第一話 悪役令嬢に追放されました。でも、猫耳生えたから許す。
「この街から出ていきなさい! 醜い猫耳なんてもの、わたくしの目に入れたくないの!」
黒いゴスロリドレスをまとったお姫様は、わたしを指差してそう言い放った。
出会って三分。理由なんてもちろんない。
わたし、相川マミ、二十四歳。元レストランアルバイト。黒猫を助けようとしてトラックに轢かれ、気づいたら猫耳と尻尾が生えた状態で中世ファンタジー的な異世界の路上に転がっていた女。
そしてたった今、この国を治めるヴァレンシュタイン家のお姫様・マリー様に、出会い頭で追放宣言をいただいた。
「……あの、初対面なんですけど」
「黙りなさい! 四銃士! この猫耳女をこの街の外に叩き出して!」
取り囲む騎士たちの目が、気の毒そうにわたしに向けられる。うん。わかる。あなたたちも大変ね。
でも、そんな心の余裕は一瞬で消えた。
路地の角から荒っぽく引っ張られ、気づいたら薄暗い横道に引き込まれていた。
「……逃げるよ。まずは俺のお店に」
振り返ると、くたびれたスーツの男が立っていた。背が高くて、なんか綺麗な顔をしている。でも目の下にクマがある。ちょっと頼りなさそうだけど、それがかえって母性本能をくすぐる系の——。
「ぼーっとしてる場合じゃないよ。四銃士のジャン様の目を盗んで連れ出してきたんだから」
名前はアゼルといった。この街で冒険者酒場をやっている、らしい。
「なんで助けてくれたんですか」
「うーん。……なんとなく、放っとけなかった」
そう言いながら、アゼルはわたしの猫耳をちらっと見た。
「猫耳、かわいいと思うけどね。俺は」
異世界に来て最初のひとことがそれか。
泣きそうになったのは内緒だ。
※ ※ ※ ※ ※
アゼルのお店はオンボロだったけど、料理は驚くほど美味しかった。
ただ、問題があった。
「実はさ、マリー様のお達しで、このお店も来週で営業許可が取り消されるんだ」
「……は?」
「かわいくない、美しくないお店はこの街に要らない、って」
テーブルに突っ伏したくなった。
でも。
"かわいくない"なら"かわいくする"しかない。
わたし、元の世界でメイド喫茶が大好きだった。料理の作り方も知ってる。アゼルの腕前は本物だ。
メイド服だって、なんとかする。
「ねえ、アゼル。このお店、メイド喫茶にしましょう」
アゼルは目をぱちくりさせた。
「……メイド、喫茶?」
「そう。あのお姫様が追放した猫耳のメイドが、この街で一番流行るお店を作って見せる。それくらいのざまぁ、あってもいいでしょ?」
沈黙の後、アゼルは——初めて、ちゃんと笑った。
「……乗った」
こうして、わたしとアゼルの異世界メイド喫茶が始まった。
ちなみにアゼルが後になってわたしに溺愛を捧げてくることを、このときのわたしはまだ知らない。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
猫耳メイドのマミと、謎多き美形マスター・アゼルの異世界メイド喫茶物語、いかがでしたでしょうか?
次回、マミに思わぬ「スキル」が覚醒します……!
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