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第二十五話 マリーお嬢様が、すごい勢いで来ました。

 翌日の昼下がり。

仕込みをしていると、入口の鈴が激しく鳴った。

普段の鈴の音より、明らかに勢いがある。

扉が開いた。

マリー様だった。


「マミ!」

「ようこそメイド喫茶オスティウムへ、マリーお嬢様。どうされましたか」

「どうされましたか、じゃないわよ!」


マリー様がカウンター席にどかっと座った。

珍しい。

いつもは優雅に座るのに。


「ユージィが来たって本当?」

「ユージィン様のことですか?」

「そう! 昨日も一昨日も、こっそりここに来てたって!」

「はい、いらっしゃいました」

「なんで教えてくれないの!」


 あたしは少し考えてから、答えた。


「ユージィン様から、特にご連絡するようにとは言われていなかったので」

「それはそうだけど!」


 マリー様がテーブルに手をついた。


「ユージィはわたくしに何か言ってた?」

「いくつかお話しされていました」

「何を?」

「マリーお嬢様がよく話すということを」


 マリー様が固まった。


「……それだけ?」

「あとは、マリーお嬢様の顔が変わったとおっしゃっていました」

「顔が変わった?」

「笑うようになった、と」


 マリー様はしばらく黙っていた。

それから、少し視線を外した。


「……余計なことを」

「嬉しくないですか?」

「……嬉しいとか嬉しくないとか、そういう話じゃないわよ」


 あたしは少し笑った。


「嬉しいんですね」

「……違うわよ」


 でも、マリー様の耳が少し赤かった。




※ ※ ※ ※ ※




 ミルクティーをお出しすると、マリー様は一口飲んでから、少し落ち着いた声で言った。


「ユージィは、何のために来たの」

「確認しに来たとおっしゃっていました」

「何を?」

「このお店が信頼できる場所かどうか、と」


 マリー様が少し目を細めた。


「……ユージィらしいわね」

「そうですか?」

「あの人は昔から、大切なものを守る時に、まず自分で確かめる。人に任せない」

「マリー様と似てますね」

「似てない」

「似てますよ」


 マリー様がこちらを見た。

少しの間があって、また前を向いた。


「……似てるって言われると、悪い気はしないわね」


 あたしは笑った。


「仲がいいんですね、お二人」

「……そう見える?」

「そう見えます」


 マリー様はしばらく黙っていた。


「ユージィはわたくしを、ずっと守ってくれた。母上が厳しい時も、わたくしが誰も信じられなかった時も」

「……そうだったんですね」

「だから、ユージィがここに来たということは」


 マリー様が、静かに続けた。


「……このお店を、守ろうとしているということね」


 あたしは少し目が熱くなった。


「ありがとうございます」

「わたくしに言わないで。ユージィに言いなさい」

「マリーお嬢様にも言いたいです」

「……なんでよ」

「マリーお嬢様がここに来てくれたから、ユージィン様も来てくれたんだと思うので」


 マリー様がまた、視線を外した。


「……そういうこと言うのやめて」

「どうしてですか」

「照れるから」


 あたしは声を上げて笑った。

マリー様が少し、口角を上げた。




※ ※ ※ ※ ※




 その夜、ユージィン様が来た。

マリー様がまだいた。

扉が開いた瞬間、二人の目が合った。


「……マリー」

「ユージィ」


 しばらく、沈黙が続いた。

あたしはさりげなく距離を置いた。


「……なぜここにいる」

「あなたがこっそり来てたって聞いたから」

「こっそりしていたつもりだったが」

「マミから聞いた」


 ユージィン様がこちらを見た。

あたしは笑顔で言った。


「マリーお嬢様からお聞きになったのでは、と思いまして」

「マミ」

「はい」

「口が軽いな」

「情報の流れを整理しただけです」


 ユージィン様が少し笑った。

マリー様が隣の席を指差した。


「座りなさいよ」

「……いいのか」

「悪いわけないでしょ」


 ユージィン様がマリー様の隣に座った。

二人並ぶと、確かに似ている。

目の色。背筋の伸び方。静かな雰囲気。


 でも、マリー様の方が少し、表情が豊かだった。

あたしがミルクティーをユージィン様にお出しすると、マリー様が言った。


「ユージィ」

「うん」

「母上のこと、マミたちに話した?」

「少しだけ」

「どこまで?」

「動き始めていること。それだけだ」


 マリー様が少し考えてから、あたしを見た。


「マミ、座って」

「え?」

「話がある。アゼルも呼んで」




※ ※ ※ ※ ※




 四人でカウンターに集まった。

常連のお客様たちは、帰った後だった。

お店の中は静かだった。

マリー様が口を開いた。


「母上が、この街のメイド喫茶を全て管理下に置こうとしている」

「管理下に?」

「営業許可の基準を厳しくして、気に入らないお店を閉めさせようとしている。それが名目上の理由」

「本当の理由は?」

「わたくしへの干渉よ。わたくしがここに来るのをやめさせたい。そのために、お店ごと潰そうとしている」


 あたしは少し考えた。


「前に四銃士が仕入れを止めさせた時と、似てますね」

「ええ。でも今回は、もっと大きい話になりそう」


 ユージィン様が続けた。


「母上は直接動かない。誰かを使って、じわじわと追い詰めてくる」

「誰を使うんですか」

「まだわからない。だから、早めに対策を考えておく必要がある」


 アゼルが静かに言った。


「……対策とは?」


 ユージィン様がアゼルを見た。


「このお店を、母上が手を出せない場所にする」

「どうやって?」

「方法はいくつかある。ただ、時間がかかる」


 マリー様が続けた。


「だから、今すぐできることから始める」

「今すぐできること、というのは?」


 マリー様がまっすぐあたしを見た。


「このお店を、もっと多くの人に愛してもらうこと」


 あたしは少し驚いた。


「……それが対策になるんですか」

「なるわ。母上は民の声を無視できない。このお店が街の人たち全員に愛されていれば、潰すことへの反発が大きくなる」

「……なるほど」

「だからマミ、今まで以上にいいお店にしなさい」

「受けて立ちます」


 マリー様がふっと笑った。


「……そういうところが好きよ、マミ」


 あたしは少し驚いた。

マリー様が「好き」と言ったのは、初めてだった。


「マリーお嬢様」

「何?」

「あたしも、マリーお嬢様のこと好きですよ」


 マリー様が少し固まった。


「……突然何を言い出すの」

「本当のことです」

「……馬鹿ね」

「存じております」


 ユージィン様が、静かに笑った。

アゼルも、少し笑っていた。

マリー様だけが、少し顔を赤くしたまま、ミルクティーを飲んだ。




※ ※ ※ ※ ※




 閉店後、二人で片付けをしていた。

「アゼル」

「うん」

「女王様のこと、怖い?」

「……怖くないとは言えない」

「正直だね」

「でも」


 アゼルが静かに続けた。


「……今日、思ったことがある」

「何を?」

「マリーとユージィン様が来て、一緒に話してた。四銃士たちもいる。常連のお客様たちもいる」

「うん」

「マミもいる」


 あたしは少し胸が温かくなった。


「うん」

「……このお店、いつの間にかたくさんの人が守ろうとしてくれてる」

「そうだね」

「最初は、マミと二人だけだった」

「うん」

「今は、こんなに」


 アゼルが静かに、お店の中を見回した。

磨かれたグラス。野の花。常連客たちが笑った場所。


「……マミのおかげだ」

「アゼルの料理のおかげだよ」

「両方だな」

「うん、両方」


 二人でしばらく黙っていた。


「アゼル」

「うん」

「どんな嵐が来ても、このお店守ろうね」


 アゼルが、あたしを見た。

真剣な目だった。


「……ああ」

「ずっと」

「ずっと」


 今夜のオスティウムは、静かだった。

でも、確かな強さがあった。


 嵐が来るとしても。

このお店には、守る人たちがいる。

それで十分だった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

マリー様の「すごい勢いで来る」、想像できましたか?(笑)

「照れるから」……マリー様、可愛いですね。

そしてユージィン様とマリー様が並ぶ場面、姉弟の雰囲気が出せたでしょうか。

女王様の動きが本格化します。でも、オスティウムには守る人たちがたくさんいます。

次回、第3章の後半へ。街全体がオスティウムを愛し始める話が続きます。

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