第九章 偽りの容疑者
翌週、桐島の配信は、思わぬ方向へと転がっていく。
彼が独自に洗っていた黒沼家の会計記録から、ある不審な資金の流れが浮かび上がった。久保利彦の若い部下であり、鞠子が新たに頼りにしていた司法書士――高梨という男が、相続財産の一部を、密かに自分名義の口座へと移し替えていた形跡があったのだ。
さらに、高梨には、叔父が転落死した日の午後のアリバイがなかった。
「高梨さん、あなた、久保さんの横領を隠すために、口を封じたんじゃないですか」
桐島の追及に、警察もついに動いた。高梨は任意同行の末、そのまま拘束されるに至った。
村中が沸き立った。桐島のチャンネルには「事件解決」の文字が躍り、コメント欄は歓喜に包まれた。
《やっぱり金目当てだったか》
《一番怪しかったもんな》
《鞠子さん、もう安心ですね》
鞠子自身も、束の間の安堵を覚えた。だが、その夜届いた一件の匿名メッセージが、その安堵を粉々に打ち砕いた。
《高梨は、何もしていません。あなたを追い詰めているのは、まだ終わっていません》
桐島もまた、同じ違和感を拭えずにいた。高梨が横領の事実を隠すために久保を殺したのだとしても、あの生糸を使った密室のトリックを、彼が知り得たとは到底思えなかったからだ。高梨は、この村の生まれではない。蚕の飼育の知識も、養蚕の伝承も、何一つ持ち合わせていない。
「事件は、解決していない」
桐島は、誰にも見せない自分のノートに、そう書きつけた。




