第三十一話 アンリ様が、こっそり来るようになりました。
女王様の訪問から一週間が経った。
オスティウムは相変わらず賑やかだった。
魔炎のバイソンステーキの予約は一週間先まで埋まっていた。
他国からの旅人も、週に一度は来るようになっていた。
そんな中、あたしは気づいていた。
アンリ様が、毎週来ていることに。
最初は気づかなかった。
フードをかぶっていたから。
でも、フードの隙間から見える鎧の紋章は、四銃士のものだった。
毎週木曜日の夕方。
同じ席に座って、オムライスを一つ頼む。
食べ終わったら、静かに帰る。
一度も話しかけてこない。
あたしも、気づかないふりをしていた。
でも、三週目の木曜日に、あたしは声をかけた。
「ようこそ、ご主人様。今週もいらっしゃいましたね」
フードの中で、アンリ様が固まった。
「……気づいていたのか」
「最初から」
「……なぜ言わなかった」
「来たいから来ている。それでいいと思ったので」
アンリ様がしばらく黙っていた。
「……何も聞かないのか」
「聞いてほしいことがあれば、おっしゃいます」
「……そういうお店か」
「はい。お客様のペースで、ゆっくりしていただけるお店です」
アンリ様がフードを外した。
鋭い目だった。
でも、最初に乗り込んできた時より、少し柔らかかった。
「……オムライスを頼む」
「かしこまりました。ケチャップの絵は何にしますか」
アンリ様が少し考えてから、言った。
「……盾」
「盾ですね。かしこまりました」
ケチャップで盾を描いた。
丸くて、しっかりした盾。
アンリ様がそれを見て、少し目を細めた。
「……上手いな」
「ありがとうございます」
アンリ様が食べ終わって、帰り際に言った。
「……来週も来る」
「お待ちしております、ご主人様」
アンリ様が出ていった。
閉店後、アゼルに話した。
「アンリ様、毎週来てたんだって」
「……知ってた」
「知ってたの?」
「木曜日に必ず来てたから」
「言ってくれればよかったのに」
「……マミが対応する方がいいと思った」
あたしはアゼルの横顔を見た。
「どうして?」
「マミの方が、人の心を開かせるのが上手い」
「アゼルの料理の方が、人の心を開かせるよ」
「両方だな」
「うん、両方」
今週のオスティウムに、また新しい常連が生まれた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
アンリ様が常連になりました!
フードをかぶってこっそり来ていたとは……不器用ですね(笑)
「来週も来る」という言葉、嬉しかったです。
次回も楽しい日常が続きます!
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