第12話
「なっ⁉︎なんだこれは!」
警官達が一斉に呻く。一瞬にして全員に蔦が絡み付いて、身動きを封じられた為である。完全に不意打ちを喰らい発砲する暇も無かった。唯一、ウシオだけは拘束されていなかったのは、彼が武装していなかったからであろう。ウシオは部下が皆、蔦にがんじがらめに縛られている光景に唖然とする。
「い、一体何だ…。何が起こって…。」
アキトは顔に色を戻し、嬉しそうに呟く。
「ありがとうございます。予定が入っていたのに、駆けつけて下さったんですね。ヤクモさん。」
「いえいえ、無事に用事は済みましたので、その心配には及びませんよ。アキト様。」
警官達の後ろの倉庫から、ゆっくりと蔦を纏った人影が現れる。ヤクモである。その笑顔は炎に照らされ赤くなり、凄まじい形相にも見えた。
「な、何者だ貴様…!こんな事して、タダで済むと思うなよ‼︎」
「ええ、タダで済むとは思っておりません。ですが、果たしてどのようになるのでしょうか?」
「うっ!」
ウシオは何か言い返そうとするも、ヤクモの底冷えする様な冷たい笑顔を見て、蛇に睨まれた蛙のように固まってしまう。そんな彼を無視して、アキトはヤクモに質問する。
「そうです!ルビィやディアは大丈夫でしょうか⁉︎」
アキトは、唯々彼女達の心配をしていた。ヤクモはアキトには優しい笑みを浮かべて答える。
「大丈夫ですよ。シルバーナ様はコチヤ様が、ディア様はカスミが無事保護致しました。アキト様の連絡のお陰で素早く対応できましたよ。ありがとうございます。」
「そうですか、良かったです…。」
ウシオはヤクモの言葉に訝しむ。アキトが他の誰かに連絡した素振りはなく、シルバーナは部下が監視していた。アキト達に、他の誰かにウシオの事を伝える事は出来ないと、ウシオは高をくくっていたが、何らかの方法を用いて外に連絡を入れていたらしい。
「連絡だと?貴様、いつの間に!」
ウシオはアキトに向って吼えるが、アキトは何も聞こえないといった風にそれを無視する。
「それでは、この手錠を外して頂けませんか?」
「ええ、勿論ですよ。」
するとヤクモは細い蔦の先から細い糸状の組織を作り、それを器用に使ってアキトの手錠を外す。手錠は、着けている者の導術を封じる効果のみである為、ヤクモの蔦は無効化されなかった。
「ふう、ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
アキトとヤクモは互いに笑顔であった。そこに、もう一つの笑顔が加わる。ウシオの凶悪な笑顔である。
「ハッハハハッ!隙を見せたな貴様ら!今、増援要請を出した!すぐに大勢の警官達が此処に来るだろう!この状態を見て、果たしてどう言い訳するのだろうな?どうかこの私に教えてくれ給え!ハッハハハッハッ!」
アキトは周りを見回した。燃える倉庫、蔦に縛られた警官達、アキトが事件の犯人であると示す数々の証拠(偽)がある。明らかにアキト達が犯罪を犯し、それを捕まえに来た警官達を返り討ちにした図である。言い逃れは出来そうにない。
「まあ、言い訳は出来ませんね…。」
「クハッハハハッ!敗けを認めたなクソガキ!口封じに私達を殺すか?そんな事しても無駄だぞ。警察を舐めるなよ!我々は、我々を虚仮にした奴らを決して赦さない!地の果てまでも追いかけて、必ず貴様たちを捕らえ、処罰する!」
ウシオは口から唾を飛ばしながら声高らかに叫ぶ。
「そうですか…致し方ありませんね。今からあなた方を皆殺しにして、証拠隠滅致しましょうか。」
「は?…ヒィ!」
しかし、その勢いもヤクモの冷たい笑顔から放たれる言葉に凍り付く。
「ま、まあ待て、落ち着け、話し合おう。話せばわかる。暴力は良くない!わ、私を無事に解放すれば、そ、その罪を赦してやろうじゃないか。ど、どうだ?わ、悪い話じゃないだろう?」
ヤクモは笑顔でアキトに問う。
「と、申しておりますが、如何致しましょうか?」
「…まあ、仕方ありませんね。武器を全部回収してから解放しましょう。」
「ふふっ、アキト様は本当にお優しいですね。」
ヤクモは警官達の武器を全て取り上げ、拘束を解いた。警官達は皆、キツく縛られ真っ赤になった部分を摩っていた。
「ふ、ふふふ、さ、さあ、このまま我々に手を出すなよ?出したらさっきの話は無しだ。」
「ええ、私もアキト様も手を出しませんよ。決して。」
ウシオはヤクモの言葉に安堵し、腰が引けている部下達を急かし、逃げるようにして走り去って行った。ウシオ達の姿が見えなくなると、ヤクモがアキトに問う。
「本当に宜しかったのですか?」
「ええ、そうですね…。」
そしてアキトは夜空を見上げる。星が綺麗であった。
「後はあの人の仕事ですから。」
「おや?お気付きでしたか。」
ヤクモは相変わらずの笑顔でアキトを見る。
「あの人がこんなに分かり易い証拠、残して置く訳無いじゃないですか。」
「ふふっ、御尤もです。」
アキトは呆れた顔をしていた。
「さあ、そんな事より、ルビィやディアが心配です。早く合流しませんか?」
「ええ、行きましょう。あと、この辺りの証拠群はこのまま残していきますが、宜しいですか?」
「…ええ、良いですよ。」
アキトは、とにかくシルバーナやディアに早く会いたかった。ウシオの事に割く心は、欠片もなかった。アキトはヤクモが運転する車に乗り込むと、シルバーナが待つ県警本部に向かって行った。
「ハア、ハア、や、奴らめ、もう追って来ないだろうな?」
ウシオとその部下は、倉庫街の中を駆け足で逃げていた。本来ならアキトを無事に始末して、車に乗り、金塊と共に悠々と帰っていた筈であったが、大幅に予定が狂ってしまっていた。
「フ、フッフハハッハ!馬鹿な奴等め。悪党なんかとの約束など、正義の警察が守るわけがなかろう?今に見てろよ、警察の総力を挙げて奴らを捕まえ、手を回して極刑にしてやる!地竜も必ず手に入れる!」
ウシオは復讐心の赴くままに叫び散らす。そして、聞こえてきたサイレンの音に気付き、港の入り口の方に目をやると、多くの警察車輌が駆け付けて来る所であった。
「やっと来たか!フッフフフ、早く凶悪犯共の悪行を伝えねば!」
ウシオは部下達を急かして向かわせ、増援部隊に一部始終を話させた。もちろん、如何にアキトが悪い事をしたのかなどは多いに盛っていた。するとすぐに増援部隊はウシオの元に駆けて来た。
「ウシオ警視殿。お怪我はありませんか?」
「大丈夫だ。とにかく、早くこっちに来給え。奴らが隠滅しそびれた証拠があるかも知れん。」
ウシオは、アキト達が去った後の現場に向かう。そして現場に着くと、そこに証拠品がそのまま置いてあったのを見てほくそ笑む。
(ハッハハハ!奴らめ、証拠をそのまま置いて行きやがった!俺の言葉を信じてヘマしたな?馬鹿共め、これで証拠も充分だ!)
そして、ウシオは増援部隊にアキト達を早く捕まえる様に急かす。
「さあ、これがあの偽物英雄の真の姿だ!早く奴等を捕まえねば、警察に大きな汚点を残すことになる!これは我々への挑戦だ!我々はこの戦いに勝たねばならない!凶悪犯共に怒りと裁きの鉄槌を下そうでは無いか!」
現場を調べていた増援の警官達は、粗方調べ終わると頷きあい、ウシオに近付く。
「わかりました。確かに警察に大きな汚点を残すわけにはいかない。」
そして、ウシオに手錠をかけた。
「ウシオ警視。あなたを収賄、贈賄及びその証拠隠滅、殺人未遂の容疑で逮捕します。」
ソコネ県警本部のとある部屋の中で、二人の男が話していた。近くにはテレビがある。
「ンッフッフッフ。如何でしょう?トラジ警視正殿。」
男の内の一人はキツネであった。黒い笑顔で目の前の人物に語り掛けていた。
「ふむ、確かに、キツネ殿の用意した証拠は本物であったらしいな。」
「だから言ったでしょう?ま、あの証拠が無くても、この映像と音声記録が有れば言い逃れはできませんよねぇ?」
キツネは愉快そうに嗤う。
「…ウシオ警視、いやもう容疑者か。彼を何時から疑っていた?」
「ンッフッフッフ。彼がノンキャリアにしては異例の出世をしている事、その割に捜査はかなり杜撰である事など、胡散臭い噂は耳にしていました。何時からと問われれば、その時からですねぇ。」
キツネは、ウシオがキタカタと関係しているという証拠も勿論事前に押さえていた。地竜に関するものは、特に厳重にキタカタが守っていた為暴けなかったが、キタカタの贈賄記録はしっかりと発見し、確保していた。
「先程は済まなかった。私の目が曇っていたようだ。身内を疑いたく無いばかりにな。」
「まあ、構いませんよ。」
キツネは、トラジの言葉の嘘を見抜いていた。明らかに、トラジは身内の不祥事を揉み消そうとしていたのだ。もしもキツネがその場を離れていたら、トラジはウシオに連絡して無闇な行動を控えるように釘を刺していたであろう。
しかし、キツネはその場を去らずに、トラジに何もさせないままに証拠映像を見せた。ウシオに、キタカタからの贈賄の証拠が隠れ家に残っていると言う情報を流し、その証拠を隠滅に向かうタイミングを計ってトラジを訪ねることで、彼に何かをする暇を与えなかったのだ。
そして、これだけはっきりとした証拠を見せられては、最早トラジはウシオを庇うことは不可能であった。その上、ウシオはアキト死亡の責任を、明言こそしなかったがトラジに押し付ける算段であったため、そのウシオをトラジが助ける筈もなかった。
(ここで庇えば、今度は自身の立場が危うくなりますものねぇ。やはり、自分が一番可愛いものですから。ンッフッフッフ、ウシオさんもトラジさんも、大方予想通りに動いてくれましたねぇ。)
キツネは、ウシオに対してわざとキタカタのアジトの情報を流し、そこに証拠品を置いておいた。勿論、消されても良いように控えは取っておいてあった。そして、ウシオが狙い通りに証拠隠滅しようとする現場を、予め潜ませておいた部下に撮影させてトラジに見せたのである。(実はヤクモもその撮影に協力していた。)
トラジは映像を確認した後、部下を増援として送った。そして、証拠の映像の通りである事を部下が調べて判明したため、そのままウシオを逮捕したのだ。
(アキト君が巻き込まれた事や、ディアさんの縁絶鋼の事は、流石に予想外でしたがねぇ…。)
キツネは、最初はウシオかその部下が動いて証拠隠滅に動くだけだと予想していたが、ウシオは更に、アキトに謂れのない罪を被せ、それを解決した風を装って自らの手柄にしようとした。加えてディアの能力を知ってこれを奪い、更なる金儲けに利用しようと画策していた。これにはキツネも少々呆れた。
(ここまで欲が深いと、いっその事清々しいですねぇ。ま、お陰で中々良い絵になりましたし、予想以上の成果も出ました。)
そして、キツネはトラジを見る。胡散臭い笑顔が一層胡散臭くなる。
「さて、トラジ警視正殿。私はこうしてあなたの身内の不祥事を、“マスコミに知らせず”に解決させました。」
「…分かっている。要求は何かね?言っておくが、私にできる範囲でのみだ。」
「それで充分ですよ。」
キツネは、始めからウシオを交渉材料にするつもりであった。しかも、トラジは一度その証拠を否定した負い目も有り、ウシオは収賄のみならず更なる犯罪を犯してその証拠をキツネに握られた。
しかし、キツネが報道機関に公にせずに解決させてくれた(アキトに対しても、ディアを盾にする事で今回の事を不問にさせるつもりである)ために、トラジにとって都合の良いように改竄できる余地を貰えた。その代わりに、キツネの要望を聞かざるを得なくなったのである。
「何、ウシオ警視の後任人事の際に、私の推薦する人物を推して下されば良いのですよ。簡単でしょう?」
「……わかった。」
トラジは難しい顔をしながら同意する。キツネの息の掛かる人物が食い込む為、警察に於けるキツネの発言力が増加するが、トラジにはどうしようもなかった。
「ンッフッフッフ、ありがとうございます。」
「それだけで良いか?」
「いえ、あと3つ程有ります。」
「……何だね?」
キツネは笑みを普通に戻す。その顔を見て、トラジは僅かに警戒を緩める。
「実は、アラカミ・アキトと言う人物が、図らずも縁絶鋼を所有してしまいましてね?普通に考えれば犯罪ですが、この事に関して不問として頂きたいのですよ。そして、キタカタやウシオの事情聴取は全て私にお任せ願いたい。」
ディアが縁絶鋼を創った事は、アキト達以外ではキタカタ、ウシオとその部下にしか知られていない。勿論トラジも知らない。そして、世間一般的には、導物が創る事など荒唐無稽な話であるとされている。故に、このままならディアが疑われる事はまず無い。
しかし、ウシオがアキトを検挙する為に証拠として挙げた縁絶鋼の存在が、アキトの立場を危うくしていた。どのようにして手に入れたのか精査されれば、“ホコリ”が出てくる可能性がある。それを防ぐ為には、情報を遮断し、改竄する必要があった。
「フッ、他人の部下の犯罪行為の事で脅しておいて、自分の仲間の犯罪行為は揉み消せと?さらに我々の仕事まで奪って情報を改竄する気か?図々しいな。」
トラジはキツネに対して凶悪な笑みを見せつける。明らかに怒っていた。しかし、拒絶はしなかった。
キツネの言い分から、何か疚しい事がある事に気付いてはいたが、人の事を言える立場では無い為、深く聞くことが出来ず、またキツネに余り機嫌を損ねられる訳にはいかない為、苦々しくも少しばかり意地悪な言い方しか出来なかったのだ。
「ええ、その通りですよ。」
「…自分勝手な奴だ。」
しかし、キツネが全く動じないとわかるや否や、すぐに顔を元に戻す。
「それとこの件に関しては、あの“イズモ・カスミ”たっての要望である事を忘れないで下さい。」
「何だと⁉︎」
そして、続くキツネの言葉にトラジは大いに驚いた。
「ええ、警察庁のイズモ長官のご子息の奥方であられる、あのカスミさんですよ。長官殿が彼女をいたく気に入っているのは良くご存知でしょう?もしも、その彼女の願いが聞き届けられなかったとしたら…。」
「わ、わかった!総力を挙げて要望を叶えよう!必ずだ!」
「ええ、そうして頂けると、私も助かります…。」
キツネは額の汗を拭う。キツネは、ヤクモを通して、ディアを保護したカスミからの要請を受けていた。キツネも、国家公安委員会や警察庁を牛耳るイズモ家とは敵対したくないため、本気で何とかしたい事項であった。名前を出して脅迫の材料にしたのも、確実に口止めする為の念押しであった。故に、トラジの協力を得られてホッとしていた。
「あと、もう一つは何かね?」
「ええ、それはこれからも私と“仲良く”して頂きたいのですよ。」
キツネは再び笑顔を黒く染め、トラジに迫る。トラジは露骨に嫌な顔をする。
「そんなに嫌な顔しないで下さいよ。」
「貴様の様な男と、仲良く出来ると思うか?」
キツネは、何時でも何かを企み、人の弱みを握り、利用し、騙す。そんな人間であると理解したトラジは、とてもじゃ無いがこれ以上キツネと関わり合いになりたく無かった。
「ええ、出来ますねぇ。」
キツネは一層笑みを深くする。トラジは悪寒を覚えて眉を顰める。
「私と仲良くなって頂ければ、あなたをもっと高みへと登らせて差し上げますよ?」
キツネは資料を取り出し、怪訝そうな顔をしているトラジに渡す。トラジはその資料に目を通すと、次第にその目が見開かれる。
「こ、これは…。」
「ええ、警察関係者の中でキタカタが繋がっていた人物と、その証拠の資料です。他の方が見つけて処分される前に、確保しておいた物です。それにこちらはウシオ容疑者が贈賄及び収賄していた人物とその証拠ですねぇ。
色々な方がキタカタやウシオと繋がっていた見たいですねぇ。ンッフッフ、あなたのライバルもキタカタからお金を受け取っていたみたいですねぇ。ウシオは管理官にも贈賄して、悪事に目を瞑ってもらっていたと。二人とも中々に良く手を回しているでは有りませんか。いやはや、感心しますねぇ。
あなたが二人と“そんなに”繋がっていなかったのは、幸いでしたねぇ。もしもしっかり繋がっていたら、あなたも一緒に糾弾されていた所でしたよ?ンーッフッフッフッフッフ!」
それは、警察の腐敗の実態を表す収賄、贈賄記録であった。その収賄者リストの中には、トラジと敵対している派閥の出世頭や、トラジの出世を邪魔する上司の名があった。もしも、普通に警察官に見つかっていたら、その関係者に揉み消されていた可能性が高かったが、それを見越してキツネは隠し持っていたのだ。
「ですが、あなたは割と白です。腐敗している真っ黒な周りの方々よりも、あなたの様な方こそ、上に立つべきだと私は思うのですよ。」
トラジに対して交渉をして来たのは、収賄や贈賄をしていないからと言う点であった。トラジは裏工作をせずに今の地位に立った事に一応誇りを持っており、今回こそ部下の不始末による責任を回避しようと動こうとはしたものの、贈賄や収賄などの危ない橋を好んで渡る性格では無かったのだ。
故にキツネはトラジを懐柔し、自らの手駒に加えようと考えた。黒を白くするより、白に近い灰色を白に見せかける方が楽であるからだ。更に言えば、トラジには出世欲がある為、合法的(?)にライバルを蹴落とせる今回の取り引きに乗ってくるとも予想が出来ていた。
「これを上手く使えば、貴方の敵を葬る事が可能ですよ?今回の事件の責任も、あなたのライバルや邪魔な上司に負わせて引責辞任に追い込んで見せましょう。更に、私はもっと色々な情報を仕入れていますよ?」
「…私に、協力してくれるのか?」
「それは、あなた次第ですねぇ。」
キツネはまるで悪魔の様な邪悪な笑みを浮かべる。トラジは思わず唾を飲み込む。キツネは更に畳み掛ける。
「ここで、あなたは終わるつもりですか?燻ったままで朽ち果てるのですか?あなたは、そんな器じゃあ無い。もっと高みに居るべき人物だ。そうは思いませんか?」
悪魔の囁きに、トラジの中で燻っていた出世欲が疼き出す。
(こいつ…、私を焚き付けに来たのか!)
トラジは元は優秀な出世頭として期待されていたが、派閥争いに敗れたり、出る杭は打たれるで上からの圧力に屈したりなどで、彼は今の地位に甘んじていた。しかし、目の前の悪魔と協力すれば、諦め掛けていた欲が満たされる。そんな甘美な囁きが頭の中に木霊する。
「…その計画が成功する保証は?」
「100%…とまでは言えませんが、それなりには。」
「…それで貴様は私に何を望む?」
「必要になった時に、あなたの権力を借りたいのですよ。」
まさにトラの威を借るキツネである。そのために、威を借りる予定のトラには大きな力をつけて貰う必要があった。
「フッ、だから私を出世させると?」
「ええ、出来るだけ上に行って頂ければ、その分出来ることが増えますからねぇ。その為の協力なら惜しみませんよ。」
トラジは、悩む、振りをする。その瞳に映るのは、燃え滾る野望の炎であった。キツネは、その炎を見つめほくそ笑む。
「…わかった。これから“仲良く”して行こうではないか。キツネ殿。」
「ええ、勿論です。宜しく頼みますねぇ。トラジ警視正殿。ンッフッフッフッフッフ。」
トラジは悪魔と契約した。そして、悪魔は満足そうに頷いた。
以上、キツネさんの“友達”作り活動でした。
こんな調子で様々な所にキツネさんは“友達”を作っています。
コネは大事ですからねぇ。ンッフッフッフッフッフ。




