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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
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第14話

アキト達が部屋で談笑していると、急に県警本部内が騒がしくなる。


「何でしょう?何か有ったのでしょうか?」


アキトが訝しんでいると、ヤクモの携帯に連絡が入る。


「おや?大旦那様ですか。どうなさったのでしょうね?少し失礼します。」


ヤクモはアキト達に断りを入れて、電話に出る。


「はい、ヤクモです。如何なされましたか?ええ、はい、只今県警本部に居ます。…はい、そうですか、了解しました。すぐに取り掛かります。」


ヤクモの声が真剣な物に変わったのを見て、コチヤとカスミの表情が引き締まる。アキトも釣られて緊張する。シルバーナとディアは戯れていた。


「何か有ったんですか?」

「ええ、緊急の仕事が入りました。これからコチヤ様、カスミを連れて港の倉庫に急ぎます。」


倉庫と聞いて、アキトは真っ先にウシオ達の事を思い浮かべた。


「倉庫…まさかあの警官達が何か?」

「いえ、その場所では有りません。導術関連の物を保管する特殊棟で、異常が有るのは輸入導物の一時保管場所です。そこで預かっている導物が急に暴れ出し、手が付けられない状態のようです。その鎮圧に私達への協力要請が出ました。」

「導物が…暴れ出したのですか?それでこの騒ぎ…。」


導物は導術を使う事が出来るため、ただの動物を扱うのとは訳が違う。暴れ出すとその被害は甚大であり、それを防ぐ為の厳密な管理と緊急時の迅速な対応が肝となる。そのため、警察も緊急事態時には優先して対応するように定められている。そして、導力開発総合学園は、導物を仕入れる輸入業者と提携しており、有事の際には教師を始め、実力者の導術使いを派遣してこれを解決する取り決めが為されている。


「でも、確か導物は導術を封じられている筈ですよね。その状態で暴れられるんですか?」


輸入導物は通常、一定以上の威力を持つ導術を封じる首輪が付けられており、強力な導術が使えない為に力が大幅に制限されている上、それを容れる檻もかなりの強度を誇る。加えて、導物は頭が良い物が多く、躾をしっかり行えば暴れる事は殆ど無い。故に、今回のようなケースはかなり珍しい。


「詳しい事は分かりませんが、どうやら導術を封じる首輪が壊れていたらしいですね。強力な導術を使う導物が導術を使って檻を破り、暴れ回っている様です。」

「それにしても、導物が暴れ出すなんて珍しいですね。僕は今までそんな事件は聞いた事が有りません。」

「無い事は無いですよ。知能が高い分、不当な扱いに対して不満に思い、従順な振りをして隙を見せた飼い主に牙を剥いた、なんて事件も有りましたからね。」

「従順な振りをして…ですか…。」


ヤクモの答えにアキトは不安そうにディアを見る。今日会ったばかりでここまで自分に懐いてくれるのは少し不自然だなと感じていたので、悪い予想を浮かべてしまう。


「大丈夫ですよ。ディア様がアキト様を信頼していらっしゃるのは確かです。アキト様がディア様に酷い事をなさらない限り、その様な事は無いでしょう。」

「そうですわよ。まずあなたがその子を信頼しないでどう致しますの?」

「ヤクモさん、カスミ先生、すみません…。もう大丈夫です。ディア…ごめんなさい。少しだけ疑ってしまいました。」

「キュキュイ、キュイキュイ!」


謝るアキトに、ディアは気にするなと尻尾を振る。


「それでは、私達はこれから迅速に現場に向かい、即解決して戻って参りますので、アキト様はシルバーナ様、ディア様と共にここでゆるりとお寛ぎください。」

「はい、わかりました。すみません、何か手伝えれば良いのですが…。」

「お気持ちだけで充分ですよ。昨日今日と色々大変でしたし、アキト様達にはこれ以上の負担は酷でしょう。ここは私達にお任せ下さい。」

「はい、有難うございます。それでは、お言葉に甘えさせて頂きますね。」


アキトは残る事にした。行った所で大した戦力にもならず、足手纏いになる位なら、ここで大人しくしている方がヤクモ達の為になると判断したのである。ヤクモは早速、カスミとコチヤを引き連れ部屋を出て行く。アキトは外まで見送ると申し出たが、ヤクモがそれには及ばないと言って断った。ヤクモ達が部屋を出て行くと、アキトは一人考え込む。


(導物が急に暴れ出した…ですか…。何か変ですね。)


導物関連で、今まで学園関係者が出張った事件は無かった。大体が、すぐに現場の人間が強力な麻酔薬を撃ち込んで、暴れている導物を沈静化させるからである。それなのに、学園関係者が出なければならないのは、よっぽど現場が無能であったか、または別の要因が有るかしか考えられない。


(麻酔を射っても効かないとか…あり得ますかね。もしも薬物が神経に届かなかったりすれば?昏睡したまま動けるとか?)


例えば、ディアの様な地竜であれば、土を厚く纏う事で麻酔弾を撃ち込まれても神経まで届かないようにする事が可能であるが、そのような導物に対してはガス状麻酔薬を用いて対処している。そもそも麻酔の効かない導物や、昏睡中にも動き出すような導物は危険な為に扱わない規則になっている。アキトの懸念も尤もではあったが、法に則り、手順書通りに事を進めれば、まず大きな問題に発展はしない筈であった。


「アキトお兄さん…どうなさったのですか?」

「キュピ?」

「ああ、すみません。少し考え事をしていましてね。」


アキトは、シルバーナやディアに心配をかけまいと、不安を押し隠した。


(まあ、悩んで分かる訳でも無いですし、僕が悩んでもしょうが無いですよね。)


アキトは悩むのを止めて、シルバーナやディアとの時間を大切にしようと決める。問題はヤクモ達が解決する筈なので、アキトが勝手に悩んだ所で意味は無いからである。


「さて、事件の解決はヤクモさん達に任せて、僕達はゆっくりしましょうか。」

「あの、私はもっとディアちゃんと遊びたいです!」

「キュルッピッピ〜!」

「ええ、良いですよ。怪我しないように気を付けて下さいね。」


部屋で戯れるシルバーナとディアを微笑ましくアキトは見つめる。と、そこで不意に部屋の戸がノックされる。


「あれ?誰でしょうか?はい、今行きます。」


アキトが戸を開けると、そこには警官が居た。


「何か御用ですか?」

「急にすみません。こちらに地竜が居ると伺って来たのですが。中に居ますかね?」


アキトは笑みを作り、後ろに手を回しながら続ける。そして、連絡用の花を密かに召喚し、ヤクモに会話の一部始終を伝える準備をする。


「………すみませんが、何方にその事を伺ったのでしょうか?」

「もちろん、受付の方にですよ。」

「……そうですか。ディアに何か御用ですか?」

「少し、確認したい事が有りまして…。」


アキトは笑顔のまま心の中で狼狽える。


(まさか、ディアの縁絶鋼の事がバレましたか?そんな筈は…ここは落ち着いて冷静に対応を…。)


少しだけ後ろを見ると、ディアが此方を見ていた。その目は敵を見るかのように鋭かった。アキトは努めて冷静な声色で対応する。


「そうですか。ディアは中に居ます。何を確かめるのですか?一応、ディアの所有者として伺って置きたいのですが。」

「いえね…少しばかり…。あれ?地竜の様子が変ですよ?」

「えっ?」


アキトがディアの様子を確認する為後ろを見よう顔を逸らす。その時素早く警官がナイフを取り出しアキトに切りかかった。


「召喚!」

「チィッ!があっ⁉︎」」


しかし、古典的な手法であると予想していたアキトは、すかさず手に持った花を落としながら全身甲冑を召喚してそれを防ぐ。ナイフは甲冑表面を滑っただけであった。そのままアキトはナイフを持った警官の右手を自身の左手で取りながら、相手の眉間に右手の掌底を当てつつ、そのまま右手で相手の右襟を掴む。


(少しばかり乱暴ですが…。)


衝撃で仰け反り、更に目をやられて怯んだ相手の右襟を掴んで引き込みつつ、警官の鳩尾に右膝蹴りを入れて警官を前屈みにする。


(このまま拘束します!)


それと同時にナイフを持った相手の右手を、下から半円を描くように相手の背後へ回しながら相手の側面に回り込み、ジャンプして左膝で後頭部を後ろ側から蹴り抜く。勢いそのまま相手の右肩関節を股に挟んで屈みながら腕を極め、ナイフを持った手を捻ってナイフを落とさせ、それを蹴って遠くへ飛ばした。


「が、ああ、ああああ…!」

「何をするんですか!」


痛みに呻く警官に対して、アキトは関節をギリギリと極めながら語気を荒げる。体重をかければ何時でも折れる様にしながら用心深く相手の様子を見る。


「アキトお兄さん!」

「ルグオウ!」

「ルビィ、ディア、来てはいけません!」


アキトに近寄ろうとしたシルバーナとディアを声で制する。


「一体何が目的ですか!」

「目的…?へへ、決まっているだろう?」


警官は横顔を見せて、にやけながらアキトを睨み付ける。アキトはその不敵な笑みに戦慄する。


「ピギィイイイイイイイイ!」

(ムカイド⁉︎)


警官の右耳から、ムカイドが素早く飛び出して来た。何者かに仕込まれた物であろう。アキトは今警官のすぐ近くに居り、甲冑には隙間が有ってそこからムカイドは侵入が可能である。もしこのままアキトの口や耳からの侵入を許せば、アキトは乗っ取られ、シルバーナやディアに危害を加えるだろう。


「ピガ⁉︎」


だが、直前に床に落とした花から伸びる蔦がそれを許さない。ムカイドに絡みつきその動作を妨げる。だが、小さな花の力では拘束し切れず、振り切られそうになる。


「転送!召喚!でやあ!」


しかし、その少しの隙が有れば充分であった。アキトは甲冑を転送し身軽になると、目の前のムカイドの頭を掴んで引き伸ばしつつエミリオから借り貰いした剣を召喚し、ピンと張ったムカイドの身体を思い切り叩き斬った。


「ピギャアアアアア⁉︎」


けたたましい鳴き声を上げてムカイドの切れ端は床をのたうち回り、やがて動かなくなる。ムカイドに取り付かれていた警官も気を失い、倒れ伏す。


「ルビィ!ディア!大丈夫ですか⁉︎」

「キュピ!」

「大丈夫です!それより今のは!」

「ムカイドです!取り付かれない様に気を付けて!」


アキトは素早く扉を締めて鍵を掛け、外から人が入り込めない様にする。ムカイドが居るのなら、必ずそれを操る本体が居るはずである。更に言えば、ムカイドに取り付かれた人間がこの警官一人である保証も無い。下手に動き回るのは得策では無いとアキトは判断した。


「ヤクモさん!聞こえますか!恐らく導物が暴れている原因はムカイドです!気を付けて!」


アキトは、導物が暴れているのはムカイドに取り付かれた為と推察した。更に言えば、それらを管理する人間の中にも、おそらく取り付かれている者が居ると踏んだため、花を通してヤクモ達にその可能性を伝えたのだ。


「ヤクモさん!召喚しても構いませんか⁉︎」


花はウネウネと動いて了解の意を示す。アキトはすかさずヤクモを召喚する。召喚したヤクモは相変わらずの笑顔であったが、目は笑ってはいなかった。


「やれやれ、大変な事になりましたね。」

「導物の方は大丈夫ですか?カスミ先生達は…。」

「大丈夫です。注意点は簡潔に伝えましたし、カスミ達ならムカイド程度に遅れを取ることはまず無いでしょう。」

「そうですか…。」


アキトは安堵するが、すぐに気を引き締め直す。


「恐らく、何者かがムカイドを警官に仕込みました。仕込まれた人も仕込んだ者も、人数や位置は不明です。」

「県警本部内の人間は、まず疑って掛からねばなりませんか…。」


ヤクモは全身から蔦を創り出し戦闘準備をする。と、その時、扉の外に警官達が集まって来た。さっきの騒ぎを聞き付けた者であろう。


「怪しまれない様に弁明したいですが、もし部屋の中に入れたら…少々危険ですか。ルビィ…ムカイドの洗脳導術を妨害出来ませんか?」

「申し訳ありません、お兄さん…。今の私では、ムカイドの洗脳導術は無効化出来ません…。ムカイドは宿主の体内で術を発動するので…。」

「いえ、あなたのせいでは無いですから気にしないで下さい。」


シルバーナの導子引導は、無効化の為には術を視覚的に認識する必要が有る。導子引導は術を発動している間、導子の流れを視認出来る為、音や風の様な目に見えない術に対しても有効だが、体内や壁の向こうなど、視界を遮る物が間に有ると発動は出来ないのだ。


「取り敢えず全員拘束する方針で行きましょう。無害と判明してから解放すれば、まあ良いでしょう。」


ヤクモは、外に集まって来た警官達を問答無用で拘束すると、廊下に蔦で網を張って増援の到着を防ぐ。アキトはシルバーナと、恐らく狙われているであろうディアをここから逃がすために、彼女らを別の場所に移す事にする。


「ルビィ!ディア!これから転送します!転送したら携帯を使って下さい、絶対に切らないで!何かあればすぐに召喚します!」

「アキトお兄さん!私も戦います!」

「キュイキュイ!」


シルバーナやディアはアキト達と共に戦う気であった。アキトはシルバーナ達の言葉に困惑する。


「何を言っているのですか⁉︎ここは危険なんですよ!」

「敵が導術使いの可能性が有るのでしたら、私の力が役に立ちます!」

「キュイッキュイッキュ!」


アキトは考える。シルバーナの導子引導は、見えていれば大抵の導術なら距離が離れていても一瞬で無効化する。ディアの地竜の身体は、導術を使用しない人族の通常兵器なら傷付く事はまず無い上、ディア自身が高性能な土導術も使える。確かに、敵の攻撃を防ぐには、彼女達の特性は非常に役に立つ物と思われた。


「確かにそうですが…しかし!」

「お願いします!もう、守られてばかりいるのは嫌なんです!この忌わしい力が役に立つのなら、私は戦いたいのです!」

「キュッキュッキュイー!」


アキトは理性で連れて行く事は納得しても、感情ではやはり彼女達を連れて行くのには反対であった。しかし、彼女達の強い意志に押され気味となる。そして、駄目押しとしてシルバーナ達に更なる援軍が加わる。


「まあ、良いではありませんか。」

「ヤクモさん⁉︎」

「アキト様の転送なら、いつでもシルバーナ様やディア様を逃す事が可能です。それに実際、彼女達の力は大変有用ですよ。この緊急事態、使える物は何でも使わねば。」

「…ですが!」

「ここで逃した所で、アキト様がムカイドに取り付かれれば、シルバーナ様やディア様は他ならぬあなた様に召喚されて敵に囚われる事になります。」


アキトは、自身の懸念を突かれて押し黙る。敵にアキトが支配されればその時点で、シルバーナ達を逃がしておいても負けなのである。


「それに、逃した先が何時までも安全とは限りませんし、全ての状況を把握しきる事は不可能です。加えて、今はコチヤ様やカスミ、その他の戦力になる人間は導物騒動で学園に居ませんから、護衛がすぐには付けられません。この場で共に戦えば、危なくなってもアキト様や私がすぐにフォローできます。最悪、どうしようも無くなった時に逃せば良いのです。」

「…そこまで、言うのでしたら…。」


ヤクモの説得に、アキトは屈する。少しでもアキト自身が無事に逃げれるように、シルバーナ達の助力を受ける事にした。


(本当に僕は…弱い…。)


アキトは、自分が自分を守るだけの、シルバーナやヤクモを説き伏せるだけの力を持たないこと、更に自分が彼女たちの命運を握ってしまっている事を深く悔いた。


「…わかりました。ですが、お願いが二つあります。」

「何でしょう?」

「一人でも良いです。学園に実力者を呼んでください。何かあってルビィ達を逃す時、その逃した先で安全を確保できるように。」

「わかりました。コチヤ様を送りましょう。少々時間は掛かりますが、彼なら徒歩でも車より速く学園に辿り着きます。導物に取り付いたムカイドは、カスミに学園関係者への説明を任せ、協力して当たって貰いましょう。更に、こちらにも増援を呼びましょう。」

「有難うございます。」


アキトは、とにかくシルバーナ達の安全確保に最優先に考えていた。逃した先での安全を確保出来れば、安心して戦う事が出来る為である。


「後一つは何でしょう?」

「もしも僕にムカイドが取り付いたら、遠慮なく拘束して下さい。それが叶わなければ、最悪殺して下さい。」

「お兄さん⁉︎」


アキトの発言に、シルバーナは驚く。


「そんな!何故⁉︎」

「ルビィ、わかって下さい。敵の目的があなた達なら、あなた達を召喚出来る僕が導術を使える状態では、あなた達を危険に晒してしまう。」

「ですが…。」

「シルバーナ様、そうならない為にも、あなた様達の助力が必要なのです。一緒にアキト様をお護りしましょう。」

「は…はい!」

「キュキュ!」


アキトを護るという言葉に、シルバーナとディアは気合を入れて返事をする。どちらも、大切な人を守りたいという気持ちが漲っていた。


「アキト様、それでは私からも条件が一つ。」

「何ですか?」

「もしも私にムカイドが取り付いたら、遠慮なくこれで私を撃って下さい。」


ヤクモは蔦を操り、同じ階にある証拠品置き場から、いつに間にか拳銃を取って来ていた。


「これは…縁絶鋼ですか。」

「ええ、私の力を無効化するには、これが一番でしょう。」


ヤクモが取ってきたのは、キタカタの所持していた縁絶鋼製銃弾を込めた拳銃である。これを身体に撃ち込み弾を体内に残せば、その影響で導術が使えなくなる。ヤクモはアキトを拘束する事で導術を使えなくさせれるが、アキトにはその手段は無い。その為の拳銃である。


「召喚術での持ち運びは出来ませんので、これは御自身でお持ち下さい。」


召喚術で、縁絶鋼自体を召喚する事は叶わない。それは縁絶鋼の所有権を持っていても同様で、導術を無効化する特性の為である。それ故、縁絶鋼の運搬は直接持ち運ぶ他には無い。アキトは拳銃を受け取ると、腰にホルスターを下げてそこに仕舞う。


「…ヤクモさんにそんな事をする事態が起き得るのでしょうか?」

「万が一という場合も有ります。何が起きるか分からないのですから、様々な事態に対応出来るようにしなくては。」

「…わかりました。なるべく支障の無い所にしますね。」


アキトは、明らかに緊張した声で喋る。仲間を撃つ事が、必要だとわかっていてもアキトには辛かった。


「遠慮は要りませんよ。私がムカイドに取り付かれた事態に至るという事は、相当切羽詰っているという事でしょう。最悪私を撃ち殺しても恨みませんよ。」

「そんな!」

「それだけの覚悟を持って私はこの場にいます。アキト様も死を覚悟の上でしょう?アキト様にばかりそのような覚悟を背負わせませんよ。」

「……有難うございます。」


ヤクモは優しい笑みをアキトに向け、アキトはヤクモの覚悟を受け取った。続いてアキトはシルバーナの方を向く。


「ルビィ、手を貸して下さい。」

「はい。」

「あなたの右手に転移陣を描きます。ルビィが危なくなった時に、其処に盾や銃を転送します。僕が召喚して逃がすのも良いですが、側に充分な空間が無いと発動しませんからね。選択肢は多い方が良いですから。」

「わかりました。」


アキトの召喚術は空間が有りさえすれば、少しだけ周辺の動かせる物を動かしてそこの空間に召喚できる。故に、足の裏が地面に着いて居たとしても、足が召喚と同時に少し浮いて其処に甲冑の靴をそこに呼び寄せられる。逆に言えば、物を少し動かした所でどう足掻いても入る空間がない場合、召喚そのものが発動できない。

そんな狭い空間を通るつもりは無いが、混戦状態では側に充分な空間を確保出来る保証は無く、ならば盾や銃を召喚して転送する事で、シルバーナにそれらを渡して自衛させる事も視野に入れようとアキトは考えていた。


「これで良し、と。」

「あ、有難う…ございます…。」


シルバーナは、非常に不謹慎だと思いながらも、アキトが自身の右掌の上にペンを走らせ転移陣を描いている時のその感触で興奮してしまっていた。何とか顔には出さなかったが、声は明らかに動揺していた。


「大丈夫ですか?やはり怖いですよね…。ごめんなさい、僕に力が無いばかりに…。」

「い、いえ、だ、大丈夫です!」


アキトはシルバーナの様子がおかしい理由を恐怖からと判断した。シルバーナは大丈夫と言ったが、絶対に無理はさせまいと心に誓う。


「アキト様、シルバーナ様、これを。」

「これは…インカムですか?」

「はい、携帯を持ったままでは不便でしょう。これを付ければ互いに連絡を取り合いながら戦えます。本当はコチヤ様とカスミの分だったのですが、必要になると思い、召喚時に車の中から持って来たものです。アキト様とシルバーナ様のお二方はこれで連絡を。私は植物を利用しますので。」

「わかりました。有難うございます。ルビィ、ちょっとじっとしていて下さい。」

「あう…は、はい…。」


アキトはインカムの使い方を知らないシルバーナにインカムを装着する。シルバーナはまたも興奮するが必死に堪え、アキトの顔を至近距離で堪能する。ヤクモはそれを笑顔で見つめていた。


「さて、それではそろそろ参りましょう。」

「わかりました。心の準備は大丈夫ですか?ルビィ、ディア。」

「はい!」

「キュキュ!」


ヤクモは蔦を通して部屋の外を確認する。蔦の網の外では、警官達がこちらを警戒して銃を向けている。全員を縛って拘束するのも可能であるが、その数は数十人は下らなかった。もしも大量のムカイドが仕込まれていれば、それらをも一度に相手取るには、建物内のヤクモでは少々手に余る。


「外はかなりの人数がいますね…。ムカイドも考慮すれば、突破するのは少々骨ですか。」

「ヤクモさん、この子の力なら…。」


アキトはディアの頭を撫でる。ヤクモはそれで納得した。


「わかりました。それで行きましょう。ディア様、頼みましたよ。」

「キュピルアアア!」


ディアは任せるが良いと言う様に雄叫びをあげる。


「さあ、脱出しましょう!」


アキトの合図と共に、何かを噛み砕く音が響き渡った。そして、部屋の中から、アキト達は忽然と姿を消した。

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