第三十三話 ジャン様の、本当の気持ちがわかりました。
その日、ジャン様が来た。
最近は月に一度か二度、来てくれるようになっていた。
いつもカウンター席に座って、オムライスを頼んで、静かに食べる。
アゼルと少し話すこともあった。
この日は、珍しく最後まで残っていた。
常連のお客様たちが帰って、お店が静かになった頃。
ジャン様が、静かに口を開いた。
「……マミ」
「はい」
「少し、話していいか」
「もちろんです」
あたしはジャン様の前に座った。
ジャン様がしばらく黙っていた。
何かを整理しているような沈黙だった。
「俺は、アゼルさんのことを許せなかった」
「……はい」
「マリー様を傷つけたから。俺たちが守れなかったから」
「はい」
「でも」
ジャン様が、静かに続けた。
「……今のマリー様を見ていると、わかることがある」
「何がですか?」
「マリー様は、今が一番楽しそうだ」
あたしは何も言わなかった。
「俺たちがどれだけ守ろうとしても、マリー様の心は閉じていた。でも、このお店に来てから、変わった」
「……はい」
「それは、アゼルさんがいるから。マミがいるから」
ジャン様が、あたしを見た。
「……俺には、できなかったことだ」
「ジャン様」
「うん?」
「マリー様がここに来たのは、ジャン様が最初に立ち会い検査に来てくれたからだと思います」
ジャン様が少し目を丸くした。
「……どういうことだ」
「ジャン様がここを認めてくださったから、営業許可が出た。許可が出なければ、マリー様は来られなかった」
「……それは俺の功績じゃない」
「でも、ジャン様がいなければ、今のマリー様はなかったかもしれません」
ジャン様はしばらく黙っていた。
それから、静かに言った。
「……買い被りすぎだ」
「本当のことです」
「……マミ、あなたは正直すぎる」
「よく言われます」
ジャン様が少し笑った。
珍しかった。
ジャン様がこんなに笑うのは、初めて見た気がした。
「アゼルさんを呼んでくれるか」
「はい」
アゼルが厨房から出てきた。
ジャン様がアゼルを見た。
「……アゼルさん」
「はい」
「俺は、まだあなたを完全には許していない」
「……わかっています」
「でも」
ジャン様が、静かに続けた。
「……マリー様を、よろしく頼む」
アゼルが少し、目を細めた。
「……はい」
「それだけだ」
ジャン様が立ち上がった。
お会計をして、出口に向かった。
扉に手をかけたところで、振り返った。
「マミ」
「はい」
「ホットケーキ、うまかった」
「ありがとうございます」
「来週も来る」
扉が閉まった。
アゼルが静かに言った。
「……ジャンらしいな」
「不器用ですよね」
「みんな不器用だ。この街は」
あたしは笑った。
「アゼルも不器用だよ」
「……そうかもしれない」
「でも、みんないい人」
「……ああ」
今夜のオスティウムは、また少し温かくなった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
ジャン様の本音が聞けましたね。
「マリー様を、よろしく頼む」……不器用だけど、確かな言葉でした。
次回、第3章の後半へ。オスティウムがどんどん大きくなっていきます。
面白いと思っていただけたら、ぜひ★評価とブックマークをよろしくお願いします!




