第16話
「…あの人が、ディアを狙っていたのですか…。あの人の言葉と、ディアのこの怯え様から見て、この人が以前にディアを所持していたと見て間違いないですね。」
「…キュル…キュピル…。」
「大丈夫だからね、ディアちゃん。私達が守るから、ね…?」
アキトは、土壁の中に隠れて男を見据える。怯えるディアをシルバーナと共に抱きしめ、落ち着ける様に優しく摩る。
「中々に派手な登場と、随分なご挨拶ですね。一体、あなたは何処の何方でしょうか?」
ヤクモが笑顔で男に問い掛ける。しかし、その目付きは真剣なものであった。
「僕や君が何処の誰かなんて、そんな事は大した問題じゃあ無い。問題は『僕の目的は何か』、それに対して『君達はどうしたいか』でしょ?」
男はヤクモの言葉にニヤニヤしながら対応する。その笑みには余裕が見て取れた。
「そうですね。私としても、是非ともあなたの目的を確認しておきたいですね。もしも譲歩可能であれば譲歩して、無闇な戦闘は避けたい所ですから。では改めて聞きます。あなたの目的は何ですか?」
ヤクモは内心、譲歩など出来ないだろうと思いながらも、顔には出さずに笑顔で答えた。
「わかってるでしょ?地竜だよ。僕が研究して実験して訓練して、特殊な技術を持つに至った可愛い実験動物だよ。」
「その割には、テロリストに所持されていましたが?」
「ちょっとしたミスで脱走されてしまってね。導物密猟者に捕まった事はわかったんだけど、そこから苦労したよ。誰に捕まったのかもわからなかったからね。それでもやっとのこと見つけたと思ったら、彼死んじゃってたし。」
キタカタがディアを買い取った密猟者は、男が見つけた時には既に殺されており、彼がキタカタに地竜を売ったと言う情報も綺麗に消されていたらしい。
(おそらく、キタカタが口封じをしたのでしょう…。ディアの事を知る人物を、余り増やしたく無かったのでしょうか…。お金になる縁絶鋼を独り占めにしようとしたのでしょうね。)
キタカタは、ウシオにこそ信頼を得るためにディアの事を話したが、組織内やその他の人物に決して話さなかった。ディアの能力を知られれば、お金になる縁絶鋼を狙うならず者共に狙われるからだ。既にディアの事を知っていて、他の人物に伝える可能性のある密猟者は邪魔であったと考えられる。
ウシオの強欲さと無能さはキタカタもよく知っていた為、彼なら他人に絶対に話さず独り占めを目論むが、自分を出し抜けないだろうと判断して、その権力を借りる為に打ち明けたのだ。実際その予想は当っており、カスミが居なければ逃げ果せる事は可能であった。
「縁絶鋼の出回るルートから、やっとのことキタカタって奴が僕の地竜を持っているってわかったから、此処に足を運んだんだよ。警察に捕まったって言うから、県警本部に来てみたら、そこで見つけたんだよ!僕の地竜を!」
「ウシオ達に連れて行かれる所を見られましたか…。」
「ああ!早く連れ帰って実験がしたい!次は何をしようかなあ‼︎」
ヤクモは譲歩は到底出来ないと判断する。アキトは冷ややかに男を見つめ、シルバーナは怒りに震える。
「では、あなたの地竜をお探しなのですね?」
「口説いな。何度も言わせないでよ。そうだよ!“僕の”地竜を連れ戻しに来たんだよ!大人しく渡してくれれば、手荒な事はしないよ?」
アキトもヤクモもシルバーナも、この男にディアを渡す気は全く無かった。
「申し訳ございませんが、あなたのお探しの地竜は此処には居りません。何処か他所を当たられては?」
「いや、僕の目に狂いは無い。あそこに居るのが僕の地竜だ。」
男は土壁を見ながら口角を吊り上げ、歯をむき出しにして笑う。ヤクモは澄ました顔で続ける。
「嘘は申しておりません。“あなたの”地竜は此処には居ないと申したのです。」
「何だって?ふざけないでよ。あれは僕のだ。」
男はヤクモの言わんとする事を理解したが、素直に引き下がるつもりは無かった。
「かつてはそうだったかもしれません。ですが、今はアキト様の物です。もう、あなたの物ではありません。」
「ヒヒヒ!そうかい、そういう事かい。君達は盗人という訳だね?」
「…キュル…キュル…」
ディアは恐怖に震えだす。アキトは、男を氷のように冷たい視線で静かに見据え、近くのシルバーナに声をかける。
「…ルビィ。」
「…はい。」
「絶対にあの人にディアは渡しませんよ。」
「はい!」
シルバーナは燃えるような強い意志を秘めた目で、敵を見据えた。
「大人しく僕の地竜を渡さないなら、僕にも考えがある。」
「…何でしょうか?」
「力尽くで奪い返す。」
男はおもむろに手をあげると、炎の玉を創り出し、土壁に向かって放った。
「ルビィ!」
「はい!」
しかし、シルバーナの導子引導によりそれは掻き消される。
「全く、何を考えているのですか!地竜は自然系導術に弱いんです!さっきの炎を纏った突撃といい、この子に炎が当たってもしもの事があったらどうするつもりですか!」
アキトは土壁から顔を出し、ディアを少しも心配しない男に向かって叫ぶ。
「導術が…消えた…?今の感じ、導子が抜けていくような…。イヒ、イヒヒヒヒ!」
一方、男は導術をかき消された事に一瞬驚愕の顔をするが、すぐに笑顔になる。そして、アキトを無視してシルバーナが隠れる土壁に向かって喋り出す。
「何?何⁉︎今の!凄い、凄い!面白い!面白いよ!あれ、呪導術の『導子引導』じゃない?何で?どうしてそこまで強力なの⁉︎」
シルバーナも土壁から顔を出し、男を睨み付ける。
「…私にはわからないですし、わかっていたとしてもあなたに教えるつもりは有りません!」
「わからない?わからないの⁉︎良いね、良いね!すごくイイ‼︎わからないなら研究のし甲斐が有るじゃないか‼︎」
シルバーナは、狂喜乱舞する男に気味悪そうな顔を浮かべる。
「ねぇ、ねぇ!研究させてよ、僕に君を研究させてよ!僕は知りたい、君の力を!」
「お断り致します。」
「うん、別に君の意思はどうだっていい。よし、目的追加だ!君も地竜と一緒に連れ帰る。僕は決めた!」
「何を勝手なことを!」
「だから君の意思はどうだっていいんだって。…黙らないと、その悪い口を火で焼いて塞いじゃうよ?」
「ヒィッ⁉︎」
男の不気味な笑顔にシルバーナは戦慄し、身震いする。アキトは恐怖するシルバーナの肩を優しく抱き寄せる。
「大丈夫ですか?ルビィ。」
「お兄さん…。はい、もう大丈夫です。」
アキトの顔を見たシルバーナの表情が和らぐ。先ほどまでの不安が綺麗に消し飛んだ。
「あの人をここで捕らえます。手伝ってください。」
「はい!もちろんです!」
アキトは土壁に隠れながら、右手に持つ銃を左手に向けて投げて受け止める。その銃が宙を舞う一瞬の間に、アキトは甲冑姿となっていた。
(見た所、大きな武器は持っていない様ですね…。ヤクモさんの蔦で牽制、ルビィの導子引導で導術を封じ、甲冑で隠し武器に備えつつ近寄ります。…絶対ディアは渡しません!)
冷たい目で敵の男を見据えつつ、壁を乗り越え走り出す。後ろ手に縁絶鋼製銃弾を込めた拳銃を握り締め、男に見せない様にして一気に駆ける。
「ヤクモさん!援護をお願いします!」
アキトは、男の導術が炎導術である事から、相性の悪いヤクモの蔦には終始牽制をしてもらいながら、暗器に気を付けつつ相手に近寄り、至近距離から確実に足に弾を撃ち込む事で、力を封じつつ逃げられなくする事を狙う。
ヤクモとシルバーナの連携だけでも男の攻撃を防ぐには充分であるが、それでは逃げられる可能性がある。逃げられシルバーナの導術の効果範囲から外れれば、炎導術が使える様になり、蔦や木を燃やされて非常に厄介である。更にムカイドを利用されて人質などを取られる可能性も有る。ここで一気に決着を付ける為にも、危険ながらアキト自身も戦う事を選択した。
「君には用はないんだけど。邪魔するなら殺すよ?」
男は興味無さそうな目でアキトを見て、手を向ける。
「私の事もお忘れなく!」
男がアキトを迎撃しようとしたため、それを邪魔するように近くの木々から枝が伸びて、四方八方から男を囲んで襲い掛かる。
「炎生導術・炎幕」
男が導術を発動すると、男の周囲から炎の壁が立ち上がり、一瞬にして襲いかかる枝を全て焼き捨てる。木導術は炎導術に弱く、燃やされると操作が出来なくなるため、周囲の木々はもはや使い物にならない。
(やはり炎は苦手です…。ここはシルバーナ様が頼りですね。)
ヤクモは顔には現さないものの、心の中で悔しそうに呟く。すかさず少し遠くの燃えていない木々の支配を行う。
「ルビィ!」
「はい!」
アキトの合図にシルバーナはすかさず導子引導を使用して炎の壁を打ち消す。
「炎生導術・炎弾」
しかし次の瞬間、壁が消えて現れた男の手から炎の玉が飛び出し、アキトに向かって放たれる。炎の壁を造った後、すぐに別の導術を発動していたのだ。シルバーナの導子引導が発動するのを見越しての二段構えの攻撃であった。
「させません!」
「何ッ⁉︎」
しかし、間髪入れずに放たれた炎の弾も、シルバーナの導術により掻き消される。
(打ち消した直後に間髪入れずに放たれた、別の導術すら消せるのか⁉︎益々もって興味深い!)
導子引導は本来、一つの導術を打ち消すと別の導術を打ち消すまでに少し間を置く必要がある。そのため、二段構えの導術を打ち消せるとは思わなかった男は驚き、また益々シルバーナを手に入れて研究したいと思い、研究対象が増えた事に対する喜びで隙ができる。
(隙有り!)
アキトは隙の出来た男に近寄り、至近距離から男の右脚に縁絶鋼製銃弾を撃ち込む。
「ぐっ!」
男は足に走る激痛に我に返って顔を歪め、よろける。銃弾は右太腿内側に入り込み、中に留まる。男の右脚からは血が吹き出し、辺りの地面を朱に染める。
「うらあ!」
「なっ⁉︎」
しかし、続けて男のもう片方の脚を撃とうと狙いを付けるアキトの頭のヘルムに向かって、男は撃たれた筈の右脚で上段廻し蹴りを放つ。腕を防御に回させる事で、銃を撃たせまいとしたのだ。普通なら痛みでまともに動けない筈なのにも関わらず、その蹴りは鋭かった。撃たれた足で反撃して来るとは思わなかったアキトは驚く。
(負けません!絶対に!)
負けじと、男から放たれた顔への蹴りを、アキトは首を竦めることで左肩で受け止める。更に、甲冑の角で蹴りを受け止める事で、逆に男の足にダメージを与える。
「ぐぬぅ⁉︎」
「はあ!」
そのまま銃を持った左腕でその足を絡め取り、固定したまま右肘鉄で男の右脚の着弾点を強打する。しかし激痛が走っている筈が、男は余り動じていない。
(まだ足りないですか!)
男の予想外のタフさを感じたアキトは、右腕で顔を防御しつつ距離を詰めて男の鳩尾に右肘鉄を鋭く打ち込み、腕を伸ばして右掌底で男の顎を打ち上げる。そして絡め取った右足を持ち上げつつ、男の軸足に自身の右足を引っ掛けて、男を後頭部から地面に勢い良く落とした。
「せいやあ!」
「くっ⁉︎」
男は衝撃で呻き声をあげる。その隙を逃さず、すかさずアキトは男の左脚を銃で撃ち、両脚を使えなくさせる。
「さあ!これであなたは導術も使えませんし、脚も使えないから逃げられません!」
アキトは油断無く男を銃で狙いを付ける。同時に、もしも男が降参すれば、すぐにでも出血を止めれる様に準備をする。
「イッヒッヒッヒッハッハー!」
男は何が面白いのか、急に笑い出した。
「何を笑って…うわッ⁉︎」
アキトは驚いた。男の口から赤い百足が飛び出して来たからだ。しかし、アキトの顔の直前でそのムカデはヤクモ操る枝に絡まれる。アキトは急いで後退し、男と百足から距離を取る。
「アキト様、油断大敵ですよ?」
「すみません…。」
ヤクモに指摘され、アキトは反省する。昨日もエミリオとの戦いの時に同じ様な目に逢っただけに、自らの成長の無さを嘆く。
「ピギアアアアアア⁉︎」
「何ですか⁉︎」
アキトは驚いた。ヤクモの枝に絡まって動けなくなっていた百足が、急に燃え出したのだ。シルバーナは目の前の光景に驚き、導子引導を使うのを忘れていた。百足を焼く炎はさらに激しく燃え、枝を伝わって枝の生えていた木を燃やし尽くし、更に炎はその周辺まで広がろうとしたが、我に返ったシルバーナの導子引導によりその炎は普通の炎に変わり、生の木を焼けずにすぐに勢いを無くす。
「炎生導術・有機発火、炎操導術・助燃延焼。」
男は静かに呟きながら立ち上がる。両脚を銃で撃った筈なのに、何も無かったかのように平然としている。
「どうして、導術が使えるのですか…縁絶鋼は確かに撃ち込んだのに…。」
「クヒヒッ!知りたい?知りたいでしょ⁉︎知らないと言うのは幸福だ!知る喜びを味わえる!未知とは素晴らしい!脳神経が活き活きとする!」
アキトの言葉を無視して、男は嗤う。
「別に教えなくても良いんだけど、今の僕は機嫌が良い。特別に種を明かしてあげよう。」
男はアキト達に向き直ると、おもむろに上着を脱ぐ。見ると、男の上半身は傷だらけで、あちこちに縫った痕があった。
「な、何ですか…。その無数の縫合痕は…。」
「クヒヒヒ!出ておいで、僕の可愛い百足ちゃん達。」
男が優しい声色で囁くように告げると、縫合痕から数匹の百足が飛び出した。その百足は男の身体全体に巣食って居るようで、よく見ると男の皮膚の下にも複数の百足が這っていた。
「ヒイィッ!」
「キュキュー!」
シルバーナとディアは、気味の悪い男の体に怯え、抱き合いながら縮こまる。
「…その百足が、脚から銃弾を取り除いたのですか?」
「ヒヒッ!正解!縁絶鋼では機械は止められないからねぇ!僕の体に縁絶鋼を撃っても、この子達が動かなくなる事は無かったのさ!」
男は自慢気に語る。男の体に寄生させているのは機械化百足であり、男の頭に埋め込んだ脳波検知器から発する信号で制御している。導術を用いていれば縁絶鋼の影響で百足の制御も不可能となるが、機械制御であれば話は別である。故に縁絶鋼を撃ち込まれても、男は百足を操作できたのだ。
そして、男は撃ち込まれた縁絶鋼を百足に指示して体内から取り除かせた為、再び導術が使えるようになったのだ。
「両足の傷も、焼いて潰しましたか…。」
「ヒーッヒッヒッヒ!かなり痛かったよ!でも、大切な血液が無くなると、大事な大事な脳神経に栄養が行かなくなって死滅しちゃうからね!ガマンガマン!」
男はかなり痛いと言いながらもその顔は喜悦に歪んでいた。アキトは冷静に男を見据える。
(縁絶鋼製銃弾は効果が薄いですか…。ルビィの導子引導は防御に使えますが、攻撃力は皆無です。ディアは怯えていて厳しいですね…それに無理もさせたくありません。あとは頼りなのはヤクモさんですが…木導術は炎導術と相性が悪い…ですか…。)
アキトは自分達に男を倒す為の決定打が欠けている事に気付き、眉を顰める。一方の男は、嬉しそうに身悶えしながらシルバーナに向かって喋り出す。
「ヒッヒッヒ!いや、大した物だよ!導子引導は、普通ならこんなに素早く連続して導術を無効化できないのに!素晴らしい!研究したい!」
「…あなたに褒められても嬉しくありませんので。」
どうせならアキトに褒められたいとシルバーナは思う。そんな彼女を放っておいて、男は今度はアキトの方に向く。
「それに、君も唯の面白味のない人間だと思っていたが、存外に面白いじゃないか!」
「はい?僕?」
アキトは急な男の発言に困惑する。
「そうだよ!普通はね、そんなに簡単に人を撃てないんだよ!それなのに君は躊躇無く僕を撃った!」
「それは…必要だと思ったからで…。」
「ヒッヒッヒ!『必要だと思ったから』だって?そんなので簡単に撃てたら苦労しないよ?人はね?傷付くのが怖いんだ。自分が傷付くのが嫌だから、仕返しが怖くて人を傷付けられないんだ。考えてもみなよ?銃で撃つことはちょっと小突くのとは訳が違う。最悪相手の命を奪う行為だ。それを冷静に平然とやってのけるのは、特別な訓練を受けたか、かなり気が狂っているかの何方かだ。」
「……。」
「君は訓練を受けていたか?僕の見立てだが、それは無いね。君はおかしい、頭のネジが一本どころじゃなく抜け落ちてる。」
男に頭がおかしいと言われるが、アキトは気にならず、寧ろシルバーナが怒り始める。
「失礼です!お兄さんは狂ってなどいません!」
「僕を思って言ってくれるのはとても嬉しいです。ですが、危ないのであまり身を乗り出さないでくださいね?」
「はう!す、すみません!」
アキトに注意され、シルバーなはすごすごと土壁の後ろに隠れる。
「僕が狂っている…、ですか…。」
アキトは自身の過去を振り返る。大切な人達を目の前で見捨てたかつての自分を思い出す。状況を判断し、自分の命が惜しいとかは考えず、それでも相手を助ける事は不可能と断じて、生き残る人数がより多くなるように、冷静に切り捨てようと考えた少年の姿を思い出す。
「…確かにあなたの言う通り、僕はおかしいですね。」
「お兄さん⁉︎」
シルバーナは思わぬアキトの発言に驚く。
(一体…何を仰って…?いえ、アキト様を信じなさい!きっと何か考えあっての事です!恐らく、相手の挑発に乗らない様にと…。)
そして、自分を無理矢理納得させた。
「クハヒヒヒ!素直に認めちゃったよ!しかもすっごく冷静に!普通は多少なりと否定するものだろう?揺さ振りも効かないのかい?本当に君は狂ってるね!」
「…あなたには言われたくありません。」
「ヒッヒッヒ!まあね、確かに僕は狂ってる。それは自他共に認める所だよ。でもそれで良い!僕が良いからそれが良い!単純な事だよ?僕の人生は僕の物、僕の好きな様に生きるだけさ!」
アキトは、男の言葉に不覚にも共感してしまったが、気を取り直して男に言い返す。
「そうですね。あなたの人生はあなたの物です。他人である僕がその生き方をとやかく言う資格は確かに有りませんね。」
「クッヒッヒッヒ!そうだろうとも!」
「でしたら、あの子達もあの子達の好きな様に生きて良いのでは?他人であるあなたに左右される生き方なんてしたくないでしょう。」
アキトはシルバーナ達の隠れる土壁をチラリと見る。
「イッヒッヒ!そいつは正論!でもそれじゃあ僕が困る。ウンウン、結局、人間関係って自分の主張を押し通さなきゃ儘ならないんだよねぇ。だから僕も、僕の人生のために、他の生を踏み躙ってでも楽しむよ!」
アキトは初めから期待などしていなかったが、男に説得は無理と判断する。
「そうですか。では僕も、僕の信念の為に、あなたを倒してでも彼女達を守ります。」
「いやぁ残念!同じ気違い同士、仲良くなれると思ったんだけどねぇ。まあ、仕方がないか。僕は君を殺してでも彼女達を連れ帰り、研究し尽くすよ!」
アキトは無表情になり、氷の様な冷たい視線で男を見つめる。男はその姿を興味深げに観察しながらアキトを見返す。
「それでは、行きますよ。」
アキトは覚悟を決める。この男は危険である。自分の持てる手段を全て使ってでも、男を捕らえてみせると心に誓う。
「ああ、ちょっと待って。」
飛び出そうとしたアキトに対して、男は手を伸ばして制する。余りに普通に言われた為に、アキトも思わず普通に止まる。
「…何でしょうか?」
「いやね?念の為にと思って仕掛けておいた策を、使おうと思ってね?君達はかなり厄介だし、余り時間をかけると仲間も来るんだろう?悠長な事はやってられないからね。」
「…策?」
訝しむアキトを面白そうに男は見る。
「イッヒッヒッヒ!君達捕らえた警官隊の中に、百足のような物がいるのは知っているだろう?」
「やはりあなたが仕込んだのですか…。」
「ヒッヒッヒ!その口振りからすると、百足の能力は知っているのかな?」
「“寄生対象の意識を奪い操る”でしょう?機械化ムカイドですね?」
「ヒッヒッハ!正解!」
男は愉しそうにアキトの無表情な顔を見据える。
「その百足はね?僕の言う事を何でも聞くんだ。例えば、死ねと言えば簡単に自殺するし、殺せと言えば平然と他人を殺せる。」
「…何が言いたいのですか?」
アキトは嫌な予感がしてヤクモを見る。ヤクモも察して警官達を捕らえた根っこを操作する。
「ヒッヒッヒッヒ!わかっているくせに聞くのかい?良いだろうとも。僕自らの口で語ろう!僕はね、今あの警官達の中に潜むムカイドに、他人を殺すか、それが不可能ならば自殺するように命令を下した。」
「……ヤクモさん。」
「大丈夫です。口の中にも根を入れました。全身も縛っているので、自殺も他殺も出来ません。」
アキトはヤクモの言葉に安堵する。
「それで、それが何の策なのですか?」
「ヒッヒッヒ!まあ、すぐに防がれるのはわかっていたよ。それに、防いでもらわないと困るからね。」
「…一体どういう事ですか?」
「ヒヒヒヒ!こういう事だよ。」
男は薄ら笑いを浮かべる。すると、ヤクモが戦慄する。
「一体、彼らに何を寄生させたのですか⁉︎」
「ヤクモさん⁉︎どうしたんですか!」
「ヒヒヒヒヒ!寄生させたのはムカイドだけじゃないって事だよ。」
男は狂気の笑顔を顔に滲ませる。燃える木の灯が、彼の青白い顔をまるで悪魔のように紅く照らしていた。




