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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
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第14話

「これは一体…何のつもりだ⁉︎」


コウガ達との会話を終え、いざ学園長と交渉しようとシェルターの通信室に来たミキは、突然近くの部下達から銃を突きつけられて唖然としていた。そこに、一人の男が近付く。


「余計な事をして貰うと困るのだよ。オオカミ・ロウガとの交渉は、既に此方で済ませて有るのでな?貴様には此処で大人しくしていて貰いたいのだ。」

「サキ⁉︎お前がどうして此処に居る!時間稼ぎの為の囮部隊を指揮し、警察を撹乱しているのでは無かったのか⁉︎」


サキと呼ばれた男は、同志である筈のミキに対して、およそ仲間に向ける物とは思えない様な嘲り笑いを行う事により、それを答えとして返した。ミキはすぐに、自分が裏切られ嵌められた事に気付く。


「貴様……!」

「クク…漸く気付いたのか?」

「…何時からだ。いや、誰の差し金だ!」

「それを貴様が知って如何する?」


サキの言葉に、ミキは両手を上げたままゆっくりと近付く。


「答える気は無いと?」

「ああ、そうだな。」

「そうか……なら‼︎」


ミキは急に身体を屈めながら身体を回転、自身の背後から銃を突き付けている部下の銃を掴み、暴発しない様に奪い取る。そして、そのまま銃口をサキに向けると、それと同時にサキの部下達も一斉に銃口をミキに突き付ける。


「……今ので俺を撃てないとはな。腕が鈍っているんじゃ無いのか?」

「やれやれ…相変わらず見事な腕だが、シキと同じで少しばかり暴力的過ぎるな。少しはウキの奴を見習え。体を使うのも良いが、もう少し頭を使った方が良いぞ?」

「ぬう⁉︎」


ミキは奪った銃の重さから、弾倉に弾が入っていない事に気付く。自身に突き付けられていた銃は、ミキに奪われる事を想定していた物であったのだ。


「……隙を見せて俺に態々奪わせたのか。」

「クク…貴様の思考はわかっている。だから、予め弾を抜いた銃で脅させたんだよ。」

「俺の考えを…わかっているだと?」

「ああ、なにせ付き合いが長いからな。だが、貴様は俺の本当の思考を読めなかった…裏切っていたのをわからなかった。それが貴様の敗因だ。俺を…そして自分自身の心を信じ過ぎたな?正直者の愚か者め。」

「く…。」


ミキは悔しさに顔を歪めつつ、銃を床に置いて両手を上げる。サキの指示により、ミキはかつて部下だった者達により拘束された。拘束されながらも、ミキはサキを睨みつけながら、静かに問う。


「せめて、お前の目的くらいは聞かせろ。」

「聞けば答えると思うのか?優位な立場にあるこの俺が、勝ち誇って何もかもを得意げに話すとでも本気で思っているのか?残念ながら、そんな事はあり得んよ。だから貴様は駄目なんだよ。」

「…サキィイイイイ!」

「感情に任せ、俺を怒鳴るか?冷静な判断を捨てて、それで俺に勝てるとでも?貴様は、銃の腕は確かだが、自分の感情を上手く制御出来ていないな。自分すらも偽れない馬鹿正直め、だから他人を騙せないのだ。…連れて行け。」


サキの指示により、ミキは別の部屋へと連れて行かれる。その背中は、何処か寂しそうであった。ミキが出て行った後、サキの部下がサキに対して進言する。


「サキ殿。ミキ殿を口封じしなくて良いのですか?」

「お前も大概物騒だな。そう簡単に殺しをする物じゃあ無いぞ。もっとスマートに事を運べ。奴には、俺たちが犯した罪を、その死でもって償うと言う最期の仕事が残っている。この一連の茶番、悪役が居なければどうにも締まらんだろう?」

「ミキ殿が我々の罪を肩代わりするのですか?」

「ああ、そう言う手筈になっている。その為に、奴が事件の首謀者に見える様に仕立て上げて来たんだからな。奴が、人質を助けに来た捜査官と争って死んだ様に見せかける為にも、その準備の関係上、今は生きていた方が何かと都合が良いのだよ。」


サキは淡々と答える。裏切った事に対する感傷も無かった。長い事尽くした、『サカキ』に対する忠誠心は全く無く、ミキ達に見せていた仮面を外した彼には、理想も何も無い、ただの計算高い男の顔しか無かった。


「ところで、例の死体の準備は出来たか?」

「はい。闇ブローカーから適度な死体を調達、特定されない程度に細工した上で、服装や歯型の特徴を一致する様にしておきました。後は爆弾及び燃料と共に別の部屋に仕掛けておき、タイミングを見て爆破するのみです。」

「ご苦労。」

「検死結果は向こうが改竄する手筈と聞きましたが…。」

「余り相手を信用し過ぎるな。此方でやれる事をやって置いても、損は無い。」


サキは徐に歩き出す。部下もそれに追随する。


「これより罠にかかった鼠共から、人質をエサにして、必要な情報を聞き出す。その後は…わかっているな?俺達の存在を知る可能性の有る者は…誰であっても逃す訳にはいかない。」

「口封じはしっかりと…ですね。了解です。」


サキは、始めからアキト達を生かして返すつもりは無かった。紳士的な態度で人質の無事と解放を伝えて油断させた上で、逃げ場も遮蔽物も無い場所で、導術を使えなくした状態を保たせ、尚且つ不意打ちで武装した共犯達を襲撃させ、一気に仕留める予定であった。そして、コウガやアイビシアも殺害した上で、それら全てをミキの仕業にするつもりであった。


「黒い鳥のガキは如何しますか?殺しますか?」

「だから、そう簡単に物騒な事を言うな。何が有るかはわからんのだ。無事に逃げ切れるまでは、いざと言う時の為の人質として連れ回し、必要が無くなったら人体実験用モルモットとして“向こう”に高値で売り付ければ良い。子供だから、大人と比べ持ち運びも楽だし、抵抗も比較的少ない筈だ。言っておくが、呉々も足がつかない様に慎重にな。」

「心得ています。それでは。」

「気を付けろ。相手が子供だからと言って、油断はするな。」


部下は頷き、通信室の隣のクロウリアを閉じ込めている部屋に向かう。サキはそれを見送ると携帯を取り出し、何処かへと連絡する。


「…私です。はい…これより始めますので、部隊の突入準備をお願いします。必ず仕留めて下さいね?…ハイル殿。」


携帯を切ったサキは薄ら笑いを浮かべ、それに手を当てて抑える。これから会話するであろう、罠に掛かった鼠に、その命運を悟られない様にと、自らを完璧に騙して歩みを進めた。








(これは…不味いわね…。)


コウガ達との会話の際にわざと暴れた結果、大人しくするようにと殴られたクロウリアは、そのまま気絶した振りを続けていた。そして、その発達した聴力でサキ達の秘密の会話を盗み聴きしながら、情報を整理していた。


(始めから…あのミキとか言う人だけじゃ無くて、お兄さん達も罠に嵌めるつもりだったのね…。そして、お兄さん達も私達も、全員消すつもり…と。)


サキは昨晩、アキト達がムカイドの出処に関する情報を知っているかについて調べる様にと、莫大な金銭を対価として何者かにより依頼されていた。そこでサキは、かねてより計画していた病院襲撃計画を利用して、その裏でアキト達をこの場所に連れて来る計画を立てた。


(お父さんや、病院の罪の無い人達を利用するなんて…許せない!)


エミリオ達との戦いでコウガが負傷し、襲撃計画にあった病院に入院していると言う情報を得たサキは、コウガが入院している内に襲撃する様に、急ぎウキとシキを差し向けた。まずはウキが病院を襲撃して、コウガ達にそれを解決(ウキ達が失敗する事は織り込み済み)させ、続いてシキが襲撃して病院の患者を人質にコウガ達を投降させる。そしてコウガ達を人質にした所で、秘密裏にソヨカゼを派遣してアキト達に脅迫させたのだ。


(それにしても…本当に手が込んでる…と言うより回りくど過ぎるわね。幾ら自分達の本当の目的を隠す為とは言え、ここまでするなんて…。)


サキは、とにかく自分の本当の目的を世間、特にマスコミに勘繰られない様に気を付けた。あくまでも『サカキ』と言うテロリスト集団が、政府への要望を通す為に病院襲撃事件を起こし、人質を取って脅迫した形にしたかったのだ。そして、表向きには人質救出部隊による『サカキ』の壊滅と関係者全員の死亡をもって事件を終息させ、自分は死亡扱いとなって姿を眩まし、高額の報酬を受け取ってそのまま外国に高飛びする予定であった。


(でも…その為に仲間をも利用して…なんて卑劣なの!)


サキは、一部の部下以外には本当の事を伝えなかった。始めから切り捨てるつもりでいた為だ。ウキもシキも、本当の事は何も知らずに捕まり、『サカキ』の目的を世間に伝えさせる。コウガ達を人質にしてアキト達を連れて来たのも、要人である彼らを利用して、政府と学園長への圧力を増すために行ったと言う偽の証拠も捏造しておく。そして、救出部隊が来た時には既に、ミキの凶行により人質全員が殺害されており、逃亡しようとしたミキを部隊が射殺したと言う虚言を以って、計画は完遂される予定であった。


(とにかく、何とかしてお兄さん達に、これが罠だと伝えないと…友達だもんね。)


クロウリアは、自分自身や大切な両親の身の安全を省みず、アキト達の事を想う。将来、特殊部隊を志す彼女は、既にそれだけの覚悟があった。小さく未熟な身体でも、心は大人たろうと常に心がけて来た成果であった。


(もしも私が映像で映される事が有れば、その時がチャンス…と、誰か来たわね。)


部屋に入ってくる男の音に気付いたクロウリアは、極力動かない様にして気絶している振りをする。すると、部屋に入って来た男は、彼女が気絶していると思い、思い切り蹴って起こそうとする。


「がはッ⁉︎ゲホッゲホッ!」

「起きろ!半導人の気色悪い化物が!」

「うぐ、ふえ…怖い…痛いよう…。」


クロウリアはお腹の痛みと恐怖に泣き出す。その様子を見た男は更に苛立つ。


「ハッ!泣けば手心を加えると思うか?混血だろうと…化物なんかに人権は無ぇ!」

「がはッ⁉︎」


再びクロウリアはお腹を思い切り蹴り上げられる。小さな体が宙を舞い、地面に落ちて転がる。


「オラ!これ以上痛い目見たく無ければ、大人しく言う事を聞け!」

「わ…わかり…ました…。わかりましたから…もう蹴らないでぇ…!」


クロウリアは必死に懇願する振りをする。


(大した事の無い、貧弱な蹴りね。威力はお母さんの本気の蹴りの何分の一位かしら?もっと鍛えた方が良いわよ。)


クロウリアを痛めつけて満足した男は、クロウリアの黒く美しい髪を掴んで持ち上げる。


「あ…ああ…。」

「良い顔だ。だが、少し涙が邪魔だから泣き止め。良いか?これから、お前達を助けに来た奴らと、俺の上司が交渉する。その際、人質であるお前達の無事な姿を見させろと要求が有るかも知れん。交渉の為に必要と有れば、お前の姿をモニターに映す事になるが…呉々も余計な事を喋るなよ?」

「はい…わかり…ました…。」

「フン!さっきの勢いが形無しだな?化物が調子に乗るからだ。いい気味だな。」


男は乱暴にクロウリアの顔を拭くと、そのままコンクリートの床に叩き付ける。そして銃を構え、クロウリアを狙う。


「あうッ‼︎」

「目が見えないお前の為に説明してやろう。俺は今、お前の背後に立って銃でお前の頭を狙っている。下手な事を喋れば…頭が吹き飛ぶと知れ。」

「ひっ⁉︎」

「死にたく無ければ…良いな?」

「は…はい…。」


男はサキに指示された通り、銃でクロウリアを脅す。人質にする予定である為、殺す気は全く無い。だが、それを伝えては図に乗る可能性が有る。故に男はクロウリアに暴力を振るい、脅迫する。素直に言う事を聞かせる為だ。目論見通りにしおらしくなり、言葉に素直に従うクロウリアを見て、男はほくそ笑む。


(良し…これでもう此奴は俺の言いなりだな。後は鼠に此奴を確認させた後、脅して移動させるだけだ。簡単な仕事だぜ。)

(私を人質として連れて行くって会話、ちゃんと聞こえていたわよ?お馬鹿さん。全てがあなた達の目論見通りに行くと…思わない事ね。)


クロウリアは悲愴な顔を男に見せ、相手の油断を誘いながら、心の中の炎を激しく燃え上がらせていた。









(どういう事ですか?学園長先生に脅迫するのなら、何故アキト君達を呼ぶ必要が有るのですか?)


アキト達とのモニター越しの会話を終えたコウガは、独房の中で疑念を膨らませる。ミキの言っていた事との食い違いに引っかかっていたのだ。ミキは、コウガ達を人質として学園長に脅迫すると言っていたが、アキト達を連れて来るとは言わなかった。更に、連れて来るメリットが見出せなかった。


(狙いは学園長だけでは無いのですか?アキト君達、特にシルバーナ様の様な貴族の方を人質とするのは、事が大きくなり過ぎます。人質救出部隊だってより強力なそれが組まれますし、要望が通る前に潰されるリスクが高くなるのに…。学園長を脅すなら、私達だけで充分な筈なのですが…。)


事態が大きくなれば、救出部隊もより強力な物が組まれる。シルバーナの様に、緊張関係にある国の貴族令嬢などを人質とすれば、それこそ強力な導術使いで構成された特殊部隊への援助要請も出る可能性が高い。もしそうなれば、政府への脅迫が通る前に、アキト達を救出される可能性も高くなってしまうのだ。


(だとすると…リアから伝えられた通り、ミキとか言う方は仲間から裏切られて…。ミキと言う方の言っていた事は、本人の意思に関わらず、結果的には信用出来ないと言う事ですね。だから、早く逃げろとリアは言っていたのですか。となると狙いは…?)


コウガは、アキトの発した言葉を考える。


(『アキト君とシルバーナ様にヤクモさん』、それに『黒尽くめの青年』…ですか。そう言えばアキト君は、その青年がエミリオを救い出す際に、機械化ムカイドの頭を回収して行ったと言ってましたね…。)


コウガは、アキトが発した言葉に、何かヒントを隠していると考えていた。アキトの言葉が、変に具体的であった為だ。アキトがヤクモへの注目を逸らさせる為に態とらしく叫んでいたのはコウガにはわかったが、何の意味も無く叫ぶ内容にしては余りに怪しかった為だ。


(…そうです。件の青年がムカイドを回収した時に、その場面を見たのは、確か『ヤクモさんとアキト君とシルバーナ様』だったですね。学園長はムカイドに操られた方を追いましたが、結局ムカイドには逃げられた後でしたし、となると……そう言う事ですか。してやられましたね。)


コウガも敵の真の狙いが『機械化ムカイド関連の情報』であると、アキトと近い結論に辿り着く。そして、続けてヤクモの動きからそこに隠された暗号を読み取る。


(ヤクモさんの動きは、喉を抑える…『水を飲む』、親指を立てる…『スイッチ』?…ああ、なるほど。じゃあ、此方も準備をしませんとね。)


コウガはアイビシアとの恥ずかしい会話を再び開始する。途中で独房内に備え付けの水道で水を飲み、アイビシアに独房を脱出するタイミングを伝える。


(さて…敵方の中に裏切者が居て、尚且つ私達の味方でないのなら、リアの扱いも如何なるか分かりませんね…。ですが、相手が分裂してくれるのは此方としては好都合です。それに、恐らく敵方の裏切り者は、ミキとか言う方に濡れ衣を着せるつもりでしょうね。なら、本人達は此処から無事に脱出したいと考えている訳です。)


コウガは、相手のやり口から、相手の裏切り者は切れ者だが、自分本位な人物だろうと予測する。そして、危険を前にすれば、自分が助かる為の最善の行動をするだろうと考える。


(私達も、此処でじっとしているだけではいけませんね。奴らはリアを盾にして、色々と知っている私達も口封じする気かも知れませんし。…ならば、逆に私達が脅威となると知れば、リアを人質に取る必要性に駆られ、リアは滅多には殺されない筈…。)


コウガは愛する娘を助け出す為に、静かな闘志を燃やした。その姿を見て、アイビシアはまたもウットリとするのであった。








「おい!どう言う事だ貴様‼︎」

「あう⁉︎」


男の渾身の拳がクロウリアの華奢で軽い身体に炸裂するタイミングに合わせ、勢い良く背後へと自ら吹き飛んだクロウリアは、翼で壁に後ろ受身を取って衝撃を殺しつつ、大きなダメージを負ったフリをする。


「ご…ごべ…ごべんなざ…。」

「五月蝿い黙れェ!」


男の脚がしゃがんでいるクロウリアの頭を蹴り上げる。そこで、クロウリアはまたタイミングを計って上に顔を上げる事で、蹴りの威力を極力軽減しつつ、痛さを表現する為に顔を押さえて床に倒れこむ。


「が…ああ…。」

「俺は言ったよなぁ?余計な事を言えば頭を吹き飛ばすってなぁ?一体、何を言おうとしたんだ?言ってみろ!オラァ!」


そして男はクロウリアの頭を勢い良く踏み付ける。流石に避けられないので、クロウリアは腕を使って頭を防御し、耐える。


「や…止めて…痛い…。」

「止めて欲しいんなら素直に言え!」

「わ…わかった…から…止めてぇ…。」

「チィ!」


男は舌打ちしつつ、踏み付けた足を退けてクロウリアの服の襟を掴み、そのまま持ち上げる。そして彼女のこめかみに拳銃を突き付ける。


「さあ、言ってみろ!」

「お…兄さん達…は…大切な…お友達なの…。だから…だから…ここは危険だって…。」

「どうして危険だと思った?彼奴らが此方との交渉に応じれば、お前と一緒に無事に返すと言っただろうが!お前が余計な事を言った所為で交渉が決裂したら、どう責任を取るつもりだ!」

「ご…ごめんなさい…許して…。一杯一杯で…頭が…真っ白で…。でも…お兄さん達は…大切な友達だから…だからぁ…。」


クロウリアは、男の嘘に対して文句の一つでも言いたかったが、我慢して演技を続ける。と、そこでサキから連絡が入る。交渉の目処が立った為、作戦を次の段階に進めるとの事だった。男はそれを聞いて一先ず安心し、クロウリアを床に投げ捨てる。クロウリアはさり気なく華麗な受け身を取る。


「…幸い、交渉は成立したそうだ。命拾いしたな?だが、また何か怪しい動きを見せれば、今度こそお前の頭を吹き飛ばすからな!良く覚えておけ!」

「…はい…すみまぜん…。」

「わかったらさっさと起きろ!そして俺の指示する通りに歩け!もたもたするな!銃は何時でも撃てる状態だからな?撃たれたく無ければ早くしろ!」


男の催促に、クロウリアは恐怖で竦む足を押さえ、やっとの事で立ち上がるフリをする。男は益々苛立つが、此処で怒って更にクロウリアの足が竦むと、動きが鈍くなり移動に時間が掛かると考え、怒りを抑える。


(少しやり過ぎたか?化物とは言え、所詮はガキだからな。これ以上脅すのは、萎縮させ過ぎで動きが鈍くなり、却って面倒か…。)

(あのヤクモさん達が、何の策も無しに来てるって事は無さそうだし、それまで何とか時間稼ぎしないとね。さて…どうにかお母さん達と合流しないと。何か上手い方法は無いかしら?)


クロウリアは怖がるフリをしつつ、覚束ない足取りで歩き始める。


「ねぇ…お母さんは…?お父さんは…?解放…してくれるんでしょ…?」

「ああ、勿論だとも。だが、お前の態度次第でどうなるかわからないぞ?」

「そ…そんな…。」

「わかったらさっさと歩け!」


男が怒鳴ると、再びクロウリアは蹲り、恐怖で動けない事を主張する。


「ど…怒鳴らない…でぇ…。グスッ、お母さん…お父さんに会いたいよぅ…。」

「ええい!鬱陶しい!黙れ黙れ黙れェ‼︎」


そして、めそめそと泣き出した結果、男を盛大に怒らせる。男は銃を天井目掛け発砲し、威嚇する。クロウリアは耳を塞いで、怯えて震えるフリをする。男は、これ以上怒った所で意味は無いと思い、自身の憂さ晴らし及び任務を兼ねた罰を与えようと考える。


(さて…この苛立ち、どうしてくれようか。…そうだ!このクソガキの目の前で両親を殺し、その断末魔を聞かせよう。そして『これはお前の所為だ!お前が言う事を聞かないからお前の両親は死んだんだ!』と責めてやる!その後、絶望のどん底に落としたままブン殴り、気絶させて持ち運べば良い…俺の手を煩わせた事、思いっきり後悔させてやるぞ!)


どの道、コウガ夫妻は殺すつもりであった。なので、コウガ達にはクロウリアを盾にする事で、コウガ達からの抵抗を防ぎつつ彼らを射殺、その音を聞かせる事でクロウリアへの懲罰としようと考えたのだ。


「良し…わかった。いいか?大人しく泣き止めば、お前を両親の所へ連れて行く。」

「本当⁉︎」

「ああ…本当だとも。わかったら早く立って歩け。グズグズしていると、俺の気が変わっちまうぞ?」

「ちょっと待って!今動くから!」


クロウリアは心から嬉しそうな声で喜ぶ。その足取りは急にしっかりとし、如何にも早く両親に会いたいという気持ちが現れていた。その様子を見て男は、クロウリアに聞こえない様に小さく嘲笑する。


(フフ…そうだ、もっと喜ぶが良い。喜ぶ程、希望が見える程、期待が高まる程に、それが絶望へと変わった時の落差が酷くなるからな。茫然自失になるか?精神に異常を来すか?どうなってしまうか、今から愉しみだ。クククク…。)

(ーーとか何とか思っているんでしょうね。気持ち悪い笑い声が漏れてるわよ?この変態サディスト!ま、こっちとしても願ったり叶ったりだから、別に良いんだけどね。)


男もクロウリアも笑顏であった。その何方もがとても白々しく、歪な笑みであった。








「良し。取り敢えず必要な情報は得られた。あとは報告してズラかるだけだ。」


アキト達との会話を終えたサキは、作戦が着々と進んで行っている事に満足していた。


「しかし、彼奴らが全く知らないと言うのも意外だったな。嘘発見機は正常に機能していたし、俺の目から見ても嘘を吐いている様子は無かったから、恐らく大丈夫だとは思うが。」


サキに調査を依頼したクライアントは、アキト達が機械化ムカイドの出処を知っているか、また知っていたなら何処までその情報が拡散しているかについて知りたがっていた。結果、アキト達は『全く知らない』と言う結論に達し、それは果たして正解であったが、その拍子抜けな結果にサキは少し訝しむ。


(あの方は詳しい事は何も話しちゃくれなかったが、ムカイドの事が彼奴らにバレたかも知れないと踏んだからこそ、その調査を俺に頼んだんだよな?だとしたら…それは一昨日の事件と関係が有ると言う事か。)


サキは、アキト達の状況から、何故自分にこのような任務が与えられたのか考察する。これはサキの癖であり、クライアントから不明瞭な意図の指示が下されても、その指示の示す事から推察し、それを発した者が何故それを指示する事になったのかについて知ろうとするのである。そして、どう言う結果が求められているのかについてのアタリを付け、それに沿う様に言葉を選ぶ事を心掛けていた。


(察するに、一昨日のフェルミ公爵襲撃事件に、機械化ムカイドが利用されたんだな?それで、その事件に関わった彼奴らが、実際にムカイドやその使用者を捕まえたか拷問したかして、何か知ってしまったのではと疑いを掛けた…と言った所か。)


サキは、少しずつその背景を理解して行く。それまでは、作戦の準備に余念が無かった為に深く考える事は無かったが、目的が一応達成された為、それを考える余裕が出来たのだ。


(だとすると、ただ『彼奴らは何も知りませんでした』と言った所で、信じて貰えるか疑問…か。かなり切迫していた様だったから、恐らく何かあったんだろう。それの原因の解明を求めているのなら、その容疑者候補が数人消えた所で、問題自体は解決しないからな…。)


サキの推察は的を得ていた。サキに命じられた指示はつまる所、機械化ムカイドの出処へ『スパイ』を送り込んだ犯人の捜索であったのだ。なので、本当に欲しい情報は『アキト達は犯人では無い』と言う情報では無く、『誰が犯人であるか』であった。


(なら…本当に彼奴らが出処の情報を掴んでいた事にし、更にその情報は拡散していないとすれば…。彼奴らを犯人に仕立て上げた上で始末、それを俺の手柄として報告すれば…報酬も増えるかも知れないな…。)


サキは、相手の喜ぶ答えを提示する事で、自らの利益を最大化する事を狙う。アキト達は実際には機械化ムカイドの出処については何も知らない。よってその情報が拡散などし得ない。ならば、アキト達を『犯人』に仕立て上げ、尚且つ情報が拡散する前に『処理』したとすれば、クライアントも大いに喜び、報酬も弾むだろうと打算的に考えたのだ。


(問題は、真犯人が誰かだが…。犯人が複数、しかも其々別々のルートでクライアントの所を嗅ぎ付けたと言う事にすれば、彼奴らを犯人に仕立てても齟齬は無い筈。俺はそのルートの一つ、複数の犯人の内の何人かを『処理』したと言う手柄を得られる訳だな。奴らはもう袋の鼠、導術も使えず、人質も居る…処理する事など簡単だ。クククク…報酬がどれだけ増えるか楽しみだ。)


サキの予想は希望的観測ではあったが、その一部は的を得ていた。確かに、真犯人ことキツネは、別ルートで入手した情報を元にスパイを送り込んでいたからだ。ただし、サキの前提は一部、間違っていた。


「良し、ならば善は急げだ。今頃、部隊が部屋に突入して来ている筈だな。彼奴らが無事に始末出来たのを見届けたら…後はガキを連れて逃げて…な⁉︎」


サキは驚く。何の前触れも無く、突然部屋が暗くなった為だ。


(電気を消された⁉︎おいおい、幾ら突入時には暗い方が撹乱し易いからと言って…幾ら何でもこいつはやり過ぎじゃ…。このシェルター全体の電気が止まってるんじゃ…?)


そして、暫し経ってシェルターの電源が非常電源に切り替わった時、けたたましいサイレンが鳴り響いた。導術検知機の警報であった。


「何だ⁉︎部隊の奴ら、導術を封じた奴ら相手に導術を使ったのか⁉︎」


サキはすぐに検知機を確認する。確かに、アキト達のいた場所から反応があった。しかし、反応はそれだけでは無かった。


「独房から…反応有りだと⁉︎」


サキは絶句する。そして気付く。導術検知機のサイレンに掻き消されていたが、導術妨害腕輪が破壊された時に発する信号が送られて来ていたと言う事に。そう、サキの前提の間違いとは、『アキト達を簡単に始末出来る』と踏んだ事であったのだ。








「うお⁉︎何だ!停電か?何も見え…がはっ⁉︎」


クロウリアを連れてコウガ達の元へと歩き出そうとしていた男は、急に辺りの電気が真っ暗になった事に動揺し、次の瞬間に股間に走る激痛に悶え苦しんだ。クロウリアが男の大事なソレを思い切り蹴り上げたのだ。


「甚振ってくれたお返しよ。」


クロウリアは鳥型導族である為、脚力は元々強く、また普段から鍛えている為に、見た目からは想像もつかない様な強烈な蹴りであった。しかも狙う所は男にとっては鍛え難い急所である。大人の男性が悶絶して動けなくなるには充分過ぎていた。


(良し!後は…。)


クロウリアは男の通信機を踏み潰して銃を取り上げ、手錠の鍵を探し当てて手錠を外して導術が使える様にすると、コウガ達の居る独房に向けて急ぎ飛ぼうとする。しかし、準備を終えるのに時間をかけ過ぎてしまい、飛ぼうとした時には非常電源が復旧し、導術を検知した事による大きなサイレンの音が鳴り響く。堪らずクロウリアは耳を抑えて蹲る。


「く…五月蝿い…。耳が…痛い…。」


クロウリアの耳は非常に良い。故に暗闇の中であろうと、超音波の反射音を頼りに平然と飛ぶ事が可能であるが、逆に騒音の中は非常に苦手であった。


「お父さん達の…声が…聞こえない…!」


音を頼りにするクロウリアにとっては、騒音の中こそが暗闇である。進むべき方向もわからず、急な不安に駆られる。


「早く…逃げれば…良かった…。兎に角…何とか…此処を離れないと…!」


クロウリアの近くには悶絶している男が居る。今はまだ動けないが、その内復活してクロウリアに復讐してくるのは必至であった。そうで無くても、男の仲間と出くわせば如何なるかわからない。


「お父さん…お母さん…。」


クロウリアは壁伝いに歩き出す。不安を必死に押し隠しながら、ひたすら前へゆっくり進む。しかし、クロウリアが道の角を曲がった所で、その不安は現実の物となる。


「おい!居たぞ!」

「しまった…見つかった…!」


男の仲間に見つかってしまったのだ。男達はクロウリアに走って近付くと銃床で思い切り殴り飛ばす。


「がはッ‼︎」


騒音の中で動きが鈍っていたクロウリアは、今度は上手く避けられずに真面にその一撃を貰ってしまう。脳震盪を起こしてしまったクロウリアは、力無くその場でへたり込む。


「おい!今は殺すな!此奴の両親の導術使いが暴れているらしい!人質にしろ!」

「チィ!仕方無い!」


その男達は全部で四人、サキの指示によりクロウリアを人質として確保しに来た者達だった。悶絶している男を仲間の一人が手を貸して立たせ、一人はサキに連絡して指示を仰ぎ、一人はクロウリアを縛って担ぎ上げる。最後の一人は油断無く辺りを見回し、コウガ達が来ていない事を確認する。


「良し、サキ殿からの指示だ。このまま此奴を盾にして、罠の有る部屋まで誘導する!暴れ回っている猛獣共に、一泡吹かせてやるぞ!」

「「「了解!」」」


悶絶していた男も何とか動ける様になり、仲間から渡された銃で取り敢えずクロウリアを思い切り殴る。


「こんのクソガキが!お前の両親を、お前の目に前で蜂の巣にしてやるからな‼︎」

「うぐ…ああ…。」


男は顔から血を流すクロウリアの無様な姿を見て溜飲を下げ、銃を手に周辺を警戒する。


(お父さん…お母さん…お兄さん…早く逃げて…。)


混濁する意識の中、クロウリアは大好きな両親と友人の無事だけを祈っていた。

今回の話は、時系列が飛び飛びなっているのでわかりにくいです。一応まとめると以下になります。


最初のミキとサキの場面…アキト達がシェルターにやって来る直前。


独房内のコウガの場面と嬲られるクロウリアの場面…それぞれアキト達と画面越しに話した直後。


サキの考察する場面…アキト達との会話を終えた直後〜停電。(前回は此処まで。)


クロウリアの反撃から再び捕まる場面…停電〜停電復旧直後。(前回の最後の少し後。)

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