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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
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第26話

「う…ううん…。」

「あ、起きましたか?」


朝となり、深い眠りから覚めたシルバーナが眠い目を擦りながら目を開けると、すぐ目の前にはアキトの顔があった。至近距離から微笑むアキトの顔を、夢では無く現実であると認識したシルバーナは、思わず目を見開き顔を真っ赤にする。


「ちょ⁉︎は⁉︎ひあ!」

「だ、大丈夫ですか?」


思わず奇声を上げるシルバーナにアキトは驚く。


「な!何でも!ごじゃいみゃ!」

「ルビィ、落ち着いてね。」

「ひゃ、ひゃいい!」


噛みまくるシルバーナを落ち着けるように、アキトはシルバーナを抱き締めてあやす。それが返ってシルバーナの頭をヒートアップさせている事には全く気付かない。


「キュピン!」

「ああ、ディア。お早う御座います。」

「あう、ディ、ディアちゃん…?」


続いて目を覚ましたディアがアキトに構って欲しいと顔を舐めると、アキトはシルバーナを少し離し、代わりにディアを抱き締める。


「キュイ〜。」

「ふふ、可愛いなぁ〜良し良し。」

「キュルキュル〜!」

「あはは、こら、舐めすぎですよ。僕の顔は食べ物じゃありません。」


アキトの顔を舐めて甘えてくるディアを、アキトは思いっきり甘やかす。昨日の話を聞いてから、アキトはディアの両親を奪い返すまでは、親代わりとなって面倒を見て、しっかり愛情を注ぎたいと考えていた。そんなアキトの心を感じたのか、ディアは精悍な顔を綻ばせ、愛しそうにアキトに甘える。


「ああ、良いなぁ…私もお兄さんにもっと構って貰いたい…って、あれ?そう言えば私何時の間に寝てしまったのでしょうか…?」


シルバーナはディアとアキトのやり取りを見て羨ましく思いつつ、少し正気になったのか、今の状況を理解し始める。


(昨日、キツネ様やヤクモ様とこれからについて話をして…。そしたら眠くなって…歯を…磨い…。)


そして、昨日の事を少しずつ思い出す。自分の意識が深く落ちる前、アキトにされていた事を思い出した時、顔は再び真っ赤になる。


「ふ、ふあああああ⁉︎」

「ル、ルビィ⁉︎」

「キュピィ⁉︎」


シルバーナは羞恥の余り叫んでしまい、その声を聞いたアキトとディアは驚く。


「も、申し訳ございませんーーーー‼︎」

「え?ど、どうしたの?」

「キュルッピィ?」


急にシルバーナが土下座して謝ってきた為、何事かとアキトは訝しむ。


「わ、わ、私ィィの!お、お、お世話、を!し、ししししし…。」

「うん、ルビィ、ちょっと落ち着こう。」

「キュキュ!キュキュ!」

「ひゃ、ひゃい!」


顔を真っ赤にして吃りながら何事かを喚き散らすシルバーナを、アキトは必死に宥める。


「ルビィ、深く息を吸って。」

「スーー!」

「キューー!」


何故かディアも深呼吸に加わる。


「深く吐いて。」

「ハァーー!」

「キュフーー!」


ディアの呼吸の音は、その体格に似合わず意外と小さかった。


「落ち着いた?」

「…はい、大変お見苦しい所をお見せしました……。」

「キュイッキュ!」


シルバーナは、ようやく気分が落ち着いてくると、行き過ぎて今度は落ち込む。アキトに醜態を見せてしまった事を深く後悔したのだ。


「お兄さん…あの…。」

「何ですか?」

「昨日は、その、お世話して下さって、あ、有難うございました…。」

「どういたしまして。」


アキトは何も気にしていないと言うように、優しく微笑みかける。その顔を見て、再び興奮しそうになるシルバーナは、自らの心を必死に律していた。


(う、うあ、お兄さんの顔を、まともに見れない…。)


自らの世話をしてくれた事でアキトに感謝するも、無防備であられの無い姿を見られた事を思うと、恥ずかしくてどうしようも無かった。


(はうう…私の歯を…磨いて貰ってしまいました…。)


シルバーナは後悔しつつも口に手を当てる。アキトに歯を磨いて貰った感覚を必死に思い出そうとしている自分に気付き、更に顔が赤くなる。


「もしかして…風邪?だとしたら大変です!早くお医者に!」

「キュイキュイ?」

「だ、大丈夫です!大丈夫ですから!」


アキトがシルバーナの体調がおかしいと感じ、医療機関に連れて行こうとする雰囲気になって来たため、急ぎシルバーナは体調不良を否定する。


「本当に大丈夫ですか?なら、良いのですが…。昨日、一昨日と大変でしたからね。体力を落としたのではないかと心配しました。もし体調がおかしくなったら、遠慮無く言って下さい。と言うよりも、酷くなってからだと色々と大変ですから、遠慮しないで言ってくれるとこちらも助かるのですよ。なるべく無理せずお願いします。」

「は、はい。」


シルバーナは導族である為、人族用の保険が効かない。よって、医療機関などを利用する際には多大な費用がかかる。その為、風邪を拗らせると余計に出費が嵩むのである。また、大体の薬は人と同じ様に効くが、場合によっては効果が薄かったり、逆に出過ぎたりする可能性も有る為に、それの調査を必要とするので別途費用が掛かったりもする。


「じゃあ、目を覚ます為にシャワーを浴びますか?昨日は酷く眠そうだったので、浴びて貰わずに寝て貰ったのですが。」

「え?あ!」


シルバーナは、自分が昨日、歯だけ磨いて貰って、そしてそのままシャワーを浴びずに着替えもせずに寝てしまった事を思い出す。急ぎ自分の体の臭いを嗅ぐと、少しだけ汗臭かった。そして、近くに居たアキトにも臭ってしまったのではないかと心配になる。


「す、すみません!その、臭い…ませんでした…か…?」

「臭い?ああ、大丈夫ですよ僕はそういうの気にしないですし。僕も昨日はシャワーを浴びずに寝てしまったんです。僕の方が臭うのでは無いですか?」

「いえ!大丈夫です!寧ろ良い匂いです!」

「え…?」

「な‼︎何でも有りません!」


アキトの困惑する顔に、シルバーナは思わず頭を下げて謝るが、顔を伏せながらも、自然とアキトの汗の臭いを嗅ごうとしていた。


(ああ、これも中々…癖になりそう…って、何やってるんですか私ィイイイ!)


そして自分の行動を恥じた。


「ルビィ、そろそろ行きませんか?」

「は、はいィイイ⁉︎」

「着替えはこちらです。一人でシャワーは浴びれますか?」

「え、ええ…、何とか、恐らく、多分…。」


アキトの質問に、シルバーナは自信なさそうに答える。見知らぬ場所の勝手知らぬ物を操作する事は、自身単独では少々荷が重いと感じたのだ。


(本当は、お兄さんが一緒に入って頂ければ…って、何考えているんですか⁉︎……でも、もしも、お兄さんが、それを望んでくれれば…そ、それは…し、仕方の…な、ない事…ですよね?)


シルバーナは、一昨日の夜、ゴーラにより服を破られた時の事を思い出した。アキトに自らの裸を見られた事による興奮が、再び脳内を駆け巡る。


(そうしたら、私も、お…お兄さんの…裸も…見れる…でしょうか…?)


欲望が大いに混じる妄想に対し、理性が激しい嫌悪感を訴えながらも、それとなく期待の眼差しをアキトに向ける。自分からは言い出せないヘタレであるが、アキトが望めばそれを言い訳にする程度の小狡さはあった。


(ってまた私はァアアアアア!)


そしてそこで正気に戻り、その恥ずかしさの余り、思わず自らの頭を床に叩きつけたい衝動に駆られる。


(た、耐えなさい!私!)


しかしこれ以上に挙動不審な行動を採り続けると、本気で病(主に精神疾患)を疑われてしまう。シルバーナは鉄の理性で何とか平静を装う。


「一人では不安ですか?そうですね…流石に僕が一緒に入るのは憚られますね…。何より女性用ですし、僕が入れば捕まります。誰か朝直の女性職員の方にお願いして同伴して貰いましょう。」

「え?あ、はい。そうですよね…。」


シルバーナの変な期待を裏切って、アキトはいたって常識的な判断を下す。。


「ディアと此処で待ってて下さいね。今、人を呼んできます。何かあったら携帯で連絡お願いします。部屋の外には見張りとして、レン君の土狼も居ますからね。」

「あ、はい、お気をつけて。」

「キュキュ!」


少し残念に思いながらも、ある意味で安堵したシルバーナは、ディアと戯れた。








「ふぅ…さっぱりしました…。」


シルバーナは県警本部の女性職員に手伝って貰いながら、シャワーを浴びてしっかり身体を洗い、新しい服に着替えた。きちんと身体を洗ったのは久し振りであったため、とても清々しい気分になり、職員と共に意気揚々と部屋に歩いて戻って来る。すると、自分よりも遅くにシャワーを浴びに行った筈のアキトが既に部屋に戻っており、ディアと遊んでいた。


「ああ、おかえりなさい。」

「あ、お兄さん、もう戻られたのですか。」

「僕は昔から烏の行水なんですよ。」


小さい頃からアキトはケチくさかった為、必要最低限の水の使用及び加熱無しの冷水で身体を洗う癖が付いていた。学生寮に入ってからは、光熱水費が寮生全体でその費用をプールする方式になった為、遠慮無く使えるのだが、長年染み付いた貧乏性は中々抜けなかった。


「着替えた服を入れた袋をこちらに下さい。後で洗濯しますから。」

「え?あ、ああ、はい。」


と、シルバーナはアキトに昨日の衣服を入れた袋を渡した時、重大な事に気付いた。


(あれ?もしかして、お兄さんに洗ってもらうという事は…。洗濯物を干す時は…。)


シルバーナは、自身の洗濯した下着がアキトに干されている場面を思い浮かべる。自身の履いている下着がアキトに掴まれ、伸ばされ、綺麗に干されていく様子を容易に思い浮かべてしまう。


(お兄さんが…私の下着を…下着を…!ああ、いけない!私が干さないと!手伝いもしなきゃですし!)


自分の趣味をアキトに知られる事に、激しい羞恥を覚えたシルバーナは、手伝いをすると称してそれを防ぐ事を画策する。


(あれ?じゃあ、アキト様の下着は…下着は…!わ、私が!ああああああ!)


そして、それはアキトの下着を自分が干す事を示す。シルバーナは激しい興奮を覚える。


(出来れば…洗濯前のお兄さんの下着の…匂いを…って!なあああああ!)


さらに妄想が飛躍した所で、急ぎ理性が止めに入る。我に返ったシルバーナは、止まぬ妄想を掻き消そうと思いっきり太ももを抓る。


(痛っ!我慢です我慢!)


痛みによりやっと妄想から脱出したシルバーナに、袋を部屋の角に置いてきたアキトはゆっくりと近寄る。


「ふふ、新しい服、とても似合っていますね。可愛いですよ。」

「ふぇあ⁉︎」


アキトは、着替えたシルバーナの姿を見て、素直な感想を述べる。シルバーナの格好は、昨日の黒のドレス姿から、セーラー服に近い形の服を着ていたのだが、白を基調としたそれは清潔感に溢れ、儚げな美しさがあった。


導族の服の特徴として、羽や尻尾などのある種族は、その部分に服の生地が被らない様に工夫されている。シルバーナの場合、背中の肩甲骨の部分が広く空いており、その上から広い後ろ襟が開いた場所を覆い隠す様に垂れているので、羽の可動域を邪魔しない形になっていた。


その他、ズボンやスカートには尾の付け根の部分に穴が開いている事が多い。帽子にも、角を覆い隠す位の空間があるか、角が出る穴が開いているなどの形の物が普及している。故に服の構造が人のそれと比べて複雑な物が多く、また通す際に邪魔する物が多いため、一般的に着替えの時間は導族の方が長いとされている。


「う、うあ、あ、有難う…ございみゃグ⁉︎」


不意打ち気味のアキトの言葉に面食らったシルバーナは、しどろもどろに礼を言おうとしてまたもや噛む。


「大丈夫ですか?」

「ひゃい…。」


何とか平静を取り繕ったシルバーナは、自身の格好を褒められた事の嬉しさに思わず舞い上がりそうになる気持ちを何とか落ち着け、アキトの方に向く。


「まだ少し髪が濡れて居ますね。ドライヤーで乾かしましょう。濡れていると冷えますからね。」

「は、はい。」


季節的には、もう多少髪が濡れていても風邪をひく確率が低いであろう季節になりつつあったが、過保護でシスコンでケチなアキトは、シルバーナの体調を気にかけていた。とにかく身体に負担の無い様になるべく気を付けようと考えていた。


「ドライヤーを取り出しますね。」


するとアキトは、実家に置いてある、アキトの数年前の誕生日祝いに近くの不法投棄場所から自分で拾って来て自らにプレゼントした、当時まだ何とか動いていたかなり古いドライヤーを召喚した。


「あれ?…もしかして、壊れてる?」


しかし、それは動かなかった。アキトはいつも自分の髪は自然乾燥させていた(勿論電気代節約の為、加えて実家には電気が通っていない)が為に、殆ど使っていなかったのが祟り、かつては何とか動いていたそれは、今や埃まみれになって見事に天に召されていたのだ。


「……お兄さん……。」

「……すみません。ここにあるのを借りましょう……。」


悲しそうなシルバーナの目に居た堪れなくなったアキトは視線をそらし、そっとドライヤーを何処かへと転送した。


「キュピ?」


ディアは『どうしたの?』と言った顔をして、首を傾げていた。








「あったかい…。」

「大丈夫?痛くない?」

「いえ…とても…気持ち良いです…はふう…。」


県警のシャワールームにあるドライヤーを借りてきたアキトは、シルバーナの髪を優しく梳きながら乾かしていた。背後から髪を傷めない様に優しく丁寧に温風を当て、時折頭皮のマッサージを行い、痛くないか確認しながらリラックス出来る様に配慮するその姿は、まるで美容院にきた客と美容師であった。


(ああ…幸せ…です…。)


良く見知らぬ機械(アビス王国は、ヨミ国からの支援を受けて技術水準が大幅に上昇して来ているが、発電施設が足らず常に電力不足であり、通信などの特定施設以外への電力供給が充分で無く、従って電化製品はまだ其処まで普及していない)から奇怪な音と共に放たれる温風に、始めはおっかなびっくりしていたシルバーナも、暫くするとウットリとしていった。アキトの丁寧な髪梳きがとても気持ち良かった為であった。


「ああ…お兄さん…髪梳き…お上手なんですね…。」

「そうですか?小さい頃から妹の髪を良く梳いていたお陰ですかね。」

「…妹様が…いらっしゃるのですか…?」

「はい、アラカミ・シオンって言います。僕に良く懐いてくれている、とても可愛い妹なんです。」

「…そう…なんですか…。いつか…お会いしたいです…。」

「ええ、機会があったら紹介しますよ。」


アキトは目を細めながらシルバーナの美しい銀髪を梳く。アキトは小さい頃から妹のシオンの面倒を良く見ていた。と言うよりも、もはや父親代わりと言っても差支え無い位に身の回りの世話をし、未だに溺愛している。そのお陰か、今でもシオンは兄のアキトにかなり酷く甘えるような、重度のブラコン妹と化している。


「ふぅ…気持ち良かったです。」

「ふふ、僕も懐かしい感覚になれましたよ。」


と言っても、まだ実家を離れて数ヶ月であり、それまでは当たり前の様にシオンの世話をしていたアキトにとっては、そこまで懐かしむ程の期間が空いている訳では無かった。しかし、長い間続けていた習慣が急に無くなってしまって少々物足りなさを感じていたアキトには、かなり昔の事の様に思えた。


(そう言えば、寮から引っ越ししたから、その事を伝える為にも実家に手紙出さないとですね。…今の状況、どう伝えましょうかね…。)


アキトの実家には電話が無いため、連絡手段は専ら手紙となる。テレビもラジオも無く、母であるアラカミ・コウキの職場でその話が出なければ、アキトに起こった事(バイドンやシルバーナを助けた事や、テロリストに襲われ撃退した事など)はまず伝わらない。


アキトの両親の基本的な教育方針は放任主義であるが、命の危険が有れば人並み以上に心配する親バカな部分もある為、ここ数日起こった事のあらましを、如何にしてボカして伝えようかアキトは悩む。そして考え込んでいると、シルバーナが何か意を決した様に話かけてきた。


「あの…今度は、私がお兄さんの髪を乾かしても…宜しいでしょうか?」

「え?」


アキトの髪は長く、また自然乾燥させるのが当たり前な環境で育ったが為に、未だに濡れていた。その黒く長い髪が水分で纏まり、窓から差し込む朝の日差しの照らされて、艶やかに煌めいている。


「ああ、そうですね。お願いします。」


アキトは、シルバーナの提案が嬉しかった。シルバーナが自分自身の考えで行動する事で経験を積み、精神が成長する事をアキトは望んでいたからである。その為の助けになるのなら、自らの髪を乾かさせる事などお安い御用であった。


「じゃあ、背後に回ります。」


シルバーナはアキトの後ろに周ると、ドライヤーで髪を乾かし始める。アキトの長い髪を優しく持ち上げ、指の間でゆっくり解す様にしながら温風を当てて丁寧に乾かしていく。


「お兄さんは、髪を伸ばすのがお好きなのですか?」

「ふふ、男性の長い髪が珍しいですか。そうですね…伸ばしたいと言うよりも、切りたくないと言う感じですかね。」

「切りたくない…ですか?」

「床屋に行くお金が勿体無いのと、後はシオンがこの髪が好きなので、それでですね。」


シオンを、まるで父親の様に面倒を見ていたアキトは、シオンが赤子の頃から良くおんぶしたり抱っこしたりしていた。そのため、何時の間にかシオンはアキトの髪を弄ったり咥えたりする事が習慣となっており、それをすると未だにとても落ち着くらしい。実際、アキトが実家を出る直前まで、シオンと同じ布団で寝ていた為、それまでシオンは夜寝る時は必ずアキトの髪を掴み、咥えたり弄りながら寝ていた。


「だから……僕の大切な宝物なんです。シオンが好きなこの髪が、僕はとても好きなんです。」

「そうなんですか…。だから、アキトお兄さんの髪って、とても上質なのですね。滑滑で触り心地が良いです。良く手入れなさっているんですね。」

「そうですか?全然手入れなんてしてないのですけど。」


アキトの髪はコシとツヤが有り、滑らかな触り心地であった。髪の毛一本一本はしなやかかつ強靭で太く、カツラにすれば良い値段がつくであろう。アキト自身は髪の毛のケアなど気にもしないし、する余裕など有りもしないのだが、毎日欠かさず手入れしているかの様にその黒い髪は美しかった。


「とても黒くて綺麗な髪の毛、憧れちゃいます。」

「ふふ、有難う。ルビィの銀色の髪の毛も、とても綺麗ですよ。」

「うあ、あ、有難うございます。でも…。」

「ルビィ?」


シルバーナは手の動きを止めると、少しだけ悲しそうに俯く。


「…私達、山羊型導族は、浅黒い肌に漆黒の毛が特徴なんです…。私のような白い肌に銀色の髪は…その…変…なんです…。だから…お兄さんの…黒い…髪の毛が、少しだけ…羨ましいです…。」

「ルビィ…。」


シルバーナは、導術が導族に忌み嫌われる物であるだけで無く、その姿も異端であった。バイドンが守ってはいたが、心無い言葉は何処からともなく聞こえて来て、小さなシルバーナの心を容赦無く傷だらけにしていった。それでも気丈なシルバーナは、自らを鼓舞して生きてきた。しかし、異国の地での不安もあったのだろう、今まで我慢していた気持ちを吐露してしまったのだ。


(本当に…大変だったんですね…。)


アキトは意を決して、シルバーナの方に向き直ると、その綺麗な銀髪を右手で軽く持ち上げ、そっと口付ける。


「な!何を⁉︎」


アキトの急な大胆な行動に、シルバーナは顔を真っ赤にする。


「好きですよ。」

「ふえあ⁉︎」


そして、アキトのトドメの言葉に、更に身体中を真っ赤にして硬直する。そんなシルバーナをアキトは優しく抱き締め、ドライヤーをそっとシルバーナの手から離して近くに置き、その銀髪を愛しそうに梳きながら耳元で優しく語り掛ける。


「この銀色の髪、とても綺麗で素敵です。例え、誰がこれを嫌おうとも、僕はこの髪が大好きです。ずっと好きでいられると、自信を持って言えます。あなたの綺麗な白い肌だって大好きですよ。とても…とても綺麗だなって、初めて会った時に思ったんですから。」

「お…お兄さ…あ…ああ…。」

「だから、ルビィもこの髪を、肌を、好きになって下さい。自分を好きになって下さい。僕が大好きなあなたを、あなた自身が傷付けないで下さい。こんなにも、美しいんですから…。」

「うあ…あ…あ…。」


アキトの優しい言葉がシルバーナの耳に囁かれ、そのまま心にまで流れ込んで行く。シルバーナの心は興奮と安心と幸福がないまぜになって、どんな顔をすれば良いのかわからなくなる。その幸せを、感謝を大声で叫びたいと思った。


「うぐ…ひっぐ…、あ、あり、ありが…ど…お…ご…。」

「大丈夫。」


それでも何とか礼を述べたいと思ったシルバーナは、泣き声混じりに何とか言葉を紡ごうとするが、それはアキトに遮られる。アキトが、シルバーナの頭を優しく自らの胸に押し当てたのだ。


「あ……。」

「僕はここにいます。あなたを好きな人は、確かにここにいますから。」


アキトの鼓動と体温が、慈しみの心と共にシルバーナに伝わってくる。心が満たされる。幸せが溢れる。溢れた思いは涙になって、悲しみを綺麗に押し流す。かつてあった苦しみが、今ではとてもちっぽけに思える。そして代わりに、かつて嫌った自分をその分、好きになれた。


(ああ…アキト様…好きです…好きです…大好きです…!心の底から…お慕い申し上げます…。)


シルバーナには、最早自分を嫌う理由は無くなっていた。自分の大好きな人が、大好きだと言ってくれた自分を、自分自身が好きになれない筈がなかった。嫌っていた白い肌が愛しくなる。疎んじていた銀の髪が美しく見える。シルバーナは、まるで住んでいる世界が変わったのではないかと感じた。それ程までに、彼女の心に幸せが溢れていた。


「お!お兄さん!」

「何ですか?」

「あの…その…。い、いつか!わ、私…に…こ!こだ…!」


ここまでの事をされて、自分の心を抑えつける事は、シルバーナには到底出来なかった。顔を真紅に染めながらも、心に宿った激しい感情に突き動かされその赴くままに、彼女は自分を本心を曝け出そうとした。


「キュルッピィ!」

「ホアアアアア⁉︎」

「ああ、ディア、構ってあげられなくてすみません。」


そして、空気を読んで黙っていたが、いい加減痺れを切らしたディアの『構って構ってコール』によるアキトへの抱き着き攻撃により、シルバーナの一世一代の告白は奇声と共に霧散したのであった。

これにて第二部は終わりです。拙い表現の文章を、此処まで読んで下さって本当に有難うございます。


続けて第三部に入って行きます。自分が設定大好き(その癖にそれを管理仕切れず良く矛盾が出る)である為、世界観も少しづつ追加して行きます。冗長な文章も多くなるかも知れませんし、少し可笑しな所も出るかも知れませんが、どうか御容赦願います。


新たなヒロイン(例によってチョロイン、と言うか自分の力不足でそれしか書けません)も追加して行きますので、何卒宜しくお願いします。

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