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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
73/132

第10話

悶絶するシルバーナを他所に、アキトとハイルは話のまとめに入る。


「では、アキト君は我々の協力者になってくれると、そう言う認識で宜しいかね?」

「はい。…ただ、確認しておきますが、護衛は要りませんし、言いたくない事は言いません。その上で、公爵閣下や他の方から聞いた話から情報を伝えます。」

「ああ、それで良いとも。」

「それと、不用意に部下の方を僕達に近付けようとしないで下さい。洗脳兵器の可能性を疑ってしまうので。もし御用が有る際には、予めその旨を伝えて置いて下さると助かります。」

「了解した。では、その為にも君の連絡先を知りたい。私の連絡先を伝えるから、番号の交換をお願いする。」


ハイルは携帯を取り出し、番号を表示してアキトに見せる。個人情報を勝手に見ないという意思表示の意味もあった。アキトもそれを察して、すぐに電話をかけて確かに自分の番号が伝わっている事を相手に伝える。


「さて…これにて交渉は完了だ。貴重な時間を割いてくれた事、感謝する。実に有意義であった。」

「いえ、どうぞこれから宜しくお願いします。」

「では、親睦も込めてこれから私達と食事でも如何かね?勿論、費用は私が持とう。」

「費用が其方持ち……大変魅力的な御提案では有りますね。…し、しかし、お気持ちは嬉しいのですが、今日の所は予定が有るので遠慮させて頂きます。」

「そうか…。まあ、残念だが致し方ないな。」


ハイルは、何かに激しく葛藤しているアキトを怪訝に思うも、何も言わない事にした。そして、固い握手をすると立ち上がり、部下を連れて廊下に出て行こうとする。すると、その時不意にハイルの携帯に着信が入る。


「少し、失礼する。」


ハイルが急ぎ病院の外に出て携帯に出る。そして応対している内に、顔が険しくなる。そして会話が終わり電話を切ると、急ぎアキト達の元に走って戻る。


「……少々、宜しいか。」

「ハイルさん?何か忘れ物でも?」

「いや、そうでは無い。急遽、君達に伝えねばならない事が出来たのだ。」

「何でしょうか。」

「『上』からの情報で、『敵』の組織が動き出したとの報告があった。」

「……敵?」


アキトは、一瞬アサテの事かと考えたが、それは知らない体で行く事を思い出し、冷静に聞き返す。


「君達を狙う者達だよ。報告では、昨晩の襲撃者の所属する組織の可能性が高いらしい。詳しい話は聞いていないが、『上』が前から目を付けていたらしいその組織に、不穏な動き有りとの事だ。急ぎ君達に伝え、すぐに避難して貰うようにと。」

「……それで、その組織の名は?」

「確か『神淵ノ端求社』と言っていた。私は聞いた事の無い名だが…君達には心当たりが有るのかね?」


アキト達に一気に緊張が走る。


「……ヤクモさん。」

「コチヤ様に連絡を入れました。今、ディア様と若様を連れ、警戒しながら御屋敷に連れて行くように要請を出しましたよ。カスミにも連絡を入れたので…恐らく大丈夫だとは思いますが…。」


ヤクモは、険しい表情を崩さない。


「ふむ…察するに、相手は相当の手練れか?」

「その名前が、私の良く知る組織の物なら、その通りです。ただ、あの男が本当にその組織に所属する者なのかは、まだ確証を得ていませんが。しかし、警戒するに越した事は有りませんですからね。あの組織は…危険です。避難は此方で行いますので、ハイル様と部下の方々には、警戒体制の強化をお願い致します。」

「我々のサポートは、本当に要らないかね?」

「要らないと言えば嘘になりますが、先の理由で大勢であれば良いという訳にも参りません。しかし情報は欲しいので、何か分かればすぐにでも連絡を頂けると幸いです。」


ヤクモとハイルは矢継ぎ早に情報を交換して行く。


「もしもその組織とあの男が所属している組織が同一であるなら、洗脳兵器が出て来る可能性が有るでしょう。赤く長い百足の様な物ですので、見つけ次第始末をお願いします。あれは口や耳から侵入して来ますから、そこを狙われない様に特に注意して下さい。身体はそこまで頑丈では無いので、ナイフでも容易に殺せるでしょう。銃で狙うには的が細いので、確実に仕留めるには其方の方が容易です。」

「了解した。仲間にもその旨伝えよう。」

「敵の組織が私の知る物と同じなら、そこに所属する導術使いは皆、相当な実力者です。縁絶鋼製の武器の使用を推奨します。それと、先に周辺住民の安全確保をお願いします。そして、無理に捕まえようとせず、危ないと感じたらすぐに退避をして下さい。」

「無論だ。元より人命が最優先だからな。無理をする気も無いので安心してくれ。」

「それと、敵の狙いがもしも私達なら、この病院に居ると他の方々に迷惑が掛かるでしょう。我々は急ぎ此処を離れます。私達が逃げる場所はお教え出来ませんので、ご了承ください。」

「ああ、構わない。情報の管理は重要だ。例え敵では無くても、大事な情報は拡散すべきでは無い。だが、本当に力が必要になったら遠慮無く要請してくれ。」

「承知致しました。ご理解頂けて幸いです。」


会話を終えたハイルは、急ぎ部下へと指示を出す。


「良し!本部に連絡!動ける者を総動員して事に当れ!混乱を招かない様に細心の注意を払う事を忘れるな!」

「了解しました!」


そして、ハイルは部下を連れて早足で廊下を歩いて行った。緊急でも、病院の中は走らない。ハイル達が皆見えなくなると、ヤクモはアキトに話し掛ける。


「アキト様。あの情報が確かかどうかはまだ分かり兼ねますが…。」

「はい。名前が出たのなら、何かしら繋がりは有るでしょうね。」

「…その辺の調査はキツネ様にお願いして、私達は兎に角、身の安全の確保を。情報が本当であれば、此処に長居は出来ません。」

「ええ、勿論です。」


そして、ヤクモはこれからの方針を示す。


「取り敢えず、アキト様とシルバーナ様は私と共に急ぎ此処を離れ、周辺に人気の無く、争っても被害が出ない隠れ家の一つに移動し、大旦那様達とそこで合流します。コウガ様は御家族を連れて急ぎ避難していて下さい。」

「ヤクモさん…申し訳ありません。私が導術を使えれば…。」

「『たられば』を言っても仕方有りませんよ。それより今の御自分に出来る事をするべきです。」

「…わかりました。」


コウガは悔しそうに了承し、机に向かい何かを書き始める。それを見たアイビシアは、自分に何か出来ないか思案し提案する。


「私は導術が使えるし、何か手伝えないかしら?」

「お気持ちは大変嬉しいのですが、シア様はどうか御家族を守って下さい。今はコウガ様が導術を使えないので、あなた様とリア様が頼りなのです。」

「……わかったわ。絶対に守り抜くから、こっちの心配はしないでね!リア、気張るわよ!ナツトにも手伝って貰うわ!」

「任せてよ!私の大切なお父さんに、指一本触れさせないわ!」


アイビシアとクロウリアは、闘志を燃やして自らを鼓舞する。


「ルビィ、すぐに此処を出ますが、準備は宜しいですか?」

「はい!」

「……もしもの時は……。」

「任せて下さい!」


シルバーナは、アキトの言葉を察して、元気に返答する。戦闘に巻き込み、危険な目に遭わせる事を気にするアキトに、『そんな事は気にしないで下さい』との気持ちを伝える。


「アキト君!」

「コウガ先生、何でしょうか?」

「私が所持する武器、その所有権を全て君に譲りましょう。内容はこのメモに書いて有りますので、戦いに役立てて下さい。使用許可も此方で取って置きますから。あと、ここに書いてあるノートが召喚術の技術の簡単なまとめになって居ます。時間が無いので詳しい所は伝えられませんが…。」

「充分です!先生、有難うございます!」


コウガは、自分に今出来る精一杯の援助をする。それをアキトは快く受け取った。


「それではこれより行動を開始します。各員、健闘を祈ります。」


そして、ヤクモの言葉を契機に、アキト達は慌ただしく行動を開始する。コウガは急ぎ退院手続きを行いに動き出し、アキトとシルバーナとヤクモは病院を出て車に乗り込むと、すぐに車は発進した。


「……はい、そうです。では、次の作戦行動に移ります。」


そして、それを遠くから双眼鏡で見ていた人物は、無線を切ってその場から離れて行った。








街道をひた走る車の中で、アキトは早速ノートを召喚して読み始めていた。


「…なるほど、こう言う使い方も有るんですね…目から鱗です。」

「アキト様。如何でしょうか?すぐに習得出来そうですか?」

「…少し練習が必要ですが、一部は今の僕にも使えそうです。」

「それは朗報ですね。車の中でも出来る事で良いので、何時でも使える様に訓練を行って下さい。」

「わかりました。」


アキトは少しでもノートに記された技術を習得し、これからもしかしたら起こり得るだろう戦闘に役立てようと懸命になる。


「私はどう致しましょう?」

「シルバーナ様は、何時でも導術の発動が出来る様に準備をお願いします。すぐに私達の場所が突き止められる可能性は低いですが、備えに手抜かりがあってはいけません。発動状態はどの程度維持出来ますか?」

「…今まで殆ど使って来ませんでしたので、正確には分かり兼ねますが…。感覚としては数時間位は大丈夫です。」

「それは頼もしいですね。…導術使いに対しては、あなた様の術は非常に有効です。頼りにしています。」

「お任せを!ヤクモ様やお兄さんに仇為す術は、必ずや打ち消して見せます!」


シルバーナは使命に燃える。自らが役に立っているという感覚に、少し不謹慎ながら喜んでいた。そしてヤクモは、集中するアキトにも聞こえる位の声の大きさで、情報を整理しつつ現状の確認を行う。アキトは訓練を行いながらも、情報の共有には参加する。


「キツネ様には、もう既に連絡を入れました。すぐにキツネ様の方でも動いて下さるそうです。」

「流石はキツネさんですね。行動が早い。」

「大旦那様は、今はコチヤ様達を車で拾いに向かっている所です。カスミは県警本部から此方の支援に回るそうです。」

「レン君やコチヤ先生、学園長先生も加われば、確かに心強いですね。いざとなれば、ヤクモさんやルビィもすぐにあちらに転送出来る様に、車の中に転移陣の用意は出来ますか?」

「アキト様の転移陣の形は覚えて居ります。車に載せてある植物を利用して描かせましょう。」

「お願いします。」


アキトは召喚術の練習と、ヤクモとの会話を苦もなく同時に行う。普段の弛まぬ努力と自身の才能も相俟って、転移召喚に関しては息をする様に出来る位にその実力を高めていた。その姿をヤクモは頼もしく思う。


(アキト様の召喚術の才能は本当に素晴らしいです。大旦那様の見立て通りでしたね。恐らく、才能だけならコウガ様より上でしょう。これは将来が楽しみですね。)


召喚術は消費導子量が著しく低い代わりに、その集中力は他の導術と比較してかなり多く要求されるため、センスが重要な術である。しかし、アキトは長時間連続して使用しても汗一つ掻かず、平行して会話も行える程の才能を有していた。

アキトは学園に入学する際に、導子量に余りに難がある為に入園をやんわりと断られそうになっていたのだが、その話を聞いた学園長がアキトと会い、アキトの才能を見抜いた経緯が有る。レンやヤクモともその時からの縁であった。


「コウガ先生達は、無事でしょうか…。」

「シア様は高い実力を有する炎導術の使い手です。短い期間でしたが、『神月』に所属していた時期も有りました。実力的には申し分無いでしょう。」

「シアさんもですか⁉︎」

「ええ、故あってコウガ様に心底惚れ込んでいたシア様が、半ば無理矢理に…では有りましたがね。当時から導術の才能には目を見張る物は有りましたし、大旦那様もお許しになられましたので。それが縁で…と言う訳でも無いですが、コウガ様と結ばれたのですよ。」

「そうだったんですね。」


当時十代半ば程度であったアイビシアは、導族である為人権が適用されず、危険な職場で働かせる事は違法では無かったが、家族ぐるみで付き合いのあったコウガは彼女の身を案じて猛反対していた。しかし、半ば彼女に押し切られる形でコウガは折れた結果となった。因みにアイビシアが『神月』に入る際、学園長が言った言葉が、二つ返事で『ま、別に良いんじゃねぇ?』であり、ヤクモやコウガに盛大に溜息を吐かれていた。


「ハイル様からは連絡など有りませんか?」

「今の所は有りませんね。」

「……アキト様は、どう思いますか?」

「アサテが来るかどうか…ですか?」


ヤクモは運転しながらも、軽く頷く。その表情は険しかった。


「……アサテが去り際に言った事が本当なら、襲撃に来るのは早過ぎる気がします。」

「アキト様も、そう思われますか…。」


アサテは召喚術により退散する直前に、『ムカイドを研究したい』との言葉を残した。アサテが相当の天才か嘘吐きか、もしくは飽き性で無い限り、一晩で研究を終えるとは思えない。


「まあ、無くは無いでしょうから始めから否定はしませんが、それ以外の可能性も考えておきましょう。」

「それ以外だとすると…『神淵ノ端求社』の別の人物が動き出したか…もしくは、この情報自体が偽物か。」

「別の人物が出て来たら…考えたくは無いですが、あの男が来る可能性が有りますか…。だとすると、不味いかも知れませんね…。」

「あの男?」


ヤクモの、何時にもなく真剣な声に、アキトは思わず聞き返す。


「私達、『神月』が解散となった原因の一人…名をキノウと言います。気導術の使い手で、その戦闘力は恐ろしく高く、生命力も高い。」

「キノウ…ヤクモさんが昨晩、アサテに知っているか聞いた方ですね。」

「ええ…忘れもしません。あの男に私達は敗北し…大事な家族を…奪われました…!」

「ヤクモさん…。」


ヤクモの手が、ハンドルを強く握る。それだけで、ヤクモの悔しさをアキトとシルバーナは察する。


「勿論、わかってます…。私達は危険と隣り合わせの仕事をしていました…。だから、その可能性は…頭では…理解していました…。ですが、やはり駄目です…。家族を失う痛みは…本当に辛い…。」

「ヤクモ様…。」

「だからこそ!今度は絶対に奪わせません!必ず守り抜いて見せます!」


ヤクモの普段では考えられない程に怒りに震える声に、アキトとシルバーナは心配する。


「ヤクモさん…。僕達を庇って死ぬなんて、許しませんからね?」

「アキト様……。ええ、勿論ですとも。私は死ぬつもりは有りません。まだアキト様達を揶揄い足りないですし、大旦那様や若様の面倒を見なければなりませんからね。若様のお孫様の顔を見るまではと思っていますから。」

「…信じていますからね…?」

「ええ、信じて下さい。」


アキトは、ヤクモの嘘を見抜いていたが、それを指摘する気は無かった。


(ヤクモさん…あなたも絶対に守ります。いえ、守れる程の力は無いですが…逃げられる様には出来ます…。勿論、僕だって死ぬつもりは無いですからね?)


だから、アキトもヤクモを死なせる気は無い。勿論、自分も死ぬ気は無い。しかし、ヤクモやシルバーナを逃した後で、足掻いて駄目なら死を受け入れる。その覚悟は、とうに出来ていた。


「もしも出て来るのが彼でなくても、他の方も相当の手練れです。私達も全力で相手するより他には無いでしょう。」

「はい、僕も全力を尽くします!」

「私もです!」


アキト達は、改めて気を引き締めた。


「さて、もう一つの可能性についても考えましょう。」

「ハイルさんが嘘を吐いている場合…ですか。」

「……少しながら、彼の言葉に『揺らぎ』が見られたので、その可能性は充分だと思われます。」

「もしくは…ハイルさんにもたらされた情報その物が偽物で有る場合…その場合は、『上』に入って来た情報がその時点で偽物か、または『上』が何かを企んでいる可能性も考えられますか…。」

「ええ、そうですね。」


ハイルは飽くまで、公安捜査庁の一捜査官であり、命令を受ける側である。上の命令や情報を信じざるを得ない立場である。もしもその『上』からの情報について、ハイル自身が独自に詳細を知らないのなら、例えその情報が偽物であったとしてもハイルは本物と信じるだろう。そうなるとハイル自身は嘘を吐いていないので此方は見破れない。


「ハイルさんは『上が前から目を付けていたらしい』と言っていました。それを信じると、『彼らが動き出した』、『僕達を狙っている』という情報は彼らが独自に調べた物である可能性が高いですね。目を付けていたのなら、他の機関に任せる可能性は低い筈です。」

「一概にそうとは言えませんが、公安捜査庁もかなり秘密主義的な組織と聞きますからね。情報機関故に致し方の無い部分は有りますが。調査は彼ら自身で行う事を是とするでしょうね。」

「ここで一つ疑問なんですが…。何故ヤクモさん達の時には『上』からの妨害があったのに、彼等は問題無くその組織を調査出来ているのか、それがわかりません。もしかすると…。」

「……仰りたい事はわかりますし、私もそれは懸念しています。しかし、視野が狭くなるので、初めから結論有りきではいけません。他の可能性も考慮する余地を残しておいて下さい。」

「はい、わかりました。」


アキトは、『公安捜査庁』と『神淵ノ端求社』との間に繋がりが有る可能性を感じていたが、それを決めるのは時期尚早とヤクモは釘を刺す。しかし、ヤクモ自身も、それが一番妥当だろうとは考えていた。


「アキト様。それでは、次にそれぞれの場合に於ける、対処の仕方を打ち合わせましょう。」

「まず、最初に彼らの情報が本物である場合、相手が何者であっても、僕達は予定通り全力で迎え撃つという事で宜しいでしょうか?」

「危険になったら迷わず退散する、と言うのも追加して下さいね。全員が生き残る事が最優先です。」

「はい!」


『勝つ』事では無く『死なない』事を優先する。消極的な考え方では有るが、アキトはそれには大いに賛成であった。アキトにとっては、敵を倒す事よりも、仲間を失わない事の方が遥かに重要であったからである。


「では次に情報が偽物であった時、これは少々複雑になります。」

「偽の情報を流す事で、一体何をしたいのか…。犯人の目的がわからないと難しいですね…。」

「では、今の状況を整理してみましょうか。情報が偽物なら、恐らく犯人は今の状況を狙って作ったと考えるのが妥当でしょうから。」


ヤクモはアキトに、現在、自分達は犯人の狙い通りの動いているという仮定を立てて考えて見る様に提言する。


「確かに…犯人の目的は、偽の情報を流す事で『今』の状況を作り出す事…と考えると自然ですからね。」

「状況を作り出す事は、『目的』と言うよりも『手段』に近いでしょうね。犯人は、この状況を作って、何かをしたい。それこそが本当の狙いなのだと捉えるのが宜しいかと。」

「この状況で…何がし易いか…。僕達の今の状況で、こちらは何が疎かになっているか…。」


アキトは、掌に次々物を召喚しては転送するという繰り返しを行いながら、ヤクモとの話合いを続ける。


「今…僕達は周囲をかなり警戒しながら隠れ家に向かっています…。もし敵が僕達を襲う事を目的とすれば、今の状況は寧ろ目的に沿わないですね。…となると、僕達を『警戒させる』事こそが狙い…?僕達を警戒させる事で、果たして何が出来やすくなるのでしょうか?」

「『警戒させる』事よりも、それによる弊害を考えてみましょう。警戒と言うのは、神経を使います。それによる消耗を狙っているのかも知れませんよ?」

「それも有りますが…どうも、注意を他に逸らされている様な…そんな感じがします。」

「注意ですか…。確かに、私達が何か別の物を見張ってたりすればあり得ますね。そこから注意を逸らし、その間に何かを仕掛けると…。」


アキトは、ヤクモの言葉から、自分達の何処に隙が出来ているのかを考える。そして、アキトはふと疑問に思う。


「そう言えば…病院って今は誰かが見張って居るのでしょうか?」

「警察の方達が残っていたとは思いますが…。心配ですか?」

「……はい。事件が解決し、僕達が離れた事で、病院の警備が薄くなってしまったのでは…と。」


アキトは、つい先程テロリスト事件のあった病院を思い出す。ウキを捕まえて事件は一旦は解決したので、もう大丈夫だろうと安心し切ってしまっていたが、良く良く考えて見ると今の病院には、公安捜査庁の人間も居らず、警察官も半数近くをカスミが『神淵ノ端求社』襲撃の際の住民避難要因として動かしている。故にテロリストに対抗出来る人材が、相当数減ってしまってしまっているのではないかと考える。


「…確かに…それは言えるかも知れませんね。植物を使って、様子を見ましょう。」

「お願いします。」


そして、ヤクモは先程利用していた病院の庭木を利用して、病院の様子を観察する。


「……特に異常らしき事は……何⁉︎」

「どうしましたか⁉︎」

「急に銃撃を受け…植物を操作出来なくなりました。他の木々も同様です。恐らく…縁絶鋼。」

「まさか‼︎」


アキトは、咄嗟に携帯を召喚する。既にヤクモも、来た道を戻る様に運転したまま蔦を伸ばして自身の携帯を取り出し、何処かに連絡しようとしている所であった。


「イナバ先生の番号を!」

「其方には私から連絡をしますので、アキト様はコウガ様に!」

「わかりました!ハイルさんには…どうしますか?」

「それはお待ちを…少し様子を見ましょう。」


アキトはヤクモの表情を見て察する。ヤクモは、ハイル達がテロリストを手引きしたのではと疑っていたのだ。例えそうで無かったとしても、そこから情報が漏れている可能性が大いに有る。


(余りにタイミングが良すぎますからね…。疑うのも無理は無いです。)


アキト達が病院をすぐに離れていく事は、アキト達とハイル達以外は知らない筈である。情報を制限していた筈だからだ。もしもアキト達が出て行くのを何処かで確認していたとしても、余力を病院に残していない事は、アキト達の戦力を良く把握出来ていないと難しい。木に縁絶鋼を撃ち込んだ事から見ても、ヤクモの情報が敵方に伝わっているのは余りに不自然であった。


(となると、僕達を病院から引き離す為にあの話を出しましたか…。ヤクモさん達が絶対に警戒するだろう組織の名前を出せば必ず、万全を期す為、また周囲を巻き込まない為に、最大戦力を遠くに持っていくと踏んで…やられましたね…。)


アキトはあれこれ考えつつ、携帯でコウガに電話を掛ける。すると、すぐにコウガは電話に出た。


「先生!今大丈夫ですか⁉︎」

『アキト君⁉︎丁度良かった!今大変な事に!』


どうやら、退院手続きが終わった位の所で厄介事に巻き込まれたらしい。何やら騒がしい声が電話越しに伝わってくる。


「今病院に居るんですか⁉︎そこにテロリストが襲撃して来ていませんか!」

『どうしてそれを⁉︎』

「縁絶鋼で木が動かなくなりました!気を付けて!」

『わかりました!』


アキトは、ヤクモの操作する木が縁絶鋼により動かなくなった事を伝えた。たったそれだけで、アキト達が事態を知る理由、ヤクモの植物による支援が出来ない事、敵がアキト達の戦力について把握している事などがコウガに伝わる。そこに、イナバとの情報交換を一通り終えたヤクモが口を挟む。


「お話中失礼します。どうやらテロリストは先程と同じ『サカキ』の様です。代表者の名は『シキ』。その主張は、先程拘束したテロリストの『ウキ』の解放と、先の主張を通す事の様です。…あと、今度こそは邪魔されない様に、先の作戦を妨害した方達、つまりコウガ様とその関係者は今すぐ武器を持たずに投降しなさいとの事です。」

「そんな!」

「…大人しく投降すれば、人質には危害を加えないと。すぐに出て来ない場合、一人ずつ射殺して行くと主張しています…。警察の方も、不意を突かれて人質を取られ、手出し出来ない状況の様ですね。」

「…僕達がそこに辿り着く迄の時間は与えて来れませんか…。如何しましょうか!」


先程のウキの割と穏便な脅し方とは打って変わって、強烈で取りつく島無しな強硬姿勢に、アキトは焦る。


『それは…私だけでは駄目なのでしょうか?』

「コウガ先生⁉︎」

『妻や娘には、絶対に手を出さない事を厳命します。それで…。』

「…相手が、交渉の余地を与えてくれれば良いのですが…。」


ヤクモの口調は苦しそうであった。イナバからの情報で、シキの行動はかなり過激である事の予想がついた為、下手な交渉は逆効果で有るだろうと考えていた。


「恐らく、相手はコウガ様の関係者も人質に取る事で、コウガ様を完全に反抗させない事を狙っているのでしょう。シア様も同様に、コウガ様を盾にとる事で無効化する事を狙っているのかと。故にコウガ様だけで無く、シア様やリア様の投降も求めているのでしょう。互いを互いの人質に取る事で、双方の無力化を図ると言う事ですね。」

「何て卑劣な!」

『なるほど、確かに理に適っていますね…。』


携帯からコウガの悔しそうな声が聞こえて来る。


『……今、妻と娘の意思を確認しました。私達は投降します。アキト君は、私を召喚術で逃がそうとしないで下さい。妻や娘に危害を加えられるかも知れませんから。』

「先生⁉︎」

『必ず逃げて見せますよ。だから安心して下さい。アキト君。』

「…絶対に…絶対に助けますから!」


アキトは、ミノリ一家の救出を誓う。


「コウガ様。恐らくあの組織は動いていません。私達や大旦那様は、これよりそちらに向かいます。それまで何とか保たせて下さい。」

『わかりました。』

「通信は暫く控えます。どうかお気をつけて。」

『了解です。…ヤクモさん、アキト君を…お願いします。』

「…しかと承りました。私の名誉にかけて。」

『有難うございます。…通信終わります。』


ヤクモの、静かながら確かな決意を聞いたコウガは電話を切った。最後に聴こえてきた言葉は、何処か安堵していた。


「…ヤクモさん。」

「わかって居ります。アキト様、シルバーナ様…しっかり捕まっていて下さい!」

「「はい!」」


ヤクモの操る車は急加速し、コウガ達が居る病院に向け猛スピードで駆けて行った。


(…ただ病院を襲う為だけに、こんな手の込んだ事を…?わざわざ疑われかねない情報を出してまで…?引っかかりますね…まだ、何か有るかも知れませんね…。)


腑に落ちない展開と、得体の知れない不安に駆られたアキトの気持ちは焦る。


(早く…コウガ先生やシアさんやリアちゃんを…助けないと!)


逸る気持ちを抑えつつ、アキトは車の行く道の先を睨んだ。

言いように振り回される主人公達ですが、基本的に自分から仕掛けないタイプなので、如何しても対応が後手後手になってしまいますね。


作中でも少し話が出ましたが、導族は子供であろうと働かせる事が可能です。ただし、肉体労働系や導術による頭脳労働系が主で有り、特例以外の命の危険が有る作業を強いさせる事や、性的に奉仕させるのは違法として厳罰に処される事になっています。この監視には、実はキツネの配下がかなり活躍していたりもします。


これは現在までのヨミ国の政権が、アビス王国の国民感情をなるべく逆撫でさせない様にしながらも、良質な労働力を得て税収を増加させ、セーフティーネットなどの社会保障(人族のみ)を充実させる事でヨミ国国民の支持を取り付けて来たと言う背景があります。結果、移民問題に類似する問題が生じつつあったりもします。

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