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本城玲子は黙ってない ~最強の嫁・本城玲子の半生~  作者: 上板橋喜十郎


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第九章 策士嫁 第二節

 そして時刻は午後。

時間ぴったりに客たちがやって来た。

今回の名目は、

“美保さんの病気について心配しているから集まって欲しい”

である。

当然、みんな神妙な顔をしていた。

――ただ一人を除いて。

美保さんだけは朝からハイテンションだった。

とにかく喋る。

飲む。

食べる。

笑う。

完全に、

“同居歓迎パーティーの主役”気分である。

一方、他の面子は妙に静かだった。

病気の話を聞かされて来てるので当然だ。

しかも美保さん、元気すぎる。

そのせいで段々と場の空気が、

(……この人、本当に病気?)

になり始めていた。

私はタイミングを見て台所へ立つ。

そして、こっそりメンソールクリームを目の下へ塗った。

じわっと涙が出る。

私はそのまま、しばらくリビングへ戻らなかった。

 すると察したらしい次兄嫁さんが来た。

「玲子さん……」

優しく背中をさすってくれる。

私は俯いたまま肩を震わせた。

すると次兄嫁さんが小さく頷き、

「戻ろう」

と促してくれた。

私がリビングへ戻る。

次兄嫁さんが長兄さんへ目配せする。

すると長兄さんが、意を決したように口を開いた。

「美保。一度、病院で検査を受けないか?」

美保さんはキョトンとした。

「嫌よ。私どこも悪くないわよ」

次兄さんも続く。

「玲子さんも心配してるんだ。行くだけでも行ってみろ」

しかし美保さんはヘラヘラ笑う。

「私のどこが悪いっていうのよ」

そこで私は、編集済みのレコーダーを再生した。

『役立たず!!』

『土下座しろって言ってんだろ!!』

『秀樹に寄生しやがって!!』

『子供も産めない癖に!!』

十五分。

怒号。

罵声。

人格否定。

部屋の空気が一気に凍った。

美保さんは顔面蒼白になり、立ち上がって自室へ逃げ込んだ。

母方の叔母が追いかける。

長兄さんと次兄さんは硬直。

私の父母は怒りで震えている。

秀樹は顔を真っ赤にして俯いていた。

医師夫婦も絶句。

その沈黙を破ったのは長兄嫁さんだった。

「……亡くなったお義母さんかと思ったわ」

全員がそちらを見る。

「美保ちゃん、声も言ってる事もやってる事も、お義母さんそっくり」

次兄嫁さんも苦笑する。

「私もお義母さんの声かと思った」

すると長兄さんが慌てた。

「今、そんな事言う必要ないだろ!」

しかし、それが引き金だった。

長兄嫁さんと次兄嫁さん。

長年溜め込んでいた恨みが爆発した。

「あんた達男はいいよね!」

「全部こっちへ押し付けて!」

「介護も我慢も嫁の仕事!」

「気付かないフリしてただけでしょ!?」

 リビングが一気に修羅場になった。

医師旦那さんは、

「え、ええと……」

 みたいな顔でオロオロ。

秀樹は慌てて間へ入ろうとした。

しかし長兄嫁さんが怒鳴る。

「あんただって同じだよ!!」

「留守中、玲子さんがどんな目に遭ってたと思ってんの!?」

「玲子さんも私みたいに、子供産めない女にされるのか!?」

「寂しい老後送らせる気か!?」

秀樹、叔父達と並んで小さくなる。

私は内心、

(うわぁ、想定外の方向に燃え広がったな……)

と思いつつ、ちょっと楽しくなっていた。

その頃。

美保さんの部屋では、母方の叔母が励ましていた。

「大丈夫よ」

「脳腫瘍って、今はそんな怖くないから」

完全に病人扱いである。

 一方リビング。

長兄嫁さんの説教が止まらない。

私はちらっと覗く。

すると医師嫁さんと目が合った。

医師嫁さん、ニヤリ。

(あ、この人、全部分かってる)

私は悟った。

でも今更止まれない。

なので小さく頭を下げた。

すると医師嫁さん、さらにニヤニヤしていた。

そこへ母方の叔母が出てきた。

「玲子ちゃん……お義母さん、何も言ってくれないの……」

半泣きである。

私は、

「私、行ってきます」

と言って美保さんの部屋へ入った。

部屋の真ん中。

美保さんは正座して震えていた。

「お義母さん」

声を掛ける。

すると美保さん、唸るように言った。

「玲子……玲子……」

「よくも……よくも……!!」

私は鼻でフンと笑った。

次の瞬間。

バチーン!!

平手打ち。

かなり良い音がした。

その瞬間。

背後から医師嫁さんの絶叫。

「お義母さん!!」

「玲子さんに何するんですか!!」

ナイスタイミング過ぎる。

「な、何よ大げさな!!何もしてないわよ!!」

「手を上げるのやめてください!!」

私は涙を拭うフリをしながら、素早くメンソールクリームを目の下へ。

そして、

「わああっ……!」

と、その場へ崩れ落ちた。

全員が部屋へ集まってくる。

医師嫁さんは、

「玲子さん大丈夫!?」

「お義母さんが玲子さんに……!」

と騒ぎ続ける。

一方、美保さんは真っ赤になりながら、

「私じゃないわよ!!」

「玲子が勝手に!!」

とか意味不明な事を叫んでいた。

完全にパニック。

そして、その場を静めたのは私の母だった。

「秀樹君。今日は娘を連れて帰りますから。あなたはここで、お母さんと仲良く暮らしていってください」

空気が凍る。

さらに長兄嫁さんが続けた。

「その方がいい」

「玲子さん、まだ若いんだから」

「このままここで暮らして、私みたいにならなくていい」

その瞬間。

長兄さん。

次兄さん。

秀樹。

三人揃って土下座。

長兄さんが頭を下げる。

「玲子さん、すまなかった……!。どうか、この件は水に流してくれ!」

すると長兄嫁さんが冷たく言う。

「私は別にいいのよ?。あんたと別れても。財産分与して、年金分割して」

長兄さん、顔面蒼白。

「すまなかった!!それだけは勘弁してくれ!!」

カオスだった。

すると、また医師嫁さんがナイスアシスト。

「“水に流す”って、またこの家で三人で暮らせって事ですか!?」

最高である。

医師旦那さんは終始無言。

私の母は無言で荷物をまとめ始めた。

医師嫁さん、完全にノリノリ。

秀樹は顔面蒼白で、

「待ってください!待ってください、お母さん、お父さん!!」

としか言えない。

私は立ち上がり、震える声で言った。

「ごめん……私、お義母さんに嫌われてるよね……こんなに嫌われて、もうやっていけない……」

「あなたは私より、お義母さんが大事でしょう?いいの。私は身を引くから……」

すると。

今まで黙っていた美保さんが、勝ち誇った顔で叫んだ。

「へん!!よく分かってるじゃないか!!」

「ああそうだよ!!お前なんか最初から気に食わなかったんだよ!!」

「秀樹ちゃんは私と暮らしていくんだから、さっさと出ていきな!!」

「ははははは!!」

――終了。

秀樹、絶叫。

「お前が出ていけ!!」

という訳で。

美保さんは、元々住んでいた家へ帰る事になった。

 その後。

秀樹は何度も頭を下げてきた。

「今まで本当にすまなかった!!」

「もう一度、俺とやり直してくれ!!」

私は内心、

(まあ、同居は消えたし……)

(ちゃんと謝ったし……)

(今回は様子見るか)

と思っていた。

 ちなみに。

医師嫁さん。

あの人、絶対途中で全部気付いてた。

でも全力で乗ってくれた。

なので後日、医師夫妻へのお中元は、かなり奮発しておいた。

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