第六十九話 黒猫ちゃんが、また来ました。
翌日の朝。
お店の前に、黒猫がいた。
「……黒猫ちゃん!」
あたしは思わず駆け寄った。
黒猫が、こちらを見た。
「……久しぶり、マミちゃん」
「久しぶり! 元気だった?」
「うん、元気だよ。マミちゃんは?」
「元気。すごく元気」
アゼルが後ろから来て、黒猫を見た。
「……お前が、マミをここに連れてきた猫か」
「そうだよ。アゼルだね。マミちゃんから話は聞いてるよ」
「……そうか」
黒猫がお店の中を見た。
「いいお店になったね」
「うん。たくさんの人たちのおかげで」
「マミちゃんのおかげだよ」
「みんなのおかげだよ」
黒猫が少し笑った。
「……一つ、聞きたいことがある」
「うん」
「元の世界に帰りたい?」
あたしはしばらく考えた。
「……帰れるの?」
「できるよ。もし帰りたければ」
「そっか」
「どうする?」
あたしはアゼルを見た。
アゼルが静かにうなずいた。「マミが決めていい」
あたしは少し考えて、答えた。
「……帰らない」
「いいの?」
「うん。ここにいたい。ここが好きだから」
「元の世界に、心配してる人がいるかもしれないよ」
「……うん。でも」
あたしは続けた。
「あたしがいなくなった元の世界は、きっとちゃんとやっていける。レストランも、メイド喫茶も、みんなが守ってくれる」
「……そうかな」
「うん。あたしがいなくても、世界は回る。でも」
あたしはお店の中を見た。
「ここは、あたしがいないと困る人がいる気がする」
「アゼルがいるよ」
「アゼルはあたしがいないと、ずっと一人で仕込みをして、グラスを磨いて、一人で閉店する」
「……マミ」
アゼルが静かに言った。
「そうかもしれない」
「それが嫌なの」
「……俺も、嫌だ」
黒猫が、少し笑った。
「……わかった。じゃあ、ここにいなさい」
「うん」
「マミちゃんが幸せなら、ボクもよかった」
「黒猫ちゃん、ありがとう。助けてくれて。スキルをくれて。この世界に連れてきてくれて」
「どういたしまして。ボクも、助けてもらったからね」
黒猫が立ち上がった。
「また来るよ。マミちゃんのオムライス、いつか食べたいな」
「いつでもどうぞ。猫用のお皿で出すね」
「ありがとう」
黒猫が、歩いていった。
角を曲がると、見えなくなった。
アゼルが静かに言った。
「……決めたんだな」
「うん」
「ここにいる」
「ずっと」
「ずっと」
空は青かった。
今日も、いい日だ。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
黒猫ちゃんが戻ってきて、マミが「帰らない」と決めました。
「アゼルはあたしがいないと一人で閉店する、それが嫌」……マミらしい理由ですよね。
いよいよ次回、最終話です!
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