第二十九話 女王様と、向き合いました。
一番奥の席に案内した。
護衛の四人は入口近くに立っていた。
マリー様は隅の席から、静かに見ていた。
お品書きを渡すと、女王様はゆっくりと読んだ。
「ミルクティーを」
「かしこまりました」
ミルクティーをお出しすると、女王様は一口飲んだ。
少しの沈黙。
「……うまい」
「ありがとうございます」
「この街に来るのは久しぶりだが、こんなお店ができていたとは知らなかった」
「一ヶ月ほど前にオープンしました」
「一ヶ月で、この賑わいか」
「お客様たちが口コミで広めてくださいました」
女王様がお店の中を見回した。
「マリーが通っているそうだな」
「はい。常連のお客様です」
「どうして来るようになった」
あたしは少し考えてから、正直に答えた。
「最初は、あたしを追放しにいらっしゃいました」
女王様が少し、目を細めた。
「……それを、直接言うか」
「事実ですので」
「追放されたのに、なぜこの街にいる」
「このお店を作りたかったからです」
「追放した相手の街で」
「はい。でも、このお店は街のみなさんのものでもあると思っています」
女王様がしばらく、あたしを見ていた。
測るような目だった。
「……猫耳の娘」
「はい」
「このお店を、守りたいか」
「はい」
「なぜ」
あたしは迷わず答えた。
「好きだからです。アゼルと一緒に作ったから。お客様たちが好きだから。この場所が好きだから」
女王様はしばらく黙っていた。
それから、静かに言った。
「マリーも同じことを言っていた」
「……そうですか」
「好きだから守りたいと。珍しいことだ。あの子がそういうことを言うのは」
女王様の声が、少しだけ変わった気がした。
「……マリーは、変わったな」
あたしは何も言わなかった。
「以前は、人を信じることが苦手だった。わたしのせいかもしれない」
「……」
「このお店に来るようになってから、マリーの顔が変わった」
女王様がミルクティーをもう一口飲んだ。
「……このお店が、マリーを変えたのか」
「マリー様が自分で変わったんだと思います」
女王様が少し目を丸くした。
「……そう言えるのか。自分のお店が変えたのに」
「きっかけはここかもしれません。でも、変わる力はマリー様の中にあったと思います」
女王様はしばらく黙っていた。
長い沈黙だった。
お店の中では、常連のお客様たちが笑い合っていた。
アゼルが厨房でフライパンを振る音がした。
「……アゼルという男はどんな人間だ」
「料理が好きな人です。人を喜ばせることが好きな人です」
「昔、四銃士だったそうだな」
「はい」
「今は料理人か」
「はい。このお店のマスターです」
女王様がカウンターの方を見た。
アゼルが振り返った。
目が合った。
女王様が静かに言った。
「……料理を食べてみたい」
「かしこまりました」
※ ※ ※ ※ ※
魔炎のバイソンステーキを今日の予約のお客様にお断りして、女王様にお出しした。
アゼルがテーブルの前に立った。
指先に橙色の炎が灯った。
女王様が、じっと見ていた。
じゅわっという音。
香ばしい匂い。
お皿が置かれた。
女王様が一口食べた。
長い沈黙。
「……これは」
「はい」
「どうやって作る」
アゼルが静かに説明した。
低温調理のこと。魔法の炎で仕上げること。
女王様は静かに聞いていた。
「……魔法を料理に使うのか」
「はい。マミの知識と、俺の魔法を組み合わせました」
「二人で考えたのか」
「はい」
女王様がもう一口食べた。
また、長い沈黙。
「……マリーが通う理由が、わかった気がする」
女王様が静かに言った。
アゼルは何も言わなかった。
「アゼル」
「はい」
「マリーを傷つけたことは、覚えているか」
お店の中が、少し静かになった気がした。
アゼルが静かに答えた。
「……一生、忘れません」
「それでいい」
女王様が続けた。
「忘れずにいることが、償いだ」
アゼルが少し、目を細めた。
「……はい」
「マリーは気にしていないと言っていた。ユージィも、あなたを信頼していると言っていた」
「……ありがとうございます」
「礼はいい。ただ」
女王様が静かに続けた。
「……マリーを、頼む」
あたしは少し驚いた。
女王様が、アゼルにそう言った。
アゼルも、少し驚いた顔をしていた。
「……はい」
女王様が立ち上がった。
お会計をして、出口に向かった。
マリー様の席の前を通る時、少し足を止めた。
「マリー」
マリー様が立ち上がった。
「……母上」
「このお店、悪くない」
マリー様が少し、目を丸くした。
「……そうでしょ」
「ただし」
「はい」
「リリウムの方がいいお店にしなさい。負けてはいけない」
マリー様が、少し笑った。
「……わかりました」
女王様が出ていった。
扉が閉まった。
お店の中が、どっと動いた。
常連のおじさんが言った。
「……なんか、すごいもの見た気がする」
あたしも同じ気持ちだった。
マリー様がこちらに来た。
「……マミ」
「はい」
「母上が、悪くないって言った」
「聞いていました」
「母上がそういうことを言うのは、珍しいことよ」
「そうですか」
マリー様が、静かに笑った。
「……ありがとう、マミ」
今夜のオスティウムは、予想より静かな夜だった。
でも、何かが変わった夜だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
女王様との直接対話、いかがでしたか?
「マリーを、頼む」……予想外の言葉でしたね。
そして「悪くない」という女王様の言葉。マリー様が嬉しそうで、こちらも嬉しくなりました。
次回、女王様が去った後の街の変化が描かれます。
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