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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
43/132

幕間1

今回は短めです。

「上手くいったな…。これほど上手く行くとは思わなかった。だが、お陰でこんなにお金が手に入った。」


一台のワゴン車が、ソコネ県の市道を走っていた。車を運転する男は、一般人の振りをしていたが、その目付きは鋭く、常に周囲を警戒していた。そして、口元には抑えきれない笑みが込み上げていた。


「まあ、あいつらには少々気の毒ではあるが、俺は組織と心中なんて御免だからな。」


男の名はキタカタと言う。勿論、コードネームである。キタカタはミナカタ達の仲間で、別働隊の隊長をしていた。組織の中では、作戦立案や参謀役をしていた重鎮であった。


「ったく。何処の馬鹿か知らないが、余計な事をしてくれた。折角俺が手塩に掛けて育て上げた組織を手放さなければならない事態を呼び込んでくれたんだからな。」


キタカタは、エミリオ達の声明を聴いた時、すぐに組織を見切った。エミリオ達の行動のせいで、警察が本腰を入れて反導族団体を捜査する事が予期できたからである。

エミリオ達が騙った団体は架空の物であったが、そんな事は大した問題では無い。架空だろうと反導族団体が“危険な過激派”であるという認識が広がる事で、ミナカタ達の団体にまで火の粉が降り掛かることは明らかだった。


「この件で、シラサギの奴と繋がりの有る奴らは恐らく捕まるか潰されるだろうな。」


更に、シラサギの悪事も暴かれた事で、その推測は確信に変わる。シラサギと少なからず繋がりのある組織は早々に警察の捜査が入るだろう。ミナカタ達の団体も例外では無い。


「“強硬派”ならまだ良いだろうが、市民を巻き込むような事をする“過激派”は頂けない。人間は、他人に掛かる不幸には知らんぷりするか、同情する振りをする偽善者だが、こと自らに被害が及ぶ可能性を考えた途端に暴力的で排他的になる自己愛者だからな。

反導族団体に過激派のレッテルが貼られてしまった今、どう転んでも組織はもう駄目だ。自己中心人間共は、自分達を傷つけるかも知れない組織を許しはしない。」


キタカタの立案する作戦は、余り表立って過激な事をするのを避け、権力者との癒着や違法売買による資金集めなどに注力していた。余りに過激な事をすれば、必ず組織は警察が総力を挙げて潰しにかかるであろう事が予期出来ていたからだ。

組織を維持するためには目を付けられない事だと肝に命じ、とにかく賄賂を送って警察や防衛庁などの多くの幹部とパイプを作り、潰されないように根回ししつつ、旨い汁を啜っていた。後ろ暗い事は、儲かる。そのためにキタカタは組織を運営していた。


「ククククッ、ミナカタの奴め、まんまと俺の演技に引っ掛かりやがって、俺の作戦を聞いて見直しただって?ハッ、笑わせる。俺が国の為に本気で死ぬと思っていたのか、馬鹿な奴め。」


キタカタは、組織の運営の仕方について、予てよりミナカタとは折が悪かった。ミナカタは本気で国の為になるなら、例え過激な行動だろうと躊躇なく起こし、平気で自分の命を捨てる。それだけの熱意を持っており、それに引き寄せられ魅せられる人間も多かった。そのカリスマ性をキタカタは利用しようと彼を組織に引き入れていたが、最近ではその影響力が返って脅威となりつつあった。

兎に角目を付けられない様な安全策しか行わないキタカタのやり方は、堅実ではあるが、早期の理想実現を望むミナカタには歯痒く思えてならなかったらしい。ヨミ国から魔族を一刻も早く追い出す為に、もっと積極的に行くべきだとミナカタは主張し、キタカタとよく対立をしていた。


「どうせ組織が終わるのなら、その前に一稼ぎさせて貰おうと思って今回の作戦を立てたが、予想以上に奴の食い付きが良くて助かったな。ククククッ、まさか自分達が囮にされるなんて思いもしなかったんだろうな。哀れな奴。」


キタカタの作戦は、キタカタ達の別働隊が銀行を襲撃しそこに警察を引きつけている間に、ミナカタ達の本隊がアキト達を襲撃、これを殺害するというものであった。

これまでとは違う明らかな過激的行動に、ミナカタは感動していたらしい。拙速な行動には流石に少し渋ってはいたが、元々自分が望んでいたことでは有るし、キタカタが用意した大量の縁絶鋼製の武器の存在や、警察の捜査で自分達の身動きが取れなくなる前に行動せねばと力説するキタカタに説き伏せられた。

しかし、キタカタにとっての本当の本命は銀行の金庫の中身であり、ミナカタ達の方が、キタカタを逃げ易くする為の囮であったのだ。


「それにしても、魔族の方への警察の到着が遅かったな。大方、俺の親切な忠告を聞かなかったんだろうな。まあ別に構わんが。魔族達もてっきりすぐにやられるかとも思ったんだが、結局生き残ったな。」


キタカタは警察にミナカタの襲撃を事前に連絡しており、雑貨店方面に警察を動かし、別働隊の仲間にはミナカタを助けろと命令して突貫させつつ、その混乱の隙に自身は逃げ果せるつもりであった。

しかし、警察の到着が予想より遅れ、ミナカタ達はアキトを追い詰める程に戦えた上に、シルバーナの潜伏先まで判明した。そこで、シルバーナの場所への襲撃を指示されたキタカタは、警察に連絡して銀行前から動かしつつ、仲間には自分が囮になると言って怪しまれずに脱出した。

その後、もしもコチヤが別働隊を捕まえていなければ、キタカタは警察に連絡を入れてこちらの部隊も捕まえてもらうつもりであった。その前に別働隊との通信がコチヤの襲撃により不能となった為、必要なしと判断したのである。


「組織はこれで壊滅したが、金目の物は全部俺の隠れ家に予め移してある。組織の奴らの中には俺の裏切りに気付くやつも居るだろうが、おそらく全員捕まっただろうし、檻の中からでは何も出来まい。警察の追っ手がキツくなる前にトンズラだ。」


キタカタが拙速な行動を強いたのは、その方がミナカタが捕まる確率が高くなると考えたからである。キタカタの裏切りが判明すれば、組織の仲間が敵になる。そうなれば、手の内を知っている分、警察よりも厄介である。特にミナカタは、中途半端な警察官では相手にならない。生き延びて復讐してくる可能性がある。

そんなミナカタを確実に捕らえてもらう為に、拙速な行動でミナカタを準備不足の状態にしつつ、警察には密かに情報をリークして、ミナカタ達を残らず捕まえられる様にしたのである。

ミナカタを捕まえるには、警察が即座に精鋭を全員動員してでも血眼になって犯人を捕まえるであろう今が正に好機とキタカタは考えていた。同時に自分が警察から逃げ易くなるのだから、一石二鳥である。


「それに、今の俺には金の卵を産む鶏が居る。クカカッ!こいつが居れば一生遊んで暮らせるからな!組織なんざ無くたって構いやしない、簡単に大金が手に入る!汗水垂らして働くなんてバカバカしくて反吐が出る!クカカカッ!笑いが止まらないな!」


上機嫌なキタカタは、笑いながらバックミラーで後ろを見る。後ろには大量の金と、檻があった。檻の中には、大型犬よりも少し大きい位の何かが縮こまって眠っていた。


「いや、鶏じゃ無くてドラゴンか、じゃあ金を産むドラゴンってところだな。クククッ、精々俺の為に働いてくれよ?相棒。」


下卑た笑い声がワゴン内に響きながら、ワゴンは港の近くまで来る。キタカタは何時でも逃げられるように港に秘密裏に船を用意していた。このまま船で別の港まで行き、そこから更に人族国家の外国に逃亡する算段であった。


「さてと、このまま港から船に乗ってここから脱出だ。バカンスが俺を待っている。」


薔薇色の未来を想像しながら、キタカタは道路を曲がる。視線のすぐ先には、隠しておいた船が見えていた。と、その時。


「な、何だ⁉︎」


急にワゴンが止まり、動かなくなる。何かがタイヤに絡まったらしい。衝撃で寝ていたドラゴンが目を覚まし、鳴き声をあげる。


「うるさい黙れ!大理石代わりの建築材料にしてやるぞこの“地竜”め!」


キタカタはタイヤに絡まった物を取り除こうとして、ドアを開けて車を降り、下を覗き込む。


「おかしいな、何も無いぞ?」


しかし、タイヤに絡まったであろう何かが見つからない。試しにタイヤを触って見ると、なにやら冷たくて水っぽい何かが表面に付いていた。


「油でスリップしたのか?それにしては水っぽいし、挙動がおかしかった気が…。」


薄ら寒さを感じながらも、警察に追われている今、悠長な事をしていられないとキタカタは気を取り直した。


「とにかく、今は逃げるのが最優先だな…。」


そしてキタカタが車に乗ろうとした時、異変が起きる。


「な、足が…動かん⁉︎」


キタカタの靴が、まるで地面に糊付けされたかのように動かない。


「まさか…、車両を足止めする為の最新式の特殊接着剤か⁉︎」

「惜しいのですが、違いますわ。」

「何者だ!」


何処からともなく聞こえてきた女性の声に、キタカタは驚き懐に隠してあった拳銃を取り出して構える。


「あらあら、そんな物騒な物、振り回さないで下さらない?」

「うぐっ!」


キタカタは、冷たくて見えない何かに手を覆われ、そのまま銃を引き剥がされる。拳銃は何もない空中を揺らめきながら漂っている。明らかに超常現象である。キタカタはそれを見てある可能性に思い至る。


「まさか…、導術か!」

「御察しの通りですわよ。」


キタカタは急ぎ縁絶鋼製のナイフを取り出そうとしたが、腕が動かない。そのままナイフも抜かれ、空中を漂いながら離れていく。次第に見えない何かに行動を奪われていく感覚に、キタカタは軽い恐慌状態に陥る。


「畜生!こんな所で捕まるわけには…。おい!糞ドラゴン!早く俺を助けろ!」


キタカタの言葉が響いた後、何かがワゴンを食い破って飛び出して来た。檻の中に入っていた筈のドラゴン、地竜である。その地竜は真っ直ぐにキタカタの下に駆けつけようとするも…


「邪魔しないでくださらない?」

「キュキュウウウウウウウウ⁉︎」


見えない何かに弾き飛ばされ、力無くのびてしまう。


「あらあら御免あそばせ。かなり手加減した筈なのだけれど。」

「チィ!使えねぇなこの糞がァ!」


地竜の種族はとかく自然系導術に弱い。手加減された一撃であろうと、気絶するに足りてしまう。


「あら?貴方を助ける為に出てきたこの子を馬鹿にするのかしら?」

「使えない奴を使えない奴と言って何が悪い!」


半ば自棄になっていた為か、キタカタは冷静さを欠いており、語気を強めて喚き散らす。


「少々お黙りなさい。」

「ぐむっ⁉︎」


見えない女性は少しだけ言葉に険を込めて言い放つ。同時に、キタカタの口が何かに覆われる。


「ンンー⁉︎」

「黙らないと、次は鼻の穴も塞ぎますわよ?」


女の脅しにキタカタはようやく大人しくなる。すると、何も無いように見える空間から、何者かが現れた。それは、20代前半位に見える若い女性であった。


「初めまして。ワタクシ、イズモ・カスミと申します。導力開発総合学園で水導術を教える講師を勤めておりますわ。」


カスミは優雅にお辞儀をする。瑞々しい肌が夕日に照らされ紅く染まっていた。


「さて、ワタクシはさるお方から依頼を受けまして、貴方を捕らえに参りました。反抗せず、大人しく付いてきて下されば、手荒な事は致しませんわ。」


キタカタは頷く。反抗しても意味が無いと思ったからである。それに教師ならば、隙を突けば逃げられるかもしれないと考えてもいた。

カスミはキタカタの口に纏わり付かせていた何かを剥がし、キタカタは口で大きく呼吸をした。


「では、付いてきてくださいませ。向こうに車を用意しておりますわ。地竜の子も放っておけないですし、一緒に警察に…。おや?」


カスミは、地竜が立ち上がっているのを見つける。まだ導術による影響が残っているのか、身体の一部をボロボロに崩しながらも、必死に立ち上がりカスミに立ち向かおうとしている。


「あらあらうふふ、なんて健気な子。こんなご主人の為に、まだ戦おうだなんて。しかも、勝ち目の無い相手なのに。」

「ルガァアアアアアアア!」


地竜は、余裕のある笑みを浮かべるカスミを威嚇する。カスミは余裕を崩さず、地竜が何を仕掛けてくるか様子を見る。


「ガルガルガル!」

「あらあら、道を食べるなんて行儀悪いですわよ?


地竜は舗装された道路を食べ始める。アスファルトの道路がまるでクッキーのように容易く破壊されていく。そして、キタカタに当たらない様に移動して角度を調整しつつ、石の弾を大量に発射する。


「ルグワゥアアアアア!」

「うふ、流石は地竜といった所ですわね。」


石の弾は真っ直ぐに飛ぶ物、地面を転がるもの、上に向けて発射されて空中から落ちてくる物など様々な軌道を描きつつも正確にカスミを狙う。


「うふふふ。」


しかし、カスミはその場を動かず微動だにしない。すると、石の弾はカスミに届く前に軌道がズレ、見事にカスミを避ける。それを見た地竜は、今度は砂を吐き出す。


「あらあら、器用ね。」

「うお、目が!」


細かな砂はカスミやキタカタの視界を塞ぐ。カスミは余裕の表情であるが、キタカタは目に砂が入りそうなのを必死に目を瞑って防ぐ。そして、砂嵐が終わった時、そこに地竜の姿は無かった。


「…逃げたかしら?」

「…後少しなのに、あの裏切り者め!」


カスミが呟き、キタカタが怒りに吼えた瞬間、カスミの背後の足下から突然牙が現れた。地竜である。地竜は砂で視界を遮っている間に地面の中を潜り、逃げたと見せかけてカスミの背後の脚下から攻撃を仕掛けて来たのである。


「なるほど、良い攻撃ですわ。ですが、甘いですわよ?」

「キュピルル⁉︎」


しかし、地竜の渾身の一撃も、カスミの周りに在る見えない何かに阻まれ、その牙がカスミに届く事は無かった。そしてそのまま見えない何かに軽く小突かれた地竜は、今度こそ完全に気絶した。


「あのまま逃げていれば逃げ切れていたものを…。本当に健気な良い子、ワタクシ、気に入っちゃっいましたわ。丁重に扱ってあげましょう。」


カスミは、地に埋まったまま顔だけ出してのびている地竜を優しく見つめながら、華奢で綺麗な手で地竜を撫でた。


(今だ!)


急に、キタカタは靴を脱いで走り出した。狙いはワゴンの中、縁絶鋼製銃弾を詰めた予備の拳銃である。

キタカタは、カスミが地竜と戦っていた時、キタカタの拘束が足裏のみになっているのに気付き、カスミの隙をついて銃を取ろうと画策していた。そして、カスミの意識が完全に地竜に向いているのを確認して、拘束されている靴を脱いで走り出したのだ。


(導術使いなら、縁絶鋼がよく効く!銃であのクソアマを殺して、何としても逃げ延びてやる!)


地竜の開けた穴から素早くワゴン内に入り込んだキタカタは、目当ての物を発見し、構える。


「よし!これであのクソアマを…。ぐむ⁉︎」


しかし、次の瞬間、今度は全身が一気に動かなくなる感覚に襲われる。辛うじて鼻で息は出来るが、腕も足も口も何かに包まれどんなに力を入れても微動だにしない。


「誰が…クソアマですって?」

「ンンー!」


ゆっくりとワゴンの後ろのドアが手も使わずに開けられ、そこから満面の笑みのカスミが現れる。しかし、キタカタには、世にも恐ろしい無慈悲な悪魔の嘲り顏に見えた。


「ワタクシ、言いましたわよね?『反抗せず、大人しく付いてきて下されば、手荒な事はしない』と。そして貴方は了承しましたわよね?頷いたのを覚えています。約束を破ったのですから、手荒な事をされても、文句は言えないですわよね?」

「ンンンン⁉︎ンンン、ンンンンンン‼︎」


キタカタは恐怖に青ざめながらも必死で命乞いをしようとする。しかし、口が塞がれていて言葉を発せられない。


(ま、まさか、最初から俺の拘束を緩くしてわざと逃げ易くして置いて、逃げた所を捕まえるつもりだった…?俺を痛めつける口実を手に入れる為に…!)


キタカタは、自身が罠に嵌められた事を悟った。そして、命乞いは最早不可能だと絶望した。


「安心なさい。もちろん命は取りませんし、大きな傷を与えない事も保証致しますわよ?。」


恐怖に歪むキタカタの顔が、幾分か安堵の表情を見せた。


「ただ、生きながら少しばかり地獄巡りをして頂くだけですわ。うふふふふ。」


カスミは、とても愉快そうに悪魔の笑顔を作った。

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