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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
79/132

第16話

時間軸が前後したりして、わかりにくくて済みません。今回の話は、前回のヤクモ対ヒサメとほぼ同じ時間軸となります。

「畜生!やってくれたな!」


サキは、余り得意では無い銃を構え、周囲を気にしながらシェルター内を慎重に歩いていた。脱獄したコウガ夫妻に見つからない様に逃げる為である。


「あの停電…恐らく奴らの仲間の仕業だ。余りにタイミングが良過ぎる。」


サキは緊張から走りたくなる衝動を何とか抑えながら、考える事で冷静さを保っていた。


(しかも、停電させただけで無く、地下ケーブルまで切断していやがった…。まさか、あの装置の弱点を知っていたとは…。)


サキがシェルターの通路や独房に仕掛けた導術検知器は、通常なら電源を落とされても暫くの間は正常に作動する事は出来る。しかし、警察に登録されていなかったり、警察のコンピューターと連携されていない場合は正常に機能しない様な工夫がされている為、それを偽装する為の専用の装置が存在する。


この装置は、インターネットを介して警察からの専用の信号を傍受して、それを検知器に入力する機能を持っているが、その仕様上、常にネットの環境を整えておかねばならなかった。そして、地下シェルターにはそれ用の地下ケーブルが敷設されていたのだが、それが切断されてしまっていたのである。結果、導術検知器はセーフティーが掛かって機能停止状態に陥ってしまったのだ。


(モニターの反応やこの警報は、恐らく腕輪が破壊された事を報せる物だな。導術検知器は、もう使えないだろう。モニターの表示が少しばかりおかしかったが…誤作動か?いや、そんな事、今は如何でも良いな。)


導術妨害腕輪の信号は、ネットを介さない物である為に正常に機能したが、肝心のコンピューターが一時的に落ちてしまったが為に、その信号を受け取って警報に変えるのが遅れてしまった。また、どう言う事かモニタの表示上では導術検知器が正常に機能しているとなっていたが為に、勘違いをして初動が更に遅れ、碌な対応が出来なくなってしまったのである。


(恐らく、何らかの手段を用いて人質達に作戦を伝え、機を見て停電させたんだな?そして、その停電の時に人質共は腕輪を破壊して、脱獄したんだろう…。クソ!加えて人質達を抑えておく為のガキにも逃げられるとは!あれ程油断するなと言ったのに!)


サキは心の中で部下に悪態を吐く。サキは、異常に気付くとすぐに、クロウリアを見張っている部下に連絡を入れた。しかし、その時には既に部下はクロウリアの攻撃で動けない状態になっており、更にクロウリアは通信機まで丁寧に破壊していた為、連絡が付かなかったのだ。


(ガキがもし逃げ出していなくても、恐らく行動は起こしただろうな。戦力で劣る俺達の自衛手段の為に、人質であるガキを無闇に殺せないと考えたんだろう…。小癪だが…正解だ。とにかく今は、逃げ出したガキを早く確保して、それをエサに釣り出して抵抗させずに返討ちにするか…ハイル殿の増援部隊の到着まで粘るしかない…か。)


もしも報復の為に今クロウリアを殺してしまえば、その時点で切り札の無くなったサキ達は完全に対抗手段を失ってしまう。それは下の下策であり、自分の命が一番で、尚且つ冷静なサキがそれをさせる筈も無かった。『大事な唯一の人質は、殺さないで利用するだろう』と踏んだ、コウガの読み通りにサキは行動していたのである。


(奴らめ…恐らく、態とスピーカーや監視カメラを壊していやがる…。此方の通信及び監視手段を減らしつつ、自分達への脅しすら碌に聞こえない事を態とらしく主張しているんだろう…。全く忌々しい!)


ベストな手段は、クロウリアを生きたまま確保して、それをコウガ達やアキト達に知らせ、大人しくする様に脅しをかける事である。しかし、監視カメラが破壊されては彼らの居場所も様子も分からず、スピーカーが壊されては此方の脅しが届かない。現状、解き放たれた猛獣達を抑え込むには、虎の子を先に捕らえて銃を突き付けつつ、周囲を警戒しながら牽制する他に安全な対抗手段は無い。


(あれから急ぎ他の動ける奴に、ガキの確保に行かせたが…。先に奴らに救出されていれば…アウトだ。彼奴らは、俺達程度の実力の奴が束になったとしても、絶対に抑えられない。他の奴らには悪いが…分の悪い賭けは乗らない主義だ。もしも最悪の事態に陥入ったとしても…彼奴らは良い囮になる。)


サキは、部下達をクロウリア確保に動かさせつつ、自身は外から来る増援の案内役という名目で先に脱出を図っていた。もしコウガ達が脱獄したなら、真っ先にクロウリアの救出に向かうだろう。なら、クロウリアを探す事は、コウガ達と鉢合わせになる可能性が高い危険な行動である。そんな危険な事を、自身の安全確保が第一であるサキがする筈が無かった。


(もし先にガキを確保出来たら、そのままガキを使って時間稼ぎをさせよう。少なくとも、俺が逃げ切るまでの時間位は稼いでくれよ?)


そんな事を考えていると、その思いが通じたのか、部下からクロウリア確保の報せが入って来た。サキはニヤリとほくそ笑むと、部下に尤もらしく指示し、出口に向かって慎重に歩いて行った。









(さて、ここまでは大方予想通り…。)


クロウリアを捕まえた男達が、警戒しながらある部屋の中に入って行くのを、息を潜めて影から見守る人物が居た。コウガである。


(リア…やはり捕まってしまった様ですね。)


停電になる事をアキト達から知らされた時、コウガはクロウリアが無茶をする可能性を考えた。それは正解であり、実際にクロウリアは無理矢理逃げようとして失敗してしまった。それでもクロウリアが殺されなかったのは、コウガ達が脱獄して襲い掛かって来ると言う状況であったが為だ。


(暗闇だけなら、リアは大得意ですからね。停電の事は伝えていませんでしたが、監視の反応を聴いて、判断したのですね。きっと上手く行くと思ったのでしょうが、やはり少々無茶でしたか。もし、あの警報の音が此処まで大きくなければ…リアなら上手く逃げられたでしょうか…。まあ、今更言っても仕方無いですね。)


クロウリアが暗闇の中でも不自由無く飛べる事は、コウガも良くわかっていた。それ故、停電に乗じてクロウリアが上手く逃げ出す可能性もあったが、楽観視はしない様にとコウガは心掛けていた。そしてそれもまた正解であった。騒音の中では、耳が良過ぎるクロウリアは上手く動けないからである。


(さて、あの部屋…確か地下シェルターの中でも、敵軍に攻め寄せられた非常時に、VIPを守る用にと設計された籠城用の区画ですね。侵入者を遮る罠の有る部屋と、その先に頑丈な壁で囲まれた避難部屋が有ると言っていましたかね。)


地下シェルターは、建前上導族からの襲撃に備えると言う名目で建てられている為、襲撃された時に立て籠もれる区画が存在する。其処には、VIPを守って立て籠もる場所として頑丈で分厚い壁に囲まれた避難区画と、そこに至る前に必ず通らねばならない罠の有る区画がある。普段は罠は起動しないが、部屋に立て籠もると罠が起動し、近寄る侵入者を迎撃する仕組みになっていた。


(と言う事は、恐らく外から増援が来るのでしょう。その為の時間稼ぎを狙っていますね。…なら、時間を掛けずに終わらせる迄の事。……嫁入り前の娘の顔を傷付けた罪、存分に償わせてやろう…!)


コウガは密かに闘志を漲らせ、厳つい顔を更に怖くする。愛する娘を傷付けた男達を、コウガは決して許さない。子供が見たら失神するであろう程の怒りのオーラを全身で発し、大の大人でも逃げ出す程の形相で壁の向こうの怨敵を睨んだ。


(さあ…行きますよ。シア!)

(は〜い!)


コウガの合図に、天井に逆さまに張り付いているアイビシアが、その鮮やかな真紅の大きな翼をゆっくりと、また力強く羽撃いた。


(支援は頼みましたよ。アキト君、カスミ先生!)


そして、コウガの手の内にて蠢く透明なスライムに、クロウリア救出作戦決行を伝え、スライムはウネウネと踊ってそれに応えた。








(う…く…。この…翼の音、お母…さん…?)


クロウリアは殴られた衝撃でふらつく頭を必死に保たせながら、周囲の状況を音で確認し続けていた。周囲はしっかりとした頑丈な壁で囲まれていたが、その中で微かに聞こえる聞き慣れた音の感覚から、母のアイビシアが近く迄来ている事を察する。コウガ達が脱獄してしまった現在、最早警報は逆に接近する音を聞こえなくするとして止めてしまった為、クロウリアにも聞き取れたのだ。


(くぅ…私…また…迷惑かけちゃった…。)


そして、逃走に失敗した事、それによってまたも両親に心配をかけさせてしまった事を察し、クロウリアは再び落ち込みそうになる。しかし、状況はそれを許さないので、クロウリアは気を取り直して両親の突入に備える。


(導術がまた使えなくなっちゃったから、余り良くわからないけど…。周囲には…八人程居るわね…。この部屋は…何かしら…?)


クロウリアは、広い部屋の入り口付近に置かれた椅子に、入り口の方向に向けて座らされ縛られていた。その背後に一人男が居り、その頭に銃口を突き付けていた。他の六人は扉の入り口の左右に半分づつ配置され、其々銃を構えていた。残りの一人は部屋の角に有る、外の監視カメラの映像を映すモニターを注意深く見ていた。


(この部屋に閉じ篭って、時間を稼ぐつもりかしら…?それとも、私を囮にお母さん達を罠に嵌める気かな?まあ、何にせよこの程度の人数なら、お父さん達には敵わないわね。)


クロウリアは、男達の意図が不可解であった。クロウリアを人質に出来たのだから、それを利用してコウガを牽制しつつ逃げる事が可能である筈なのに、周囲の男達はまるでコウガ達に対抗しようとしている様にも考えられた。それがサキの指示による事など、クロウリアには察する事は出来なかった。また、察する必要も無かった。


(まあ、良いわ。さて、お母さん達の邪魔をしない様に、上手い事動かないと。それに…この音は…下から?なるほど、そう言う事ね。わかったわ。)


クロウリアはとにかく両親の足手纏いにだけはならない様にと、自身を縛る縄や手錠、椅子の状態を確認しつつ、両親の突入合図を待った。今の自分に出来る事、ただそれだけに集中する事こそが、両親の一番の助けになると彼女はわかっていたのだ。そんなクロウリアを他所に、部屋の男達は話を始める。


「おい、本当に大丈夫なのか?」

「わからない。だが、サキ殿は増援を呼んだと言っていた。此処でその到着を待ち、挟み撃ちにして迎撃するのが一番効果的だともな。」


クロウリアは別の事に集中している為、その会話の内容を聞いていないが、聞かれていても構わないと言った姿勢である事は明らかだった。今更、偽装も何もあったものでは無かったからだ。


「コイツを人質にしている限り、コイツの両親は何処までも追い掛けてくる。かと言って、大事な人質を手放す訳にはいかない。ならば、背後を常に気にしながらの撤退戦より、人質を盾にして待ち伏せしながら増援を待つ籠城戦の方が隙が少ないし、より確実に相手を始末出来る…との事だそうだ。」

「…言いたい事はわかるが…。」

「…わかっている。サキ殿が信じられないのだろう?自分一人だけが上手く逃げ果せる為に、俺達を囮として捨て駒にした…ってな。」


一人の男が押し黙る。それは肯定を意味していた。そこに、別の仲間の男が口を差し挟んでくる。


「…今更後には引けないぜ。どの道、ガキの親共は此処で片付ける予定だったんだ。少しばかり予定が狂っちまったがな。」

「それにしたって、本来ならあの独房で導術も使えない所を悠々と遠距離から爆殺する筈が、こんな状況になっているってのはどうなんだ?…あの人が状況的に不利な事態に陥った時、どう対処する人なのかわかっているだろう?」

「ああ。だが、言っている事が的を得ていると言う事もまた事実だ。それに…此処で奴らを皆殺しにし、証拠を隠滅が出来なければ、俺達はいずれ奴らに追い詰められて捕まるか…または『あっち側』に消される。」


一人の男は、弱気な男を脅す様に説得する。しかし、それは怯える男には逆効果であった。


「な、なあ…今からでも遅くない、此奴を大人しく返して投降しないか?今なら奴らに殺されずに捕まるだけで済むかも知れない…。」

「何を馬鹿な事を…。俺達は奴の娘を盾にとり、あまつさえ奴を殺そうとしているんだぞ?どう考えても無事に捕まるだけでは済むまい。テロリストなんて、拷問されたって銃殺されたって文句が言えん立場なんだからな。」

「し…しかし、奴らを無事に倒せる保障も無い…。もしも無事に逃げ果せた所で、奴らに情報を与えてしまった俺達は、『あっち側』に殺されるかも知れない…。ならばいっそ奴らに情報を売って匿って貰う事は…。」

「『あっち』は政府内部の深くまで入り込んでいるって話だ!警察にだって協力者位は居るだろう!何時だって俺達を消す事は出来るんだ!匿って貰える場所なんて何処にも無いんだよ!」

「だけどよ…。そんな事言ったって今死んじまったら元も子も…。」


その先を男は言う事は出来なかった。四人のリーダー格の男の威嚇射撃により遮られてしまった為だ。クロウリアは突然の銃撃に一瞬驚いたが、それでも集中を切らさない。


「静かにしろ。そして襲撃に備えろ。悠長に文句を垂れる頭脳が有るなら、敵を倒す為の知恵を絞れ。」

「く…。」

「もし貴様が降参したければすれば良い。俺はそれを止めはしない。だが、お前がそれを行えば、奴らより先に俺がお前を殺す。それを良く肝に銘じて置け。」

「わ…わかりました…。」


リーダー格の男の一喝により、弱気な男は渋々引き下がる。進むも引くも地獄なら、より脱出の可能性の高い地獄を進む道を選ぶ他に選択肢は無い。


「俺の勘が正しければ、そろそろ奴らは仕掛けてくる筈だ。外で待ち構えているのなら、銃撃の音が奴らには聞こえたろう。人質が…愛娘が撃たれていないか心配だろうからな。…総員戦闘準備、敵の襲撃に備えよ。決して出過ぎるな、飽くまで時間稼ぎが目的だ。」

「もしも罠部屋を突破されたら…?」

「此奴を盾にして武装解除させ、その上で電気を消して銃撃する。急に暗闇の中に放り込まれれば、誰でも急には動けなくなる。娘の位置がわからなくなれば、此方への攻撃もし辛いだろう。此処に暗視ゴーグルは無いから、誤射だけには気を付けろ。罠部屋は余り広く無いから、撃ち漏らす可能性は低い。」

「りょ、了解です。」

「…と、言っている内に来たな?外の廊下に反応有りだ。」


リーダー格の男は静かに口角を上げると、他の男達の顔に緊張が走る。その時、部屋の外で爆音が鳴り響いた。罠部屋に仕掛けられた爆弾が爆発したのだ。続けて、動体センサー及び自動照準機能付き迎撃システムの重機関銃が、電動ノコギリの様な音を立てて、鉛色の殺意を絶え間無く吐き出す。


「鼠が引っかかったぞ!監視カメラは!外の様子はどうだ!」

「只今確認しています!……何⁉︎」


自動迎撃システムが一時停止し、爆煙が晴れた所をモニターで確認した男は驚いた。何故ならば、其処に映っていたのはコウガでもアイビシアでも無かった為だ。


「き…機械…?」


それは、機関銃に蜂の巣にされてボロボロになった、小型のラジコン模型自動車であった。


「罠を態と起動させたのか!」


リーダー格の男の叫びと同時に、監視カメラの映像が急に切断される。


「何が起きた⁉︎」

「監視カメラが何者かにより破壊されました!迎撃システムの機関銃も反応が有りません!」

「囮で罠やカメラの位置、迎撃可能範囲を確認し、範囲外から狙って破壊したか…!」


リーダー格の男は顔を顰めた。余り期待はしていなかったが、それでもいとも簡単に罠部屋を突破された事で、相手が強敵である事を再認識させられたのだ。


「クソ…罠は全て破壊された上、外の様子もわからない…か。仕方無い。少々危険だが、最後の手段だ。ガキを盾にして武装解除させ、奴らを殺す!」


リーダー格の男の指示により、仲間の男達は突撃銃を構え、壁に張り付く。リーダーはクロウリアの座る椅子の背後にて銃を構えて合図を出すと、部屋の頑丈な扉がゆっくりと横に開く。そしてそこには、大きな鋼鉄製の盾を持ったコウガが、世にも恐ろしい形相で突撃銃を片手に待ち構えていた。


「やあ、君達ですか。私達の大事な娘に、怪我させた奴らは。覚悟……出来てんだろうな?」


コウガの声は決して大きく無かった。しかし、その底冷えする様な殺意の篭った声は、数や武装で優位な筈の男達を圧倒する。それでも、リーダーの男は負けじと、クロウリアの背後に陣取り、彼女の頭に突撃銃を突き付けながら、威嚇する様に叫ぶ。


「それ以上は近付くな!さもなくば貴様の大事な娘の頭を吹き飛ばす!」

「出来ますかね?あなた達にとっては最後の人質ですよ?」

「出来るとも!どうせ貴様達に殺されるのなら、一人でも巻き添えにして、貴様らに一生消えない後悔を刻んでから死んでやる!」


リーダーの男は恐慌に陥ったフリをする。下手に刺激をすれば、自棄を起こすと脅しをかけたのだ。コウガはそれを知ってか知らずか、急に声色を穏やかな物へと変える。


「まあまあ、落ち着いて下さい。あなた達が私達の大事な娘にこれ以上の危害を加えず解放し、大人しく投降して下さるのであれば、私はあなた達を殺さないと誓いますよ。」

「し…信用出来るか!」

「では、どうすれば信じて頂けますか?」


コウガの質問に、リーダーの男は少しだけ嗤いながら宣言する。


「ならば銃を捨てろ!盾を置いて鎧を脱げ!腕輪を填め、両手を頭に付けて両膝を付け!そしてもう一人の女もお前と同じ状態にさせろ!そうしたら信用してやっても良い!」

「……本当ですね?嘘でしたら…只では置きませんよ?」

「ああ…約束だ。」


コウガは突撃銃や盾、鎧を脱いで床に置く。更に、後方で待機していたアイビシアを呼び、自身の背後に隠れる様にして座らせ、そして自分もまた同じ格好をする。相手の要求を全て呑んだ形である。


「……さあ、此方は貴方の言う通りにしました。次は貴方達の番ですよ。」

「ああ、そうだな。お前達に感謝する。」


そして、リーダーの男は仲間に対して頷くと、それを合図に電気が消える。その直後、コウガの催促への答えとして、銃弾の雨を注いだ。


「馬鹿め!貴様達の言う事を、俺達が大人しく聞くとでも思っていたのか!実力はあっても、想定が甘いのでは話にならん!勝てる相手にも勝てなくなるとその身に知れィ!」


男達は所持している突撃銃の弾を撃ち尽くすまで引き金を引き続けた。そして、弾が切れた所で、蜂の巣になったであろうコウガ達の様子を確認しようと電気を付け、絶句した。


「な…何だ…あれは…?」


男達が見た物、それは長方形の分厚い鉄の塊であった。そう、アキトの身を守った鉄塊である。鉄塊は全ての銃弾を受けても、まるでビクともしていなかった。


「奴は…何処に…。」


リーダーは呆気に取られたが、更に驚くべき事に気付く。盾としていた筈のクロウリアが、椅子ごと目の前から居なくなっていたのだ。


「ガキは何処だ⁉︎」


リーダーは余りの突然の出来事に驚くが、すぐに何が起きたのかわかる。目の前に、大きく深く、とても暗い穴が空いていたからだ。リーダーはすぐに今の事態を察し、青ざめる。


「…まさか…土導術で…。」

「ええ、その通りですよ。」


目の前の穴の中から聞こえて来る凶悪な声に、その場に居る全員に絶望が走った。そして、まるで地獄の蓋が開いて悪魔が出て来る様に、全身を黒甲冑に包んだコウガが穴の中から飛び出し、目の前のリーダーを突き飛ばして壁に勢い良くぶつけつつ、自身は綺麗に着地する。


「がはッ⁉︎貴様…ど、どうやって…。」

「……それをお前達が知る必要は無い。」


コウガの声には、先程よりも激しい怒りが感じられた。既に気圧されていた男達は、撃ち尽くしたマガジンを交換する事すら忘れて縮み上がる。


(に、逃げねば…!)


コウガ達が来る前に既に弱気になっていた男は、すぐに脱出を試みようとする。しかし、コウガが出て来た穴は、いつの間にか塞がれていた。部屋の外には、鉄塊の背後で無事であったアイビシアが、青い炎を身に纏って立っていた。最早完全に逃げ道は塞がれており、男達は所謂袋の中の『鼠』であった。


「私は…言った筈です。『嘘でしたら、只では置きませんよ』と。」

「い、いや、ま、まままま、待ってくれ!話せば…話せばわか…」

「では約束通り…あなた達を只では置きませんので。」


コウガは嗤っていた。世にも恐ろしい形相で嗤っていた。甲冑の為にその顔を見る事は出来ない筈なのだが、何故か男達にはそれが良くわかる。いや、わかりたく無くてもわかってしまう。


「覚悟は良いか?尤も、良くてもそうでなくても…俺には関係無いがな。」

「ヒイ⁉︎…た、助け…」

「愚か者共め。約束を破った者の言う事を、騙そうとした相手が聞くとでも思っているのか?例えどんなに悪知恵を働かせても、嵌める相手の力量を見誤る様では話にならん。」

「あ…ああ…。」

「大事な教え子を殺されそうになった教師の怒り、そして愛する娘を傷付けられた父の怒りを…その身に知れ。」


コウガは冷たく言い放った。その後、避難部屋からは人の言葉は聞こえて来なかった。その代わり、男達の悲鳴がサイレンの様に鳴り響いたのだった。








「これで良し…と。大丈夫ですか?痛みませんか?」

「うん、少し染みるけど、大丈夫。有難う、お兄さん。」

「どういたしまして。」


惨劇の行われている部屋の真下に、アキトとディア、そしてクロウリアが居た。クロウリアは既にアキトの手により拘束を解かれ、応急処置を受けていた。アキトの治療を受けたクロウリアは笑顔を見せ、アキトもまた笑顔になった。


「それにしても、先生…これはかなり激怒してますね…。」

「キュルキュル…。」

「あはは…お父さん、普段は本当に滅多に怒らないし、娘の贔屓目無しでもかなり甘い人だけど、その代わりに怒ると本気で怖いのよね…。」


上で続く惨劇の音を、流石に無視出来なくなったアキトが心配する。ディアは恐怖に震え、クロウリアも憂鬱そうだった。昔にこっ酷く怒られた事を思い出していたらしい。


「あの人達…大丈夫でしょうか?」

「キュウ…。」

「流石に…殺しはしない…筈。幾ら心底激怒していても、お父さんはその辺りの分別はしっかり弁えているから。ただ…あの人達は、死んだ方が増しって思う事にはなるかも…知れないわね。」

「あ、あはは…。」


アキトも、コウガの怒った姿を数回見た事があったが、それらとは比にならない位に今のコウガは激怒していた。余りの怒りっぷりに、シルバーナがこの場に居なくて良かったとアキトは思う。居たら確実に泣き出していただろう。


「そう言えばアキト兄さん、この子は?」

「ああ、リアちゃんはディアとは初めてでしたね。この子は地竜のディア、僕とルビィのペットの導物です。この穴を掘ったのもこの子なんですよ。」

「キュッキュ!」


何時迄も男達の悲鳴を聞いていられなかったアキト達は、現実逃避の為に自己紹介を始めた。


「へぇ…お兄さん導物使いを目指しているの?」

「ええと、目指すと言うか…僕はこの子が大好きで一緒に居たいから、その為の資格が欲しいと言う事ですかね。」

「キュイキュイ〜!」


ディアはアキトの言葉に嬉しそうに嘶き、アキトの顔を愛おしそうに舐める。アキトは甘えて来るディアの顎を優しく撫で、ディアは気持ち良さそうに為すがままにされていた。


「この子、すっごくアキト兄さんに懐いているのね。」

「ええ、本当に可愛いです。大好きですよ…ディア。」

「キュイッキュ!キュイッキュ!」


上で凄惨な事が起きているにも関わらず、アキト達は和む。或いは、その凄惨な事から目を背ける為だったのだろう。上から漏れて来る凄惨な音には一切触れず、会話を続ける。


「それにしても、お父さんの音が急に消えて、同時にお母さんの方から聞こえる音が微妙に変化した時は吃驚したわ?銃弾の音が、何か堅い物にぶつかっている感じがしたから、何か遮蔽物が出て来ている事はわかっていたけど…まさかお父さん自身は穴の下に居たなんて。」

「先生とは転移契約を結んでいるんですよ。だから、一瞬でこの穴の中に呼び寄せる事が出来たんです。」

「じゃあ、あの鉄の塊らしき物もお兄さんが?」

「ええ、先生から譲り受けた物で、僕があの場に送った物です。」


アキトは、コウガから様々な物を病院で譲り受けていた。ラジコンもその内の一つで、罠部屋への突入前に召喚して、コウガに銃や鎧と共に渡して置いたのだ。


「でも、あの一瞬でお父さんの召喚と鉄塊の転送を行うなんて凄いわ。普通はもう少し時間差が有る筈なのに、聞いた感じそれが全く無かったわ。」

「ああ、あれは先生からお借りした召喚術の指南書に書いてあった技術です。転移召喚に於ける特殊技術の一つで、『交差召喚』って言います。召喚と転送を同時に行う事で隙を無くす技なんですよ。」


転移召喚術は、離れた位置に在る物を手元に呼び寄せる『召喚』と、手元の物を陣に送る『転送』の二つの術が有る。しかし、別々の術として使う場合には、如何してもその二つの術の間に時間差が出来てしまう。その隙を無くす技術が、『交差召喚』である。


交差召喚はその名の通り、手元に有る物と、遠くに在る物の位置を交換する様にして召喚と転送を同時に行う技術である。かなりの練習と集中力を必要とする割には、元々二つの術の時間差が少ないために、減らせる隙はコンマ数秒そこそこ程度とそこまで大きく無いと言う、その意味では余り使えない技でもある。


この技の利点は、隙を減らせると言う所よりも、転送先に導陣を描く必要が無いと言う所が大きい。転移する物が存在出来るだけの空間さえ有れば、小さい物と大きい物を交換する事が可能である為、小さな石を空高くに放り上げ、そこで大きな岩と交換する事で土導術無しで落石攻撃が可能となったりするのだ。


アキトは今回、穴の下に鉄塊を召喚し、それとコウガを交換する様にして交差召喚を行う事で、敵の攻撃からコウガを召喚で回避させつつ、アイビシアの前には銃弾を防ぐ盾を転送したと言う形である。コウガの召喚と同時にコウガ用の鎧も一緒に召喚する事で、コウガの鎧着用も同時に行うなど、此処でもアキトは器用な術の使い方をしていた。


本来なら、敵の隙を見てコウガと導陣を描いた紙を交換する事でテロリスト本拠地への転送を可能とし、ヤクモやディアなどの実力者を送ってテロリストを殲滅する予定であったのだが、紆余曲折あって今の形となった。通常なら、教えられてすぐに会得出来る様な代物では無いのだが、転移召喚に天賦の才を持つアキトは、それを既にマスターしていた。コウガはそれを知ると、改めてアキトの才能に感嘆したと言う。


「そっか…じゃあ、アキト兄さんやディアちゃんはお父さんやお母さん、それに私の命の恩人だね。有難う。」

「いえいえ、僕は先生の作戦を手伝っただけですよ。」


今回の作戦は、コウガの提案に拠る物である。アイビシアの実力が有れば、八人程度のテロリストなど簡単に全員ウェルダンに出来るのだが、それでは導術が使えないコウガは要らず、クロウリアもまたタイミングを測って床に伏せたとしても、少しばかり火傷する危険がある。


「シアさんの攻撃では、リアちゃんも巻き込むかも知れないって事でしてね。」

「ええ、そうね。私はお母さんと同じで多少は炎にも耐性が有るし、火傷もすぐに治るけれど、確かにお母さんの炎導術を受けたいとは思えないわ。お母さんの炎導術は普通の人の比じゃ無いのよ。耐性が有っても、実際はかなりキツイわ…。」


そこで、コウガ自身を囮として活用して、敵の隙を引き出した上で、ディアの土導術で掘った穴でクロウリアを救出する作戦をコウガは提示した。話を聞いていたカスミの提案もあって、敵に一度勝機を見出させてから絶望の底に突き落とした後、約束を破った事や武装している事を口実に徹底的に痛め付けると言う、如何にも性格の悪い作戦と化し、それを聞いた時にアキトは苦笑いを浮かべた。


(まあ、先生も珍しく乗り気でしたし、直々に制裁を加えたいって言う事もあったのでしょうけれどね…。武装したテロリストが相手で、しかもカスミ先生の口利きで過剰防衛や拷問紛いの行為の事を不問にして貰えるとは言え…いえ、これ以上考えるのは止しましょう。)


アキトは少しだけ上の様子を伺う。最早、呻き声すら聞こえてこない。そこに地獄絵図が広がっているかと思うと気が滅入るので、再びアキトは現実逃避を行う事にする。


「と、とにかく、リアちゃんが軽い怪我で済んで良かったです。本当に心配しましたよ。」

「ふふ…有難う。お兄さんはやっぱり優しいね。こんな私の為に此処までしてくれるなんて。」

「何を言っているのですか。あなたは僕の大切な友達なんですよ?この位当然です。」

「えへへ…。」


クロウリアは本当に嬉しそうに笑った。テロリストの男に心無い仕打ちを受けた彼女は、気丈に振舞っては居ても、実は結構傷付いていたのだ。それ故に、アキトの言葉が本当に嬉しかった。それが演技でも何でも無い、アキトの本心であると言う事が、声を通してクロウリアには感じ取れたので、その喜びも一入であったのだ。


(この人の声を聞いていると、本当に安心するわ…。シルバーナ様がお兄さんに懸想するのも、わかる気がする…。)


盲目の導族である彼女は、家族以外から愛される事は殆ど無く、また本人もそれを半ば諦める形で受け容れていた。それでも愛する家族の迷惑にだけはならない様にと必死に頑張って来たが、それでも寂しさを感じない事は無かった。しかし、アキトと出会ってまだ一日も経ってはいない筈なのに、その寂しさが減って心が軽くなり、更に温かい物が溢れて来るのが彼女には感じられた。


(えへへ、友達かぁ…。まさか私に出来るなんて、思いもしなかったなぁ…。)


友達と言う言葉が彼女にはこそばゆく、思わず頬がにやけてしまう。アイビシアに見られたら、絶対に揶揄われるだろうと思ったが、笑みが溢れて仕方が無い。その顔を見て、アキトも嬉しそうに笑った。何処か無理して背伸びをしている様な少女の危うさが、少し減った様に見えて嬉しくなったのだ。


『お二人共、とても良い雰囲気の所、失礼しますわ。』

「うわ⁉︎カスミ先生、急に話に割こまないで下さいよ。」

『流石にこれ以上はシルバーナさんにお気の毒ですので、少々お節介を焼かせて頂きましたわ。それと、少し不味い事になるかも知れませんので、お願いをしに来ましたの。』

「不味い事?」

『ええ、出来れば早く脱出をお願いしたいのですわ。実はそのシェルターに仕掛…』


そこでアキトは、カスミの言いたい事がわかった。何故なら、シェルター内に非常に大きな爆音が鳴り響いたからである。

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