第101話 中の人たち、ラピスの受難を知る。
オレ、鳴海清治は自宅に設置した防音ルームに会社の同僚たちを呼んで雑談を交えながら麻雀を楽しんでいる。まぁ、東1局、2局ともに跳満に振り込んで残りは千点棒1本という絶望的な状況だが、この局を乗り切れば親が回ってくるので逆転を夢見てるような状況だが……。
「で、ですね。そのラピスって子が―――それ、ポンです」
「げ、ダブ東じゃねーか!」
最近……といってももう数か月経つが、配属されてきた上家の南出勇太が東3局で『東』をポンしやがった。ぶっちゃけ俺を飛ばすだけならポンなど鳴かずに面前であがれば勝てるのに……こいつ、わざとだな?
「鳴海先輩、手抜いてるとオレあがっちゃいますよ?」
「いいから続き話せよ。というか、さっさと捨てろ。多牌でチョンボするぞ」
おめーも手抜きしてんじゃねーよ。そんなことを目で訴えながらオレの牌と共に勇太の右側に晒された『東』三枚をチラ見する。
「鳴海さん相手に鳴くとはな、ここであがっとかねーと捲られるぞ」
「南出は今日は初打ちだから知らないだろうが、清治は南場が強いんだぜ? 東場で仕留めらるのなら仕留めるが俺たちのセオリーだ」
確かに追い詰められてからのオレは運が強いが、……言われてみれば南場に入ってからしか上がれてねーな。はぁ、オレの親も耐えねーといけねーのか。
「親ならこの鳴きだけで《《5藩》》ありますし、|自分で引くことができれば 0点にできる《ツモればとばせる》ので問題ないです」
その言葉を聞いてっはとしてドラ表示牌を確認する。そこにはアイツの苗字にもある『南』がドラ表示牌として輝いていた。……つまり、『東』がドラで自風牌・場風牌の2潘にドラの3藩が足されるのだ。
「……で、そのラピスって子がなんだって?」
――――――
南出の宣言通りオレはそれから間もなくアイツのツモでとんで、キリがいいので一度休憩に入った。
「へぇ、その〝加護〟取得が出来なかったのは不具合が原因だったのか」
「だが仕様と言いきったせいで武道家に転職しちまったんだろ? もうGFOで聖女に転職できないのは《《栗毛聖女の受難》》といってもいいだろ」
前にオレが聞かされた話を喜多野守と西田健に対しても南出は話していた。その後は七夕や【厄災】イベントで偶然関わった程度の情報を断片的にしか聞いていなかったが、改めて聞くと恐ろしいプレイヤーだと思った。
「【厄災】は最前線組に対して行われたイベントじゃなかったか?」
「【厄災】のこともそうだが、七夕のことで既にオレは驚いた。企画したのはオレだが条件が厳しすぎたからな」
GFOは《《北に行くほどモンスターが強くなっていく仕様》》で、初心者は南のファースシティから始めるのを推奨している。西と東の開始地点は中級者向け、北は上級者向けで南への南下は無料で即時転送サービスがあるが逆はない。
「あんな耐性モンスターだらけの北の町だろ? 最速移動方法はフワマリンネの封印を解いてさらに北へ向かうことだが装備はどうしたんだよ」
「INT極振りの魔法使いが聖属性付与をしながらゴリ押し。前衛はノックバックとプレイヤースキルで回避基本の立ち回り。で危ない場面はアイテムのゴリ押しだ」
南出から北の町でのラピスの話を聞いて世界間移動を考えた。しかし、GFOイベント部門でそれなりに権限のあるオレでも上層部にそれを納得させるのは困難で、前例がないことに対してはユーザー数を絞るのを求められた。そのため【厄災】フワマリンネ討伐を条件としたのだ。
「当時、フワマリンネを倒したプレイヤー数は500人程度、その人数が増えたタイミングをオレは見てプレイヤーを調べてみたら3人での低レベル討伐だった。正直ありえないと思ったね」
サーバーに送られてきたデータの動きから戦い方はわかった。しかし、わかったからといって簡単にできるものじゃない。それは三者三様に突出した才能があっての攻略法だったからだ。
「南出の試した【厄災】イベントからのGFOへの転移だってそうだ。最前線組から情報が回ってこないと舞踏会があることも知ることはない。そして謁見を二組に絞っているから情報は極力秘匿されたことだろうに」
「あー。それなんだが情報をラピスたちは金で買ったらしい」
頭が痛い。そんな偶然あるのか? 情報は金になるが、それは余裕のあるプレイヤーが金を出して情報を買うからだ。最前線からもたらされた限定情報、恐らくは相当な大金になったはずだ。
「すげーな……。装備を整えて強くなることよりもレアなイベントに参加することを選んだのか」
喜多野の言う通りだ。正直いってその舞踏会を突破できる保証もないのに情報を買っているとは……ドブに大金を捨てる可能性もあったのだ。
「けど―――」
「ああ」
「「「「ゲームを楽しんでるなっ!」」」」
オレも含めてみんなが笑いながらラピスたちに感謝した。楽しんでくれてありがとう、と。ゲーム会社で働いていて良かったと、その話を聞いてすごく実感できたオレたちは幸せ者だ。
「そういえば小太郎のヤツがエンブレム変更機能の実装日時を設定し忘れて即時反映やらかしたらしいぜ?」
「ケン、そこまで影響のないプログラムだし助け船だしてやったんだよな?」
「あたりまえだろ。清治ほどのお節介はやかねーけどな」
南出と喜多野を見ながら西田は笑いながら事の顛末を語ってくれた。
「そういうヤラカシなところも含めてリアルタイムで楽しいことが起こるのがオンラインゲームってやつだよな」
「鳴海さんはいいこというな~。そんな話をしていたら俺たちも運営側じゃなくてプレイヤーとして遊びたくなるじゃないですか」
「いや、オレたちはさすがに家族もいるし時間とれねーよ。な、ケン」
仕事と家族サービス、両方しなけりゃいけねーのがお父さんの辛いところだぜ。まぁ、まとまった時間が安定して取りにくいだけでこうして息抜きはしてもいいんだけどな。
「さて、そろそろ休憩もいいでしょ。もう半荘といきましょうよ」
「南出、次は勝たせてもらうぞ」
勝ち逃げは許さないぜ? ここはオレのホームだからな、勝つまで付き合ってもらうぞ。
「そういえばラピスのことで思い出したんですが、移動速度増加の下方修正もあの子のせいです」
その後も終始、ラピス情報による盤外戦術に翻弄されてその局、オレはあっさり負けた。
「さっきも言ったが、ゲームを楽しんでくれりゃいいんだよ。修正されるってことは想定外の遊び方を見つけたってことだろ? わくわくするじゃねーか。負けてらんねぇ、なっ! リーチッ!」
「あっ! それロンです!」
もうすぐバレンタインか……。あ、学園イベントなんて面白そうだな。校舎裏の伝説の木の下で告白するとモンスターが現れて―――。よし、時間もないし学校は増やさなくても各地にあるアカデミーを使うことにしよう。
「―――と、いうアイデアが浮かんできたんだがどう思う?」
南出も喜多野も、西田もノリノリでアイデアを出してくれた。アイテム報酬も豪華ではなく、遊び部分が多いので企画書になったらすぐに通るだろう。オレは仕事に行くのが今から楽しみになっていた。




