#27 エピローグ
親愛なる伯爵様へ
貴方と過ごした日々が、まるで幻想のような甘い思い出に感じます。思い返せば、あれは本当に夢だったのでないかしら?と記憶を疑う程です。
もしかしたら、ええ、貴方の存在は私が追い求めた幻だったのかもしれません。しかし貴方の冷たい手の感触も、笑った時に口元から覗く牙も、私の名を呼ぶそのお声も、私は確かに記憶しているのです。
貴方は夢や幻じゃなかった。それが夏の夜の幻想だとしても、私は貴方を覚えている。
こうして貴方に手紙を書いているのも、貴方との出会い、貴方との記憶が、こうして私の中に残っているからなのです。
宛先も判らないのに手紙を書くなんて可笑しいですね。それでも貴方への思いを綴れば、どうしてか届くのではないかしらんなどと不思議な事を思ってしまうのです。
ねえ伯爵様。貴方は何時だったかお話ししてくださいました。この世にはバンパイアハンターとは逆に、バンパイアを眠りから覚ます力を持つ者も居ると。
あれね、私考えてみたのですけど、もしかしたら、私がそうだったのではないかと思ってしまうのですよ。
馬鹿馬鹿しいとお思いかもしれませんね。しかし私が貴方の城へ行った時に、貴方は目覚めた。もしかしてもしかすると、私が貴方を目覚めさせたのかもしれないと思うのです。
もしそうだとしたら、これはもう偶然ではなく必然ですね。私と貴方は巡り会う運命だったのです。
伯爵様。貴方は今何をしてらっしゃいますか?相変わらず現代の文明に馴染めずびくびくしていないかしら?その癖やけに強がって、態度だけは偉そうに振る舞っているのではないかしら?
それと、一つ心配事があります。
貴方は今満たされていますか?万が一、もしも貴方が満たされていないようでしたら、遠慮なく私にお申し付けください。
私ね、今でも伯爵様にならこの身を捧げても構わないと思うのです。それで貴方が満たされるのなら、私は喜んで貴方の元へ向かいます。そして今度は、貴方と同じバンパイアとなり、一緒に月夜の空をお散歩しましょう。
永久の命などちっとも怖くありません。貴方が隣に居てくだされば、永久など感じぬ程に退屈しないでしょう。
押し寄せる時間の波など物足りなく感じる程、貴方と二人で面白おかしい生活を共にすると、私は確信しております。
だからどうか、次にお会いする時も、私をその手で迎え入れてくださいまし。私の髪を優しく撫でてくださいまし。
その時まで一時も、私は貴方を忘れない。貴方との記憶を、あの野薔薇の香りに馳せて、何時までも胸の奥に仕舞っておきましょう。
何時かきっと、貴方にお会いできる日を信じて、私は貴方に手紙を書きます。その日が来るまでさようなら、どうぞお元気で。
日本より愛を込めて
白川小夜子
この度は黒髪乙女とバンパイアをお読み頂き、誠に有難う御座います。小説のノウハウなど一切身に着けていない、完全アマチュアの処女作品故、拙い点も多かったでしょう。それでもお楽しみ頂けたのでしたら幸いです。
この作品は元々、二年前に書き始めたものです。当初『どSの女の子に苛められるオッサンの話』というロマンもへったくれもない設定のお話を思いついたのがきっかけでした。そこから徐々に変わり者のゴスロリ少女、冴えない中年バンパイア、ヨーロッパの古城など幾つかのワードを織り交ぜた結果、このような作品が出来上がったのです。
また、恋愛要素に関しても当初は一切考えていませんでした。どちらかと言えば異種同士の、または異性同士の友情物語と言った感じ。
なので一応恋愛と言うジャンルには入ると思いますが、極力描写は避けたつもりです。
伯爵と小夜子は別々の道を歩む為別れを決意しましたが、この二人が再び再会できるかどうかは誰にも判りません。
このラストがハッピーエンドなのかそうじゃないのかは、お読み頂いた読者様の解釈に任せたいと思います。
最後にもう一度ご挨拶を。お読み頂き有難う御座いました。
紗々




