表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/70

第十一話 ライバル店が、オープンしました。

 工事が終わったのは、十日後だった。

朝起きて窓を開けると、向かいの建物が見違えるように変わっていた。

白い壁に黒い縁取り。大きな窓にはレースのカーテン。入口には薔薇の彫刻が施された木製の看板。


メイド喫茶 リリウム


金色の文字が朝の光に輝いていた。


「……すごい」


 思わず声が出た。

アゼルが横に来て、一緒に見た。


「……本気だな」

「うん」

「資金力が違う」

「うん」


 正直に言って、圧倒された。

オスティウムは手作り感のある温かいお店だ。でもリリウムは最初から全てが整っている。プロが設計した内装、高級感のある看板、広い店内。


 これは手強い。

でもあたしは深呼吸して、エプロンを結び直した。


「アゼル、今日も仕込みしよう」

「……うん」




※ ※ ※ ※ ※




 リリウムのオープン日、街は朝から騒がしかった。

マリー様の名前で宣伝が行き届いていたのか、開店前から長い行列ができていた。

冒険者のおじさんが昼過ぎにオスティウムに来て、興奮気味に話してくれた。


「マミちゃん、向かいのお店すごいぞ。メイドが十人いる」

「十人!」

「全員かわいくて、制服も揃いで、内装も豪華で……なんか別世界みたいだった」

「行ってきたんですか?」

「覗いてみた。でもな」


 おじさんはオムライスを一口食べてから、続けた。


「飯がいまいちだった」

「……そうですか」

「アゼルの料理に慣れちまったせいかもしれないけど、なんか、普通だった」


 あたしはカウンターの中のアゼルをちらっと見た。

アゼルは黙って仕込みを続けていた。

でも少しだけ、肩の力が抜けたように見えた。


「マミちゃんのとこは、やっぱりここじゃないとって思うもんな」

「ありがとうございます、ご主人様」


 おじさんはまたオムライスを食べて、満足そうに笑った。




※ ※ ※ ※ ※




 その夜、リリウムもオスティウムも満席だった。

街にメイド喫茶が二軒できたことで、今まで来たことのない層のお客様が増えた。

若い女性のお客様、家族連れ、貴族風の服装の方まで。


 あたしは忙しく動き回りながら、でも一人一人のお客様をちゃんと見ていた。

グラスが空きそうな人。料理を迷っている人。少し疲れた顔をしている人。


「お疲れではないですか、お嬢様」


 若い女性のお客様に声をかけると、驚いた顔をされた。


「……なんでわかったの?」

「少し肩が落ちていたので」

「……仕事で嫌なことがあって」

「そうでしたか。今夜はゆっくりしていってください。何かお力になれることがあれば」


 女性のお客様は少し目を赤くして、でも笑ってくれた。


「……ありがとう。来てよかった」


 閉店間際、その方はパフェを追加注文してくれた。

帰り際に「また来ます」と言ってくれた。




※ ※ ※ ※ ※




 閉店後、売上を計算していると、扉が静かに開いた。

マリー様だった。

今日はリリウムの制服らしき黒いドレスを着ていた。いつものゴスロリより少し大人っぽい。


「……忙しかった?」

「おかげさまで。マリーお嬢様のリリウムのおかげで、街が賑やかになりました」


 マリー様はカウンター席に座った。


「負け惜しみじゃないの?」

「本当のことです。リリウムがオープンしなかったら、今日の新しいお客様たちは来なかったと思います」


 マリー様は少し黙っていた。


「……うちの料理、普通だって言われたわ」

「そうですか」

「悔しいわよ」

「当然だと思います」

「あなた、慰めないのね」

「事実ですから。でも、料理は改善できます」


 マリー様がこちらを見た。


「……どういう意味?」


 あたしは少し考えてから、思い切って言った。


「アゼルに、リリウムのシェフを指導してもらうのはどうですか」


 静かになった。

カウンターの中のアゼルも、手を止めた。


「……なぜあなたがそれを言うの。ライバルでしょう」

「ライバルでも、マリーお嬢様のお店が美味しくなった方がこの街が楽しくなります。それにアゼルの料理を食べたら、絶対また来たくなりますよ、うちに」


 マリー様はしばらくあたしを見ていた。

それからアゼルを見た。


「……アゼル」


 アゼルがゆっくりこちらに出てきた。


「……俺でよければ」


 マリー様の深紅の瞳が、少し揺れた。


「……なんであなたたちは、そんなに」

「そんなに?」

「……いいの。わかった。お願いするわ」


 マリー様はミルクティーを一杯だけ飲んで、帰っていった。

扉が閉まってから、あたしはアゼルに言った。


「よかった? 勝手に決めちゃったけど」


 アゼルはしばらく黙っていた。


「……マミ」

「うん」

「どうしてそうするんだ」

「え?」

「マリーのことが好きじゃないだろう。最初に追放された相手だ」


 あたしは少し考えてから答えた。


「好きじゃなかったよ、最初は」

「今は?」

「……今は、なんか放っておけない」


 アゼルが少し目を細めた。


「……マミって」

「うん?」

「……不思議だな」


 それだけ言って、アゼルは厨房に戻っていった。

あたしはその背中を見ながら、少しだけ笑った。

アゼルに「不思議」と言われるのは、なんだか悪くない。


 向かいのリリウムは、今夜も明かりが灯っていた。

ライバルがいる。

 それが、思ったより嬉しかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

リリウム、オープンしました!

マリー様の本気、伝わりましたか?

そしてアゼルをマリー様のお店に紹介するマミ……「なんか放っておけない」という言葉、マミらしいですよね。

次回、アゼルがリリウムに指導に行く日。マリー様とアゼルの「昔の話」が、少しだけ明かされます。

面白いと思っていただけたら、ぜひ**★評価とブックマーク**をよろしくお願いします!

応援が毎日の更新の力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ