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本城玲子は黙ってない ~最強の嫁・本城玲子の半生~  作者: 上板橋喜十郎


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第十六章 椎名家の人々 第一節

 虫よけスプレー窃盗事件から二年ほど経った頃の話。

ある日、娘の玲香が熱を出した。

顔を真っ赤にしてぐったりしていたので、私は急いで近所のコンビニへ向かった。

経口補水液に、ゼリー、アイス。

食欲がなくても食べられそうな物を急いでカゴへ入れ、レジへ並ぶ。

早く帰らなきゃ。

そんな事ばかり考えていた。

 ところが会計中、突然、横から知らない女が商品をレジ台へ置いた。

「これも」

店員さんが反射的にバーコードをスキャンしようとする。

私は慌てて言った。

「違います。私のじゃありません」

すると、その女。

後に名前を知る事になるのだが、椎名夏美という女が、急に怒鳴った。

「うちの子が食べたいって言ってるんだから買いなさいよ!」

見ると、夏美の足に小さな男の子がしがみついている。

でも、こっちは熱を出して寝込んでる娘が家で待ってるんだ。

知らない子にお菓子を買ってる余裕なんかない。

「すみません、急いでるんで」

私はそう言って会計を済ませ、店を出ようとした。

その瞬間。

「この人万引きです!」

夏美が大声で叫んだ。

店員さんが目を丸くする。

「え!?」

「してません!言いがかりはやめてください!」

私も反射的に叫び返す。

すると夏美。

「なら、これも払え!なんなら、それももらってやる!」

意味が分からない。

私は店員さんへ必死に言った。

「私、本当にしてませんから!」

幸い、店員さんはちゃんと状況を見てくれていた。

しかし、その直後。

夏美が突然、私へ掴みかかってきた。

私はバランスを崩し、持っていた袋を叩き落とされる。

すると、夏美の子供が、その袋を抱えて店の外へダッシュした。

一瞬、頭が真っ白になった。

ただ、その場にいた店員さんと店長さんの動きが早かった。

店長さんが夏美を取り押さえ、別の店員さんが子供を追いかける。

そして店長さん。

夏美を押さえながら、疲れ切った顔で言った。

「あなた、またですか?」

「いい加減にしてくださいって前にも言いましたよね?」

「警察も呼んでますから」

私はその時初めて理解した。

(常習犯か、この人……)

 一同はバックヤードへ移動。

夏美は終始、私を睨みつけていた。

私はその場で尚哉へ電話した。

しばらくして警察が到着。

さらに、夏美の旦那らしい男性もやって来た。

椎名信彦さんというらしい。

顔面蒼白だった。

「後日、改めて謝罪に伺わせてください……」

そう言われたが、私は断った。

正直、今は玲香のところへ帰りたかった。

なお、買ったアイスは見事にドロドロだった。

ただ、店長さんが平謝りしながら新しい物へ交換してくれた上、一本サービスまでしてくれた。

「私たちの対応が遅れてしまって、本当に申し訳ありませんでした」

「もし手が腫れたりしたら、すぐご連絡ください」

話を聞くと、夏美は以前から同じような迷惑行為を繰り返していたらしい。

だから店員さんが、

「キチママが来てます!」

と報告した瞬間、店長さんも慌てて飛んできたのだとか。

 結局。

夏美はそのまま逮捕された。

……しかし、本当の地獄はそこからだった。

 四日後。

突然、自宅のインターホンが鳴った。

出ると、知らない中年女性が立っていた。

そして開口一番。

「娘が逮捕されたのはお前のせいだ!」

「お前が逮捕されろ!」

「慰謝料払え!」

玄関前で絶叫し始めた。

夏美の母親だった。

私は即、警察へ通報。

しかし警察が来ても、この母親は止まらなかった。

「こいつのせいで娘が逮捕されたんだ!」

「こいつを逮捕しろ!」

「私が誰だか分かってるのか!?」

警察官が何度説明しても全く聞かない。

結局、そのまま連行。

私も事情聴取のため警察署へ行く事になった。

そこで待っていたのが、さらに意味不明な展開だった。

夏美の父親と、旦那の信彦さんがやって来たのである。

二人は私を見るなり土下座した。

「本当に申し訳ありませんでした!」

信彦さんは半泣きだった。

 しかし。

その横で、夏美の父親が顔を上げて言った。

「……しかし、これは君が招いた事でもある」

私は意味が分からず固まった。

さらに続ける。

「私も土下座したんだ。だから君も土下座して、これであいこにしよう」

理解不能だった。

信彦さんが慌てる。

「お義父さん!?何言ってるんですか!」

しかし夏美父は止まらない。

「そもそも君が数百円で騒いだから娘が捕まったんだ!」

「数百円で娘の人生を壊すなんて、君はおかしい!」

その瞬間。

近くにいた警察官がブチ切れた。

「違いますよね!?」

「数百円が問題じゃないんです!」

「娘さんが暴行して怪我をさせた事、迷惑行為を繰り返していた事が問題なんです!」

だが夏美父には全く通じない。

立ち上がると財布から千円札を取り出し、私へ突きつけた。

「これでいいだろう!」

「おつりが出るんだから!」

私ははっきり言った。

「そういう問題じゃありません。私は実際に怪我をしています」

「それにコンビニ側も迷惑行為として通報してるんです」

「そんなお金、受け取れません」

信彦は必死に義父を止めていた。

私はもう限界だった。

「これ以上、話すことはありません」

そう言って立ち上がった。

その瞬間。

後ろから殴られた。

視界がぐらりと揺れる。

振り返ると、夏美の父親が鬼みたいな顔をしていた。

「こいつのせいで!」

「こいつが悪いんだ!」

警察官たちが慌てて取り押さえる。

しかし夏美父、暴れながら警察官まで殴った。

 結果。

その場で逮捕。

私は病院へ行き、診断書を取った。

夏美の父親に殴られた分。

そして、夏美の母親に引っ掻かれた分。

全部まとめて、正式に被害届を提出した。

 帰宅後。

私は熱を出して寝込む玲香の顔を見ながら思った。

(娘がまともに育ってくれて、本当に良かった……)

一族まとめて狂ってる家って、本当にあるんだなと。

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