第五話 口コミって、異世界でも広まるんですね。
三日目の朝。
仕込みを手伝いながら、あたしはアゼルに聞いた。
「ねえ、この街の人たちって、新しいお店の情報ってどこで知るの?」
「広場の掲示板か、口コミか。あとはギルドの食堂で噂になることが多い」
「ギルド?」
「冒険者が集まる場所だよ。あそこの食堂は情報の集まる場所でもある」
なるほど。現代で言うSNSみたいな役割か。
「今日、ギルドに行ってみてもいい?」
アゼルが少し考えてから言った。
「一人で行くのは心配だから、仕込みが終わったら一緒に行こう」
「……ありがとう」
またちょっと嬉しくなった。
※ ※ ※ ※ ※
ギルドは街の中心にある大きな石造りの建物だった。
中に入ると、昼前なのにもう何人もの冒険者がいた。受付嬢のお姉さんが依頼の説明をしていて、奥の食堂からはいい匂いがしている。
「結構にぎやかなんだね」
「午前の依頼から戻った冒険者が昼飯を食いに来るんだ。この時間が一番人が多い」
あたしとアゼルは食堂に入った。
途端に、視線が集まった。
あたしのメイド姿のせいだ。この街では見たことのない格好だから、当然目立つ。
ひそひそ声が聞こえてくる。
「なんだあの格好」「かわいくないか?」「どこの店の子だ」
よし、チャンスだ。
あたしは一番にぎやかなテーブルに近づいて、にっこり笑った。
「はじめまして。この街に新しくオープンしたメイド喫茶オスティウムのマミと申します。本日は宣伝に参りました」
どっと笑いが起きた。
「メイド喫茶ってなんだ」「見慣れない格好だな」「マスターはアゼルじゃないか」
「そうです! アゼルの料理が食べられるお店です。今の看板メニューはオムライス。卵で包んだご飯料理で、仕上げに絵を描きます。毎日十五時から二十三時まで営業しています。ぜひ遊びに来てください」
「絵を描く飯ってなんだ」「気になるな」「アゼルの料理なら間違いないか」
アゼルが小さく手を上げた。冒険者たちが声をかけてくる。どうやらアゼルはここで顔が広いらしい。
三つのテーブルに声をかけて、ギルドを出た。
「上手いな、マミ」
「レストランで働いてたから、宣伝も慣れてるの」
「前の世界って、変わったところだったんだね」
「うん、まあ……いろいろあったよ」
少しだけ、元の世界のことを思った。
でも今は、ここが楽しい。
※ ※ ※ ※ ※
その日の十六時。
鈴が鳴った。
入ってきたのは、いかつい体つきの冒険者の男性、三人組だった。ギルドで声をかけたテーブルの人たちだ。
「本当に来てくれた!」
「アゼルの料理が気になってな。メイドってのも初めて見るし」
「ようこそメイド喫茶オスティウムへ! ご主人様、おかえりなさいませ」
三人が一瞬固まった。
「……ご主人様?」
「メイド喫茶ではお客様のことをそう呼ぶんです。このお店ではお客様が主人公ですから」
三人は顔を見合わせてから、なんだか照れたように笑った。
「……悪くないな」
席に案内して、オムライスを三つ注文していただいた。
仕上げのケチャップは、三人それぞれに何を描くか聞いてから描いた。一人は剣。一人は盾。一人は「なんでもいい」と言ったので、似顔絵に挑戦してみた。
「……俺か、これ」
「似てますか?」
「……なんか、かわいくなってるけどな」
どっと笑いが起きた。
食べ終わった三人はお会計をして、出口に向かいながら口々に言った。
「また来る」「アゼル、うまかったぞ」「次は仲間も連れてくる」
扉が閉まった。
あたしとアゼルは顔を見合わせた。
「……来た」
「来たね」
アゼルがふっと笑った。普段あまり表情を変えない人が笑うと、なんだかすごく得した気分になる。
「マミのおかげだ」
「アゼルの料理のおかげだよ」
「両方だな」
そう言ってアゼルはまた厨房に戻っていった。
その夜は、閉店までに七人のお客さんが来てくれた。
ギルドで声をかけた人たちが、仲間を連れてきてくれたのだ。
口コミって、異世界でも同じように広まるんだ。
あたしは閉店後、一人でカウンターに座って売上を計算した。少ないけど、確かな数字だった。
明日も来てくれるかな。
明後日はもっと増えるかな。
ふと、窓の外を見ると、街の向こうにお城がぼんやり光っていた。
マリー様のお城だ。
あたしを追放したお姫様。
いつかあなたに、このお店を認めさせてみせる。
そのためにも、明日からもっと頑張ろう。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
ついに最初の一般客が登場しました!
似顔絵オムライス、喜んでもらえてよかったです(笑)
口コミが広がり始めたオスティウム。次回はさらにお客さんが増えて、あの人物がお店に現れます……!
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