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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
76/132

第13話

「さ、着いたよ。」

「此処ですか…。」


アキト達を乗せた車は、ソコネ県と他県との県境辺りに有る山の入り口近くに来た。近くには殆ど家は無く、またその少ない建物も皆、誰も住んでいない廃屋であったため、人の気配が全く感じられなかった。


「この山中に、かつて人族と導族との間で戦争が起きた時に、緊急避難場所として造られた地下シェルターが有るんだ。僕の仲間はそこに居る。君達の大事な人達もね。」

「…地下シェルターですか。」


導族と人族との戦争が勃発した当時、ヨミ国は人族国家連合からの支援要請を金銭的支援のみに留め、戦争への直接的な介入は極力避けていた。その為、導族国家群から直接的に攻撃される対象になる事を回避出来たのだが、やはりヨミ国人も人族である為、目の敵にされ攻撃を受ける可能性はあった。


「戦時中に、ヨミ国のあちらこちらに建設されたと教わりましたが…こんな場所にもあったんですね。」


その為、敵の攻撃から身を守る為のシェルターをヨミ国中の辺鄙な山の中に造り、導族国家からの攻撃に備えた。休戦後も、導族と人族との間の緊張は続いていた為、有事の際に必要と、シェルターを潰す事無く更に増設し、それを国が管理しているのである。


「本来は国が管理している筈なんですが…まさか誘拐犯に利用されているなんて…。」

「アキト様は御存知有りませんでしたか。実は、こう言ったハコモノを大量に造ったのは良いのですが、数が多過ぎて管理費用が馬鹿にならない事や、杜撰な管理の仕方もあって、実際にはかなりの数の地下シェルターが国の管理を離れているのですよ。」

「これもその内の一つ…と言う訳ですか。」


本来人を守る為の設備が、誘拐犯の悪事に利用されていると言う事に、アキトは遣る瀬無い気持ちになる。


「不必要なまでに大量のシェルターをわざわざ造って、しかも官製談合は当り前。不正に補助金を取得したり手抜き工事したりと、当時の土建業者はかなり儲けたらしいですよ?その方達と内密な関係にあった議員の方達も…ですね。」

「ニュースなどで聞いた事は…有りますが…。」

「そしてシェルターの管理維持費用は勿論ピンハネ、管理業者は架空の物ばかりで実態は殆ど放置。中には様々な暴力団体にシェルターを秘密裏に横流しをして、不正で莫大な利益を得た者もいらっしゃると聞きます。恐らく此処も、その様にして悪漢の手に渡った物でしょうね。」

「ははは…はぁ…。」

「却ってテロリストが使っている方が、掃除や修繕が行き届いた綺麗なままのシェルターであったり、設備が寧ろ上質な物となっている事も多々有ります。そう言った物を狙って摘発する事で、その設備を回収して横流しして更なる利益を上げようとした、かなり強かな方もいらっしゃいましたね。」

「もう…何も言えません…。」


必死に真っ当なお金を稼ごうと頑張っているアキトは、虚ろな目で青い空を見上げた。テロリストすら利用して利益を上げようとする人間の強欲さに、同じ強欲な人間としての格の違いを見せつけられたアキトは、唯々呆れて頭を抑え、近くの木に寄りかかる。


「どこの国にも…そう言った問題は有るのですね。」

「アビス王国にも有るんですか?」


アキトが頭を抑えていると、隣からやはり呆れた声が聞こえて来た。シルバーナであった。


「…はい。お爺様が良く仰っていらっしゃったのです。『新参の大工を潰しながら、壊れ易い昔の建物を造る者達が居る』と。」


アビス王国では、土導術や木導術による建築が主流である。通常の建築と違い、建造物は容易に造れる上、修理も簡単に済む為、アビス王国では家は比較的安い買い物である。しかし反面、それを生業とする者達にしてみれば、利益を上げにくい仕事であった。


「人族…特にヨミ国との交流で導術が生まれ、導術を学べる者達が増えた結果、土導術使いが多く現れました。そして、同じくヨミ国から輸入された壊れにくい『合理的な建築方法』が普及するにつれ、『安くて丈夫な建築物』が多く造られる様になったのです。そうなると…。」

「行き過ぎた価格競争…ですか。競争相手は多く、常に安さで勝負するしかない…かと言って長持ちする建造物ばかりで、修繕費も余り取れない…と。」


かつてのアビス王国では、建造物は『ただ建てていた』だけであった。直すのも簡単であった為、『壊れても直せば良い』と言う考えの元、より『奇抜』なデザインが持て囃され、構造力学も何も考えない脆い建築物が造られていた。それ故、ちょっとした事で度々壊れてはそれをまた直し、その費用を受け取る事で利益を得て来たのである。


「先王は生前、人族の…特にヨミ国式の頑丈な建築方式をアビス王国に積極的に広めておられました。それまでは、此方に転移してから頻発する様になった軽い地震などの衝撃でも、耐久力不足で家屋が倒壊し、幼な子が亡くなる事件が多発していましたから。それを先王は嘆かれ、より強固な構造を持つ建築物を造れる、人族のそれを推奨なさったのです。」

「それは、素晴らしいお考えですね。」

「はい。しかも『直す』頻度が格段に少なくなったので、修繕の経費や手間が軽減が出来ると、公共の建造物などの多くに取り入れられました。実際にかなりの経費節約に貢献したそうです。」

「節約…それは大事ですね。」

「ええ。しかしその結果、それまでその仕事をしていた方達への報酬は…かなり目減りしたそうです。すると、それに対して反発する方達が現れる様になったのです。」


アビス王国でも、やはり公共事業へは多くの税金が投入されている。そして、大きなお金が動く所にはやはり、それに癒着する輩が出て来るのは必然であった。


「…先王は人族の方式を推奨はしましたが、それを強制はせず、罰則も制定なさいませんでした。『アビス王国の伝統的な建築もまた良い所が有る』と、共存を望まれた為です。ですので、それを良い事に人族の建築方式を排斥しようとする方が…。表立っては行動していませんでしたが、裏ではかなり色々と動いているそうです。」

「それは…何と言って良いのやら…。」

「それに、新しく土導術を習得した方が安く建築を行おうとすれば、その方を脅迫したり買収したりなさったそうです。お爺様は管轄する領地では、その様な行為を行った者に対しては厳罰に処して居るのですが、全てを取り締まる事は難しいとの事で…。」


シルバーナは伏目勝ちになり、握られた拳が更に強く握られる。


「命は…お金には代えられないのに…同じ導族として恥ずかしいです!」

「幾ら生活基盤を守る為とは言え、確かにやり過ぎな気はしますね。」

「先王はその様にして不利益を被った方に対して補助金を出されました!食べるのに困る事は無かった筈なのです!なのに…。」


ヨミ国式の建築方式に特に強く反対していたのは、導族の建築で今まで過剰に儲けてきた貴族を始めとする、大工の組織であった。それまでは市場を殆ど独占状態であったのだが、新規参入し易くなった事と新たな建築方式の導入で、今まで通りの利益を上げられない状態になった事を不平に思い、利益を取り戻そうと行動を起こしたのである。


「それは…確かに…酷いですね…。」


それまでのやり方で利益を上げて来た者達は、時代の変化を望まない。それはアキトにも理解出来るが、命の安全を蔑ろにしてまで利益を得ようとするやり方は、到底容認は出来なかった。


「導族の全てが、その様な考えを持つ方達では無いのですが…。」

「わかっていますよ、ルビィ。人族も導族も変わりません。良い方も居れば悪い方も居ると言う事です。そんな事で導族を嫌いになったりはしませんよ。」

「はい…有難うございます。」


シルバーナは力無く笑顔を作った。その様子を見たアキトは、優しく微笑みかける。


「いえいえ、さっきも言った様に、この国も似た様な状況なのです。他人の事なんて言えた義理じゃ有りません。僕も決してあなたを嫌いになったりしませんから、あなたも人族の事、嫌いになったりしないで下さいね?」

「はい!当前です!」

「有難う…ルビィ。」


アキトは膝を着いてシルバーナに目線を合わせながら抱き締め、シルバーナは赤面しつつ抱き返した。シルバーナはアキトの温もりを全身で感じて、夢見心地で恍惚とした。


「…現代社会が抱える問題に関する講義はその位にして、そろそろ行かない?それとも、もっとイチャイチャしていたいの?人質が居るって事、まさか忘れてないよね?」

「はうえあ⁉︎」

「ああ、はい…済みません。なんか勝手に盛り上がってしまいました。」


そして、青年に注意されて正気に戻ったシルバーナは、何時もの様に素っ頓狂な声を上げて驚いたのであった。









「全く…まさかアジトが地下シェルターだからって、そこから社会問題の勉強に発展するとは思わなかったよ。変な所で時間取らせないでよね…。」

「いやはや、済みません。お金の問題となるとつい…身につまされる事なので…。」


青年はアキト達を引き連れて森の中を進んでいた。


「君って本当に貧乏なんだね…同情するよ。」

「別に構いませんよ。同情されてもお金にはなりませんし。」

「……なんか口調がトゲトゲしくない?」

「気のせいですよ。」


辺りは人の手が殆ど行き届いておらず、鬱蒼とした茂みがアキト達の行く手を阻む。それを青年は風で優しく薙ぎ倒しながら前へと進んで行く。


「切って進むと道が出来てしまうからね。アジトは見つけにくい状態じゃ無いといけない。簡単に見つかる様じゃ意味無いからね。」

「だから敢えて道を造っていないんですか。」

「お陰で、土地勘があって慣れている人でも時々迷う位さ。かなり険しい道だしね。みんな、遅れない様にキチンと付いて来てくれよ…って、余計な心配だったようだね。」


青年は時々後方を確認し、ヤクモやシルバーナが付いて来ている事を確認しながら進む。アキトとヤクモは日頃から鍛えている為に平然と付いて来ていた。シルバーナも、山羊型導族として脚力には自信が有り、少女とは思えない程の体力と脚力を持っている為に追随する事が出来ていた。


「でも、本当に迷い易いから気を付けてね。探すのにも苦労するからさ。」


それでも青年は常に後方を確認しながら先を進む。本当なら、背後から襲撃されない様に、また逃げられないか見張る為にアキト達を先に進めたかったが、アジトの場所がかなりわかりにくい所にある為、先導する者が必要であったのだ。


「全く…案内人の一人でも寄越せば良いのに…。作戦が回りくどい事と言い、変に警戒し過ぎだよ…。その所為で、逆に変な所が蔑ろになっちゃうんだから…。」

「大丈夫ですよ。ルビィ達が迷っても、最悪僕が召喚術を使えば万事解決。」

「それを許したくないから言っているんだけど?」


青年が仮面越しにアキトを軽く睨むと、アキトは軽く肩を竦める。


「変な事をすれば先生たちが危ないでしょう?だったら変な事なんてしませんよ。」

「悪いけどそれは無しだよ。君は油断ならないから。」

「買い被り過ぎですよ。僕は唯の学生です。」

「唯の学生が、エミリオさん達や武装したテロリスト達を翻弄出来るとは思えないけどね。」


口調は優しめながらも、青年はアキトへの警戒を露わにする。


(これは結構やりにくいですね…。さっきの時間稼ぎや、あの行動も、不審がられて居なければ良いのですが…。)


アキトは不安に駆られたが、得意のポーカーフェイスで青年の視線を素気無く受け流す。


「さあ、そろそろ見えてくるよ。」


青年が茂みの先を指すと、其処には岩の壁があった。そして、そこをよく見ると、岩に不自然な亀裂が幾つか入っている様に見えた。不自然と言ってもかなりわかりにくく、指摘されなければほぼわからない程度の物であった。青年はその岩壁に近寄ると、少し大きめの声を出した。


「お〜い!連れて来たよ〜!此処を開けておくれよ〜!え?変な奴に付けられなかったって?多分大丈夫!え?多分じゃ駄目?じゃあ絶対大丈夫!え?それじゃ信用出来ない?いや、これ以上一体僕にどうしろってのよ…。」


青年と、恐らく岩の裏側に居るであろう門番とのやり取りが余りに滑稽であった為、アキトは思わず呆れた。


(…本当にこの人、誘拐犯なんですよね?エミリオ達と協力してヨミ国に戦争を起こそうとした一味の仲間なんですよね?なんか…挙動を見ていると信じられません…。あれ?)


アキトは岩壁の異変に気付く。目の前の岩から自然には聞こえない機械的な音が鳴り、岩が急に動き出したのだ。岩が動いた跡には、壁に大きな横穴が空いており、その中に小さな灯りが見えた。扉の裏から、青年と会話していた門番らしき大男が銃を構えながら現れ、油断無くアキト達を銃で狙いながら『早く入れ』と言う様に顎で指図する。


「さ、入るよ。」

「……さっきのふざけたやり取りは、合図だったんですね?僕達に脅されて言わされていない事を伝えていたんですか…。」

「ははは。さあ、どうだろうね?それはわからないよ?」

「…あなたも食えない人ですね。」

「何、君達程じゃあ無いさ。」


アキト達が全員洞窟の中に入ると、門番らしき男は岩の扉を閉め、しっかりと鍵をする。


(これで後戻りは出来ません。さあ、気張って行きますよ!)


決意と共にアキトは洞窟の中を進む。アキトは先を行く青年の後ろを歩きながら、洞窟の中を確認して行く。すると、監視カメラと共に小さな機械が岩壁に隠れる様に設置されている事に気付く。


「やはり…有りましたか。」

「ああ、導術検知機の事かい?目敏いね。」

「こんなに数多く……かなり、警戒しているんですね。」

「導術使いは本当に強力だよ?他ならぬ導術使いである僕が保証する。特にヤクモさんなんかは本当に油断ならないからね。これ位の警戒は当然だよ。」


青年は淡々と歩みを進める中、背後で静かに追随するヤクモもまた、周囲を良く観察していた。


(この検知機は…最新式では有りませんね?あれは高価ですし、大量に仕入れると足が付き易いですからね。恐らく中古の、少し古い型の検知機の改造品を裏ルートで仕入れて来て居るのでしょう。そして、施設内の様々な場所…いえ、数は多くないですから、必要な所にのみ配置している…と。)


導術検知機は、通常は公的機関などの影響が大きい所の防犯設備として使用される。その為、警察にすぐに通報と情報が行く様な仕組みを持ち、購入及び設置の際には登録義務もある。故に、此処に有る物は正規ルートを通って居ないのだが、裏ルートの場合は数が少ない(通常、機器は警察が回収する為、横流しされる物しか出回らない)為、その数はかなり限定的とヤクモは断定する。


「僕らの導術を封じているのに、此処までする必要があったんですか?」

「君達の仲間が居るだろう?人質で脅したけれど、それで大人しく引き下がってくれているとは思えないからね。保険は掛けておいて損は無いさ。」

「…それなのに、僕らを此処に連れて来て良かったのでしょうか?」

「仲間が尾けて来ると?それならそれで構わないさ。」

「罠を仕掛けている…と?」

「それはね…っていけない、余計な話は御法度だったよ。僕の悪い癖だね。」


それっきり青年は口を閉じ、アキトの質問には答えない。


(…監視の目や罠の事を伝えて、無闇な行動を控えさせつつ、その詳細は教えない…ですか。僕達の行動に対する牽制の意味合いが強いのでしょうね。不安を煽って揺さぶりつつ、此方に有益な情報は極力流さない…。良く考えていますね。偽の情報を掴まされるよりは増しですが、厄介です。)


青年からの情報収集を諦めたアキトは、ポーカーフェイスを造りつつ周囲の状況を確認し続ける。少しでも有益な情報が無いか確認しながら暫く進むと、丈夫なコンクリートで出来た扉があった。鍵はパスワードで有り、それを入力するタッチパネルがあった。


「さあ、目的地はこの中だ。あと、僕の案内は此処までだから。」

「あなたは入らないのですか?」

「僕の役目は君達を此処まで届ける事、それ以外の事はあの方達に任せて有るからね。余計な手出し口出しは無用って訳さ。」


青年は扉の解錠コードを入力していく。


「全く…いくら僕が使い易いからって、良いように使っておいてさ。酷いと思わないかい?ま、僕も余り深入りしたくないから、これ位の距離感が気軽で丁度良いんだけどね。彼等の秘密を詳しく知らない代わりに、僕も自由に動けるって訳さ。知り過ぎると色々と面倒だからね。」

「ビジネスライクな関係…という訳ですね。」

「はは、そう言う事だよ。」


扉が、青年の入力したコードを認識し、機械的な音と共にゆっくりと開いて行く。


「君も気をつけると良い。『好奇心は猫を殺す』からね。深入りは、呉々も禁物だよ。」

「ご忠告痛み入ります。ですが、『虎穴入らずば虎子を得ず』ですから。これも覚悟の上です。」

「君ならそう言うと思ったよ。…じゃあね、また縁があったら何処かでまた。」

「今度は友好的な関係で会いたいですね。」

「はは、全くもって同感だよ。」


アキトのやんわりとした自首の勧告を青年は受け流し、僅かな風を残して消える様に去って行った。


「さて、参りましょうか。アキト様。」

「はい、ヤクモさん。ルビィ、覚悟の方は大丈夫ですか?」

「はい!」


ヤクモを先頭に、アキトはシルバーナを庇う様にしながら扉の中へと進む。そして、シルバーナまで入った所で、独りでに扉は閉まり、ロックされた。見ると、内側のタッチパネルは破壊されており、内側からは開けられない様に細工されていた。


「この扉は、使えないと言う事ですね。」

「予想通りですね。アキト様。」


アキトは部屋の中を用心深く確認する。部屋には大きなモニターとスピーカー、何かの機械が載った机、そして扉が幾つか有る以外に装飾も何も無い味気ない物であった。重厚なコンクリート壁に囲まれたそれは、非常に頑丈に見えた。


「…脱出に使える経路は…。」

「君達二ソレヲ考エル必要ガ有ルノカネ?」


アキト達以外には誰も居ない筈の部屋に、機械で変声された聞き覚えの無い声が響く。アキトは周囲を警戒しながらその声に応える。


「何方様でしょうか?」

「君達ガソレヲ知ル必要ハ無イ。」

「……わかりました。僕も別に貴方の正体を知りたい訳では有りません。そんな事よりも、先生達は無事ですか?」

「無事ダ…ト、タダ言ッテモ信ジマイ。論ヨリ証拠ダ。見ルガ良イ。」


男の声を合図に、部屋のモニターに映像が映し出される。それはコウガとアイビシアの閉じ込められている独房の様子であった。ヤクモはさり気なく、自身のネクタイを弄る振りをしながら、手で首を触って親指を立てる。その様子を注視させない為にと、アキトは大声で注目が集まる様に叫ぶ。


「先生!シアさん!大丈夫ですか!」

『アキト君にヤクモさん、シルバーナ様まで⁉︎如何して此処に!学園長先生は居ないのですか⁉︎』


コウガの問いに、アキトは違和感を感じる。


(何故…学園長先生?学園長先生は呼ばれていない筈…。となると、やはり先生達には嘘を伝えていますね?余り突っ込んだ事を聞くと不味いですか。ですが、先生にはそれがわかるようには伝えないと…!)


アキトは、何も気付かない振りをしてコウガに応える。


「僕とヤクモさんとルビィは、黒尽くめの青年に連れられて、此処に来たんです!あと、学園長先生は呼ばれて無いので、此処には居ません!先生達は身体の方は大丈夫ですか⁉︎」

『私達は無事ですが、リアがーー』


そこで映像は切れた。再び機械的な音声が響く。


「ワカッテ貰エタカナ?」

「ええ…嘘は無い様で安心しました。ところで、リアちゃんは如何したのですか?」

「アノ少女カ?無論無事ダ。念ノ為二別ノ場所二閉ジ込メテイル。」

「確認させて下さい。」

「図々シイナ…。マア良イダロウ。」


そしてまたモニターに映像が映し出される。そこには黒い髪と翼を持つ少女が映し出される。クロウリアであった。クロウリアはコウガ達とは別の部屋に入れられ、手錠をされていた。近くには監視らしき人物が居り、クロウリアの頭に銃を向けている事がわかる。


「リアちゃん!大丈夫ですか⁉︎」

『お兄さん!気を付けて!この人達はーー』


そこでまた映像は途切れる。碌な会話も出来ずに急に切れた為、クロウリアが何か不味い事を言いそうになったのではとアキトは焦り、ヤクモは厳しい顔つきとなる。


「リアちゃんに何か酷い事をしたら交渉は無しにしますよ!」

「……案ズルナ。大事ナ人質ナノダ。殺シタリハシナイ。」

「酷い事をするのも駄目です!」


アキトは、スピーカーに向けて怒鳴る様に声を荒らげる。


「……ワカッタ。ソレモ保証シヨウ。ダガ、君ガ余リニ騒ギ過ギルト、俺ノ心ガ変ワッテシマウカモ知レナイナ?」

「…わかりました。済みません。」

「宜シイ。予メ断ッテオクガ、今、彼ラハ皆無事ダガ、君達ノ態度次第デ…後ハワカルナ?」


部屋に響く無機質な声に対して、アキトは冷静に対応する。


「ええ、だからこそ、大人しく此処まで来たんです。さあ、先生達を返して下さい。」

「マア待テ。彼ラヲ解放スル前二、幾ツカ質問ガ有ル。ソレニ答エテ貰イタイ。」

「大人しくそれに答えたら、返して貰えるんですね?」

「アア…君達ノ所ヘ返ス事ヲ約束シヨウ。」


その言葉に、アキトは懐疑的な態度を声に表す。


「…僕達を殺して、その後に先生達を殺す事で『僕達の所へ返す』なんてのは無しですよ?」

「クク…君ガソノ様ナ反抗的ナ態度ダト、彼ラガ如何ナッテシマウカ、ワカラナイゾ?」

「……わかりました。全面的にあなたを信じます。」

「…ククク、聞キ分ケガ良イナ。賢明ナ判断ダ。」


アキトは悔しさを滲ませつつ、引き下がる。


「サテ、時間モ押シテイル事ダ。手短カ二行コウ。質問ノ内容ハ、一昨日君達ガ遭遇シタ、特殊ナ洗脳兵器二関スル物ダ。ソノ机ノ上ニ有ル、嘘発見器ヲ身ニ着ケテ答エテクレ。先ズハ、ソコノ英雄君二答エテ貰オウカ。」

「…英雄呼びはやめて下さいよ。本当に…。」


指名されたアキトは、粛々と嘘発見器を着けて答える。


「洗脳兵器…ですか。さて、何の事でしょうか?」

「下手ナ演技ハ止メタ方ガ身ノ為ダゾ?」

「……バレましたか。嘘発見器は本物の様ですね。その洗脳兵器が、どうかしたのですか?」

「我々ハ、是非トモソノ兵器ヲ手二入レタイ。モシカシタラ、君達ナラソノ出処ヲ知ッテ居ルノデハ…ト思ッテナ。此処マデ君達二御足労願ッタ訳ダ。」

「そうですか…。」


アキトは、内心その目的は嘘ではないかと疑いながら、その考えを隠して受け答えをする。


「ソレデ…ドウダネ?君ハ何カ知ラナイカ?」

「知らない…と、言えば嘘になりますね。」

「ホウ…?」


機械の音声は、平坦ながらも心なしか興味有り気であった。


「あの兵器は、名を『機械化ムカイド』と言います。頭脳に埋め込まれた機械により、洗脳系雷導術特化導虫『ムカイド』を操り、人や動物に寄生させて意のままに操る危険な兵器です。」

「…ソレハ知ッテイル。私ガ知リタイノハ、ソレノ出処ダ。」

「やはり知っていましたか…。それでしたら寧ろ、あなた方の方が良くご存知では?」


アキトの答えに対し、スピーカーからは暫し間、沈黙のみが流れる。


(メディアではまだ詳しく公表されていない筈の、ムカイドの詳細も知っている様ですし、僕のカマ掛けにも反応は…これは有りですかね?さて、どう返して来るでしょうか?)


やがて、沈黙は破られる。


「ワカラナイナ。ソレヲ知リタイカラコソ、君達ヲ呼ンダトイウ事ヲ忘レタノカネ?」


スピーカーから流れてきたのは、アキトの期待に反し、無難で冷静な返答であった。


(む…少しは動揺するかと思ったんですが…。もう少し探りを入れますかね。)


アキトは、嘘を吐かない様に細心の注意を払いつつ、言葉を選んで答えを造る。


「いいえ。ですが、余りにあなたのやり方が非効率的で、少々疑問に思ったので、失礼ながら質問させて頂きました。お気に障りましたら謝りましょう。」

「…イヤ、構ワナイ。如何シテ、私ノヤリ方ガ非効率的ダト考エタノカネ?」

「…僕達を此処まで案内した、あの黒尽くめの方ですよ。彼は一昨日の事件の際に、ムカイドを回収していました。彼なら、それの出処を知っている筈です。それは僕が保証しますよ。彼に聞けばすぐにわかる事なのですから、こんなに手の込んだ呼び出しなんて、する必要があったのかなと思いまして。」


アキトは、相手の出方を注意深く聞き、反応を見る。


「…『ソヨカゼ』カ。彼トハ互イニ、余リ干渉シナイ規約デナ。彼カラ情報ヲ得ルノハ難シイノダヨ。ダガ彼二、『機械化ムカイド』ノ事ヲ知リ得ル人物ヲ、此処マデ連レテ来サセル事ハ可能トノ事ダッタ。君達ナラ、『機械化ムカイド』ヲ使用シテイタ者達ヲ捕ラエタ事ガ有ルカラ、ソノ可能性ガ有ル…ト、言ウ事デナ。」

「なら、彼に『ムカイド』の関連の方との取次をして頂ければ良いだけでは?」

「勿論、『ムカイド』ノ入手先ノ関係者ト接触スル事ガ出来レバ、ソレガ一番デハアッタノダガナ。交渉シタラソレハ出来ナイト、キッパリト断ラレタノダ。ナラバ君達ナラ良イノカ?ト言ウ疑問モ有ルダロウガ、ドウヤラ『有リ』ラシイ。面倒ナ話ダト思ウカ?ダガ、コウ言ッタ事ハ往々ニシテ面倒ナ物ナノダヨ。」

「…そう言う事ですか。わかりました。」


黒尽くめの青年こと『ソヨカゼ』は今現在この場に居ない。彼にその内容の真偽を問う事は叶わない。しつこく問う事は下策と判断したアキトは大人しく引き下がる。


「話ガ逸レテシマッタナ。ソレデ、君自身ハ『機械化ムカイド』ノ出処ハ知ッテイルカナ?」

「……僕は知りません。勿論、この子も知りません。僕らは一昨日の事件の首謀者、シラサギ容疑者の協力者や、昨日僕達を狙って来た方がそれを使役していたのは知っています。ですが、その『機械化ムカイド』を彼らが何処から手に入れたのかについては知らないのです。」

「ソレハ本当カ?」

「……この命を賭けましょう。」


アキトは淡々と答える。事実なので、その言葉に偽りは無い。嘘発見器の結果を確認しても、それは明らかであろう。


「嘘デハ無サソウダナ…了解シタ。ダガ、シラサギ容疑者ノ仲間ノ幾人カヲ、君達ガ捕ラエ尋問シタト言ウ事実、ソレハ相違無イナ?」

「それは…間違いは有りません。あと、予め言って置きますが、彼らから襲いかかって来たんですからね?正当防衛ですからね?外患誘致する様な国家の敵が相手なら、多少の尋問程度は法的にOKですからね?怪我をさせる尋問は違法だから警察に訴えようったってそうは行きませんからね?ビタ一文払いませんからね?捕らえた彼等を解放したりしませんからね?」

「君ハ一体何ヲ言ッテイルノダ…。」

「僕にとっては死活問題なんです!口止め料をせびろうったってそうは行きません!」


アキトの変な熱の篭った訴えに対し、スピーカーの声に大いに困惑が混じる。


「安心シタマエ。我々ニハソンナ『下ラナイ事』二構ッテイル時間ハ無イカラナ。」

「そうですか。それを聞いて安心しましたよ。」


アキトはホッとした表情を見せる。


(やはりソヨカゼさんの言った通り、この人達とエミリオ達とは関係無い、または単純な利害関係しか無さそうですね。エミリオの部下の安否より、その部下達からムカイドの入手先を聞き出したかについてしか興味が無さそうです。……僕達が本当に知らないと言って、それを信じて貰えれば、解放して貰えますかね?いや、楽観視はしない様にしましょう。)


事を荒立てずに人質を返して貰える可能性が出て来た為、アキトは少しばかり緊張が取れるが、すぐに気を引き締める。


「ソレデ彼ラカラ、ムカイドニ関スル事デ何カ訊キ出シテハイナイカネ?」

「それに関しては、私からお答え致しましょう。」


アキトが何か答える前に、ずっと口を出さずにいたヤクモが声を上げた。


「君ガカ?」

「ええ、彼らを実際に尋問したのは、他ならぬ私ですので。」

「ホウ…デハ聞コウカ。」


ヤクモの言葉に、機械の声は興味をアキトからヤクモに移し換える。ヤクモはアキトから嘘発見器を受け取ると、それを身に着けて答える。


「結論から申し上げますと、彼らは誰一人知りませんでした。」

「何?唯ノ一人モカ?」

「ええ、恐らくは、私共が惜しくも逃してしまったエミ何某と言う騎士バカ様がご存知だったのでしょう。ソヨカゼ様が救い出した方です。彼に逃げられてしまいましたからね。私共が捕らえたのは末端戦闘員であり、ムカイドの存在は知っていても、それを誰から入手したかについては誰も知りませんでした。」

「フム……。」

「御期待に添えられず、申し訳ございません。」


ヤクモは深々とお辞儀をする。


「構ワナイ。…ソウカ、ソノ言葉ニ偽リハ無イナ?」

「はい。そちらの嘘発見器を信用して頂けるなら、そこに答えが出ていますよ。それでも信用出来ないのなら、自白剤でも飲みましょうか?」

「イヤ……ソレニハ及バナイ。至極残念デハ有ルガ、ソレデハ仕方無イナ。」


スピーカーの声は残念そうではあったが、嘘っぽくも聞こえた。


「……では、質問に答えたので、先生達を解放して頂けますか?」

「アア…約束ダカラナ、解放シヨウ。但シ、タダソノママ解放スレバ、君達ニ対スル抑止力ガ無クナッテシマウ。コレハ非常ニ頂ケナイ。」

「僕達があなた方を襲うと?」

「可能性ノ話ダ。無イ保証ハ無カロウ。君達ノ実力ハワカッテイルシ、我々モ捕マリタクハ無イノデナ。人質ヲ連レテ行ク。君達ガ追ッテ来ナイノヲ確認シテカラ、離レタ所デ彼ラヲ解放スル。勿論、君達ガ何モシテ来ナイ限リ、彼ラニ危害ヲ加エナイ事ヲ約束シヨウ。」

「……わかりました。」


穏便に片付きそうである為に、アキトは安堵の溜息を吐く。


「デハ…我々ハ早速準備ニ取リ掛カカル。君達ニハ悪イガ、暫シノ間ソノ場デ大人シクシテイテ貰オウカ。」

「はい。」

「解放シタラ連絡シヨウ。ソレマデハ、ソノ腕輪モ外サズ、外ヘノ連絡モ控エテ貰ウ。ソコノ扉ハ遠隔操作出来ル。此方カラ連絡スル際ニ、ソノ扉モ解錠シヨウ。」

「この場所を利用しての足止めですか…。実に用意周到な事ですね。」


安全確保に余念の無い相手のやり口に、アキトは呆れつつ感心する。


(僕もこの位、安全に配慮出来る様に成りたいですね。ルビィやディアを守り抜くのに、何よりも大事な事ですからね。)


シルバーナやディアは、突出した能力が有るが弱点も有る。彼女らの能力に頼りになるが、弱点を突かれると非常に脆い。現状、転移召喚しか使えないアキトは、彼女らの力に頼らざるを得ないが、安全への意識は高めて置く必要が有るとアキトは思う。


「一応伝エテ置クガ、監視カメラハ常二動イテイルシ、監視モ続ケテ居ルカラナ。呉々モ、下手ニ勘繰ラレル様ナ不審ナ動キヲシナイ事ダ。」

「心得ていますよ。」

「ソレデハナ。君達トコウシテ会ウ機会ハモウ無イダロウ。」

「ええ、そうですね。」


それを最後に、スピーカーの音が切れた。静寂が再び無機質な部屋を支配する。


「ふう…。どうにか、穏便に済みそうですね。」

「はい。とても疲れましたが、コウガ様や御家族の方が無事で本当に良かったです!」

「お疲れ様でした。ルビィ。」


アキトは緊張で少し疲れた顔をしているシルバーナを労う。


「いえ、私は何もしていませんから。」

「ですが、気は確かに持っていました。エミリオに会った時もそうでしたが、あなたはとてもしっかりしていて、本当に頼りになりますよ。」

「あ…有難う…ございま…すぅ!」


アキトの言葉に、シルバーナは嬉しくも恥ずかしそうに顔を俯ける。その頭をアキトは優しく撫で、シルバーナは益々顔を赤らめる。そこに、不意にヤクモが話し掛けて来た。


「…アキト様、シルバーナ様。」

「ヤクモさん?どうかしました?」

「只今、準備が完了いたしました。残念ながら、使わねばならない模様です。……御用意を。」


ヤクモの言葉に、アキトとシルバーナに緊張が走る。その直後、ロックされていた筈のドアが急に開き、何者かにより掌サイズの数個の物体が部屋に放り込まれた。


(不味い⁉︎)


アキトはシルバーナを抱き抱え、ヤクモに近寄る。直後、部屋の灯が消えてそこに強烈な閃光が放たれ、直後に催涙ガスが発生、更に爆音が鳴り響くと共に、部屋の中に大量の銃弾の雨が注がれたのだった。

殆どの方はわかると思いますが、事件の全容は、およそアキトが推測した通りとなります。はっきり言って勘違いのとばっちりです。巻き込まれ系主人公の悲しい性ですね。


次回は今回の話の、サカキ視点、コウガ一家視点から見た物となります。時系列が飛んだりするのでわかりにくいですが、裏ではこんな風に動いていたと言う話になる予定です。

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