第二話 変身スキル、もらっちゃいました。
「マミちゃん。マミちゃん。ボクだよ」
夢の中に声が響いた。
目を開けると、どこまでも白い空間が広がっていた。
床も天井も壁も見えない。ただ白い。
その真ん中に、ぽつんと黒い小さなかたまりがいた。
「……黒猫ちゃん?」
さっきトラックの前から助けた、あの子だ。
「助けてくれてありがとう、マミちゃん」
しゃべった。猫がしゃべった。
異世界に来た時点でもう何でもありだとは思っていたけど、改めてびっくりする。
「ど、どういたしまして……」
「お礼に、ボクのスキルをプレゼントするね。『変身スキル』だよ」
「え、あ、ありがとう——ちょっと待って、どんなスキル——」
「それじゃあね!」
「ちょ、説明! 説明してって!」
※ ※ ※ ※ ※
目が覚めると、見慣れない天井だった。
あ、そうだ。アゼルのお店の二階に泊めてもらったんだった。
窓から朝日が差し込んでいる。鳥の声がする。異世界の朝だ。
夢の内容を思い出して、ベッドの上でしばらく考えた。
変身スキル。
信じるも信じないも、試してみるしかない。
目を閉じて、イメージする。
あたしが通い詰めていたメイド喫茶の、推しの女の子。切れ長の目に整った顔立ち。茶色ベースのワンピースに白いエプロン。ウエストの締まったシルエット。カチューシャ。
「……あれ」
体中が青い光に包まれた、と思ったら。
姿見に映っていたのは——推しの女の子だった。
いや、正確には違う。顔はあたし自身だ。でも、お化粧がばっちり決まって、髪型も完璧で、制服まで完全再現されている。
「……かわいい」
思わず声が出た。自分に向かって言うのはちょっと恥ずかしいけど、かわいいものはかわいい。
一時間ほどあれこれ試してみた結果、このスキルの仕様がだいたいわかった。
どんな衣装にも変身できる。ヘアメイクも込みで一瞬で完成する。ただし、能力が上がるとか魔法が使えるようになるとか、そういうことは一切ない。
純粋に「衣装とメイクが変わるだけ」のスキルだ。
戦闘には完全に役に立たない。
「……でも、メイド喫茶やるには最高じゃない」
毎朝メイク迷って時間切れになってたあたしに、これ以上のスキルがあるだろうか。いや、ない。黒猫ちゃん、わかってる。
「おーい、マミちゃん。朝ごはんできたよ」
下からアゼルの声がした。
※ ※ ※ ※ ※
階段を降りると、カウンターの中でアゼルがフライパンを振っていた。
あたしはメイド姿のまま降りた。せっかくだから見せてしまおう。
「アゼルさん、おはよう——」
「……っ」
アゼルが固まった。
フライパンを持ったまま、こちらをまじまじと見ている。
「え、どうしたの」
「い、いや……昨日とぜんぜん違う」
「女の子はお化粧で変わるんですよ」
「そっか……化粧ってすごいな」
アゼルは納得したのかしていないのか、こちらをちらちら見ながら首をかしげている。でも目が泳いでいる。あたしのこと、かわいいと思ってくれてるのかな。
それはちょっと、悪い気がしない。
「アゼル。今日からメイド喫茶の準備、始めましょう」
「……うん」
アゼルはまだちょっとこちらを見ていたけど、すぐに気を取り直してお皿をカウンターに並べた。
朝ごはんはバゲットとスープ。シンプルだけど、これがまた美味しい。
「アゼル、料理ほんとうに上手だよね」
「まあ、それだけが取り柄だから」
「それだけって言わないで。すごいことだよ」
アゼルはちょっと照れたように、スープを混ぜるふりをした。
さて。
メイド喫茶をやるなら、まず絶対に必要なものがある。
「ねえアゼル。オムライス、作ったことある?」
「オムライス?」
「メイド喫茶の定番料理。ケチャップで味付けしたチキンライスを卵で包むの。最後にケチャップでハートを描く」
「……何から何までわからない単語だ」
「大丈夫。全部教えるから」
アゼルは困ったような顔をしたけど、嫌そうではなかった。
こうして、メイド喫茶オスティウムの、最初の朝が始まった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
変身スキルの正体、わかっていただけましたか?
戦闘には使えないけど、メイド喫茶には最高のスキルです(笑)
次回はいよいよメイド喫茶の看板料理・オムライス作りへ!
アゼルの料理センスが炸裂します。
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