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本城玲子は黙ってない ~最強の嫁・本城玲子の半生~  作者: 上板橋喜十郎


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第十六章 椎名家の人々 第二節

 後日。

警察経由で椎名信彦から、

「直接会って話がしたい」

と連絡があった。

正直、もう関わりたくなかった。

ただ、一つだけ気になることがあった。

何故、夏美の母親は私の家を知っていたのか。

それを確認したかったので、私は友人の朋美と一緒に、近所のファミレスへ向かった。

 朋美は学生時代からの友人。

万が一を考えて同行を頼んだ。

 席に着くなり、信彦は深々と頭を下げた。

「本当に申し訳ありませんでした……」

げっそりしていて、数日で十歳くらい老け込んだように見える。

事情を聞くと、椎名家は少し前から信彦の実家で同居していたらしい。

しかも、その実家。

私の家から徒歩五分ほどの場所にあった。

以前住んでいた地域でも夏美がトラブルを起こし、居づらくなって引っ越してきたのだという。

だから家の場所も分かったらしい。

そこまでは理解できた。

だが、その後の言葉で私は固まった。

信彦は再び土下座しながら言った。

「やはり僕の妻なので、見守っていきたいんです」

「だから……引っ越して、妻に会わないでいただけませんか」

「はぁ!?」

思わず素っ頓狂な声が出た。

朋美も机を叩きそうな勢いで前に出る。

「ちょっと待ってください。何でこちらが逃げなきゃいけないんですか?」

しかし信彦は真顔だった。

「でも、貴方がいる限り、また妻が問題を起こしてしまう」

「それだけは避けたいんです」

「慰謝料ならお支払いしますから」

私は呆れた。

「いや、私が原因じゃなくても、奥さんまた問題起こしますよね?」

「コンビニの店長さんに聞きましたけど、買い物中の子供から商品を強奪した事もあるそうじゃないですか」

すると信彦。

「それはそれ、これはこれです」

「とにかく引っ越してほしいんです。僕たちは実家がここにあるから引っ越せません」

もう駄目だ。

この人も話が通じない。

は席を立ちながら言った。

「次からは弁護士さん経由でお願いします」

「もう顔も見たくありません」

信彦は本気で驚いた顔をしていた。

「えっ……?」

その横で朋美がスッと名刺を差し出す。

「今後は私を通してください」

その姿が妙に頼もしかった。

実は朋美は今は弁護士をやっている。

忙しい中、引き受けてくれた朋美には本当に感謝しかない。

 ……しかし。

ここから先、椎名家はさらに斜め上へ突き抜けていく。

翌日から、朋美の事務所へ朝一番から電話が鳴りっぱなしになった。

「こんな些細なことで弁護士とか頭おかしい」

「暇なら別の仕事しろ」

「こちらは慰謝料を払うって言ってるんだから問題ないだろ」

朋美は冷静に返す。

「その“些細なこと”で済まなくなったから、私が雇われたんです」

すると信彦。

「だったらこちらも弁護士を立てる!」

「法廷ならこちらが有利だ!」

 数日後。

実際に“相手側弁護士”を名乗る男から電話が来た。

「こちらは慰謝料を払うので、そちらも引っ越して終わりにしましょう。ねっ?弁護士同士、楽にいきましょうよ」

だが、この男。

どうにも胡散臭い。

調べると、なんと信彦の弟だった。

しかも近所の人に聞いたところ、五年間ニート生活をしているらしい。

それを朋美へ伝えると、

「よし。このまま一気に終わらせよう。今月中が目標ね」

と逆に燃え始めた。

 後日。

実際に“弁護士”を名乗る弟と会うことになった。

そこで朋美が言う。

「では、弁護士登録番号をお願いします」

すると男。

何故か得意げに六法全書を机へ置いた。

いや、それ本屋で買えるやつ。

朋美が静かに微笑む。

「弁護士法第七十二条と第七十四条、ご存知ですよね?」

※弁護士法第72条

 弁護士資格のない者が報酬目的で法律事務を扱うことを禁止する条文。

※弁護士法第74条

 弁護士でない者が、弁護士であるかのように名乗る行為を禁止する条文。

「も、もちろん知ってますよ!」

そう言った瞬間。

相手の額から汗が吹き出した。

さらに、出されたコーヒーを盛大にこぼす。

朋美は完全に確信した顔だった。

「では続きはまた後日」

ということで、その日は解散。

 その後。

朋美とファミレスで食事をしている最中に、その偽弁護士から電話がかかってきた。

「慰謝料は払います」

「でも五百万は高すぎるので値下げしてください」

私は即答した。

「お断りします」

 すると翌朝。

朋美の弁護士事務所のドアに生卵がぶつけられ、入口前には大量の生ゴミが散乱していた。

監視カメラを確認。

犯人は信彦と、その弟。

即通報。

二人とも逮捕。

弟は弁護士詐称も追加。

さすがにここで、信彦も現実を理解したらしい。

警察で相当絞られたのだろう。

 釈放後は朋美を通して平身低頭で謝罪してきた。

ただ、私はもう許す気はなかった。

「謝罪はいりません。慰謝料を払ってください」

 一週間後。

本当に五百万円を現金で持ってきた。

聞けば、信彦は仕事を退職し、退職金と実家を担保にして金を作ったらしい。

私は念のため接近禁止も書面で交わした。

そして最後に、信彦は疲れ切った顔で言った。

「妻とは離婚します」

「もう……このまま一緒にはいられません」

あれだけ妻を庇っていた人が、最後にはそう言った。

結局、椎名家は、家族全員で崩壊した。

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