!!!』』』
「いや、オレは木之下って名前じゃ……」
告白してきた木之下くん?に対して私がお断りの言葉を述べていると、それを見ていた周りのNPCの方々が囃し立ててきたので、私は最期まで言わせてもらえませんでした。
「あはは。すごいことになってるね」
「あっ、コータ! 見てないで助けて~!」
「ボクも振られたしね。ラピスが困ってるのも可愛いからもうちょっとだけ―――」
『恋愛は青春だー!!!』
「あ、エルオヴィー先生っ!」
この茶番劇の元凶たる先生が再び叫びながら私たちの元へとやってきます。
『木之下くんっ! 失恋の味はビターチョコのように苦いだろう。―――だが、それも青春!』
「オレは木蓮なんですけど? さっきから木之下って、いったい何ですか……」
そして、木之下くんと呼ばれている木蓮くんにエルオヴィー先生はチョコを渡しながら青春とはを熱く語り出してしまいました。
「木之下ってのは、この伝説の木の下で告白して……、そして振られた英雄の名前らしいよ」
『振られると分かっていながらも勇気を出して告白した彼は木之下と呼ばれるに相応しい男だ』
コータとクラスメイトのNPCが私たちに詳しいことを説明してくれました。木蓮くんは〝伝説の木之下〟という称号を手に入れたようです。⋯⋯さて、何故このようなことになったかということを入学式から振り返ることにしましょう。
──────
『青春アカデミーへようこそ! この世界のことや戦闘のこと、そして人付き合い! 君たちはそれらを学び、大切にしてこの学園生活を存分に楽しんで卒業していってくれることを願っている!』
立ち並ぶ制服姿の私たちは長い校長先生の話を聞き、ようやく入学式が終わりました。
「アユちゃん! ミナツちゃん! コータくん! 今度はラピスちゃんもいる学園生活だよ!」
「プリアちゃんテンション高いね」
「うん! 春になったら私、学校にもう通わなくなるんだって⋯⋯、そう考えるとVRでも嬉しいし! それに本当に友達全員と青春出来るのも嬉しい!」
ギュっと私はプリアちゃんにゆっくりと抱きつきます。忘れていましたけど、プリアちゃんはリアルでは高校三年生、そして今が2月という卒業間近の現実がそうさせているのかなと感じ自然と体が動いていました。
「……ラピスちゃん。大丈夫だよ! ちゃんと向こうでの友達は、卒業しても私のお店で集まる約束してるから!」
「―――ふぇ? アユちゃん? ミナツちゃん!?」
プリアちゃんに抱き着いている私を左右から二人が抱きしめてくれました。
「大丈夫。私たちも卒業しても一緒だからね?」
「プリアちゃんもですよ。ゲームの中ではありますけど、こうして友達と会うことができるのですから」
―――私たちを見ていたコータが「まだ入学式が終わったばかりなのに……」と言いながら目頭を押さえていました。ちなみに入学したのは私とアユちゃん、ミナツちゃん、プリアちゃん、そしてコータです。マリアさんたちは【厄災】フワマリンネのクエストを受けるためにミコさんのフワマリに乗ってカザグルまで戻っています。
『では、授業を始めます。最初の授業ですので今回は〝モンスターについて〟です』
教室に戻った新入生一同はそれぞれ名前と簡単なプレイ遍歴の自己紹介をして、そのまま担任であるシエール先生の授業が始まりました。ちなみに、この青春アカデミーでに授業は1回20分で、その後10分の休憩を挟んで次の授業に移行していきます。また、内容はこの〝モンスターについて〟以外は完全にランダムでAIによって内容は都度変わるそうです。
『―――であるからして、この光雫世界における〝モンスター〟と呼ばれている生物は陽光神様の力を蓄えすぎ、自然の摂理から外れてしまった物や動物、あるいは精霊や現象なのです。今回はここまでにして休憩を取ります』
〝モンスターについて〟の授業も終わり私たちは思い思いに休み時間を過ごします。
「そういえばさ、みんなの言ってた恋人ゲームはいつ始まるの?」
私は知らない人とペアを組まされるソレだけが不安で、てっきり入学と同時に『青春だー!』というイベントが発生するかと思っていましたが何も起きませんでした。
「そういえばそうね」
「だね! なんでだろ!?」
「ラピスちゃんにはまだ早いってことかな」
「だといいんだけどな……」
そんな話をしているとすぐに次の授業が始まってしまいました。
『今回の授業は戦闘テクニックについてだ。まずはターゲティングの話から始めようか。攻撃や支援を行う場合、使用するスキルを選択し、その対象を視覚情報として注視してターゲティングをする必要がある』
「ねぇ、これってラピスちゃんのテクニックじゃないかしら?」
「だよねー。私もそう思う」
『しかし、この〝注視する〟という行動を行わない限り、行動系スキル以外はスキルは保留状態となって発動しない。―――そこで事前に使用スキルを選択し、保留状態にしておくことでダメージを受けた際に即座にターゲティングをしてHP回復を行ったり、攻撃のチャンスに大技を仕掛けたりすることができる』
なるほど。私が自分で考えたテクニックも本来はこうしてプレイヤーが知る機会を設けられているのですね。
『では、どうやって保留状態で待機しておくか? それはいくつか方法が確立されていて注視判定を瞬きによりリセットするブラインドと呼ばれる方法や、対象に取れない自分の手を目の前で動かし注視対象の再選択を強制して時間を稼ぐ方法がある。しかしそれらは戦闘中に視界を遮るため使っているプレイヤーは少ない』
ふむふむ。私と同じことを思い付いてそんな発想で実行している人がいたのですね。……これってプレイヤーが行っているテクニックをAIが収集して教えてくれているのでは? そして私は嫌な予感がしました。
『―――主流なのは〝栗毛聖女の眼〟と呼ばれる視点を動かしてターゲティングしない方法で、これは俯瞰的に広範囲を見ることで発動したいタイミングで注視することで即座に発動できる以外に、対象を視界に収めている複数人の中から選択できるので非常に使い勝手がいい。是非とも覚えて、自主練して欲しい』
そう締めくくって部屋を出ていった先生を私は見送ることしかできませんでした。―――そんなこんなで私の名前は青春アカデミー内で有名になり、……数日後、エルオヴィー先生が襲来しました。




