第四話 初めてのお客様は、予想外すぎました。
翌日の十五時。
あたしはメイド姿で入口の前に立って、鈴が鳴るのを待っていた。
昨日と同じだ。でも昨日と違うのは、お店の前に小さな黒板を出したこと。
アゼルが炎の魔法で焼き付けてくれた手書きの文字。
メイド喫茶オスティウム 本日オープン オムライス 新登場
「これで来てくれるかな」
「どうだろう。でも何もしないよりはいい」
アゼルはカウンターの中でオムライスの仕込みをしながら言った。昨日の夜から何度も試作を重ねて、今朝ついに「これだ」という配合に辿り着いたらしい。
料理人って、こういう人たちなんだよな。
十五時十分。
鈴が、鳴った。
「っ!」
思わず背筋が伸びた。
「メイド喫茶オスティウムへ、ようこそ!」
入口に立っていたのは——甲冑を着た、長身の男性だった。
顔を見た瞬間、昨日の記憶が蘇った。
四銃士だ。
あのパレードで女性たちが黄色い声を上げていた、四人の騎士のうちの一人。確か……ジャン様、と呼ばれていた人だ。
「……『ヴァレンシュタイン家直属近衛兵団四銃士』のジャンという者だ」
「は、はい! ようこそ!」
緊張で少し声がうわずった。平常心、平常心。四銃士様だってお客様はお客様。
ジャン様はお店の中を見回してから、少し困ったような顔をした。
「マリー様の命で、営業許可の立ち会い検査に来た」
「……え?」
あ。勘違いしてた。お客様じゃなかった。
顔が熱くなるのを感じながら、なんとか笑顔を保つ。
「お、お疲れ様です。わざわざありがとうございます」
アゼルが厨房からすっと出てきた。
「ジャン様。お久しぶりです」
ジャン様がアゼルを見た瞬間、わずかに表情が変わった。
「……アゼルさん。相変わらず、ここにいるんですね」
「はい。ここが気に入っているので」
二人の間に、なんとなく空気が流れた。
昔なにかあったんだろうな、とあたしは思ったけど、今は聞けない。
「施設に問題はありません。仮の営業許可は継続します」
ジャン様はそう言うと、出口に向かった。
あたしは慌てて声をかけた。
「あの! よろしければ、お食事はいかがですか?」
ジャン様が振り返った。
「……メイド喫茶というのが、何なのかは知らないが」
「メイドがお給仕するお店です。今日の看板メニューはオムライスといって、卵で包んだご飯料理です。アゼルが作ります」
「アゼルさんの料理、か」
ジャン様は少し間を置いてから、カウンター席に腰を下ろした。
やった。
※ ※ ※ ※ ※
「おまたせしました。オムライスです」
アゼルが丁寧にお皿を置いた。
黄色い薄焼き卵に包まれた、ふっくらしたオムライス。仕上げのケチャップはハートじゃなくて星にしてみた。騎士様っぽいかなと思って。
ジャン様はしばらくそれを見ていた。
「……食べ物に、絵を描くのか」
「はい。これがメイド喫茶の作法です。お客様のお名前や、ご希望のものも描けますよ」
「……なるほど」
ジャン様はフォークを手に取り、ひとくち食べた。
沈黙。
アゼルと同じだった。料理が美味しい時、この人たちは黙る。
「……美味い」
小さな声だったけど、確かにそう言った。
「ありがとうございます!」
思わず声が弾んだ。
ジャン様はちらっとこちらを見て、また黙ってオムライスを食べ続けた。
あたしはそっと距離を置いて、でもジャン様のグラスが空きそうになったタイミングでお水を注いだ。料理が半分になったところで「お味はいかがですか」と一言だけ声をかけた。
邪魔しすぎず、でもちゃんとそこにいる。
これがメイド接客の基本だ。
食べ終わったジャン様が席を立つ時、あたしはお見送りをした。
「またいつでもいらしてください。お待ちしています」
ジャン様はこちらをちらりと見てから、無言でお店を出た。
扉が閉まった瞬間、アゼルが言った。
「……上手かったよ、マミ」
「え?」
「接客。料理人から見ても、気持ちのいい距離感だった」
それはあたしへの、初めての褒め言葉だった。
なんだかじわじわと嬉しくなって、メイド服のスカートの端をぎゅっと握った。
「……ありがとう、アゼル」
その日の夜、ジャン様が帰った後もお客さんは来なかった。
でも、確かな手応えがあった。
メイド喫茶オスティウム、二日目。
ゼロじゃなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
初めてのお客様はまさかの四銃士・ジャン様でした。
アゼルの「上手かったよ」、じわじわきませんでしたか?
次回、ついに本当の意味での「最初のお客様」が登場します。
マミの接客がどんどん磨かれていきますよ!
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