第三十九話 ルネ様と、向き合いました。
翌日の昼。
ジャン様からお店に連絡が来た。
「ルネを見つけた。街の東の廃屋にいる」
アゼルが静かにエプロンを外した。
「マミ、お店を頼む」
「一緒に行く」
「……わかった」
二人でジャン様たちと合流した。
廃屋の前には、ジャン様とアンリ様が立っていた。
アンリ様が、珍しく心配そうな顔をしていた。
「……ルネ、話を聞けるか」
「わからない」
「やってみよう」
廃屋の中は薄暗かった。
隅に、人影があった。
ルネ様だった。
黒い宝石を握りしめていた。
黒のコアだ。
「……来たか」
低い声だった。
「ルネ」
ジャン様が静かに言った。
「それを、使うつもりか」
「……使えば、全部終わる」
「何が終わる」
「アゼルへの怒りも。マリー様への申し訳なさも。四銃士が崩れてしまったことへの後悔も」
アゼルが前に出た。
「……ルネ様」
「来るな」
「聞いてほしい」
「何を聞く。お前が辞めたから、こうなったんだ」
「……そうだ。俺が辞めたから、バランスが崩れた」
「それを、わかってるのか」
「わかってる。ずっと、わかってた」
ルネ様がアゼルを見た。
「……なら、なぜ今更来る」
「謝りに来た」
「謝って、何が変わる」
「何も変わらないかもしれない。でも、言わないといけないから」
アゼルが続けた。
「俺が辞めたのは、剣を使い続けることが嫌になったから。でも、お前たちのことを考えていなかった。それは間違いだった」
「……今更」
「今更でも、言う」
ルネ様が、黒のコアを握る手を強くした。
あたしが前に出た。
「ルネ様」
「……誰だ」
「マミといいます。アゼルの、大切な人です」
ルネ様が少し、目を細めた。
「……大切な人?」
「はい。アゼルは今、料理人として生きています。毎日、人を喜ばせる料理を作っています。お客様が笑顔になるのを見て、嬉しそうにしています」
「……何が言いたい」
「アゼルが剣をやめて、料理人になったことは、間違いじゃないと思います。アゼルにとって、それが正しい場所だったから」
「俺たちのことを捨てたんだ」
「捨てたんじゃないと思います。アゼルは今でも、ルネ様たちのことを思っています。四銃士を辞めたことを、ずっと後悔しています」
「……後悔してるなら」
「でも、後悔と、料理人として生きることは、両立できます。アゼルは今、後悔しながらも、毎日一生懸命に生きています」
ルネ様が黙った。
アゼルが続けた。
「……ルネ。お前がマリーを大切に思っていることは、知っている。だから、そのコアを使うことはできないはずだ」
「マリー様は、関係ない」
「関係ある。コアを使えば、マリーも、この街も、全部なくなる」
「……」
「お前は、マリーのために四銃士になったんじゃないのか」
ルネ様の手が、少し弛んだ。
「……なぜ」
「なぜ、料理人なんかに負けるんだ。なぜ、マリー様はお前を選ばないんだ」
アゼルが静かに言った。
「……それは、俺が答えることじゃない」
「なら誰が」
「マリーだ」
ルネ様が少し、目を揺らした。
「……マリー様が」
「ああ。マリーに、直接聞いてみろ」
「今更、そんなことが」
「できる。マリーはここにいる」
ルネ様が、廃屋の入口を見た。
マリー様が、静かに立っていた。
いつから来ていたのか、あたしも気づかなかった。
「マリー様……」
マリー様がゆっくりと前に進んだ。
「ルネ」
「……マリー様」
「そのコアを、わたくしに渡しなさい」
「なぜ、あなたが」
「わたくしのために、そこまでしてくれているのでしょう。なら、わたくしが受け取ります」
「……受け取って、どうする」
「捨てる。こんなもの、必要ない」
ルネ様が、少し目を細めた。
「マリー様は、わかっていないんです。このコアがあれば、邪魔者を全員消せる。アゼルも、あの猫耳も」
「邪魔者と言うな」
マリー様の声が、少し低くなった。
「あの二人は、わたくしの大切な人たちよ。邪魔者ではない」
「……大切な人」
「そう。あなたも、わたくしの大切な人よ、ルネ」
ルネ様が、少し固まった。
「わたくしは、あなたたちに守られてきた。でも、守られるだけでは嫌だと思っていた」
「……マリー様」
「このお店で、初めて自分の力で何かを作ることを覚えた。リリウムを作って、マミたちと競い合って。それが楽しかった」
「……幸せそうでしたね」
「そう。幸せよ。今が、一番幸せ」
マリー様がルネ様の前に立った。
「だから、そのコアを渡しなさい。あなたに使ってほしくない」
ルネ様の手が、ゆっくりと開いた。
黒のコアが、マリー様の手に渡った。
ルネ様が、その場に崩れ落ちた。
「……俺は、どうすれば」
マリー様が静かに言った。
「……一緒に考えましょう。時間はあるわ」
今夜の廃屋は、静かだった。
でも、何かが変わった夜だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
ルネ様との対話、いかがでしたか?
マリー様の「今が一番幸せ」という言葉、これまでの積み重ねが全部詰まっていましたね。
次回、黒のコアの処理と、その後の話が続きます。
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