第二十三話 予約が、あっという間に埋まりました。
翌朝、開店前にお品書きを書き直した。
魔炎のバイソンステーキ 一日八食限定 要予約
「八食にしたんだな」
アゼルが横から見て言った。
「昨日の五食より増やした。でも無理しない範囲で」
「低温調理の仕込みに一時間半かかる。八食なら二回に分けてできる」
「そう計算した。午前中に四食分仕込んで、夕方に四食分」
アゼルがうなずいた。
「……よく考えてるな」
「レストランで働いてたから、仕込みのスケジュール管理は得意なの」
「そうか」
「アゼルは魔法を保つのに集中しないといけないから、スケジュールはあたしが管理する」
「……頼む」
「任せて」
二人で顔を見合わせた。
「じゃあ、今日も一緒に頑張ろう」
「……ああ」
※ ※ ※ ※ ※
十五時、開店。
お品書きの前に常連のおじさんが立った。
「魔炎のバイソンステーキ、一日八食限定?」
「はい。昨日食べていただけましたか?」
「食べた食べた。うまかった。今日も食べたい」
「今日分は予約制です。開店と同時に受け付けます」
「今から予約できるか?」
「はい、今から受け付けます」
おじさんが即座に手を上げた。
「一食」
「かしこまりました。お名前をどうぞ」
「ガストン」
あたしは予約帳に書いた。
一番目。ガストン様。
その後ろで、他のお客様たちが首を伸ばしていた。
「俺も」「あたしも」「二食いける?」
「お一人様一食までです」
「じゃあ一食」「一食くれ」
十分もしないうちに、八食全部の予約が埋まった。
予約できなかったお客様が、少し残念そうな顔をした。
「明日は?」
「明日も八食です」
「明日の予約は今日からできるか?」
あたしは少し考えてから、言った。
「……明日の開店時間から受け付けます」
「じゃあ明日も来る」
「お待ちしています」
アゼルが厨房からこちらを見ていた。
少し、驚いた顔をしていた。
あたしはカウンターに戻りながら言った。
「八食、埋まった」
「……十分で?」
「うん」
「そうか」
「アゼル、嬉しくない?」
「……嬉しい」
「もっと嬉しそうにしていいよ」
「……これが俺の嬉しい顔だ」
あたしは笑った。
アゼルの耳が少し赤かった。
※ ※ ※ ※ ※
夕方、予約のお客様たちが順番に来た。
全員、目の前でアゼルが炎を出す瞬間を楽しみにしていた。
テーブルの前に立つアゼルを、みんながじっと見ている。
じゅわっという音。
広がる香り。
お皿に盛る瞬間の静寂。
毎回、小さな歓声が上がった。
「すごい」「かっこいい」「魔法って料理に使えるんだ」
アゼルは無口なまま、でも丁寧に一食ずつ仕上げた。
八食目が終わった頃、アゼルがカウンターに戻ってきた。
少し疲れた顔をしていたけど、表情は穏やかだった。
「大丈夫?」
「……問題ない。でも、集中する」
「明日も同じペースでいい?」
「ああ。慣れてくれば楽になると思う」
「無理しないで言って」
「言う」
あたしはアゼルにミルクティーを一杯作った。
「はい」
「……ありがとう」
アゼルが一口飲んだ。
少し、ほっとした顔をした。
そういう顔を見ると、あたしまでほっとする。
※ ※ ※ ※ ※
二十時頃。
お店が少し落ち着いた時間だった。
入口の鈴が鳴った。
入ってきたのは、見慣れない人物だった。
背が高くて、落ち着いた雰囲気の男性。
貴族風の服装だったけど、装飾は控えめだった。
護衛らしき人物が二人ついていた。
でも、その二人は外で待っていた。
一人で来た、ということだ。
「ようこそメイド喫茶オスティウムへ。ご主人様、おかえりなさいませ」
男性がこちらを見た。
深い色の瞳だった。
「……初めて来た」
「はい、よろしければご案内します」
「頼む」
窓際の席に案内した。
お品書きを渡すと、男性はゆっくりと読んだ。
「魔炎のバイソンステーキは今日分は終わりです。申し訳ありません」
「……そうか」
「明日以降でしたら予約を承ります」
男性は少し考えてから、言った。
「ミルクティーを」
「かしこまりました」
ミルクティーをお出しすると、男性はお店の中をゆっくりと見回した。
観察するような目だった。
でも、敵意はなかった。
ただ、静かに見ていた。
常連のお客様たち。
アゼルが厨房で仕込みをする姿。
テーブルに飾った野の花。
磨かれたグラス。
「……賑やかなお店だな」
「おかげさまで」
「このお店は、いつからある?」
「一ヶ月ほどです」
「一ヶ月で、これだけのお客様が?」
「口コミで広めていただきました」
男性がミルクティーを一口飲んだ。
少しの沈黙。
「……うまい」
「ありがとうございます」
「あのマスターが作っているのか」
「はい。アゼルが」
男性がカウンターの方を見た。
アゼルが振り返った。
二人の目が合った。
男性が少し、目を細めた。
アゼルが少し、表情を変えた。
あたしは二人を交互に見た。
知り合い、なのかもしれない。
「……マスターに、少し話を聞いてもいいか」
「アゼルに確認します」
あたしがカウンターに戻ると、アゼルが小さな声で言った。
「……知ってる人か?」
「アゼルは知らないの?」
「……初めて見る顔だ。でも」
「でも?」
アゼルは少し間を置いてから、言った。
「……雰囲気が、マリーに似てる」
あたしはもう一度、男性を見た。
確かに。
目の色が、似ている。
「……もしかして」
「ああ。たぶん」
アゼルが静かに、厨房から出てきた。
※ ※ ※ ※ ※
閉店後、二人で片付けをしながら、あたしはアゼルに聞いた。
「やっぱりそうだったの?」
「……たぶん」
「マリー様のお兄さん?」
「王家の人間だと思う」
「どうして来たんだろう」
「わからない。でも」
アゼルは少し考えてから、続けた。
「……悪い人ではないと思う」
「そう感じた?」
「ああ。ただ、何かを確認しに来た感じがした」
「何を確認しに?」
アゼルはしばらく黙っていた。
「……俺たちのことを、だと思う」
あたしは少し考えた。
「マリー様が話したのかな」
「かもしれない。マリーはよく話す」
「そっか」
「マミ」
「うん」
「明日、また来るかもしれない」
「来たら、いらっしゃいませって迎える」
アゼルが少し笑った。
「……マミはいつもそう言うな」
「だって本当のことだから」
今夜のオスティウムに、新しい風が吹き始めた気がした。
あの男性が何者で、何のために来たのか。
明日、わかるかもしれない。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
予約が十分で埋まりました!
限定メニューの威力、すごいですね。
そして謎の男性が登場しました。
「マリー様に似てる」……一体誰なのでしょうか?
次回、その正体が明かされます。
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