第100話 栗毛聖女、少しづつ確かに進む。
私とミコさん、マリアさん、マヤさんで残る納品クエストを終わらせたところ、《《ノドカナ村の隠し連続クエスト》》が発生しました。
「ノドカナ村とカソッタ村、この二つの村で《《一つの扱いじゃった》》とは。サンダー氏はそれに気付かずにアレナシティへと向かったのじゃな」
「ぁー。あーしたちはそのノドカナ村には寄ってないっすからね」
集合場所であるノドカナ村へと着いてマリアさんとマヤさんの二人は隠しクエストを出現させるためにNPCへと順番に話しかけてクエストを受注していきます。
「サンダーさん、アレナシティからさらに町を進んでるから戻れないって返事がきました~」
「あやつはせっかちじゃからのぅ。わっちらとはプレイスタイルが合わないにせよ悪いやつではないのじゃ」
「え? みんなサンダーさんと連絡取り合ってるの?」
私はちょっとした驚きに見舞われましたが、話を聞いていると私の早とちりや思い込みで彼を悪い人に仕立ててしまっていたようです。
「あの人はね、特定の人と長期でパーティとか組むのが苦手みたいなの。昔、アイテムの持ち逃げとか色々とあったみたいでね……」
マリアさんがサンダーさんから聞いた話を私は無言で最後まで聞きました。
「そっか。私、少し勘違いしてた。……サンダーさん、ごめんなさい」
あの一人でカソッタ村でのクエストを終わらせた時も、もしかしたら〝もう連続クエストが発生しなかったのは確認できましたから、君たちはやらなくてもいいですよ〟という彼なりの優しさから私たちがクエストを残っていても移動を提案していたのかもしれません。
「まぁ、わーしらとは合わなかっただけっすよ。ラピスのその判断に間違いはないっす」
「ちょっとリーダー気質というか、指示を出してたいみたいで行動がワンテンポ遅いのよね」
「ぁー。それはあったすね。なんていうか、自分が動く場面でも注目してほしいのか行動が遅かったっすね」
……楽をしたかっただけではなかったようで、深く彼についての話を聞くたびに余計に恥ずかしくなりましたが、そう私が感じてしまうということは《《戦闘時に息が合わない》》のであまりラピスちゃんとも相性がよくないのだとみんながフォローしてくれました。
「それにしても……、ラピスちゃんの話を聞いてるとミコさんちょっとやりすぎですよ? ギルマスの責任感で疑い深くになってる子にそんな選択を迫るなんて、っめですよ」
「反省しておるからマリア殿よ、そうわっちも責めないでほしいのじゃが……」
ミコさんは単純にマリアさんたちの語った人物像としてのせっかちでリーダー気質なサンダーさんは私たちとは合わないという意味で話していたようで、それでも誘うのかと聞いていただけなようでした。ただ、そこにミスリードを誘うような言い回しをしたことや説明を意図的に省いたあたり、私への試練だったように思います。
「もしかしてなんだけど、私とミコさんで二人旅になったのってそういう少しだけプレイスタイルが違っていたり、色々な考えをしている人がいるって伝えるためだったりする?」
「―――それもあるかのぅ。アユがおっては普通のプレイヤーとは組みにくいじゃろ。逆にラピスやわっち以外の前衛と組んであやつらも危機感を覚えるのも必要じゃろ?」
……確かに私とミコさんが不測の事態でもすぐに対応してしまうせいで後衛にモンスターが流れて本当に危ないという事態に普段は陥っていませんし、ミナツさんも一人の前衛として経験を積む機会を奪っていたような気もしてきました。
「言われてみたらそうかも。アユちゃんもプレイスタイルが独特すぎて普通の人とだとすぐに解散しちゃいそうだね」
「クエスト受注件数最大になりましたし、とりあえず狩りにいきましょうか~」
アユちゃんたちが合流するのは夜11時過ぎになるそうで、いつもならアユちゃんは親との約束で落ちないといけない時間ですが、今日だけは特別に許してもらったそうです。それにしても今日のノドカナ村は少し人が多い気がしますけど、たまたま立ち寄った人が多い日には小さな村ですしこれほどの人口密度に感じるのでしょうかね。
『『『『かかってこいやぁー!』』』』
私たちは目の前でヘイトスキルを使ってきた密集する動く案山子4匹に対してターゲットキャンセルに動きます。私たちの向いている方向的に私は一番左、ミコさんは右から二番目、マリアさんは一番右で、マヤさんはターゲット範囲に入っていなかったためフリーですが奥にスキルの発動していない〝動く指揮案山子〟が控えているのが確認できました。
「ミコさんはそっちの案山子をお願い! 移動速度増加ッ!」
ビュっと私の放った矢が左側の案山子に命中すると同時に、ミコさんに対して私が魔法をかけて右側の案山子に一気に近づきます。
「わかっておる。―――今じゃっ! 刺突・一点ッ! マヤよ、託した。移動速度増加ッ!」
「エアショックッ! マヤっち、|スペル・ギブ・チャージ《呪文加詠唱》ッ! やっちゃえ~♪」
左右の動く案山子の強制ターゲット指定を解除したことで中央の案山子のターゲットだけが残りました。
「うっさいっす。―――爆炎よ、業火となりて豪華な演出となるっす」
『かかってきなさい』
マヤさんが中央の案山子に対して接近し、その案山子を起点とした高威力の大規模範囲魔法を発動することで焼け野原にしようとするのを、動く指揮案山子が強制移動を発動してマヤさんを動く案山子の餌食にしようとしてきます。
「―――泥沼ッ! マヤっちごめんね~」
それをマリアさんが泥沼にマヤさんの足を沈めて止めました。その間もマヤさんの詠唱は続き、ついに終わりを迎えます。
「―――|フレイム・シャンデリア・ロマンス《炎灯物語》ッ! ……終幕っす。―――落ちろっす!」
ズジャーン!
マヤさんのダーゲット指定した動く案山子の上空に巨大な燃え盛るシャンデリアが出現し、炎を徐々に外へと広げながらゆっくりと回転し、火の粉舞う真っ赤な洋灯篭が多数揺れる美しい炎魔法が全ての案山子たちを押し潰していきます。
〝呪文加詠唱〟は呪文詠唱時間の長さが長いスキルほど威力を増加させるスキルですので、マヤさんの高威力大規模範囲魔法という超が付くほどのロマン砲の威力をさらに引き上げました。結果は文字通りの焼け野原、動く指揮案山子を含めてモンスターは一匹も残りませんでした。
「マヤさんもINT極振りなんだよね?」
「そうっすね。それと属性も火に絞ってるっすから威力だけは高いっすよ」
少し照れながらも嬉しそうに赤い髪を触っています。マヤさんの照れた仕草を見ていて可愛いと感じて私も一度やってみたのですけど、可愛いは可愛いらしいのですがわざとらしさが強いと皆から言われて封印することになったのは余談です。
「これから紹介するアユちゃんも水属性で同じ感じなんだー。ちょっと戦い方はマリアさんも入ってるけどね」
「ちょっと違うかな~? ラピスちゃん、私がアユちゃんを参考にしてるんだからそこは譲れないかな。リスペクトは大事なんだよ~?」
なんとなくマリアさんの戦闘時の動きだけじゃなくて言動もアユちゃん味を感じて、だから同じようにさっきのような魔法の使い方ができるんだなっと私の中で納得しました。クエストの報告をして少し時間があったのでプリアちゃんやミナツちゃんのこともおしゃべりしていたら約束の時間になりました。
「ラピスちゃんこんばんわ~! 栗毛聖女ちゃんに会うの久しぶりだけどやっぱり可愛い!」
「あっ! アユちゃんずるい! 私も!」
「二人ともラピスちゃんが困ってるじゃないですか。ちょっとは落ち着いてください」
アユちゃんとプリアちゃんは赤いチェックのスカートで、ミナツちゃんがグレーのズボンという違いがあるものの、上着は共通の薄い青色のシャツにリボンをして紺色のブレザーという、いわゆる制服姿に身を包んで私たちと合流しました。
「うん、久しぶり! 元気そうでなによりだよ~」
「……それにしてもその恰好はなんじゃ」
「あー、これはね。私たち、青春アカデミーに入学したから制服を支給されたんだよ。―――で、こっちの三人が私たちの彼ピだよ!」
アユちゃんが制服を着ている理由を話し終えると後ろに控えていた三人の男の人がそれぞれ軽く会釈をしてくれたので私もそれに会釈で返します。
「はじめまして、あなたがラピスさんですね。アユさんからお話は聞き及んでおりま―――」
「待って。ちょっと待って……。なんで私、恋人を紹介されるお母さんみたいなことになってるわけ!?」
「だって、リョウは私の彼ピだから?」
三人ともミナツさんと同じ服装でリボンがネクタイに変わっている制服姿でした。
「ははっ! リョウってば、ここはアカデミーじゃないんだから普通にすればいいのに」
「コータ殿の言う通りですぞ。リョウ殿、ラピス殿が困惑されておるではありませぬか」
金髪の王子様っぽさを感じるコータと呼ばれる男の子に、渋めのガタイの良い男の人、普通にしてても濃そうな二人から援護が入り私は助かりました。
「……あーしたち空気にならないか心配っすね」
「あらあら~。律儀でいい男の人たちですね~」
マヤさんとマリアさんの紹介がこの流れだと後になりそうで良かったと少しホッとします。そうこうしているうちに仕切り直して彼ピとかいうのはなしで順番に普通に自己紹介をしていく運びになりました。
「では僕から。リョウです。武道家で剣術スキルを取得しています。星雲世界からのコンバートで占術スキルも使えます。サポート寄りの前衛と考えていただいて構いません。よろしくお願いします」
青い短髪でサッカーでもしていそうな少年を思わせる外見とは裏腹に大人びた感じの話し方をするリョウが先陣を切ります。
「次はボクだね。ボクはコータだよ。剣士で月影オンラインってゲームでは聖騎士でそのままコンバートしてきたから、いずれは上位職の聖騎士に転職するつもり。聖騎士については栗毛聖女様が詳しいだろうから割愛するよ。よろしくね」
コータさんは最後に私に対してウインクしてきましたし、MSOからのコンバートということはもしかして……。あのコータくん!? 私の驚愕を余所に自己紹介は続きます。
「ワシは大和 ヤスナガですぞ。妖仙世界では忍者のエクストラジョブをしておりましたが、今は大剣を使う剣士をいておりますゆえSTR重視の物理火力特化型でござる。よろしく頼みまする」
ヤスナガさんもミコさんとマヤさんと同じゲームからのコンバートのようです。VRMMOは年間に数本は出ているとは言え総数は少ないので意外と被るんだなっと思いました。そういえば私って初めてのコンバートですし、その辺りには疎いですね。
「次はわっちじゃな――――――」
そして全員の自己紹介が終わって順番に私の疑問を投げかけます。
「えっと、それでミナツちゃん、彼ピっていうのは?」
「私たちがいたのはガクエン村で、青春アカデミーという学園がある村だったんだけどね、そこへ入学したら彼らと恋人としてのペアを組めって言われたの」
「恋愛は青春だー! って、エルオヴィー先生が急に言い出したんだよね!」
……なぜか森永先生の声でプリアちゃんの〝恋愛は青春だー〟が再生されました。私は二人に目で訴えると〝わかる〟と表情で返されました。
「在学期間中のレベル上げができない制約がついててね。野外学習とか自主練以外では経験値も入らないし、入学前に報酬が学生服のみって書いてあったから入学する人は私たちに合ってるんじゃないかなって思ったのよ」
「で、リョウたちと知り合えたってわけ。一緒に勉強して話もしていい人そうってことで、三人で相談してリョウにコータ、ヤスナガさんをギルドに誘おうってなったんだー」
なるほど。卒業するまで学園に縛られるので集合は二日後のこんな時間に集合ということになったのですね。
「そうなんだ。みんな、……卒業おめでとう!」
「ありがとうラピスちゃん!」
「うん! ありがとう!」
「ありがとうございます。―――って、ラピスちゃん!?」
おかしいですね。……ここはゲームなのに。わかってるのに……どうしてこんなに卒業という言葉を聞いただけで胸が苦しくなるのでしょうか。
「ごめん。この世界はゲームなのに羨ましいなって思っちゃって……。涙、とまんないよ……」
理由なんてすぐにわかっていました。だって私は小学生のころから引き篭もり……、遠い昔に卒園はしていても、学校という場所を卒業はしていないからだって……。わかっています。自分が避けてた学校というのを卒業したみんなが羨ましいっていう事実がゲームでも突きつけられて胸が苦しいっていうことはわかっているんです。
「ラピスっ! ボクは、いや。―――……ボクに昔言ったよな!?」
コータくんは、やっぱり私の知っているコータくんのようで、王子様風な爽やか感も捨てて私に訴えだしました。
「―――現実から逃げてもいい。けれどいつかは戻らないとダメだって! 学校を数日休んだだけのボクでも学校に行くのが辛かったんだ! それでもラピスに背中を押してもらったから登校できた。中学校はラピスのおかげで卒業できたんだぞ!?」
そんなこともあったなと思いました。コータくんには私と同じになってほしくなかったから。時間は心の傷を癒すけど、同級生との距離も開いて、どう接したらいいかわからなくなって最後には手遅れになるから……。
「コンバートして行ったラピスを見送った時は安心したよ! プリアと再会して、アユやミナツの話を聞いて良い友達を持てたんだなって嬉しかった! ―――だったら卒業しろよ! ゲームでの卒業も羨ましい? だったらボクがもう一回ラピスと一緒に入学してやるよ! きっとここにいる全員が同じことを言うと思うぜ?!」
コータくんの言葉を聞いて周りを見渡せば皆が口々に「そうじゃな」であったり「そうね」だったり、「そうっす」だったり「そうだよ!」だったり……誰もがそれを心から口にしているのがゲームの中でも伝わってきました。
「みんな……」
「コータ、リアルの話はチャットを使ってね! 私も感動したけど、マナー違反だよ!」
「プリア、ごめん。けどラピスが泣いてたら黙っていられなくて……」
「その気持ちわかるよ! わかるから止めなかったんだけどね! けど気を付けようね!」
プリアちゃんに叱られているコータくんが急にしおらしくなって、そこで私は夜遅くに集まってもらった目的を思い出し、〝名もなきエンブレム〟を取り出します。
「わくわくしますね~。マヤさんはギルドには?」
「いや。あーしもマリアと同じで初めてっすよ」
「マヤさんにマリアさんでしたよね? 僕も実はギルドに所属するのは初めてなんです」
「ワシも主を持つのは久しく、年甲斐もなくわくわくしますわい! はっはっは!」
「ラピスのギルドなら大丈夫だよ。アユもいるし安心場所になるか楽しい場所になるかはボクにはわからないけどね」
少し離れて声をかけた五人が思い思いに話をして、私の近くにはここまで旅をしてきた4人が集まっています。
「して、ラピスよ。ギルド名は決めたのかや?」
「うん!」
「どんなのかな? 私たちも聞いてないよね。あれ? 聞いてないよね!?」
「はいはい。私も聞いていませんから安心しなさい」
「ラピスちゃん! それじゃあ! どうぞっ!」
プリアちゃんの合図で私はわざおらしく咳払いをしてみんなを見渡します。
「では。―――私、ラピスはたった今、ギルド〝|リトル・ア・ポコ《Little a poco》〟を結成します!」
言い切った。注目されるのはたとえゲームの中でも緊張しました。みんなが暖かい拍手で祝福してくれています。
シャララララ~という音が聞こえそうな光が〝名もなきエンブレム〟に降り注ぎ、〝リトル・ア・ポコのエンブレム〟へと変化します。
「〝Little by Little〟という言葉の少しづつと、〝poco a poco〟の言葉の少しづつを、少しづつ頂いて〝リトル・ア・ポコ〟です。―――ほんの少しづつでも、たとえネット上の繋がりだとしても、一人一人が手を取り合って、このゲームを、世界を、人生を歩いていこうって意味を込めました。……思い付いたのはコータくんに叱られたさっきなんですけどね」
リトル・ア・ポコという単語がいたるところから聞こえてきます。私はアユちゃんからこの世界で出会った順にギルドへの招待を送っていきます。
「ラピスちゃん、おめでとう。これからもよろしくね」
「うん、アユちゃん。こちらこそよろしくだよ」
アユちゃんとのこの感じ、……少しだけこのゲームを始めた頃を思い出しました。
「ラピスよ。これからもよろしく頼むのじゃ」
「ミコさんもよろしくね。あと、副ギルドマスターとして私を支えてね」
フワマリンネのダンジョンでミコさんと出会ってなかったらとふと考えました。きっと違うルートで旅をして、フワマリがいないので〝第六天明王〟のみんなとの再会やアレスさんたちとの交流もなく、この未来には決してたどり着いていなかったと思います。
「ラピスちゃん! また一緒のギルドだね!」
「うん! プリアちゃん、追いかけてきてれありがとう!」
最大ダメージを追い求めるプリアちゃんはMSOでのステータスを捨てて、極滅魔法の火力が上がるまで薬草娘としてプレイするということまでして私と遊ぶのを選んでくれました。友達として私はこの子とずっと遊びたいと心から願います。
「ラピスちゃん。おめでとうございます。ギルドというのはプリアちゃんから家族みたいなものと聞いています。私は今まで通りにしかできないと思いますけど、よろしくおねがいいたします」
「ミナツちゃんはそのままでいいんだよ。だたの相互扶助を気軽に行えるシステムでそれに色を付けるのはプレイヤーなだけだからね。これからもよろしくね」
「―――それなら安心しました。ラピスさんの色なら優しいギルドになりそうですね」
ミナツちゃんが望むような優しさで満ちたギルドにする。歯の浮くような台詞を嚙みしめて、微笑むミナツちゃんに目を奪われながらも私は決意を固くします。
「ラピスちゃん、おめでとうっす」
「おめでとう。私たちは出会ってから日が浅いけど、とても楽しかったので誘ってくれて本当に嬉しいんですよ? ありがとうございます♪」
「いえ。私の方こそ二人との時間が楽しかったので入ってくれて嬉しいです。これからよろしくおねがいします」
「あーしでよければ! よろしくっす!」
「ふふっ。もっとラピスちゃんは気を緩めていいんですよ? ギルマスであっても私たちは同じギルドのメンバーなんですからね。それでは、よろしくおねがいします♪」
短い付き合いですけど、そんなことを言われたらまた泣いちゃいますよ? 二人とも本当にありがとうございます!
「リョウさん、ヤスナガさん。初めまして。ギルドマスターをさせていただきますラピスです。リトル・ア・ポコは見ての通り女の子が多いギルドですけど、それでも居心地が悪くは私がさせないので、どうか一緒にギルドを作っていってください。よろしくおねがいします」
「ラピスさん、大丈夫ですよ。アユみたいな子を何日かいて僕らも耐性が付いてますから。恋愛は青春だー! と叫んでいたエルオヴィー先生に感謝ですね。それに僕らだけ固いのも嫌なので普通にしてくださいよ。―――そういうわけで、よろしくおねがいしますね、マスター」
「ワシも忍びだったころの仕える喜びがまた味わえるようでウズウズしておるぞ! ワシの方からもよろしくお頼み申す」
「ありがとう、二人とも。それじゃ、お言葉に甘えて。改めてよろしくね」
アユちゃんたちが誘ってくれた二人のことは全く知りません。それでも、短い会話の中でも良い人というのは伝わってきました。これからお互いに知っていければと思いました。
「ラピス。さっきはごめん」
「コータくん。ううん、ありがとう。元気出た。絶対に高校は卒業するから近くで見ててよ。それで、―――コータくんは祝ってくれないの?」
私はわざとらしく首をかしげると、コータくんの顔が真っ赤に染まります。
「おめでとう! これからまたよろしくな!」
「うん! コータくんもよろしくね!」
「……コータ。ボクのことはコータって呼んでよ。もう《《くん付け》》される歳でもないんだしさ」
「そっか。そうだね、じゃあ改めて。よろしくね、コータ」
「―――おうっ、よろしくなラピス!」
コータもコンバートしてこの世界に来ているとは思いませんでした。それでも、気心の知れた旧友とまた一人再会できて、再び一緒に遊べることに私は聖女としてではなく一人のプレイヤーとして神に感謝します。
「ありがとうございます。……カスピエッタ様」
……そこまで考えて、そういえばプリアちゃんにミナツちゃんと再会できたのはセピアさんが私の位置情報を漏らしていたからで、コータももしかしたらと思ってしまいました。コータがどうかはさておいて、それでも私を色々な意味で導いてくれた先生にも心の中で感謝しました。
「ちょっと! タイミング逃したんだけどどうするのよ?!」
「もうゴリ押しするしかないでしょ! ほら、ミナツも覚悟決めなよ」
「そうだよ! アユちゃんのせーのでいくよ!」
何やらアユちゃんたちが内緒話をしていますがなんでしょうか?
「それじゃ、みんな! ―――せーのっ!」
「「「ラピスちゃん、お誕生日おめでおう!!!」」」
「え? あっ! 私の誕生日って《《今日》》だ!!!」
サプライズに驚いて日付を見ると、24時をとっくに過ぎていて私の誕生日になっていました。
「じつはね、このために日にちと時間を指定してたんだ」
「アユちゃんからギルド結成を誕生日にやりたいって聞かされたのは、私たちが別れてからですよ? もう少し計画的にサプライズも練らせていただきたかったものです」
「そういうことじゃ。ラピスよ、すまんのぅ」
もう、みんな大好きです!
「ありがとう……みんな。最高の誕生日になったよ!」
私は笑ってお礼を言います。村にいたプレイヤーたちも祝福の言葉と共にバフスキルを私にいっぱいかけ始めました。
「あははっ! あの時のラピスちゃんみたい!」
「あの時? ねぇ、プリアちゃん。どの時のこと?」
「ああ。違いない! ボクたちで見送りした時と同じだな。―――やっぱりラピスはラピスだな!」
「あっ……。コンバートする時もそういえばこんな感じになってたね」
状況は真逆、ギルドメンバーや関りを持った人達からの見送りとギルドメンバーになってくれる人たちからの祝福。そのせいですぐには思いつかなかったですけど、たしかにそうですね。ノドカナ村に滞在している見知らぬ人垣の向こうから見知った人が現れます。
「ラピスちゃん。ギルド結成とお誕生日おめでとうっ!」
「おめでとう、ラピス。誘いを断って悪いな。俺たちもギルドを作ったら同盟になってくれるか?」
「もちろんです! ありがとうございます。アレスさん、ハナさん」
アユちゃんが計画したことですもん。私はアレスさんたちが現れても驚きはしません。それにしても同盟ですか。セピアさんの〝懐色〟とも同盟という繋がりなら持ちたいと思いました。
「―――おめでとう。お前がギルドを結成するとはな」
「わっ!? って、セピアさんも来てくれてたんですか」
「……来ちゃわりーかよ」
「そんなこと全然ないです! ありがとうございます!」
一番のサプライズゲストが不機嫌そうに言うので私は首をぶんぶんと振って力いっぱい否定し、全力でお礼を言いました。
「ちなみに、周りにいるエクストラは俺のギルドメンバーだ。祝い事だっていったら快く来てくれたぜ。……まぁ、あんなシーンを見せられるとは思わなかったがな」
「え? なんのこと?」
「気にすんな! ぜってーに俺がお前たちを卒業させてやるからよ! じゃーな!」
見られてた……。先生に見られてた……!! あーっ! 明日学校行きたくないよぉ~! ―――だけど、そんなこと言っていられないよね? 絶対に行くんだ。みんなと卒業するために!
「あの方のギルドメンバーもフワマリンネ呼べるんですね。私たちも早く呼べるようになりたいです」
「あーしも今ほど羨ましいと思ったことはないっす」
セピアさんが一足先に帰るので、そのギルドメンバーの方たちも次々とフワマリンネを呼んでノドカナ村の入り口はフワマリンネだらけになりました。
「〝懐色〟のみんなー! 今日はありがとー!!!!!」
去っていく来てくれたみんなに届くように私は精一杯の大きな声で叫びます。返事は空を彩るスキルたち。セピアさんらしい人が集まったギルドだなっと私は思い、私色のギルドに〝リトル・ア・ポコ〟はしていきたいと強く思いました。
「あっ……、同盟申請忘れちゃった」
「また今度でいいじゃろ」
「ねぇ、ラピスちゃん! ラピスちゃんのギルドのエンブレム見せてもらってもいいかな?」
「ハナよ。まさかそれも配信するのではあるないな?」
「ギクっ!? いいじゃない! ネタがほしいのよ!」
ミコさんとやりあってるハナさんに私はエンブレムを見せてあげます。
「これだよ。―――あれ?」
「うん。ラピスちゃんらしいエンブレムでよかったわね。それにしても《《弓を担いで正拳突きのポーズをするローブの女の子》》とその後ろに杖と剣がクロスしてるデザインとか相当レアじゃないかしら。やっぱりラピスちゃんは《《持ってる》》のよね~」
……ハナさんの言う通りのデザインにやっぱり変更されています。ギルドマスターをモチーフにAIがデザインを新しく生成するような仕様に変更されたのでしょうか?
「ほら、ハナ。そろそろ俺たちも帰るぞ」
「は~い」
「あっ、そちらのマリアさんが Flower さんのファンだってー」
「え!? そうなんだっ! 応援ありがとー! これからもよろしくね~!」
アレスさんに引き摺られながらハナさんを見送るマリアさんは言葉なく頷く人形のようになっていました。
「……尊い」
ハナさんが見えなくなると一言、それだけを口にしてマリアさんのどこかへと意識が飛んでいきました。
「それじゃ、今日はもう遅いし詳しいことはまた明日以降に決めていこくってことでいいかな?」
「だね! ラピスちゃんも色々あって大変だったし今日はもうおやすみだよね!」
「あはは……。嬉しいんだよ。うん、みんなの気持ちがすっごく嬉しい。だけど体は限界かな……」
睡魔がどうしても襲ってきて、ちょっとこのまま話し込むのは辛いので申し訳ありませんが解散ということにさせていただくことにしました。
「それじゃあ。また明日!」
「うん。また明日~!」
「おやすみー!」
それぞれがそれぞれのゲームを終了する時の言葉を残してログアウトしていきます。そして、私もゲームとの切断が切れました。
ギルドを結成したらコータと再会したり、誕生日を祝われたり、おまけにサプライズゲストまで呼んでいたりと本当に色々なことがありました。
「そういえば、コンバートする時にエミルさんが言ってたっけ……」
『そんな顔をするんじゃないよ。ラピス、あんたはこんなに人との縁を繋いできたじゃないか。あんたが真面目に役割をこなすいい子だってみんな知ってるし、困ってる人につい手を差し伸べてしまう性格のせいで苦労してる姿も知ってる。あんたに助けられた人もここにはいっぱいいるんだ。だから、私はあんたに驚いて欲しくて、胸張って次の世界に行って欲しくてみんなに声をかけたのさ』
今でも一語一句覚えている私に向けてかけてくれた言葉たち。エミルさんの言葉のおかげで。あの世界で私の繋いできた〝縁〟が今日という日を作ったのかな―――と、思えて嬉しくなりました。
「ありがとう、エミルさん。私、こっちの世界でも、⋯⋯それに現実でも胸を張って歩いていくよ。〝リトル・ア・ポコ〟───少しづつでも歩いていくよ。だって、私のために集まってくれたみんなが願ってくれたんだもん。〝第六天明王〟のようないいギルドにするし、卒業もするよ。だから⋯⋯」
私の意識は布団の中で夢へと溶けていきます。
だから⋯⋯、いつか。エミルさんたちに私たちのギルドを紹介したいと思います。胸を張って歩いた先にそんな夢を描きながら私の長かった一日は終わりました。




