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本城玲子は黙ってない ~最強の嫁・本城玲子の半生~  作者: 上板橋喜十郎


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第十七章 慰謝料御殿の侵略者

 実父から相続した土地に建てた一軒家。

名義は私、本城玲子。

ローンも当然、私名義で私が払っている。

近所では一部の人間から“慰謝料御殿”などと陰で呼ばれていた。

 夫の佐伯尚哉の給料は、尚哉自身の借金返済と貯金へ。

生活費はほぼ私持ち。

まあ、それ自体は別に良かった。

尚哉は頼りないところはあるけど、人そのものは悪い人間じゃなかったから。

問題は、そこではなかった。

 三か月前。

義母の佐伯清美と、義妹の佐伯有紗が突然転がり込んできた。

有紗はバツ一で、子供が三人。

住んでいた賃貸アパートが区画整理で立ち退きになったらしく、

「次の家が見つかるまでだから」

という条件付きで、二階を使わせることになった。

……最初は、本当に短期間だと思っていた。

だが、現実は違った。

朝食と夕食作り。

後片付け。

洗濯。

掃除。

有紗の子供三人の保育園送迎。

全部、私。

義母と義妹はパートへ行っているが、生活費は一円も入れない。

しかも有紗の子供たちは、私の娘の玲香をいじめる。

それでも私は我慢した。

だが、何度「そろそろ家を探してください」と言っても、

「まだ見つかってない」

「こっちの方が人数多いんだから住む権利あるでしょ」

と笑うだけ。

尚哉は海外出張中で、連絡も取りづらい。

たまに繋がっても、

『もう少しだけ我慢してくれ』

しか言わない。

家の中には私しかいない。

もし逆上されたら何をされるか分からない。

子供に危害が及ぶかもしれない。

何より、自分の家を壊されたくなかった。

私は嫌々ながら家事を続けた。

実際、私が何もしないと家は一瞬で地獄になる。

 二日間、わざと家事を放棄してみたことがある。

すると台所はレトルト食品の空袋と食べかすだらけ。

洗濯物は山積み。

干した服はリビングへ放置。

玄関は泥だらけ。

もはや“人が住む場所”ではなかった。

 ある日。

私は限界を迎えた。

「今月中に出て行ってください」

「あと、今日から全部自分たちでやってください。台所も、お風呂も、洗濯機も使わないでください」

そう告げると、義母はテレビを見ながら鼻で笑った。

「何か言ってるわね」

有紗もクスクス笑う。

「ママ、何か聞こえた?」

「いやぁ?」

完全に舐め腐っていた。

「有紗さんの子供たちの送り迎えもしません」

すると有紗。

「勝手にしたら?」

 翌日。

本当に送迎をしなかった。

すると有紗は、子供を家へ置いたままパートへ行った。

残された子供たちは、家中で大暴れ。

壁に落書き。

ソファで飛び跳ねる。

玲香のおもちゃを壊す。

私は頭痛がした。

 ようやく尚哉と連絡がつき、これまでの経緯を全部話した。

尚哉は珍しく本気で謝ってきた。

『本当にごめん』

『好きにしていい』

 ……その言葉を、私は待っていた。

 まず貴重品を全部隠した。

 次に、有紗の下の子二人だけ(一番上は小学生)を保育園へ送る。

 そして先生へ伝えた。

「佐伯有紗の子供たちは、今後は私が迎えに来ません。母親本人が迎えに来ます」

 案の定、夕方、保育園から有紗へ連絡が行った。

有紗は慌てて迎えへ行き、そのまま義母と外食して帰宅。

そして家へ入った瞬間。

「なによこれぇぇぇぇ!?」

絶叫。

風呂のお湯は抜いてある。

洗濯物はそのまま。

干したものも放置。

夕飯もない。

義母と有紗は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。

「役立たず!」

「追い出してやる!」

「尚哉に全部言いつける!」

「火ぃつけてやる!!」

ちなみに私は、二階のドアに貼り紙をしていた。

『今月中に退去すること』

『荷物をこの部屋へまとめること』

『まとめない場合、玲子が触っても文句を言わないこと』

だが二人は読もうともせず、破り捨てて階段から投げてきた。

その頃には二階はもう酷い有様だった。

壁に勝手に棚を設置。

壁紙に落書き。

服とゴミが散乱。

しかも後から知ったのだが、義母は尚哉へ、

「家賃として毎月十五万払ってる」

「玲子の方から同居をお願いしてきた」

「玲子が何もしないから、私たちが家政婦みたいになってる」

などと吹き込んでいたらしい。

そこで、私は堪忍袋の緒が切れた。

 ある日。

私は義母たちへ、一泊旅行をプレゼントした。

完全なる手切れ金である。

義母は嬉しそうだった。

「たまには役に立つのね」

有紗も鼻で笑う。

「家事、ちゃんとやっといてよね」

私は満面の笑みで送り出した。

「楽しんできてくださいね」

そして、義母たちが出発した直後。

入れ替わるように実母が到着。

私は玲香を母へ預け、即行動開始。

義母と有紗一家の荷物を、片っ端から段ボールへ詰め込んでいく。

しばらくすると、予約済みの引っ越し業者が到着。

荷物を全部トラックへ積み込み、事前に契約しておいたアパートへ運び込ませた。

場所は、義母と有紗が何とかパートへ通える範囲。

最低限の情けは掛けてやった。

 作業終了後。

私は玄関の鍵を交換。

さらに防犯カメラを設置。

スマホで映像確認ができることをチェックしてから、私も実家へ避難した。

 翌日の夕方。

義母から電話が来た。

「ちょっと!鍵が開かないんだけど!?」

「ああ、鍵変えましたから」

「はぁ!?どういうこと!?」

「家族以外が入れないようにしただけですよ」

「何言ってるの!?ここは私たちの家でもあるのよ!?」

「いいえ。そこは私の父の土地に、私がお金を払って建てた“私”の家です」

「あなた方の家ではありません」

義母はヒステリックに叫ぶ。

「いつ帰ってくるのよ!?」

「しばらく実家にいます。当分帰りません」

「荷物はどうしたのよ!?」

「ああ、全部運び出しました」

「どこへ!?」

「郵便受けを見てください」

「郵便受け!?」

しばらくして、再び怒鳴り声。

「封筒入ってるでしょ。その中に、新しい家の住所と鍵が入ってます」

「何勝手なことしてんのよ!!」

「普段から勝手なことばかりしていたのは、あなた方でしょう」

「こんなの許されると思ってるの!?」

「旅行をプレゼントして、新しい住まいまで用意したんです。感謝されても文句言われる筋合いありませんけど?」

 すると背後から有紗の声。

「ママ、もういいよ。窓割って入ろう」

「そうね」

 私は静かに電話を切った。

 そしてそのまま110番。

「今、自宅の防犯カメラで、不審者が窓ガラスを割って侵入したのを確認しました」

 数分後。

 義母と義妹は、不法侵入で警察に連行された。

 その後、尚哉から電話。

『ちょっと……やりすぎじゃない?』

 私は即答した。

「貴方がちゃんとしてくれなかったからでしょ!」

「全部説明したよね!?」

「それでも私に耐えろって言うの!?それとも貴方も出ていく!?」

『いや、その……ごめん』

 二か月後。

義母と有紗のアパートは、見事なゴミ屋敷になった。

さらに母娘喧嘩が勃発。

有紗は家出。

義母は私へ、

「有紗の子供を育てろ」

と言ってきたが、もちろん断った。

結局、子供たちは施設へ。

有紗はそのまま行方不明。

義母は生活保護で細々と暮らしているらしい。

正直、同情する気は、一ミリも起きなかった。

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