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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
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第3話

「失礼します。コウガ先生、いらっしゃいますか?」

「ああ、アキト君にシルバーナ様、お見舞いに来てくれたんですか。有難うございます。」


コウガの病室に案内されたアキトとシルバーナは、元気そうなコウガを見て安堵する。包帯こそしていたが、腹部に大怪我を負ってから一日半とは思えない程の回復ぶりに、改めて導術の凄さを認識する。


「お怪我の具合は如何ですか?」

「もうすっかり傷は塞がりました。体力も回復しましたし、これから最後の検査を受ければ、今日にも退院出来ますよ。…残念ながら、呪毒の影響で導術は未だに使えませんがね。」

「そうですか…でも、無事で本当に良かったです。」

「アキト君…そんなに私を心配してくれていたんですね…うう…。」


コウガは自身を心から想ってくれているアキトに、改めて教師になって良かったと涙ぐむ。


コウガはその屈強な体躯と物凄く怖い顔の為、看護婦に怖がられ、主治医に恐れられ、他の入院患者からは悲鳴を上げられ、子供には泣いて逃げられる始末であった為、いい加減申し訳なさと肩身の狭さで心が押しつぶされそうであったのだ。


その為、彼を慕い、彼自身も気に入っている大事な生徒が、自分を想い、心配してお見舞いに来てくれたと言う些細な事が、何にも代え難い幸せであった。


「えっ!ちょっ!な、何故に泣いているんですか⁉︎」

「いえ…済みません…。ちょっと…感極まって…。」


コウガはアキトを心配させないようにと涙を堪える。涙を我慢するその顔は、物凄い形相であった。


(これは不味いです!怖過ぎます!)


思わずアキトはシルバーナを抱き寄せ、頭を抱えて撫でる。今のコウガの顔は、本人には悪気も自覚も無かったが、非常に怖い。怖い大人が逃げ出す位には怖い。


アキトは持ち前の理性で笑顔を留めていたが、シルバーナは泣き出す可能性が大いに有り、彼女を恐がらせない為と、それによるコウガの心への大ダメージを防ぐ為に、アキトは笑顔を崩さず細心の注意を払う。


(何とかコウガ先生に気取られ無いようにルビィを此方に向けさせないと!)

(暖かい…気持ち良い…お兄さんの匂い…はぅああ…。)

(ふふ、シルバーナ様、アキト君にベッタリです。一昨日で既にかなり仲は良かったですが、更に仲良くなった見たいですね。微笑ましいです。)


コウガの顔が元に戻ったのを確認して、アキトはシルバーナを優しく離す。シルバーナは少々名残惜しそうにするが、すぐに顔を整えコウガの方を向く。泣き出しはしなかった。


「シルバーナ様も私のお見舞いに来て下さったのですね、恐悦至極です。」

「いえ、お気になさらないで下さい。元は、私の我儘の為に御無理をなさってお怪我なされたのですから…。本日は御礼を兼ねて参上致しました。コウガ様、その節は本当に有難うございました。」

「あ、いえ…勿体無いお言葉です。それと、これは私の油断が招いた失態ですので、シルバーナ様が気にする必要は有りません。いやはや、まだまだ精進が足りなかったみたいです。お恥ずかしい限りですよ。」


コウガは少し申し訳無さそうに頭を掻く。ザドの変装を見破れず、縁絶鋼製ナイフでリビングアーマーを突き破られ、呪毒を受けて戦闘不能にまで追い込まれた。そんな不甲斐無い自分を救ってくれたアキトとシルバーナには、会わす顔も無かったが、せめて御礼を言いたいとコウガは思う。


「だから、本当に有難うございました。あなた達は、私の命の恩人です。」

「でしたら、その御礼はシルバーナ様に向けてお願いします。この方が居なかったら、僕は…先生を…見捨てて居ました…。」


アキトは悔しそうに下を向く。自分に力が無い為に、コウガを見殺しにしようとしていた自分を思い出す。考えてみれば、見捨てようとした人物のお見舞に来るのは何とも恥知らずではないかとも思えた。アキトの拳には自然と力が入る。


「アキト君。その様に考えた自分を、責めないで下さい。あの時の状況では、私を見捨てて逃げ果せる事の方が寧ろ、適切な判断でした。実際、アキト君には知らされていませんでしたが、有事の際に対応出来るように、ヤクモさんも控えていましたしね。」

「……はい。」

「なので、アキト君達が私を助けに来てしまった時は、嬉しくは有りましたが、本当に心配しました。万が一にでもあなた達に何かあったら……私は死んでも死に切れません。」


コウガは悲しそうに俯く。それをアキトも申し訳なさそうに見つめた。


「助けて貰って、こんな口を効くのは恥知らずですが、無礼を承知で言わせて下さい。何故私を助けようと思ったのですか?シルバーナ様を危険に晒してまで、私を助ける義務や責任を、君は持ってはいませんでした。」

「はい…そうですね…。」

「結果的にエミリオを出し抜いたから良かったにしても、それは結果論でしか有りません。君の行動は、危険でした。君には、シルバーナ様をお守りする責任こそがあった筈なのです。それをわかっていて、そして蔑ろにしてまで、私を助けに来る理由は、一体何だったのですか?」


コウガは、アキトを責めるつもりは無かったが、思わず詰問するような言葉になってしまっていた。アキトを心配する余りの言葉ではあったが、少々キツく言い過ぎたかと、言ってしまってからコウガは後悔した。


「済みません、少し言い過ぎ…」

「先生が、好きだからです。」


そして、謝ろうとした矢先に、何の臆面も無く恥ずかしい事をアキトが言い切って来た為に、コウガは意表を突かれ驚いた。


「先生は、僕の恩師です。僕の導術の授業外での練習に、何の文句も言わずにずっと付き合ってくれました。親身になって、色々な相談に乗ってくれました。僕は先生の事が好きです。だから、絶対に先生を助けたかったんです!」


アキトは、ただその思いを伝えた。何も飾らず、自らの心の儘に。偽らざる笑顔を見せて。


「…あ、有難う、アキト君。」


コウガは思わず、またも涙ぐむ。アキトはすかさずそっとシルバーナの頭を抱き寄せる。


「先生の仰る事は尤もです…。確かに、僕は危険な事をしました。一歩間違えれば、僕は殺され、シルバーナ様は……尊厳を踏み躙られていたかも知れません。」


アキトは顔を険しくする。シルバーナに起こったかも知れないであろう悲劇を思い、それを自分が招いてしまっていたかも知れないと思うと、益々自らの思慮の無さを思い知らされる。


「でも、後悔はしていません。」


それでも、アキトは自らの愚かな行動を否定したくは無かった。コウガを助けたいと思い、そのためにシルバーナに助力を乞い、危険な賭けに出た事、自らの心の赴くままに動いたその事を、自分自身だけは絶対に否定したくなかった。


「僕は、思うように行動しました。それが例え危険な賭けであったとしても、僕の心は、それを望んでいました。」

「ですが…。」

「少し前の僕なら、きっと勇気を持って踏み出す事が出来ませんでした。先生を…見殺しにして、シルバーナ様を連れて逃げ出していました。」

「では、何故…。」


困惑するコウガを他所に、匂いをそれとなく嗅いでいるシルバーナをアキトは優しく離し、その綺麗な瞳を見つめる。シルバーナは至福に次ぐ至福に、訳が分からず混乱してはいたが、取り敢えず非常に気分が良かった為に為すがままにされていた。


「この方のお陰です。」

「ふえ?」


アキトの匂いを嗅ぐのに夢中で、話の流れを聞いていなかったシルバーナは、アキトの言葉の意味が良くわからず狼狽える。


「シルバーナ様が、力を合わせて戦えばきっと助けられると、そう仰ったから、僕は動けました。先生も、キツネさんも、あの時シルバーナ様の仰った事を聞いて、寮生の皆さんを助けようと協力して行動した様に。僕も、この方の仰る事を信じたのです。」


コウガは、一昨日の夜、シルバーナがその身を呈し、危険な行為とわかった上で、それでも寮生を助ける為に囮になるとキツネを説得した事や、その厚意を利用してコウガは寮生を助け出した事を思い出す。


(馬鹿ですか私は…。アキト君の事を、言えた立場じゃ無いと言うのに!私も同じじゃ無いですか!私も、シルバーナ様を危険に晒して、それで大事な生徒達を助けたんじゃ無いですか!)


コウガは、自分の愚かさが悔しかった。コウガにとって大事な生徒達の為にシルバーナを危険に晒した事と、アキトにとって大事な先生を助ける為にシルバーナを危険に晒した事は、助けた人数に違いは有れど、その本質は同じであった。なのに、自分の事を棚に上げて、アキトを責める様な事を言っていたのだ。


自然と、コウガは悔しさと申し訳無さの涙が溢れそうになり、再び堪える。アキトは勿論、シルバーナの顔を自分の方に向けさせて固定する。シルバーナは再び匂いを堪能する作業に戻る。


「だから、僕はシルバーナ様に感謝してもし切れないのです。シルバーナ様のお陰で、先生を助ける勇気と、その結果を得られましたから。本当に、本当に…ルビィと出会えて良かった…。有難う、ルビィ…。」


アキトはそのままシルバーナを優しく撫でて、至近距離から笑顔で礼を言う。シルバーナは、興奮と幸せで頭が沸騰しそうになり、声も出せないのでは無いかと思えた。しかし、言葉は辿々しくも、自然と紡がれ、口をついて溢れ出る。


「ア…アキト様…そんな…勿体無いお言葉です…。私も…お兄さんに…会えて…本当に良かったです…。」


シルバーナは、顔を真っ赤にし、息も絶え絶えに返礼する。少しずつ慣れて来たのか、アキトの瞳を見続けても卒倒しかける事は無くなったが、代わりにもっと長く、近くで見ていたいという欲求が湧き起こり、今度はそれを抑えるのに苦労していた。


「…アキト君。君の思い、確かに伝わりました。それに、よくよく考えて見れば、私が君の事を言える立場じゃ有りませんでしたね。すみません。」

「いえ、僕がもし先生の立場であっても、きっと同じ事を言っていたと思います。先生の思い、確かに受け取りました。有難うございます。」


アキトはコウガに近寄り、固い握手を交わす。


「ただ、やはり余り無茶はしないで下さいね。君は、私の大切な生徒なんですから。」

「あ…あはは…。ど、努力します…。」


アキトは歯切れ悪く答えた。どう考えても、神淵ノ端求社との戦いでは無茶をする可能性が有る。詳しい事を知らされていないコウガの心配もわかるが、アキトとしては譲れない部分もあった。


「アキト君…?まさかとは思いますが…。」

「…先生、折り入って、相談が有ります。」


アキトは、コウガの言葉を切って口を挟み、真剣な面持ちでコウガを見る。アキトのただならぬ雰囲気を察したコウガも、姿勢を正す。


「僕に、召喚術での戦闘技術を教えて下さい。」

「戦闘技術…ですか?一体何故…。」

「強く…なりたいからです。」


コウガは、アキトの強い意志の篭った言葉に閉口する。そして暫しの沈黙の後、口を開く。


「私が入院してから今までに何があったのか、詳しく話して貰えますか?」

「…はい。」


アキトは、コウガに求められる儘に、この二日間に起こった出来事を全て話した。勿論、コウガの怒りそうな事(キツネに懐柔された者が、会見時にアキトに向かってわざと発砲した事など)は、ぼかして伝えておいた。








「そうですか…そんな事が…。」


アキトから話を聞いて、コウガは悩む。


(ヤクモさんも人が悪いですよ…。先に私が知れば、アキト君を説得するように私が頼み込むとわかって、敢えて私に何も言わずにアキト君を差し向けたんですね…。私がアキト君の…生徒の頼みを断わり切れないと踏みましたか…。)


コウガはヤクモの意地悪な笑顔を思い浮かべて、それが現実逃避だと理解して掻き消す。


(私自身が戦えれば良いのですが…。今のこの状態では、足手纏いでしか有りません。呪毒の解毒剤も、公爵閣下が手配して下さるそうですが、特殊な薬である上、遠いアビス王国から秘密裏に運ばせる為に少し時間が掛かると仰っていましたね…。)


コウガは、出来れば自分がアキトの代わりに戦えたらと考えるが、現状を認識し、戦力にならない事を冷静に見極める。


(転移召喚は戦闘向きでは有りませんし…。戦えなくは無いですが、難しい上に効率は悪いですし…。出来れば…アキト君にそんな戦い方を教えたくは無いのですが…。)


教師としての立場から言えば、アキトに戦い方を教える事には反対であった。アキト自身が無茶する可能性が大きくなるためである。奇しくも、アキトがシルバーナに対して抱いた思いと同じ物を、コウガはアキトに抱いていた。


(恐らく、私が駄目と言ってもアキト君は戦いに赴くでしょう。結構、頑固者ですからね。それに、“奴ら”に目を付けられたなら、襲われる可能性も否定できません。そうなった時に、アキト君自身が戦わなければならない場合も、或いは有るかも知れませんか…。少しでも生存率を上げる為には、彼自身の実力を上げる事も必要となりますね…。)


コウガもまたヤクモ達と共に、“神淵ノ端求社”と戦い、敗れ、苦い思いをした経験を持つ。その経験から、彼等の実力を嫌と言うほどに理解しているコウガは、少しでもアキトの生存率を上げる為に、アキト自身の力を高める事も必要と判断する。


(付け焼き刃でどうこうなる相手では有りませんが…少しでもアキト君の生存率が上がるのなら、戦い方を教える事も吝かではありません。もう、大事な人は…失いたくない!)


コウガは昔を思い出す。力及ばず、大事な友を奪われた時の無力な自分の姿を鮮明に思い出す。心の底から悔しさが込み上げ、思わず顔が険しくなる。


「あ、あの…やっぱり…駄目…ですか…?」

「え?あ…ああ、済みません。そう言う意味じゃ無いんです。」


コウガは、アキトの不安そうな顔と声に、苦い思い出と自責の念から一時的に現実に戻される。険しい顔をしている為に、アキトは反対されると考えたらしい。実際、コウガとしても反対の意思は変わらないのだが、そんな悠長な事を言ってもられない事態である為、コウガはアキトに召喚術の応用方法を教える事を決める。


「君の意思はわかりました。私の知る限りの、召喚術の応用方法をお教えしましょう。」

「はい!有難うございます!」


アキトは、コウガから戦い方を教えて貰える事に喜ぶ。少しでも強くなればその分、共に戦う仲間の足を引っ張る可能性が減るからである。


「ただ、如何しても召喚術使いは支援要員となってしまいますので、それはわかっておいて下さいね。」

「ああ…やっぱり、ですか…。」


わかっていた事ではあったが、やはり召喚術は戦闘には向いていない。改めてコウガから指摘された事でアキトの淡い期待は完全に砕け散る。


「そんなにガッカリしないで下さい。支援が主とはなりますが、やり方次第である程度戦闘にも応用が効きます。」

「本当ですか⁉︎」

「ですが、やはり他の導術と比べると、如何しても戦闘は不得手です。基本は逃げる事を心掛けて下さい。」

「は…はい…。」

「お兄さん、そんなに気になさらないで下さい…。」


コウガの言葉に、アキトは一喜一憂していた。かなり期待していた為に、思ったよりも現実は厳しいと知らされて落ち込みそうになる。


「既に、アキト君は召喚術を利用しての戦いは経験していますよね。」

「はい…。」

「詳しい内容は聞かなかったですが、それだけでも充分に凄い事です。普通の学生には、召喚術を利用して戦闘を行う事すら難しいのですから。」

「そうです!お兄さん、だから元気出して下さい!」


コウガはアキトを元気付ける為に褒め、シルバーナも便乗してみたが、アキトには余り響かない。


「有難うございます。ただ…僕が戦って勝てたのは、戦った相手に恵まれていたのと、貰った武器や助けてくれた人のお陰と言う所が大きくて…。」


ネイクスと戦った時はシルバーナの存在や拳銃が、ゴーラとの戦いではヤクモ特製手榴弾が、エミリオとの戦いではシルバーナの導子引導と縁絶鋼製ナイフ、ヤクモの支援があっての勝利であった。ミナカタ達はアキトの召喚術への対策が取れていなかったし、本気のアサテとは戦っていないが、恐らく逆立ちしても敵わないであろう事は理解出来ていた。


何れも、アキト単独では撃破出来はしなかった。コウガやヤクモから物を貰い、シルバーナやディアやレンの手助けがあって、それによって得た勝利であった。つまり、それだけアキト単独の戦闘力は低いという事になる。


「転移召喚自体の攻撃性能が皆無なので、仕方無い事とはわかって居るんです。人を逃がしたりするのは得意では有りますが、それで攻撃するとなると…。精々、天井や壁に転移陣を描いて、罠に活用する程度でしか…戦えません。」

「そうですね、その通りです。」

「先生の様に、創造召喚が出来れば、まだ戦えない事も無いとは思うのですが…。僕の導子量では不可能です。」

「それは…仕方ありませんよ…。」


悔しそうに俯くアキトに、コウガやシルバーナはかける言葉も無かった。


「ですので、今の僕は非力です。少しでも強くならないと、皆の足を引っ張ってしまいます。」

「…そんな事は無いですよ。召喚術使いの支援は、非常に役に立ちます。それこそ、召喚術使いが一人でも後方に待機していれば、部隊の生存率は上がり、戦略の幅が大いに広がるのですから。」

「そこは…理解はしているつもりです。ですが…。」

「納得は…出来ませんか…。」

「………はい。」


コウガの言う通り、召喚術の支援は強力である。一瞬で物資や人員の移動が出来る事は、それだけでも充分に有用なのだ。しかし、それを相手がわかっている場合、召喚術使いは優先して命を狙われやすい。自身の転移が出来ない為に、咄嗟に離脱する事が出来ないからである。


「後方で支援すると言っても、敵が僕を狙わないとは言い切れません。戦場で召喚術使いを守る為に、他の方が召喚術使いを庇って犠牲になったという話を聞いた事が有ります。もしも、僕の為に誰かが犠牲になってしまったら……僕は、僕を赦せません。」


アキトの目下の懸念は、前線で戦えないと言うことよりも、自分が襲われた時に単独で迎撃出来ない事であった。自身が殺されれば勿論、操られでもしたら、契約を結んだ全員の生殺与奪を敵に奪われる。


それを防ぐために仲間を召喚すれば、それが作戦行動中であれば作戦を放棄させる事に繋がる上、アキト自身を守りながらの戦いになれば、それだけ不利になる。アキトの存在が、却って足枷となる事も有りえるのである。


「アキト君…そこまで考えて…。」

「お兄さん…。」


アキトが唯の意地では無く、様々な事態に対応出来る様にと考えての事であったとわかり、コウガとシルバーナはアキトを宥める言葉を失う。二人の様子を見たアキトは、声を張ってコウガに願う


「先生!ですから、僕を強くして下さい。お願いします!」

「……わかりました。出来る限り、戦闘に利用できるであろう技術を伝えましょう。それと、カスミ先生に頼んで、特例としてアキト君の非常時における発砲許可を頂ける様に取り計らいます。」

「有難うございます!」

「ただし、自分から戦いに行く事はなるべく避けて下さい。飽くまで、敵に襲われた時に迎撃し、仲間に負担をかけないようになるのが目標であり、自ら進んで戦う事は想定しません。良いですね?」

「はい!」


アキトは元気良く返事をする。落ち込んでいる様を見せた事で、コウガやシルバーナに迷惑をかけた事に気付いた為、自分は大丈夫だと主張する意味合いもあった。


「今の私は導術が使えないので、実践して見せる事は出来ませんが、やり方とコツを教えます。学園では教えていないやり方も有りますので、無闇矢鱈と人前で使わないで下さいね。後で私が内容を纏めたノートもお貸ししますので、それで復習して下さい。」

「はい。」

「予め言っておきますが、私の教えるやり方でも、攻撃性能はやはり低いですよ。こればっかりは、召喚術の特色なんです。それだけは忘れないで下さい。」

「はい…。」

「普通の転移召喚よりも扱いが難しく集中力が要求されますし、その割には効果が薄いと言う方もいるかも知れません。」

「…はい。」

「ですが、今よりは確実に強くなれます。頑張って下さい。」

「はい!」


アキトはコウガの言葉に頷く。例え効率が悪くても、今より少しでも強くなれるのなら、アキトが拒否する筈が無かった。


「それでは早速…。」


コウガがアキトに自身の持つ技術を伝えようとした時、病室のドアが開かれる。


「あら、コウガさんにお見舞いの方?珍しいわね。」

「お母さん、だから言ったでしょう?知らない人の“音”がしたって。」


それはアキトの知らぬ声であった。コウガが二人の姿を認めると、口を開く。


「おや?もう来たのですか。退院するまでには、もう少し時間が掛かりますよ?」

「ごめんなさい、どうしても会いたくなっちゃって…。」

「お母さん、人前で惚気ないで!恥ずかしいから!」


コウガが新たにやって来た人物に応対したため、アキトもドアの方を向くと、そこには三十過ぎ位の美しい赤髪の女性と、その女性にそっくりな、シルバーナ位の年齢の可愛らしい黒髪の少女がいた。しかし、明らかに一般人では無かった。


「つ、翼…?」


その二人には、背中から生える大きな翼があったのだ。大きな女性の方には深紅の翼が、少女の方には漆黒の翼が、其々病室のドアに接触しないように折り畳まれながらも、その存在を確かに主張していた。


「あらあら!山羊型導族の子じゃない!こんな所で同胞に会えるなんて!」

「その翼…鳥型導族の方でしょうか?」

「ええ、その通りよ。」


シルバーナを見た女性は朗らかに笑う。ヨミ国では導族も暮らしているとは言え、まだまだ数は少ない。同胞と会えた事が余程嬉しかったのか、シルバーナに近付き、その手をとって握手をすると、アキトがすかさず自己紹介をする。


「始めまして。僕はアラカミ・アキト、この子はシルバーナ・フェルミと言います。僕はコウガ先生に導術を指導して頂いている者で、お怪我をなされた先生のお見舞いに来ました。」

「これはご親切にどうも。あら?もしかしてその子って…噂の貴族様の御令嬢かしら?これは失礼したわ。いきなり挨拶も無しに馴れ馴れしくしちゃってごめんなさいね?つい嬉しくなっちゃって。」

「いえ、お気になさらないで下さい。寧ろ、余所余所しくされるのは苦手ですので、そのままの方が私としては嬉しいです。」


シルバーナは、少しばかり失礼な女性の行動にも和かに対応する。


「あら、そうなの?じゃあ遠慮無く馴れ馴れしく行くわね!」

「お母さん!流石にそれは遠慮無さすぎよ!少しは弁えて!」

「あら?もしかして嫉妬しちゃった?わかったわよ。後であなたも存分に甘やかしてあげるからね!」

「そんなんじゃ無いわよ!」


少女からの叱責を受けた赤髪の女性は、シルバーナの手を離すと、すぐ背後に付いて来ていたその少女を抱き寄せる。アキトとシルバーナはその少女を確認する。


(この子…視覚障害…全盲ですかね…。話題には出さない方が良いでしょうね…。)


少女は、部屋に入って来てからずっと目を閉じていた。傍目から見ても、視覚に障害を持っている事が予想出来た。アキトはシルバーナを確認すると、彼女は小さく頷く。アキトの言いたい事を理解し、不用な質問は控える事を彼女もまた了承していた。


「あら?気を遣わせてしまったかしら。御免なさいね。」

「いえ、それは良いのですが…。失礼ですが、御二方は先生の関係者なのですか?」

「ええ、そうよ。私はコウガさんの妻でミノリ・アイビシア、この子は娘のミノリ・クロウリア。あなたの事はコウガさんから常日頃から良く聞いているわ。宜しくね。」

「え、えええええええええ⁉︎」


驚愕の事実に、アキトは病院に居る事を忘れて大声をあげてしまったのだった。

コウガ先生は既婚者で、コンセプトは(残念)美女と(優しい)野獣です。二人の娘であるクロウリアも、ヒロインの一人として、アキト達と関わって行く予定です。

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