第三十六話 不穏な噂が、聞こえてきました。
始まりは、小さな違和感からだった。
ギルドの常連さんが、少し暗い顔で来た。
「マミちゃん、ちょっといいか」
「どうしましたか?」
「最近、街の外で変なことが起きてるって話を聞いた」
「変なこと、というのは?」
「魔物の動きがおかしい。いつも出ない場所に出るようになってる」
あたしは少し顔を引き締めた。
「危ないですか?」
「今のところは大丈夫だ。でも、何かの予兆かもしれない」
「ギルドは動いてますか?」
「ああ、調査中だ。ただ、原因がわからない」
「わかりました。教えてくれてありがとうございます」
常連さんが帰った後、アゼルに話した。
アゼルは少し、目を細めた。
「……魔物の動きがおかしい、か」
「何か知ってる?」
「……少し、気になることがある」
「何?」
「黒のコアという魔力の塊がある。それが近くにあると、魔物が影響を受けることがある」
あたしは少し驚いた。
「黒のコアって、前に話してた?」
「……まだ話していなかったかもしれない」
「どういうもの?」
アゼルが少し間を置いてから、答えた。
「……強大な魔力を秘めた宝石だ。扱い方を間違えると、周囲の魔物を狂わせる。最悪の場合、広範囲を消し去る力がある」
あたしは少し背筋が冷えた。
「……そんなものが近くに?」
「わからない。でも、魔物の動きがおかしいなら、可能性はある」
「どこにあるの?」
「……以前、女王様が保管していると聞いた」
あたしは少し考えた。
「女王様が動き始めたと、ユージィン様が言ってたね」
「ああ。女王様がそれを使おうとしているなら、危ない」
「どうすればいい?」
アゼルは少し間を置いてから、言った。
「……まず、ユージィン様に話す。それからマリーにも」
「今日?」
「今日」
「わかった」
その夜、ユージィン様とマリー様を呼んだ。
四人でカウンターに集まった。
アゼルが話した。
黒のコアのこと。魔物の動きのこと。
ユージィン様の顔が、少し曇った。
「……知っている。母上が保管しているものだ」
「使おうとしていますか」
「……まだわからない。でも、可能性はある」
マリー様が静かに言った。
「母上は、何のためにそれを使うの」
「……力を示すためだと思う。他国への牽制か、あるいは」
ユージィン様が少し間を置いてから続けた。
「……この街への、警告か」
あたしは少し考えてから、聞いた。
「対策はありますか?」
ユージィン様が静かに答えた。
「……ある。ただ、時間がかかる」
「わかりました。何でも手伝います」
「マミたちにできることは、今まで通りにいることだ」
「今まで通り?」
「このお店が賑やかでいること。街の人たちが笑っていること。それが、一番の答えだ」
あたしはアゼルを見た。
アゼルがうなずいた。
「……いつも通りの料理を出す」
「ありがとう、アゼル」
「両方だな」
「うん、両方」
今夜のオスティウムは、少し緊張していた。
でも、温かかった。
嵐が来るとしても。
このお店は、このお店のままでいる。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
第4章が始まりました。黒のコアという新たな脅威が近づいてきています。
「今まで通りにいること」という答え、アゼルらしいですね。
次回、事態が少しずつ動き始めます。
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