第七十話(最終話) メイド喫茶オスティウムへ、ようこそ。【完】
オスティウムがオープンして、一年半が経った。
朝の市場は、あたしにとって当たり前の場所になっていた。
「マミちゃん、今日も元気か」
「オスティウム、昨日また新しい人が来てたぞ」
「魔炎のステーキ、来週予約できるか?」
みんなが声をかけてくれる。
「今週分はもう埋まってます。来週なら大丈夫ですよ」
「じゃあ来週頼む」
「かしこまりました」
仕入れを終えて、お店に戻る。
アゼルはもう仕込みを始めていた。
「おはよう」
「……おはよう」
「今日は何を仕込んでるの?」
「新しい食材を試してる」
「何の食材?」
「昨日、レオンさんが持ってきてくれた。他国のスパイスだ」
「どんな匂い?」
「嗅いでみるか」
アゼルがスパイスの入った瓶を差し出した。
あたしが嗅いだ。
「……甘くて、少しスモーキーで。面白い香り」
「魔炎のステーキに合うかもしれない」
「試してみよう」
「ああ」
二人で仕込みを始めた。
いつもの朝だった。
でも、毎朝が新しかった。
※ ※ ※ ※ ※
十五時、開店。
「メイド喫茶オスティウムへ、ようこそ。ご主人様、おかえりなさいませ」
最初のお客様は、常連のおじさんだった。
「マミちゃん、今日も元気か」
「はい、とても元気です」
「アゼルは?」
「厨房でスパイスの研究してます」
「また新しいもの作るのか」
「はい。おじさんに食べてもらいたくて」
おじさんが少し照れた顔をした。
「……マミちゃんは、そういうこと言うよな」
「本当のことですので」
「オムライス頼む。今日は剣を描いてくれ」
「かしこまりました」
ケチャップで剣を描いた。
細くて、まっすぐな剣。
おじさんが嬉しそうに見た。
次に来たのは、商人の娘さんたちだった。
「パフェ、今日の新フルーツは何ですか?」
「今日は橙色の果物と、新しく入ってきた赤紫の果物を合わせました」
「食べる食べる」
「かしこまりました」
夕方になって、マリー様が来た。
「マミ」
「はい、マリーお嬢様」
「リリウムに新しいメニューが出たわ」
「どんなメニューですか?」
「スパイスミルクティー。うちのシェフが考えた」
「美味しいですか?」
「……美味しいわ」
「では、うちも新しいメニューを考えないといけませんね」
「そうよ。負けないようにしなさい」
「受けて立ちます」
マリー様がふっと笑った。
「……この言い合いも、慣れてきたわね」
「楽しいですよね」
「……楽しいわね」
アンリ様が木曜日にいつものオムライスを頼んだ。
「今日は盾でよろしいですか?」
「……ああ」
「アンリ様、最近よく笑うようになりましたね」
アンリ様が少し目を細めた。
「……そうか?」
「はい。最初に来た時より、全然違います」
「……お前に言われると、照れるな」
「ありがとうございます」
ジャン様も来た。
「マミ、アゼルを呼んでくれるか」
「何かありましたか?」
「……いや、ただ、話したくて」
「すぐ呼んできます」
ルネ様も来た。
「マミ、いつもありがとう」
「こちらこそ、来てくれてありがとうございます」
「……このお店が好きだ」
「嬉しいです」
ユージィン様は仕事の帰りに来た。
「今日のおすすめは?」
「新しいスパイスを使った料理を試作中です。よければ食べていただけますか」
「喜んで」
ミクちゃんが天然で接客して、お客様に笑われた。
レイちゃんが冷静に売上を計算した。
シロちゃんが重い荷物を運んだ。
そして、アゼルが毎日、美味しい料理を作った。
※ ※ ※ ※ ※
閉店後。
二人でカウンターに並んで座った。
アゼルがミルクティーを二つ作ってくれた。
「アゼル」
「うん」
「今日も、一日が終わった」
「ああ」
「明日も開ける?」
「……当たり前だ」
「ずっと?」
「ずっと」
あたしはミルクティーを一口飲んだ。
甘くて、温かかった。
窓の外を見た。
向かいのリリウムも、明かりが消えていた。
空には星がたくさん出ていた。
「アゼル」
「うん」
「あたし、幸せだよ」
アゼルが、静かに言った。
「……俺も」
「この世界に来て、よかった」
「……マミが来てくれて、よかった」
「両方だよ」
「両方だな」
「うん、両方」
二人でしばらく、静かにいた。
お店の中は静かだった。
でも、今日のお客様たちの笑顔が、まだここにある気がした。
「アゼル」
「うん」
「これからも、一緒にいよう」
「……ずっとそう言い続けるのか」
「言い続けるよ。毎日」
「……そうか」
アゼルが少し笑った。
「なら、俺も毎日答える」
「何て?」
「ずっと」
あたしも笑った。
明日も、オスティウムは開く。
アゼルの料理がある。
みんながいる。
ご主人様たちが来てくれる。
「おかえりなさいませ」と迎えられる。
それが、あたしの日常だ。
それが、あたしの幸せだ。
窓の外で、黒猫がにゃあと鳴いた気がした。
今夜のオスティウムは、また明日に続いていく。
ずっと、ずっと、続いていく。
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【完】
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最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
第一話から第七十話まで、長い旅にお付き合いいただきました。
マミとアゼル、マリー様、四銃士の方々、常連のお客様たち、みんながこのお店を作ってくれました。
「おかえりなさいませ」という言葉を、最後まで大切にしてきました。
どこにいても、帰ってこられる場所がある。
それがメイド喫茶オスティウムでした。
読んでくださったみなさんにとっても、この物語が少し帰ってこられる場所になれたなら、嬉しいです。
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また、感想も大歓迎です。どんな話でも、読んでいただけたら嬉しいです。




