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第十章 罠
高梨の逮捕から一夜明け、鞠子は精神的な限界に達していた。せめて弁護士事務所に相談しようと、彼女は自ら車のハンドルを握り、山道を下り始めた。
カーブに差し掛かったところで、鞠子はブレーキを踏んだ。だが、ペダルは奇妙に軽く、床まで沈み込み、車の速度はまるで落ちなかった。
「――嘘」
叔父が死んだのと、同じ道だった。
鞠子は必死にハンドルを切り、崖側ではなく山側の斜面へと車体を突っ込ませた。エアバッグが鈍い衝撃と共に開き、車は灌木の茂みに乗り上げて、辛うじて停止した。
全身に痛みが走る中、鞠子は霞む視界で、自分がまだ生きていることを確認した。
後日の整備工場の調べで、ブレーキオイルのラインに、意図的な切れ込みが入れられていたことが判明した。だが不可解なのは、切れ込みの深さだった。あと少しでも深ければ、山道に出る前に完全に効かなくなっていたはずだ。まるで、彼女が「死なない程度」に恐怖を味わうよう、寸分の狂いもなく計算されているかのように。
鞠子は、その事実に、それまでとは違う種類の恐怖を覚えた。
――殺したいわけじゃない。この人は、私を、ゆっくりと壊したいだけだ。




