表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本城玲子は黙ってない ~最強の嫁・本城玲子の半生~  作者: 上板橋喜十郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/32

第十三章 盗まれた仕事

 AV女優の噂事件から半年ほど経った頃だった。

私は在宅でDTPオペレーターとして、チラシやパンフレット、店頭ポップなどのデザイン仕事を請け負っていた。

 最初は小さな仕事ばかりだったが、口コミや紹介で少しずつ依頼が増え、その頃には毎月そこそこの収入が入るようになっている。

 自分で仕事用のホームページも作成し、お客様の許可を得た制作実績も掲載していた。

ただ、この手の仕事は厄介な事も多い。

「ちょっとポスター作ってよ」

「ホームページくらいタダで作れるでしょ?」

「子供の夏休みの宿題、パソコンで綺麗にまとめてくれない?」

中には本気で無料奉仕を当然だと思っている人までいる。

なので、近所にはあまり詳しく仕事の事を話していなかった。

 そんなある日。

仕事中にインターホンが鳴った。

玄関を開けると、近所の奥さん連中がずらりと並んでいた。

中心にいるのは、保育園界隈で“ボスママ”と呼ばれている浅野夏希。

そして、その隣には険しい顔をした岩崎美香子。

他にも数人、合わせて六人ほどいた。

(……何これ)

嫌な予感しかしない。

「どうしました?」

すると浅野が一歩前へ出た。

「本城さん。今日はちょっと大事な話があって来たの」

「はあ……」

「とりあえず、岩崎さんに謝ってあげてくれない?」

「……はい?」

意味が分からない。

仕事中だったが、玄関先で騒がれるのも面倒なので、とりあえず家へ上がってもらった。

リビングへ案内すると、浅野が事情を説明し始める。

その内容をまとめると、こうだった。

私は昔、岩崎美香子と同じ会社で働いていた。

岩崎は優秀なデザイナーで、独立のため退職。

顧客もつき、自分でホームページを作り、順調に仕事をしていた。

しかし先日、私が岩崎家へ遊びに行った際、仕事用ノートパソコンを盗んだ。

更に、その中に入っていた顧客データや仕事データを勝手に利用し、仕事も取引先も全て奪った。

だから返して欲しい――という話だった。

「はぁ!?」

私は思わず素っ頓狂な声を上げた。

「ちょっと待って下さい。何その意味不明な話」

 そして一つずつ反論していく。

「まず、私はデザインの仕事はしてましたけど、事務仕事なんてした事ありません」

「ホームページも自分で勉強して作りました。仕事も全部自力で開拓してます」

「それから、岩崎さんの家に行ったのは一回だけ。もちろん何も盗ってません」

「あと、岩崎さんに私のパソコンを触らせた記憶もありません」

だが、浅野たちは微妙な顔をしている。

どうやら完全には信じ切れていないらしい。

(面倒臭いな……)

「じゃあ、入口からだけですよ」

私はため息を吐きながら仕事部屋へ案内した。

 部屋の中にはパソコンが四台。

すると、その瞬間だった。

岩崎美香子が叫んだ。

「あれよ!!」

赤いノートパソコンを指差す。

「取られたの、それ!」

私は赤いノートパソコンを持ち上げた。

「これですか?」

「そうよ! 早く返して!」

更に興奮した様子で続ける。

「それと、先月勝手に振込先変えたでしょ!? あのお金も返して!」

「……ちなみに、おいくらですか?」

「一千万円よ!」

私は耐え切れず吹き出した。

「ぶっ……!」

浅野たちがギョッとする。

「どこの世界に、チラシやパンフ中心の在宅デザイナーで月収一千万円稼ぐ人がいるのよ!」

私は笑いながら続ける。

「それに、このパソコン、娘のおもちゃ用ですよ?」

「色が可愛かったから買っただけで、中身ほとんど消してあるんですけど」

「そんな物で仕事できる訳ないでしょ」

そして部屋の隅を指差した。

「私が仕事で使ってるの、あっちです」

そこに置いてあるのは、古いタワー型デスクトップ。

十年以上前に使っていた大型機だった。

すると次の瞬間。

岩崎が突然、猛ダッシュした。

「えっ!?」

岩崎は猪突猛進そのままにデスクトップ本体を抱え上げる。

「ちょっ!?」

だが、誰も止められなかった。

鬼気迫る顔だったのだ。

ドガン!

壁にぶつける。

ガン!

机にぶつける。

それでも靴も履かず、そのまま玄関から飛び出して行った。

一同、呆然。

最初に我に返った浅野がスマホを取り出す。

「け、警察……!」

だが私は止めた。

「いや、警察には連絡します。でも、その前に皆さんの誤解を解きたいです」

私は今までの経緯を簡単に説明した。

流石に目の前で起きた出来事の衝撃が大きかったらしい。

「……すみませんでした」

「ごめんなさい……」

奥さんたちは次々に頭を下げた。

更に、幼稚園で岩崎が流していた噂についても取り消して回ってくれるという。

私はとりあえず胸を撫で下ろした。

 翌朝。

まだ早い時間に電話が鳴った。

相手は岩崎美香子の義姉だった。

 そして私は驚く。

その義姉は、私が昔勤めていた広告会社アーバンプロモーション株式会社の元ベテラン先輩だったのだ。

『まさか玲子ちゃんが近所に住んでるなんて思わなくて……』

 どうやら社内旅行の写真を見せながら、

『この子、独立して成功してるのよ』

と何気なく話したらしい。

すると美香子が勝手に暴走した。

問い詰めた結果、美香子はこう言ったという。

 まず、お金が欲しかった。

工場の流れ作業パートなんて嫌だった。

自分もクリエイティブな“カタカナ仕事”がしたかった。

パソコンがあれば稼げると思った。

以前、別のママ友の家でパソコンを触らせてもらった時、

「お金儲けできます!」

と書いてある広告をクリックしたら怒られ、縁を切られた。

だから“本当に儲かる秘密”があるに違いない――。

そんな意味不明な理論を延々と繰り返していたらしい。

私は思わず笑ってしまった。

(こういう人が引っかかるんだ……)

ちなみに持って行かれたデスクトップは、ハードディスクもメモリも抜いてあるただのガワだった。

なので実害はほぼ無い。

ただ、ベテラン先輩には内藤慎太郎の件でも世話になっていた。

 正直、穏便に済ませたい気持ちもあった。

だが、こういうタイプは一度きっちり“自分が悪かった”と理解させないと後々もっと面倒になし、一度噂を広められている以上、“こっちが正しい”と外部にも分かってもらう必要がある。

なので私は慰謝料五十万円を請求した。

そして、きっちり払ってもらった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ