第15話
アキト達が入る部屋の真下には倉庫がある。倉庫には人が居らず、部屋に鍵も掛かっていた。しかし今、そこには複数の人影がある。アキト達であった。
「無事に降りれましたね。」
「ええ、流石ディア様ですね。」
「キュイキュイ〜!」
ディアは地竜であり、その種族の特徴として無機物、鉱物は全て喰らう事が出来る。しかもディアの場合、全身の何処でもそれが可能である。ディアは畳の下のコンクリート製の床を喰い、穴を造り、そこからヤクモの蔦を使ってアキト達は脱出したのである。
「外の様子はどうでしょう?」
「まだ人がいますね。上の階に私達が居ない事が知られれば、すぐに追ってが掛かるでしょう。私としては、早くこの建物から出たいですね。そして、出来るならすぐにでも犯人を捕らえねば。」
アキト達のした事を考えれば、客観的に見れば完全にテロリストである。警官を拘束し、部屋を封鎖し、床を破壊して逃亡しているのだから。ムカイドに操作されていない人間まで敵に回ると、厄介な事この上無い。なるべく早く犯人を捕らえ、ムカイドの操作を止めねばならないとヤクモは考える。
「はあ、また器物損壊です…しかも警察の人に手を出してしまいました…犯罪者確定です…。」
脱出の為とは言え床に穴を開けてしまった事や、自衛の為に警官に暴行を働いた事に、アキトは今更ながら後悔していた。
「大丈夫です。キツネ様に後始末を押し付けましょう。」
嘆くアキトに、さらりとキツネに酷いことを言ってヤクモは慰める。今は、損害賠償や暴行を気にしている場合ではないとアキトを叱咤する。
「このまま一階に降りたら、そのまま壁を破って外に出ましょう。近くの公園には沢山木々が有りますし、そこまで行ければ私の力も少しはマシになります。」
「わかりました。ディア!お願いします!」
「キュキュ!」
ディアは再び床を食い破る。その下には人が居たが、すぐにヤクモに拘束される。
「ディア!次は横です!そのまま外まで突き進みなさい!」
「ルガウオオオオアアアアア!」
ディアは続けて壁を一瞬で食い破って一直線に外を目指す。少し離れてアキト達も追随する。途中、広い部屋に出てそこで武装していた警官たちと鉢合わせする。
「止まれ!止まらんと撃つぞ!」
「ルガアアアア!」
「構わん!撃てええええ!」
一部の警官はディア目掛けて発砲するが、ディアはその弾を受けてもびくともせず、寧ろ吸収してしまう。ディアは平然と壁を食い進み、外まであと壁一枚にまで辿り着く。
「ピガアアアア!」
「キュルピ⁉︎」
ディアの近くに走ってきた警官から、仕込まれていたムカイドが飛び出し、ディアに取り付こうとする。どうやら銃が効かないと見て直接ディアを支配する事を狙ったらしい。
「召喚!」
「ピギイ⁉︎」
しかし、ディアはムカイドが取り付く前に離れたアキトの元に召喚されそれを避ける。続けてヤクモの蔦が素早くムカイドを捕らえ、そのまま力任せに引き千切る。
「ピギャアアアアアア⁉︎」
ムカイドは断末魔の声を叫び、果てた。騒ぎを聞き付けた警官達が部屋に次々集まってくる。誰がムカイドに操られているかどうかなどは分からない。蔦で牽制しつつ、とにかく脱出する事を優先する。
「ヤクモさん!」
「行きますよ!」
ヤクモは甲冑を着込んだアキトを放り投げつつ、シルバーナを守りながら物陰に隠れる。放られたアキトはディアが掘り進んだ所の近くに転がりながら着地する。
「召喚!ディア!」
「キュピルオオオオ!」
召喚されたディアは壁を食い破り、アキトを連れて外に出る。アキトが外に出ると、すぐにヤクモとシルバーナを召喚して脱出する。
「ヤクモさん!僕を公園の池に向かって投げて下さい!」
「お怪我をなさらぬように気を付けて!」
ヤクモは、甲冑を着たアキトに蔦を巻き、そのまま力一杯放る。
(うわああああああああああ‼︎)
アキトは風を切って飛ぶ。夜空に綺麗な放物線を描き、公園の池に目掛け猛スピードで突っ込む。
そのまま池に突っ込みそうではあったが、途中で蔦が解けて近くの木々に向かって伸び、絡みついて勢いを殺し、池に落ちる寸前でアキトは止まる。
「召喚!」
すかさずアキトは池近くの地面に降りてヤクモ達を召喚する。召喚されたヤクモ達は、皆無事の様であった。
「ヤクモさん、ありがとうございます。濡れないように配慮して下さったのですね。」
「いえいえ、礼には及びませんよ。それに、アキト様の召喚術のお陰で私達はこの短時間でここまで来れました。私だけでは、もっと時間がかかっていたでしょう。」
「いえ、それにはヤクモさんの協力が不可欠でしたよ。」
アキトとヤクモは短く感謝を述べ合うと、ヤクモは早速周辺の木々の支配を行い、アキトはシルバーナに様々な状況における対応方法について確認をした。
「さて、私はこの公園を拠点にして戦うつもりですが、アキト様は如何致しますか?」
「僕達が居るとヤクモさんには足手纏いでしょう。しかし、かと言ってヤクモさん抜きで行動するのは危険すぎますね…。」
アキトは悩む。ヤクモが守りながらの戦いを不得手とする事を知っているため、出来ればヤクモの負担にならない様にこの場を離れるのが良い。しかし、敵の狙いはディアやシルバーナであると考えられるため、彼女達が此処に居ないと分かればすぐにここから逃げられる可能性が高い。
「申し訳ありません。敵の狙いが私であれば一番やりやすいのですが。」
「いえ、ヤクモさんの所為ではありませんから。」
何かを守りながら戦うのは不得手では有るが、得意な戦場で待ち伏せをするには守るべき、敵をおびき寄せる餌が必要という矛盾が、ヤクモ自身を戦い難くさせている。その事は、他ならぬヤクモが一番良くわかっている事である。
「ここは味方を待ちながら敵を迎え撃つ方が良いでしょう。護衛の方がアキト様達に付いてくれれば、私は存分に戦えます。」
「じゃあ、それまでは僕達は囮として此処に待機します。もしもの時はルビィとディアを転送、コチヤ先生に後を託して僕はヤクモさんに捕まる方針で。」
アキトは、ここで餌として止まることを選択した。公園を出たところで、ヤクモ抜きでの行動は厳しかった。敵はムカイドに取り付かれた無実な人間で、傷付けずに捕らえられるヤクモの導術がやはり一番勝手が良い。
加えて、誰にムカイドが仕込まれているかわからない今の状況では、どこに居ても狙われる危険は有る。信頼出来る実力者の側に留まる事が、結果的に一番安全だとアキトは判断した。
「すみません。結局、ヤクモさんの負担になりますね。」
「いえいえ、私の事は気になさらず、シルバーナ様とディア様の事を考えてください。」
「…はい、有難うございます。」
アキトはまた、ヤクモの近くにいる事がムカイド対策には一番であるとも考えていた。アキトがもしもムカイドに取り付かれても、ヤクモの蔦に捕まれば導術が使えなくなり、シルバーナ達を召喚させられる心配は無い。
アキト達が別行動してしまうと、もしもアキトがムカイドに取り付かれた時に彼を止められる者がいないので、その時点で詰みとなる。
「コチヤ様も後もう少し時間が有れば、学園に着くでしょう。そして向こうの安全が確保されるまでは、何とか私が守り抜いて見せましょう。護衛の方には今、植物で連絡をしました。すぐにこちらに向かうとのことです。」
「わかりました。ところで、護衛の方ってどんな人なんですか?」
「ふふふっ、きっとアキト様はびっくりなさると思いますよ。」
「えっ?」
ヤクモは意地悪そうな顔をしてアキトを見る。しかし、誰が護衛なのかわからないと不便な為、アキトが詳しく特徴を教えてもらおうとした時、ヤクモの顔が真剣な物になる。
「……来ましたね…。ふふふっ、中々の大所帯ですね、捕らえ甲斐が有ります。久し振りに腕がなりますね。」
「ルビィ、ディア、一緒に来てください。隠れますよ。」
「はい!」
「キュキュ!」
ヤクモの木々が敵の侵入を感知したらしい。凶悪な笑みを浮かべて嗤う。アキトはディアとシルバーナを引き連れ、ヤクモが操る木の根本に陣取る。ディアが土導術で土壁を作り、シルバーナは土壁に開けた小さな穴から外を覗いて、いつでも導子引導を発動する準備をする。アキト自身は土壁から頭を出して周りを確認しながら、縁絶鋼製銃弾を込めた拳銃を構える。
「まずは小手調べ、と。ふふふっ、結構引っかかりましたね。いい感じです。」
(ヤクモさん、こんな状況なのに凄く潤っています…。本当に人を縛るのが好きなんですね…。ルビィやディアには教育上良くありませんが、今はそんな事言っている場合では無いですからね…。)
暫くはヤクモの一方的な攻撃が効いている様であったが、ヤクモの顔が少し曇る。
「縁絶鋼…ですか。昼間のテロリスト達の武器ですね…。やはり厄介です。」
「僕達が導術使いという事で、持ち出してきましたか…。」
増援の警官隊が縁絶鋼製の武器を使用してきたのだ。警察にはミナカタ達から押収した武器が証拠として保管されており、それを利用されてしまった形である。しかし、ヤクモは再び笑みを作る。
「しかし、その程度で木と土に囲まれた、この私に勝てますかね?」
「先に突入して捕まってしまった仲間の救出は?」
「完了致しました!」
「周囲の木の処置は?」
「縁絶鋼製銃弾を撃ち込んで、全て沈黙しています!」
「良し!皆こちらに集まれ!」
公園の入り口で、一人の人物が叫ぶ。すると、二十人程度の警官達が集まる。
「敵は木導術使いだ!木に縁絶鋼を撃ち込んで木を操れなくしつつ公園の中を制圧する!周りは既に多くの仲間が取り囲んでいる!敵は袋の鼠だ!」
警官達を指揮しているのは警備隊の隊長である。言動はまともに見えるが、実はムカイドが仕込まれていた。他にも何人かがムカイドに取り付かれているが、それを判断出来る者は居ない。
「しかし、まさか導族貴族と、それをシラサギ一派から救った青年こそがテロリストだったとは…。しかも強力な木導術使いまで仲間にして、こんな事を…。」
警官の一人が呟く。ムカイドに操られた警官の証言による物であるが、アキト達の行動を鑑みれば、そう捉えられてしまっても無理は無かった。
「ああ、だが、何かを仕出かす前に化けの皮が剥がれて良かったな。奴らを疑った奴はお手柄だ。ここで何としても捕らえる!」
近くにいた警官がそれに答える。
「しかし、いくら強力な導術使いが相手であったとしても、テロリストの武器、しかも違法に大量生産された縁絶鋼を使って戦うのは、隊長の指示とは言え些か憚られるな。」
「仕方ないだろう。こいつらを使わないと敵わない位に、導術使いは厄介なんだ。俺も導術習いたいけど、戦闘訓練受けている俺たちは、導術の訓練は禁止されているんだよなぁ…。しかも、才能が無いと戦闘には殆ど役に立たないという…。」
「本当は俺たちみたいな非導術使いが出る幕じゃ無いんだよな…。だが、対導術使い用の特殊部隊の到着には時間が掛かるって言う話だし、今はこいつで戦うしかねぇのか…。」
警察官は、導術使いを相手取る専門の特殊部隊以外では、導術を学ぶ事は原則禁止となっている。軍事力強化と取られて批判されるからである。その制約は警察に留まらず、導力開発総合学園への入学条件にも、武術の有段者、道場等に入門していた経験のある者は受験不可との記述があり、学内の部活動には武術系が全く無いという有様である。
昨今の導術使いの犯罪増加に伴い、導術使いの犯罪者に対抗する為に、取り締まる側も専門部隊のみならず、一般の警官も導術の訓練をすべきとの発言があり、法改正も視野に入れられてはいるが、他国への配慮からか中々改正には踏み切れないのが現状である。
更に、導術自体は非常に身近になりつつ有るが、才能が無い者が学んでも戦闘に応用できる程にはならない事も周知の事実となっている。導術は便利な技術で、ヨミ語が母国語であるなら誰にでも使える可能性は有るが、戦闘に応用できる程の才能を持つ者となると急に数が少なくなるのである。
そのため、犯罪者側も導術の実力が高くない事が多く、守護用の導術を学んでいなければ銃で射殺する事も容易であり、また戦闘訓練も積んでいない(秘密裏に訓練すれば別)が為に強くない。そのため、取り締まる側の警察も、特殊部隊以外は導術を習う必要なしとされてしまっていた。
ちなみにアビス王国では、戦闘訓練を積んだ優秀な人材が更に導術を学んで力を付ける事によって容易に戦闘能力を増加する事が可能となったため、兵士の数こそ先王の軍縮政策が原因で余り多くないが、その質が急激に上がって来ているという事態を招いている。
「おい!そこ、無駄口を叩くな!」
「「はっ!申し訳ありません!」」
隊長が二人に注意をし、二人は謝罪の後押し黙る。隊長は警察官全員の顔を確認して、大きな声を響かせる。
「これから我々は、敵テロリストを拘束する!操れなくした木に印を付けながら、印の無い木に縁絶鋼製銃弾を撃ち込んで、敵の支配下にある木を減らしつつ奴らを追い詰める!
二人一組で行動し、互いに助け合え!他のペアとの距離も離れ過ぎない様に注意せよ!木に捕まってしまった時は無理せず仲間を呼べ!焦らず着実に行動する事を心掛けろ!」
「「了解!」」
「では現時刻より作戦行動を開始する!諸君の健闘を祈る!」
隊長の号令が響くと、警官達は皆ペアを組んで公園に入って行く。先の二人はペアを組んで行動を始めた。
「それにしても、敵はたったの三人、しかもうち一人は導族とは言え少女で、カラカミだかアマガミだかいう奴も導術使いだが、戦闘訓練も何も積んでいない唯の学生だろ?こんなに大勢で大量の縁絶鋼を持って攻める必要が有るのか?」
「残りの木導術使いがかなり厄介なんだよ。とてもじゃないが、数人程度でまともな武器も無く戦って敵うとは思えん。実際、縁絶鋼製の武器が届くのが待てずに、先に突入した部隊は手持ちの武器が役に立たず、あっという間に捕まっちまったしな。」
「チィッ!益々導術を覚えたくなっちまう。」
「ハッ!全くもって同意だな。」
ヤクモの戦い振りを見て、一人の警官はぼやき、その相方は苦笑する。
「ほら、あっちの木がまだ印が付いていないぞ。」
「おう、助かる。」
「しっかし、全然動かないな…。先に突入した奴らは、すぐに木に捕まっちまったのに…。」
順調に木を処理しながら先に進む二人であったが、余りに何も起き無い為に訝しむ。
「俺たちの武器に敵わないと見て、諦めて逃げたとか?」
「なら急がないとな。外で待ち伏せしている仲間に手柄を取られる。」
「冗談だ。まともに返すな。」
「冗談は苦手なんだが…。」
軽く会話をしつつ、二人は少しずつ進む。と、急に前を行くペアが立ち止まった。そして、何やらもがいている様子である。
「おい、何か様子がおかしいぞ?」
「ああ、だが、近くの木からは枝は伸びていないぞ?」
「とにかく、急いで助けに向か…」
走ろうとしたその時、二人の足が急に動かなくなる。見ると、足が地面の下にめり込んでいる。
「なっ⁉︎くっ!なんだ⁉︎足が、何かに取られて!」
「全く、持ち上がらん‼︎」
二人が異変気付いた次の瞬間、地面から二人の足を取った犯人が現れた。
「なっ!根っこだと⁉︎」
「縁絶鋼を撃ち込まれない様に地面の下を這わせてきたのか!」
それは、太い木の根であった。ヤクモは、警官達が入って来る近辺の木を捨て駒にして、警官達が深く入り込んだ所を、地面の下を這わせていた木の根で足を捕らえたのだ。地面の下に密かに網目状に根を張らせ、助け合えない様に全員をほぼ同時に拘束した。警官たちは身動きが取れず、後続部隊が到着するまでは立ち往生する事になる。
「くっ!この忌々しい根め!」
一人の警官が根っ子に目掛け銃撃を仕掛けようとするが、それよりも早く根っこが動いて銃を弾き飛ばし、そのまま彼の全身を拘束し、情報を漏らさぬ様に口も塞ぐ。他の警官達も同様に全身を拘束され、武装解除されてしまった。
「ももご、もごもご。」(ああ…、畜生…。)
全身を拘束された警官は嘆く。暫くはその場から動けない事を悟ったのである。そんな情けない警官達の姿を、木の上から一匹の梟が首を傾げながら見つめていた。
「ふふふっ、全員捕まえました。これで彼らは当分の間は動けません。仲間が助けに来ても、また同じ様にしてあげますよ。この辺りにはまだまだ支配下においた木々が沢山有ります。ふふふふ。」
「流石としか言い様がありませんね。あれだけ多くの警官隊を、一気に捕まえるなんて…。」
操導術で複数の対象に同時に多くの行動をさせる事は、高度な技能を必要とされる。それを事もなげに実行できる所からも、彼の実力の高さが窺える。
「いえいえ、この程度でしたら、少し訓練を積めば誰でも出来ますよ。条件反射を利用して、特定の条件を満たした時に、ある行動を起こすように設定しておけば良いのです。」
「…ヤクモさん位の才能を持つ人でなければ無理ですよ。」
アキトは、涼しい笑みのヤクモに苦笑いを返した。そして、中断していた話の続きを始める。
「そう言えば、護衛の人の特徴を教えて貰っていませんでした。どんな人かわからないと不便なので、教えてくれませんか?」
「わかりました。そうですね…特徴としては、大旦那様に似ていらっしゃいますね。」
「学園長先生が来られるのですか?」
「いえ、大旦那様は別件で忙しいので来られません。」
アキトは混乱する。学園長では無く、学園長に似ている人と言われ、学園の教師の中にその様な人物を探したが、全く見当もつかない。
「ヤクモさん、降参です。名前を教えて下さい。それらしき人に名前を聞いて、それと一致したらその人と判断しますので。」
「それを言うとすぐわかってしまって、私としては面白くないのですが。」
「…この緊急時に、面白いかそうでないかで判断しないでくださいよぅ…。」
アキトは本当に困った顔でヤクモを見る。ヤクモはその顔をまじまじと見て呟く。
「ふむ、困った顔のアキト様も中々…。」
「ヤクモさん!」
「ふふふっ、申し訳ありません。つい…。」
アキトに怒られ、面白そうにヤクモは笑う。
「わかりました。もうすぐ到着すると思いますし、お教えしま…。」
「如何したんですか?」
ヤクモが護衛の人物の名を告げようとした時、ヤクモの顔が真剣な物になる。
「…導術使いです。しかも、かなりの実力者です。残念ながら、味方では無いですね。」
「まさか!学園関係者がムカイドに⁉︎」
「…いえ、違います。」
そして、アキト達の近くの木が動いた。多くの枝を伸ばし、一気に同じ方向に伸びていく。伸びていく先は、意外にも何もない空の方角であった。
「なっ⁉︎」
アキトは驚愕した。夜空に煌々と輝く火の玉が見えたのだ。その火の玉は真っ直ぐにアキト達に向かって突っ込んで来た。伸びた木の枝は火の玉にぶつかり、激しく燃え盛りながらも無理矢理火の玉の軌道を変える。そして、軌道が変わった火の玉はアキト達から少し離れた位置に激突した。
「彼は学園関係者ではありません。しかも、私の木導術と相性が悪い炎導術の使い手です。」
激突した近くの木が燃えながら倒れる。落ちた火の玉は未だ燃えながら、次第に人の形を取って行く。ディアは激しく威嚇をするが、何処か怯えていた。シルバーナは急な襲来に驚いて導子引導を発動する事を忘れていた。
「イッヒッヒ、いやぁ…探したよ。」
火が次第に消えていくと、そこから人が現れた。さっきまで燃え盛っていたはずの体表に衣服が現れ、熱い炎に似つかわしくない青白くて不健康そうな顔が夜闇に浮かび上がる。その目線は真っ直ぐに、ディアの造った土壁を見つめていた。
「君を迎えに来たよ。さあ、僕と一緒に研究所に帰るよ?イッヒッヒッヒ!」
狂気と狂喜を孕んだ双眸が、怯えるディアを射抜く様に見据えていた。




